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  †*聖璃架*† 作者:天使
四日目◆雪
「ネイクさんごめんなさいッ」
「えっ! どーしたんすか聖璃架さん急に」

 家に来るなり聖璃架に深く頭を下げられて、ネイキッドは訳が解らなかった。

「昨日、あたしのせいで魔物化しちゃって……」
「? まものかってなんすか」

 それを聞いて聖璃架は顔を上げる。

「……憶えてないんですか?」
「まったく。オレ、昨日途中から記憶ないんすよ。気づいたら朝で」
「もうビックリしたよ。由子ちゃんがお兄ちゃん連れて帰ってくるんだもん」
「――何ィッ!? 由子がッ!?」

 ガイアに言われて目を見開くネイキッド。
 ……じゃあ、ずっとあいつに……
 由子に抱きしめられたりとかなんか色々頭に浮かんで、ネイキッドは顔が真っ青になって何かされたんじゃないかと不安になって、気分が悪くなる。

「本当にごめんなさい。あたしの料理食べたから……」

 申し訳なさそうに聖璃架に謝られて、ネイキッドは逆に悪い気がする。謝られる筋合いはないのだ。

「いや、いーんすよ。オレは食いたかったから食ったんすから。気にしないでください」 

 笑顔で言ったが、ネイキッドは思う。
 聖璃架さんの料理が原因か解らんが、起きてから腹が痛くて腹痛止め飲んでるとはとても言えない……

「お姉さん聞いてー。お兄ちゃんてば朝からピーピーなんだよ」
「!!」

 くす、と笑ってガイアに言われてネイキッドは仰天した。

「ガイアッ!! よけーなこと言うんじゃねーッ!!」

 聖璃架に知られてしまって、ネイキッドは恥ずかしさでもう見られなくなってしまったが。

「……あの、ぴーぴーってなんですか?」
「えっ。あ、いや特に意味は」

 知らなくてよかった、とネイキッドはほっとした。

「そうですか。あの、あたしお別れの挨拶もしに来たんです」

 ――お別れ?
 唐突すぎる聖璃架の言葉に、ネイキッドとガイアは目が点になってしまった。

「お別れって?」
「帰ろうと思って」
「えー!? 帰っちゃうのー!?」

 とガイアが声を上げた。

「はい。もうここにいても仕方ないし」
「帰るってどこに!?」
「魔界に」
「でもお姉さん石を探しに来たんでしょ!? 見つかったの!?」
「…………」

 竜の石はガイアに宿っている。
 それなら仕方ないと聖璃架は思う。諦めて帰るしか。華蓮には本当に申し訳ないけれど。

「もういいの」
「よくないよ! 石持って帰らないと毛虫にされちゃうんでしょ!?」
「あたしはどうなってもかまわない。でも華蓮ちゃんの期待に応えられなかったのは、すごく悔しい」

 悲しそうな聖璃架をネイキッドとガイアは見つめた。
 こんな悲しい聖璃架は見たくない。なんとか力になりたいけどこればっかりは、とネイキッドも悔しくなる。

 すると突然ガイアの体が輝き出して、聖璃架とネイキッドは目を見張る。

『魔女よ、我が必要か』
「――その声、竜の石かっ!」

 ガイアから聞こえた声にネイキッドが反応した。

『答えよ』
「え、あ、はい。必要です」
『そうか。ならば』

 ガイアの体から石が現れて、ゆっくり聖璃架の目前で浮く。

 それはてのひら程の大きさの、多角形で様々に変色しながら核を点滅させる美しい石。

 ――これが、竜の石。
 またたきもせずに聖璃架は見つめた。
 確かに自分では計り知れない力を感じる。

『御主と共に行くとしよう。我を連れていくがよい』
「えっ」

 竜の石の言葉に聖璃架だけじゃなくネイキッドも驚いた。
 まさか竜の石が自らそんな事を言うなんて、ネイキッドは思いもしなかった。今まで散々狙われてきて拒絶するのみだったのに。

