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二日目◆前:歓迎会
 ネイキッドとガイアの家の前には『セリカさん ようこそ』と書かれた大きなアーチ。その前に料理が並ぶテーブルと三つの椅子がある。

 ここまで聖璃架はガイアに手を引かれて来た。だが聖璃架にはアーチに書かれた人間の文字が読めなくて、テーブルの料理も見た事がないし何が何だか解らない。

「これから何か始まるの?」
「何言ってんのー。お姉さんの歓迎会だよ」
「えっ?」
「セリカさん、よくいらしてくれました」

 笑顔で声をかけたのはネイキッドだが、見るなり聖璃架は竦んで怯えた表情になる。その反応にネイキッドはえっ、とショックを受けたが、気を取り直して笑顔になる。

「セリカさんのためにオレ、腕振るっちゃいました。さっそくお席に…って」

 後退していく聖璃架に、おーいと思う。
 ……考えたくないが、もしかして避けられてる? ああそうだ、昨日驚かせてしまったからだと思う事にした。
 だが子供の容赦ない言葉が降りかかる。

「お兄ちゃん嫌われてるんじゃないの」

 ガイアの一言がネイキッドの心臓にぐさっと突き刺さった。
 ……違うもん。昨日驚かせちゃったからだもん。
 と思うが涙が止まらないのは何故だろう。

「ねぇお姉さん。そんな嫌がらないで食べてってよ。お兄ちゃん張りきって作ったんだよ」

 ガイアに言われて、聖璃架は困り顔で戸惑う。
 人間の料理なんてと思ったが、自分の為に用意してくれたんだと思うと……



「見たことないお料理だけど、おいしそうっ」

 並んだ料理を見つめて聖璃架が声を上げた。

 丸い木製のテーブルを三人で囲んで、聖璃架が席に着いてくれた事にネイキッドは物凄く感激する。

「はい、セリカさんのために作りました」

 昨日あの後野菜と果実を収穫しに行った。
 野菜をふんだんに使ったスープとサラダ、今朝採れたての鶏の卵を使った卵料理と海の新鮮な魚介料理、果実で作った彩り綺麗なデザート。
 久々に気合を入れて愛を込めて作った。後は聖璃架の口に合うかどうかだ。

「お姉さん、お兄ちゃんは家事しか取り柄ないから料理の腕はバッチリだよ」

 ガイアの言葉にネイキッドは褒めているのかけなしているのかと思う。

「嬉しいです。あたし昨日から何も食べてなくて」

 昨日は色々疲れて聖璃架は食事するのも忘れて寝てしまったのだ。

「えッ、何も? 体に悪いすよ」
「いただきます」

 心配するネイキッドをよそに、フォークで聖璃架は料理を一口食べる。

「……どーすか」

 どきどきしながらネイキッドが聖璃架に尋ねた。

「おいしい」
「――よっしゃあっ!」
「よかったねお兄ちゃん」

 嬉しくてネイキッドはガッツポーズを取ってしまった。聖璃架のこの言葉が聞きたかったのだ。出来ればこれからも毎日自分の料理を食べてほしいが、どうだろうか。

「すごくおいしいです。お料理お上手なんですねお兄さん」

 それを聞いてまだ名乗っていなかった事に気づく。

「あ、自己紹介が遅れました。ネイキッドです。ネイクでいーですから」
「あたしは聖璃架です」

 言って聖璃架はうつむく。
 ……なんで人間と話してるんだろ。嫌だ、関わりたくない。でも、ガイアくんのお兄さんだし……
 ガイアの事は嫌いではないから、聖璃架は複雑な心境になる。

 表情の曇ってしまった聖璃架を見て、ネイキッドはどうしたのだろうと思って問おうとしたが、ガイアに先を越されてしまった。

「お姉さん? どうかした?」
「え、ううん。ガイアくんはいつもネイクさんにご飯作ってもらってるの?」
「うん、そうだよ」
「いいねー。こんなおいしいお料理毎日食べれて」

 笑顔で言った聖璃架にネイキッドは反応する。思った通りの展開になったのだ。

「マジすかっ!? だったらオレ、毎日セリカさんのために腕振るいますよっ!」
「えっ?」
「だから、その、オレと……」

 付き合ってください、なんていきなりすぎるよなぁ……

 赤い顔で聖璃架を見つめるネイキッドをガイアは半眼で見る。

「お兄ちゃん何言うつもり」
「ごめんなさい。あたしそんなつもりで言ったんじゃ」
「いや、ぜひそーしてくださいよセリカさんっ!」

 勢い込んでネイキッドに言われて、嫌ぁな顔をする聖璃架。

 ……今、スゲー嫌な顔した……
 がーんとネイキッドはショックを受けた。

「いいじゃんお姉さん、これから一緒に食べようよ」
「えっ、でも」
「そうしようよ」

 ガイアに言われたら嫌ではなくて。――でも、と聖璃架は困り顔になる。

「お姉さん、嫌なの?」
「そうじゃなくて、そこまでするのは厚かましすぎるから」
「そんなことないって、お姉さん遠慮しすぎだよ。お兄ちゃんもぜひって言ってるんだしさ」
「……でも、いいんですか?」
「うん、ぼくも一緒に食べたいな」 

