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  †*聖璃架*† 作者:天使


※ 注意 ※

軽い性描写がございます。


十五日目◆崩想
 待ち遠しかった夜が明けて、聖璃架は家へ帰ったが歳朗の姿はなかった。どこかで倒れているのではと捜したかったけれど、ジムニィにガイアの件が先だと許してもらえなかった。

 朝からガイアが一人になるのをうかがっているのだが、ネイキッドが付きっきりで中々機会(チャンス)がない。付け回すなんて悪い事をしているみたいだし、歳朗が気がかりな聖璃架は気が滅入ってしまって。

 今日も気温が上がって暑くなって、今は海に来たネイキッドとガイアを木陰から窺っているところだ。森は多少涼しいが、浜辺は蜃気楼で揺らいで見ているだけで暑くて汗が出そうだ。それでも二人は一頻ひとしきり泳いで元気にビーチバレーなどしている。

「ネイキッドめ、ちーともガイアから離れへん。どこまで過保護なんや。このままやと日が暮れてまう。しゃーないわセリカはん、ガイアうまく連れ出してくれへんか」
「……わかりました」

 早く終わらせて歳朗を捜したい聖璃架は承諾した。



 ネイキッドのパスしたビーチボールが風に流されてガイアは追いかけると、足元に転がってきたボールを聖璃架が拾った。

「あ、お姉さん」
「聖璃架さん、こんにちは。お一人ですか」
「はい。ちょっとガイアくんにお話があって。いい? ガイアくん」
「いいよ、どうしたの?」
「ちょっと向こうでお話しよ」
「うん」