 聖璃架の開いた両手に竜の石は収まる。

「ありがとうございますっ」

 ――嬉しい! これで華蓮ちゃんの気持ちに応えられるんだ。早く見せてあげたい。急いで帰ろう。


「帰っちゃうの!?」

 と悲しそうに言うのはガイアだ。

「うん……短い間でしたけど、本当にお世話になりました。この島でのことはずっと忘れません。ありがとうございました」

 聖璃架が深々とお辞儀した。

「やだよ会ったばっかなのに! もう少しいてよぉ!」

 ガイアに泣きつかれてしまって、聖璃架も辛くなる。
 竜の石を見つけたらすぐ魔界に帰るつもりでいた。最初の予定では居て一日か二日だと思っていた。それが人間と出会った事で予定がずれて、ガイアは好きだけど、こんな風に言われたら帰りづらくなってしまう。

「ガイア、長引いても別れが辛くなるだけだ」

 と言うネイキッドだって辛くない筈がない。

「だってぇ」
「ガイアくん……」
「……じゃあ明日、明日まで一緒にいてよ。ね? お姉さん」

 涙で濡れた顔でガイアに言われてしまっては、嫌とは言えずに聖璃架はうなずいた。



「ねぇお姉さん、お姉さんの住むとこのお話してよ」

 夕食を食べながらガイアが聖璃架に尋ねた。

「うん。あたしの住む魔界はね、魔女の他にも妖魔や魔物も住んでるの」
「えっ、すごいね!」
「うん。それでね、魔女は階級別に別れてるんだけど、あたしは魔法学校の卒業生の中で唯一落ちこぼれで……同期の魔女はみんな魔術学校に進級してるのに」

 言って聖璃架が肩を落とした。

「みんな高度な魔術使ってるのに、あたしは低レベルな魔法しか使えなくて……」

 ――落ちこんでる。何か励ましの言葉を。
 元気のない聖璃架を見て、ネイキッドはかける言葉を探した。

「でも竜の石を持って帰れば、あたし一人前の魔女として長老様に認めてもらえるもの」
「そーっすよ、これから見返してやりましょうっ!」

 ネイキッドに言われて、聖璃架は笑顔になる。

「はいっ。あ、それであたし初めて魔界を出たんですけど、不思議な物を見ました」
「何?」
「空から白い物がたくさん降ってたんです」
「それは雪っすね」

 と言うネイキッドに、聖璃架は首をかしげる。

「ゆき?」
「雨が凍って結晶になって降るんすよ」
「ここでも降るんですか?」
「冬になれば。でもここ二年で降ったのは一度ちらちらってくらいで」
「そうなんですか」
「雪かぁ。綺麗なんだよね、見たいなー」
「オレも久しく見てねーな」