 笑顔で答えたガイアに聖璃架はお辞儀する。

「ありがとうございますっ」

 感激するのはネイキッドだ。
 ――やった! その気になってくれたんだ。これから毎日セリカさんと飯が食える!
 じーんとして嬉し涙を流した。
 そして、いつか良い関係に……
 聖璃架の手を握って熱い視線で見つめ合う妄想をした。

 すっかり妄想に浸っているネイキッドを見て、ガイアは顔をしかめる。

「お兄ちゃん変な妄想してるよ」

 その時――気配もなくネイキッドの背後に現れた人影。

「ハ〜イ、ダーリン待った?」

 由子だ。ネイキッドの首に腕を回してにたりと笑う。ネイキッドはぴくりとも動けず顔から血の気が引いた。

「キャアア!!」

 怯えた聖璃架が立ち上がって後退した。

「う〜ん、うまそうな匂いじゃァ」

 テーブルの料理に由子が目を向ける。

「ダーリンッ! ウチのためにこんなうまそうな料理作って待っててくれたんかっ! ウチ感激じゃァァ」

 素手で料理をむさぼり始めた。

「ちッ、違うッ! それはセリカさんに」
「ふーうまかったわい。ダーリンの手料理は絶品じゃ」

 満足そうに由子が言って、一瞬で料理は全て空になってしまった。

「あ〜〜」

 それを見てネイキッドは肩をがっくりと落とした。

 すると由子は離れて怯えている聖璃架に気づく。

「何故オンドレがおるんじゃいッ!!」

 血走った目で由子に怒鳴られて、聖璃架は竦んでうずくまる。

「ヒィィ! ごめんなさいッ」
「ウチのいない間にダーリンに迫るなんて、とんでもない阿婆擦あばずれ女じゃ泥棒猫めッ!!」
「……ごめんなさい……もう来ませんからっ」

 涙をぼろぼろと零しながら聖璃架は走り去った。

「セリカさんっ!!」
「お姉さん!」

 ガイアが聖璃架を追って、ネイキッドも追おうとしたが由子に掴まってしまった。

「ダーリンどこ行く気じゃァッ!」
「由子ッ、離せッ!」
「んもォ照れちゃってダーリンは可愛いんじゃからァ」
「ギャアァァ」

 由子に力一杯抱きしめられて、ネイキッドは死にそうに顔面蒼白になった。



「由子ちゃんはお兄ちゃんのこと好きだから、お姉さんに焼きもち焼いたんだよ」

 道を並んで歩きながらガイアに言われて、聖璃架は不快に思う。
 焼きもちって何それ。冗談じゃない。

「そんなの困る。とにかくもう絶対ネイクさんには近づかないから」

 最初から近づくつもりなどなかったのに、こんな事になって散々だ。もう人間には絶対に関わりたくない。
 自分は竜の石を探しに来た、それだけなのだから。
 早く石探しを始めよう。このままだと目的を見失ってしまいそうだ。

「えー! ご飯一緒に食べる約束したじゃん!」

 とガイアが不満そうに言った。

 そうだった。
 ガイアとの約束を破りたくはないが、こうなってはもう無理だ。心苦しいけど。

「ごめんね、ガイアくん」

 聖璃架が謝った時――横の森の茂みから人影が飛び出して、聖璃架は目を見開く。現れたローレルに鳩尾みぞおちを殴られていた。

「あー!!」

 驚いて叫ぶガイアに目もくれず、ローレルは気絶した聖璃架を腕で支える。

「お姉さんに何するんだよ!!」

 怒るガイアの前でローレルは聖璃架を肩に担いだ。

「悪いが、カワイコちゃんを借りるぜ」

 言ってローレルは森へ逃げ出した。

「あッ! わあー大変誘拐だぁ――!」

 ガイアも慌てて走り出す。家の方へ――ネイキッドに助けを求めにだ。



 聖璃架を肩に担ぐローレルは、ご機嫌で口笛を吹きながら森を行く。
 それもそのはず、なんたって久々の女だ。しかも超自分好みの。顔はまだ少し幼いが、成長すれば必ずいい女になる。自分がそう思うのだから間違いない。