 ガイアはビーチボールをネイキッドに渡すと、聖璃架と手を繋いで行ってしまった。

 自分が居てはまずい話なんだとネイキッドは思って、がーんとショックを受けた。



 森に入って聖璃架は口を開く。

「ねぇ、ガイアくんはネイクさんのことお兄さんと思ってるの?」
「え? だってそうでしょ?」

 当然の事を聞かないでよ、といった表情でガイアは聖璃架を見た。

「……違うの。ガイアくんの本当のお兄さんはネイクさんじゃなくて、ジムニィさんて人なの。知ってる?」

 それを聞いてガイアは不快げに少し表情を強張らせる。

「……お姉さん、何言い出すの? 急に」
「本当のことなの。ガイアくん、お家に帰りたくない? お父さんとお母さんの所に」
「ぼくの家はここにあるよ!」

 とガイアが強い口調で言った。

「だから違うの」
「ジムニィがお兄ちゃんなわけないよ! あいつすごくやな感じするもん!」

 嫌ぁな顔をして言うガイアに、木陰で聞いていたジムニィは額に青筋を浮かせる。

「あいつの方が嘘ついてるんだよ! お姉さんどっちが本当のこと言ってるかくらいわかんないとダメだよ」
「ガイアくん……」

 ガイアがそう言うなら間違いないんだと聖璃架は思った。――自分は、騙されたのだ。

「聖璃架、ここにいたんだ。捜したよ」

 かかった声に聖璃架は振り向くと総助だった。

「総助さん」
「土浦さんが深手を負って昏睡状態なんだ」
「――えッ」

 総助の言葉に聖璃架は驚愕して立ち尽くしてしまった。
 ――昏睡……状態……?
 ショックで足ががくがくと震える。

「早く行こう」

 言って総助は放心状態になってしまった聖璃架の手を引いて歩き出したが、ジムニィが飛び出してきた。

「待てや!」
「あー“嘘つきジムニィ”だぁ」

 嫌ぁな声でガイアに言われて、ジムニィはこっそり傷ついたが総助を睨む。

「あんさん困りますな。下手な嘘ついてセリカはんを惑わすんは」
「そっちこそなんだよ。聖璃架に何か用かよ」

 笑んで総助はジムニィに言うが声は低い。

「あんさんの爽やかな笑顔、気にいらへんな」
「ジムニィ――!!」
「!」

 ネイキッドが殴りかかってきて、ジムニィは素早くかわす。

「ネ、ネイキッド」
「話は聞かせてもらったぜ。テメー聖璃架さんをハメやがったな許せねー」

 怒りの形相でネイキッドに睨まれて、ジムニィは鼻で笑う。

「盗み聞きとはええご趣味でんな」
「テメーに言われたくねー卑怯者が。だからテメーは嫌われんだよ」

 痛い事を言われてうっとなるジムニィ。

「なんと言われよーとかまへん。竜の石手に入れるためやったらな」
「その汚ねー根性オレが叩き直してやるぜ。ここはオレに任せて聖璃架さんを…」

 早く連れてってくれ、と総助に言おうとしたが既に姿はなかった。



 未だに聖璃架は放心状態で、総助に手を引かれなければ歩けない程だ。 

 総助はずっと聖璃架と二人きりになる機会を窺ってきた。今その機会が訪れて、焦点が定まっておらずぼんやりした聖璃架を幹に押し付けると総助は唇を重ねる。

 唇を吸われて忍び込んできた舌に、聖璃架は我に返って顔を背けようとしたが総助に押さえ付けられて出来なかった。

 その行動が解っていたかのように、総助は聖璃架の顔を押さえる手に力を込めて深く唇を重ねていく。

 総助の舌に口中をなぞられて、自分のを絡め取られる。歳朗とでさえした事のない初めての深いキスが、聖璃架は物凄く不快でしかなかった。

 聖璃架の悲鳴はくぐもった呻き声にしかならなくて、目を見開いてなんとか逃れようと身をよじるも総助の体で固定されていて不可能。その行動は返って総助のキスをより深いものにしていくにしかならなくて、聖璃架の目に涙が浮く。

 激しくて濃厚な総助のキスは終わりが見えない。いつまでもこのままなんて耐えられない。

 すると総助の眉が動いて唇を離した。二人の唇は銀色に光る糸で繋がれていたが、横を向いて総助は勢い良く吐き出す。

「痛いなぁ、何するんだよ。また斬られたいの」

 と言う総助の目は鋭く声は冷えていて、聖璃架は震えながら口を拭う。

「あ、あなたこそ何するんですか」

 それを聞いて総助はにこ、と笑む。

「あのおっさん三人にサービスして僕はなし、てことはないだろ」 

 総助の言葉の意味が解らなくて、聖璃架はまたたきをした。

「とぼけるなよ。僕知っているんだからね」
「意味がわかりません。早く歳朗さんの所へ行かせてください」
「終わってからだよ」

 ぐ、と聖璃架を押さえ付ける体に力を入れて、再びキスを迫る総助に聖璃架は顔を背ける。

「やめてくださいッ」
「本当だったら僕が君の処女を奪うはずだったのに。ま、僕処女嫌いなんだけどね」

 強引に唇を塞がれて総助の舌が進入してくると口中に血の苦みが広がって、聖璃架は怖くなって抵抗出来なくなった。



 歳朗が深手を負って昏睡状態だと総助が言っていたのを先程耳にして、ネイキッドは何があったのかと思いながらガイアを連れて向かうところだったが、信じられない現場を目撃して目を見開いた。

 聖璃架と総助がキスを交わしていてネイキッドは慌ててガイアの目を塞いだが、冷静に考えてみて二人は歳朗の元へ向かった筈だ。きっと見間違いだと思ってゆっくり振り向くと現実だった。

 それもキスだけではなくて、総助は片手で聖璃架の乳房を揉みながら、もう片手で聖璃架の片足を抱え上げて腰を突き上げている。
 総助の一方的ではなくて、聖璃架からも舌を絡ませてキスをしているのがネイキッドには信じられなくてショックだった。

