ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  †*聖璃架*† 作者:天使
六日目◆前:続・探索
「それじゃオレ薬取りに行きますのでガイアお願いしていーですか」
「待ってください。あたしに行かせてくださいっ」

 なんて言い出した聖璃架にネイキッドはえっ、と目が点になってしまった。

 いや無理だろう。
 クレスタの研究所までは山一つ越えなければならないし、男の足でも往復で軽く一日の四分の一は費やしてしまう距離なのだ。それに女性の聖璃架に頼むなんて事、男としてしたくはない。

 だが聖璃架は自分のせいでガイアが苦しんでいるのだからお願いしますと頭を下げてくる。
 そこまではかなり距離があると言うと、「それなら大丈夫」と聖璃架は顔を上げた。



 家の前で箒に跨った聖璃架を見て、ネイキッドは口を開く。

「昨日はビックリしましたよ。魔女って本当に箒で飛ぶんすね」
「そうですよ」
「それじゃお願いします、聖璃架さん」
「はい、行ってきます」

 言って聖璃架は元気良く空へ飛び立った。



 山一つ越えると、そこは雰囲気ががらりと変わった。食虫植物等が至る所に生える昼間でも薄暗い密林が広がって、不気味な生物の鳴き声が聞こえる。

 魔女の聖璃架にとって食虫植物は珍しくもなくて気に留める事なく進むと、密林の中にぽつんとたたずむ建物を発見した。

「ここかな」

 上から煙がもくもくと出ている怪しげな建物のドアをノックして開けてみる。

「こんにちはー」

 雑然とした建物の床は物が散らかってごちゃごちゃしていて、怪しい臭気が漂っていた。

「すいませーん」
「あー悪いけどこっちに来てくれるかなー」

 奥から声が聞こえて聖璃架は向かうと、机に向かって一人の男が怪しげな液体の入った試験管とビーカーで、熱心に実験中だった。
 男が試験管の液体を慎重に一滴垂らすと、ビーカーの液体からぼふっと煙が出て色が変わった。

「よし出来た!」

 満足そうに笑んで男は聖璃架に振り向く。

「んんん?」

 ざくざくの不揃いな髪の三十代の男は、掛けている眼鏡の縁を持って興味深そうに聖璃架に歩み寄ってきた。怖くなって聖璃架は竦む。

「君変わってるねー」
「え、そうですか?」
「うん。だって人間じゃないだろう?」
「あ、はい魔女です。落ちこぼれですけど……」
「魔女!」

 と男は目を丸くしててのひらを打つ。

「へぇー。それは研究したいなぁー」

 興味津々でじろじろと見つめられて聖璃架はぞく、とする。
 ――研究って何の?

「で、何か用?」
「あ、あのお薬を頂きに来ました」



「ヘクシッ、あいー」

 くしゃみをしてドアを開けたネイキッドは、思ってもない来訪者に驚いた。

「テメーはッ」
「よう、子守の兄さん」

 歳朗だった。連れが見当たらない事から一人らしい。

 思わずネイキッドは息を呑んだ。この男が訪ねてくるなんて初めての事で。

「何しに来た」
「……娘はいるか」
「娘っ? 聖璃架さんのことか。いねーよ、なんの用だ」
「……いねェなら用はねェ、邪魔したな」

 言って歳朗は去っていった。

 聖璃架に用だったのか。だろうな、とネイキッドは思う。自分に用があるとは思えない。
 しかし奴が聖璃架に何の用なのだ。わざわざ家に訪ねてくる程の用なのだと思うと、妙に腹立だしくなってくる。

 腹も立つが、実は先程からなんだか頭痛がして辛かったりする。たまに悪寒もするし、まいったな。自分も風邪だろうか。

 ガイアはまだ少し熱があるが、今は静かに眠っている。

 クレスタの薬は効き目が抜群だから、薬を飲ませて安静にさせればすぐに元気になるだろう。
 ついでに自分も薬を飲んでおくか。いくらガイアが元気になっても、自分が元気でなかったらどうしようもない。