 島に来て二年、野郎ばかりで女なしの生活は本当にしんどかった。気が狂いそうになった時もあったが、やっとこの島にも女が。

 愛おしむように聖璃架の太ももを撫でる。
 驚く程冷たい肌だ。自分の手が熱いからそう感じるのだろうか。だが久々に感じる女の肌はすべすべで気持ち良い。もう下半身は爆発しそうだ。今すぐ滅茶苦茶に抱いてしまいたいが、気絶している女に手を出す程落ちぶれてはいない。

 もうじき家に着いてしまう。着いたら先にハーレーに手を出されるに決まっている。正直嫌だ、おっさんの後なんて。
 ――どうするか、意識が戻るのを待つか。
 
 ローレルの背中で聖璃架は目を開けた。
 一瞬自分の状況が把握出来なかったが、森をローレルが進む振動と不自然な体勢に、すぐに担がれているのだと理解して恐怖を感じる。
 ――何、どこに連れてかれるの?
 嫌だ怖い。逃げなくては。

「降ろして! 降ろしてください!」
「あ?」

 声を上げた聖璃架にローレルは足を止める。

「降ろしてください! お願いします!」
「気づいたのかぁお姫サマ。いいねぇグッドタイミングっ♪ 俺もう溜まっちゃって限界でさ。それじゃ俺と気持ちいいことしようかぁ」

 いやらしく笑ってローレルは聖璃架のワンピースの裾に手を入れて尻を撫で回す。

「ヒッ!」

 初めて触れられた部分に聖璃架がびくんと反応した。

「……ん?」

 なんだか急に頭が熱くなった気がする。
 ――やだな熱か? 疲れてんのかな俺。かしらは人使い荒ぇし。
 第一なんで俺がカワイコちゃん連れてかなきゃなんねぇの。
 頭に言ったら「おめぇ女の匂いわかんだろうが!」だもんなぁ。まあそうだけど。これは俺だけの特技だもんね、ちょっと自慢。
 ……あーそれにしてもマジ頭熱ィ。ヤベェんじゃねぇの、三十九度くらいあるかも。――いや待て。これは内側からじゃねぇ。外側だ。
 はっとするローレル。頭のバンダナが燃えていた。
 パニックになって聖璃架を地面に落とす。

「キャッ!」

 慌ててバンダナを外すローレルだが、髪はすっかり焦げてちりちりだ。

 聖璃架は立ち上がってバンダナの火を消すのに必死なローレルに後退する。

「ごめんなさいッ」

 箒を出して空へ逃げた。



「お姉さん、よかった無事だったんだね」

 聖璃架を前にして、ガイアが安堵のため息をついた。それはネイキッドもだ。

「本当に無事でよかったです。誘拐されたと聞いて驚いて」
「はい大丈夫です、ご迷惑おかけしました」

 言いながら後退していく聖璃架に、ネイキッドはショックを受ける。
 ――また……マジで凹むんですけど。

「あの、セリカさん。セリカさんをさらった奴には充分気をつけてくださいね。とんでもねー大悪党なんです。まだ仲間がいます。頭にバンダナ巻いた奴らには本当に気をつけてください」
「は、はい」
「これから先心配だ。オレがずっと側にいて護ってあげられたらいーんだけど」

 なんて言い出したネイキッドに聖璃架は仰天する。
 そんな事恐ろしくてあり得ない。
 思わず身震いしてしまった。

「セリカさん。料理作り直しますから食べてってくださいね」
「いえッ、もうけっこうですッ」

 即行断られて、更にネイキッドはがーんとショックを受けた。

「どーしてですか」
「……あの人間に焼きもち焼かれるの、迷惑ですから」

 あの人間って、由子の事か? とネイキッドは顔をしかめる。

「そーですよね、オレも迷惑してんすよ」
「迷惑、してるんですか? だったらどうしてハッキリ言わないんですか?」
「ハッキリ……」 

 言うのか? あの化け物に……そんな事したら多分殺される……
 由子の不気味な顔を思い浮かべて、ネイキッドはぞっとして顔が青ざめた。
 そうだろう……今までだって死にかけてきたのだから、殺されて間違いない。

「あたし、ハッキリしない人って嫌いですッ」

 聖璃架の言葉が更に追い打ちをかけて。

「あーあ、完璧に嫌われちゃったねお兄ちゃん」

 大ショックを受けて、白目を剥いて立ち尽くしたネイキッドにガイアが言った。



【後編へ続く】
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