「おいッ!! テメー何してんだよッ!!」

 ネイキッドの声に総助は振り向く。その唇はやはり聖璃架と銀糸で繋がれていて、それがネイキッドには凄く卑猥だった。

「何って、やだなぁ見てわからない? セックス」

 聖璃架を突き上げながら笑顔で平然と、しかも最後の部分を強調して答えた総助にネイキッドは度肝を抜かれて口が開いてしまった。

「……聖璃架さんは人妻なんだぞッ」
「だから?」

 さらりと涼しげに総助が言って、ネイキッドは人格を疑った。
 ――こいつ、見た目とは裏腹にとんでもない野郎だ。聖璃架さんもそんな乱れて。

 総助の突き上げに聖璃架は甘い声で喘ぎながら、紅潮した顔で悶えていて。

「見ててもいいけど邪魔するなよ」
「なッ!! テメーッ!!」

 かっとなってネイキッドが殴りかかると総助の目つきが鋭く変わって、次の瞬間には喉元に刀が突き付けられていた。

 それを見ていたガイアの瞳が緑色に光り出す。
 


「歳朗さんッ」

 真誠軍の家で、昏睡状態の歳朗に聖璃架は駆け寄った。

「歳朗さん……ねぇ、ねぇ起きて」

 声をかけても、歳朗を揺すっても無反応。

 ……歳朗さん……どうして、こんな……
 聖璃架の目に涙が溢れて、布団に伏せて泣いた。

 ネイキッドとガイアも見ていて辛い光景だった。

 顔を上げて聖璃架は涙を拭うと立ち上がる。

「あたし、研究所に行ってきます」
「研究所?」

 と勇作が問う。

「何か、いいお薬があるかもしれないもの」

 言って飛び出していった聖璃架をネイキッドは追いかけた。

「待ってください聖璃架さんっ!」
「なんですか!?」
「今から行ったら夜になっちゃいますよ。行くなら明日になってからの方が」
「でも、いてもたってもいられないんですッ」

 聖璃架は構わず走り出してしまってネイキッドは追う。

「待ってくださいオレも行きますっ!」



 日が傾いて橙色に染まる空をからすが数羽鳴きながら飛んでいく。

 額から流れる汗を拭いながら山道を急ぐ聖璃架は、足の怪我が治っていて本当に良かったと思った。

 聖璃架の切らす息を聞きながら、ネイキッドはついていく。

 もうずっと走り続けている。徐々にペースは落ちて、苦しい筈なのに決して歩きも立ち止まりもしない聖璃架にネイキッドは胸が痛む。

「聖璃架さん、少し休んだ方がいーすよ」

 幾度か声をかけたが聖璃架は聞かなくて、返してくる返事は同じだ。

「ネイクさんは帰ってください!」

 そんな事を言われて放って帰られる訳なんてない。

「……聖璃架さん、スンマセン」

 言ってネイキッドは聖璃架を抱えた。
 驚く聖璃架をよそに走り出す。自分は体力ならまだまだ有り余っている。

「降ろしてくださいネイクさんッ」
「この方が早いですから」



 山を越えて密林に入った頃には日が落ちてしまって、このまま進んでも迷うだけだと諦めて夜が明けてから動く事にした。

 昼間でさえ不気味な密林は夜だと一層拍車がかかって、夜に動き出す生物もいるのか鳴き声がうるさい。しかも異様に寒くて、忘れていたが海パンのままでは火がなければ凍えそうだ。

 察しはついていたのだが、聖璃架とこうして一晩明かす事になって先程から動悸が治まらない。

 暗闇で二人きりでは聖璃架(分身)の甘い唇の感触やローレルとの行為、見たばかりの総助との行為で喘ぐ聖璃架が鮮明に頭の中に甦って、嫌でも下半身が熱くなってしまって見ると見事に反応していた。
 やばいと思って別の事を考えて邪念を払おうとした時――近くでばさばさと大きな羽音が聞こえた。