 しばらくして再びドアをノックする音が聞こえて、また奴かと思いながら開けると聖璃架でほっとした。流石さすが魔女だ。箒だとこんなに早く帰ってこれるなんて。

 クレスタは子供のガイアの事を考えて、きちんと甘くて飲み易い薬を用意してくれた。ガイアも嫌がらずに飲んでくれた。

 驚いたのはガイアが眠って安心した聖璃架が、突然項垂(うなだ)れて倒れ込んだ事だ。

 聖璃架はすぅすぅと寝息を立てながら眠っていた。
 そうだ。昨夜ずっと起きてガイアを看病してくれていたのだろう。お疲れ様。今はゆっくり眠って素敵な夢を見てほしい。

 だがそうもいかなかった。

 ドアを開けるなり額に拳銃を突き付けられたのだ。――歳朗に。
 いきなりこんな事をするなんて、こいつの方がよっぽど悪だと思う。

「兄さんよ、本当に娘はいねェのか? あ?」

 ぐ、と拳銃を額に押し付けられて、歳朗に睨まれる。

 この男は余程聖璃架に用があるのか。気になるが尋ねたところで奴は答えないだろう。

 家を覗き込んだ歳朗は、ガイアの隣で眠る聖璃架に気づいてかっとなる。

「いるじゃねェかッ!!」
「さっきは出かけてたんだよッ!!」

 釣られたかのようにネイキッドに怒鳴り返されて、歳朗は拳銃をふところに戻すと聖璃架に駆け寄った。

「テメェッ! 何のんきに寝てやがるッ!」

 歳朗に乱暴に体を揺すられて、聖璃架は目を覚ました。

「あッ! 起こすことねーだろッ。聖璃架さんは疲れてんだッ」
「おい、竜の石探すんじゃなかったのかッ!?」

 ――竜の石?
 歳朗の口にした言葉にネイキッドが反応した。
 何故こいつがそんな事を。

「土浦さん……あッ! いけない!」

 すっかり忘れていて、しまったと聖璃架は起き上がった。

「聖璃架さん。竜の石はもー持ってるんじゃ?」

 ネイキッドに問われて、聖璃架の額から冷や汗が流れる。


「竜の石をなくしたァッ!?」
「ごめんなさいッ」

 謝るしかなくて、聖璃架はネイキッドに土下座した。

「もう、うるさくて眠れないよぉ」
「あ、ごめんねガイアくん」

 眠っているのに騒がれて、ガイアには迷惑である。

 ガイアの体に障ると良くないので三人は外へ出た。

「聖璃架さん。この島にあることは間違いねーんだし、探せば必ず見つかりますよ」

 酷く落ち込んでいる聖璃架にネイキッドが言った。

「はい……よーし今日こそ見つけるぞー!」

 むん、と気合いを入れる聖璃架。

「じゃあ行くぞ」

 歳朗に言われて聖璃架はえっ、と振り向く。

「あたし一人で探しますので大丈夫です」
「何度言わせるんだ。奴らが襲ってきてもいいのか?」

 解っている。襲ってくるかもしれないが自分だって魔女の端くれだ。自信なんかないけどなんとかしてみせる。それに何度も人間に助けてもらうなんて……でもわざわざ自分を心配して来てくれた気持ちは嬉しいと思ってしまう。

「奴らってまさか」
「ああ、ヴァーミニオンの連中だ」
「アイツらッ!」

 とネイキッドの表情が険しくなった。

「この前オメェがバケモンになった一件のせいで奴らはコイツを恨み、狙われるはめになったんだぜ」
「――そんな……」

 知らなかった。自分のせいでそんな事になっていたなんて。
 ネイキッドは酷くショックを受けた。

「スンマセン、聖璃架さん。オレのせいで危険な目に……」
「そんな、謝るのはあたしの方です」
「責任持って、オレが聖璃架さんを護りますから」

 と言うネイキッドを歳朗は鼻で笑う。

「笑わせるな。“子守”の兄さんに娘が護れるのか?」

 それを聞いてネイキッドはかっとなる。

「バカにすんじゃねーッ!! オレだってヴァーミニオンの一員だったんだよッ!!」

 不快げに歳朗の眉が動いて二人は睨み合い、聖璃架は不安になった。

「あのネイクさん」

 声をかけられてネイキッドは聖璃架を見る。

「こんなこと言うの悪いですけど、ガイアくんの側にいてもらえませんか?」
「え」

 がーんとショックを受けた。
 確かにガイアを一人にしておくのは心配だが、なんだか聖璃架が自分より歳朗を取った気がしてならなかった。

「そういうこった。安心して子守でもするんだな」

 がーん、がーんとネイキッドはショックを受け続けた。



「いた」

 森で竜の石を探す聖璃架を、茂みから覗くのはレグナムとプレオだ。

「あの二人、また一緒にいるけど、もしかして出来てるのかな?」

 と素朴な疑問を持つプレオ。

「だったらおもしろいな。俺がセリカを奪ったら、あの男どんな顔をするのか見物だ」

 レグナムが得意げに口の端を上げて言った時――身を隠していた茂みがざぁっと吹き飛んだ。

「オワッ!!」

 驚く二人に刀が突き付けられる。

「テメェら昨日の。またコソコソと何してやがるッ!! テメェらも娘狙いかッ!!」

 歳朗に恐ろしい目つきでぎろ、と睨まれて二人は竦む。

「滅相もない!」
「です!」

 言ってレグナムとプレオはすたこらと逃げ出した。

 ため息をついて歳朗は刀を鞘に収める。

「ったく、おまえもいろんな奴らに目をつけられたもんだな」

 煙草を咥えて火をつけて聖璃架に振り向いた歳朗は、ぎょっとして煙草を口から落としてしまった。何故なら聖璃架が尻を自分に突き出して茂みの下を探っていたからだ。下着が見えそうで見えなくて。
 歳朗は背を向けて怒鳴る。