 ネイキッドとガイアの言葉を聞いて、聖璃架は思う。
 ゆきってそんなに見たいものなんだ。それなら。

「じゃあ、あたしにやらせてくださいっ」
「えっ!?」

 ネイキッドとガイアがぽかんとして聖璃架を見た。

「あたしが、ゆきを出してみせます」
「えっ。そんなことできるのお姉さんっ」
「うん。あたしも魔女の端くれだから」

 と聖璃架が笑顔で答えた。



「雪、楽しみ〜」

 月星の輝く夜空の下、ガイアは期待に胸を膨らませる。

 雪を見られるという事にネイキッドも楽しみでわくわくしているが、一応大人なのではしゃぎたい気持ちを抑えている。

「それじゃいきますよっ」

 言って聖璃架が両手を夜空へ伸ばした瞬間――ひゅぅぅと風が吹き始めて一気に吹雪が襲ってきた。

「ワアアッ!!」

 ネイキッドとガイアに猛吹雪が吹き付ける。突然襲ってきた強烈な寒さと、痛いくらい顔を打ち付ける雪に目が開けられない。

 吹雪が消えると二人は雪に埋もれていて、身震いして振り払う。

「冷たぁ〜〜」
「ごめんなさいッ、大丈夫ですか!?」
「聖璃架さん、風はいらないすよ風はっ」
「……? 風はいらない、ですか」

 ネイキッドに言われて、聖璃架がきょとんとした。

「こう、空から舞い落ちる雪が見たいんすよ」
「そうですか。わかりました」
「はっくしゅっ。……寒い」

 凍えだしたガイアに聖璃架はおろおろする。

「寒い、ですか? どうしたらいいですか」
「待ってろガイア。今上着持ってくる」



 上着を着たネイキッドとガイアの前で、聖璃架は両手を空へ伸ばす。

 ネイキッドは聖璃架の分も上着を持ってきたが、魔女は暑さや寒さを感じないので不要なのだそう。

 しばらく時間が流れたが一向に雪が降ってこない為、ガイアは痺れを切らして聖璃架に声をかける。

「お姉さん」
「ガイア、見てみろ息が白い」

 ネイキッドに言われて、ガイアは自分の息を見る。
 本当だ。吐く息が白い。

 それに先程まで星が出ていたのに、空は雲に覆われていて。



 家で麻雀に興じるヴァーミニオンのシーマは身震いする。

「なんだか今夜は冷えますね」
「そうかぁ?」

 酒を飲みながら赤い顔でハーレーが言った。

 ローレルが大きなくしゃみをして、シーマは不快げに眉を寄せる。

「おかしいぜ、もうじき夏じゃねぇのかよ」

 言ってローレルは鼻水をすする。

「あーくそ寒くてたまんねぇぜ。シーマ火ィ焚けよ」
「私の炎をそんなことに使うのか」
「いいじゃねぇか、減るモンじゃねぇだろっ!」
「望むなら貴様ごと燃やしてやるぞ」

 シーマが静かに言うとローレルは炎に包まれた。



「あ〜〜生き返る〜〜」

 外で焚き火にあたりながら、ローレルは鼻水を垂らす。

「くたばっていてもよかったのだぞ」

 とシーマがローレルに冷たく言った。

「そりゃねぇんじゃねぇの。俺ぁ寒ぃのがダメなんだよ。夏男だからさっ!」
「俺は酒さえありゃ寒さなんて平気だぜ」

 酒瓶を手にハーレーが豪快に笑う。

「……はぁー、なんか俺(かしら)よりオッサンな気分」

 ぽつりと言ったローレルの言葉を、シーマは聞き逃さなかった。

「頭、今ローレルがおっさんと」

 眼鏡を光らせてハーレーに言った。

「あ? なんだって?」
「テメッ! シーマッ!」

 こういう奴なのだ、シーマは。人の揚げ足ばかり取って楽しむ。

「聞こえなかったなぁ。もう一度言ってみな」

 その割には口元が引きつって表情は怒りに満ちてるんですけど、とローレルが怯える。



「いやあ――――」

 寒空に響いたのは、むなしい男の悲鳴だった。



「わあ〜〜」

 ガイアが空を仰ぐ。その表情は本当に嬉しそうな満面の笑顔で。

「雪だ!」



「雪ィッ!!?」

 空を見上げて、目の回りに大きなあざを作ったローレルが驚きの声を上げた。

 空から無数に降る白い物は、間違いなく雪。それも大粒の。

「あー? 雪なんて降るわけねぇじゃねぇかよしっかり目ェ開けろよ」

 むにゃむにゃ寝言のように言うハーレーは地面で気持ち良さそうに寝ていて、雪が積もり始めている。

「いやそれアンタだから。こんな所で寝ないでくださいよ頭ッ!」

 とローレルがつっこむ。

「ほう、まさかこの時期に雪が見られるとは思いませんでしたぞ。貴重な体験をしたな」

 いつの間にかヴァーミニオンに混ざって焚き火にあたる勇作が笑いながら歳朗と総助に言った。

 雪を見て歳朗は思う。
 まさかあの娘の仕業しわざでは……
 


 降り続く大粒の雪は、島を覆って徐々に風景を白く染め上げていく。

「積もるかな〜」
「だといーな。さっ、雪も見たことだし、あんまここにいると風邪ひいちまうぜ。そろそろ寝な」

 ネイキッドが促すとガイアは聖璃架を見る。

「お姉さん! ぼく雪見れて感動したよ! ありがとう!」
「ありがとーございます」

 ネイキッドとガイアにお礼を言われて、聖璃架は笑顔になる。
 自分の魔法が役に立ったのが初めてで本当に嬉しくて。

「ううん、喜んでくれてあたしも嬉しい」
「一緒に寝よっ」

 とガイアは聖璃架の手を引いた。 



【四日目◆終】


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