「おまえッ!! 女なんだからもっと羞恥心を持てッ!!」

 突然の怒鳴り声に聖璃架は竦んで歳朗に振り向く。

「――え、あの、しゅーちしん? てなんですか?」
「恥じらいのことだッ!」
「……あ、はい」

 返事をして聖璃架は再び探り始めた。だが同じ格好で。
 そんな聖璃架を歳朗は横目でちら、と見て深くため息をついた。ちっとも解ってねェと思いながら。
 すると新たな気配を感じ取って振り向く。

「こんにちは」
「総助」
「土浦さん、今日も一人でお散歩ですか?」

 早速総助に嫌味を言われて歳朗は不快になる。

「何しに来たんだ」
「僕も散歩ですよ。ご一緒していいですか?」

 言って総助は茂みの下を探る聖璃架に目を向ける。

「こんにちは、聖璃架」

 総助の声に聖璃架は振り向いて立ち上がる。

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は真誠軍で元帥げんすいをやっている沖野総助。総助って呼んでね」

 にこにこと笑んで言う総助はとても愛想が良い。その爽やかな悩殺笑顔キラースマイルで、今までどれだけの女を虜にしてきたのだろうか。

「あたしは聖璃架です」

 と言う聖璃架を総助はくす、と笑う。

「知っているよ。よろしくね聖璃架。僕嬉しいんだ、年の近いが来てくれて。この島おっさんだらけだし」

 おっさんだと、と歳朗の額に青筋が浮いた。
 自分がおっさんなら総助はまだまだ尻の青い餓鬼だ。剣の腕は認めているが、金を取って女遊びをしているのは感心しない。そんな事が広まれば軍の評判が落ちてしまう。言ったところで聞く奴でもなくて手を焼いていたが、まあこんな島ではそれも出来ないだろう。

「ねぇ知ってる? 向こうに綺麗な花畑があるんだ」

 さり気なく聖璃架の肩に腕を回して歩き出した総助に、歳朗はむっとした。



 一面の花畑だった。
 もうじき夏を迎える島はたまに暑くなる日もあるが、まだまだ春の陽気を残すこの時期の花畑は色とりどりの花が満開に咲き乱れて、良い花の香りで溢れている。

「綺麗〜」

 こんなに色鮮やかな花々を一度に見たのは初めてで、聖璃架は感激して見とれた。綺麗で、とても良い香りだ。

「だろ? まあこの花も君にはかなわないけどね」

 さらりと言う総助の口説き文句に反応する事なく、聖璃架は目を閉じて花の香りを満喫する。

 風に乗って運ばれる香りは色々な花が見事に調和していて、吸い込むと体全体が香りで包まれるようだ。なんて甘くて良い香りなのだろう。幸せな気分になる。ここで眠ったら気持ち良さそうで試してみたい。

 少し離れて遠目に二人を見る歳朗は不機嫌だった。
 凄く苛々《いらいら》する。何をこんなに苛立っているのか自分でも解らない。
 抑々《そもそも》何故こんな所に居るのだ。自分は聖璃架に付き合って竜の石を探しに来た。そうだ、道草を食っているからだ。

「おい聖璃架ッ!! 石探さねェなら俺ァ帰るぞッ!!」

 怒鳴る歳朗の声が聞こえて、聖璃架は振り向く。

「あ、ごめんなさいッ」
「土浦さん、帰りたいならとっとと帰ればいいじゃないですか」

 と呆れて言う総助。

「土浦さんには竜の石探し手伝ってもらってるんです」
「竜の石? へぇ君も狙ってるんだ。ふーん、手に入れてどうするつもり?」
「魔女として認めてもらうために必要なんだと」

 歩み寄ってきた歳朗が総助に言った。

「魔女として?」
「あたし落ちこぼれの魔女なんです。竜の石を持って帰れば、長老様に一人前の魔女として認めてもらえるんです」
「でもこの島からは出られないだろ」
「だがこのままにもしておけねェだろ。ヴァーミニオンの手に渡らせるわけにいかねェ」
「だったら僕も手伝いますよ」

 なんて言い出した総助に聖璃架は慌てる。

「いえそんな! 悪いですから」
「……土浦さんはよくて僕はダメなんだ」

 静かに総助に言われて、聖璃架はびくうと竦んだ。笑顔で総助は言ったが、一瞬笑みが冷えたものに変わった気がした。

「そッ、そういうわけじゃないですけどッ」
「じゃあいいだろ」
「へッ、金を貰わなきゃ動かねェおまえが無償で働くたァどういう了見だ」
「それは好きな女性のためなら話は別ということです」

 歳朗に言われて総助がさらりと答えた。



【後編へ続く】


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。