「キャッ」

 驚いて聖璃架が竦むと、はだけた浴衣の裾からなまめかしい太ももが覗いてネイキッドの下半身は再び反応してしまって。浴衣のチラリズムは反則だ。
 ――ああ、まずいまずいまずい。そうだ由子の事を考えよう。あ、一瞬で治まった。

「大丈夫ですか? 聖璃架さん」
「あ、はい……」

 今からこんな調子で自分は持ち堪えられるのだろうか。生き地獄に近いだろう。

 そういえば先程から辺りは良い香りが漂っていて、空腹を刺激する。聖璃架も言わないが空腹に違いない。

 こんな不気味な森で食物を探すのは気が引けていたが、そういう訳にもいかない。この良い香りを辿れば何かある筈だ。

 ネイキッドは太い木の棒に長い葉を何重にも巻き付けて即席の松明たいまつを作ると焚き火の火をつけて立ち上がる。

「聖璃架さん、お腹空いたでしょう。実か何か探してきます」

 それを聞いて聖璃架も立ち上がる。

「あたしも行きます」
「えっ、一人で大丈夫っすよ」
「一人でいるの、怖いんです。ダメですか?」

 こんな風に言われてしまっては駄目なんて言えない。というよりはよく考えてみて、聖璃架をこんな密林に一人にしておけない。戻ってきて姿がなかったなんて事があったら、後悔するどころではない。共に行動するのがベストだろう。

「わかりました、行きましょう」 

 良い香りのする方へ向かって歩を進めるネイキッドの斜め後ろを、聖璃架はついて歩く。

 すぐ近くで羽音と鳴き声がした。

「キャアッ」

 驚いた聖璃架にしがみ付かれて、ネイキッドの鼓動がどくんと高鳴る。

 聖璃架は恐怖で震えているのにネイキッドの動悸は別の感情で激しくなって、また欲情の波が押し寄せてくる。このままでは良くない気が起こってまずいと思う。

「聖璃架さん。大丈夫です、オレがいますから」

 ネイキッドが言ったが、聖璃架はしがみついたまま震えている。

 先程から腕に柔らかい感触を感じてむらむらと高ぶってきて、本当にまずそうだ。
 ――駄目だ、相手は人妻だぞ。だが人妻って、そそる響き……
 抑えるどころか気持ちは高ぶる一方で。

 するとすすり泣く声が聞こえて、ネイキッドは我に返る。

「……聖璃架さん?」
「……もし……このまま、歳朗さんの目が覚めなかったら、どうしよう……」
「泣かないでください。大丈夫っすよ。きっとクレスタさんがいい特効薬を作ってくれます」
「…………そうですよね」

 聖璃架は顔を上げて涙を拭った。

 その表情は悲しげで、懸命に辛さを堪える聖璃架を見て、ネイキッドの理性は脆くも崩れてしまった。
 人妻だろうが、好きな気持ちは変わらなくて。想いが叶わないのなら、どうせもう手に入らないのなら今この一時だけでも愛しい女を独占したい。いけない事だと解っていても、この想いは止められない――――
 
 聖璃架を抱きしめようと両手を広げた時――ぐるるると腹の虫が鳴いて動きを止める。

「…………」
「……お腹、すきましたね」
「あ、そ、そーすね」

 自分のしそうになった事に恥ずかしくなって聖璃架を見れずに、ネイキッドは落とした松明を拾った。
 本当に危なかった。暴走してしまうところだった。もし手を出してしまっていたら手遅れだったろう。
 自分は聖璃架に安心される存在でありたい。歳朗が今聖璃架の側にいられないのだから、せめてその間の代わりにでもなれれば、それで構わないのだ。



 良い香りは一本の木からだと解って、ネイキッドは松明を掲げると沢山の実がなっているのが見えた。

「実を取ってくるんで、聖璃架さんちょっと持っててもらえますか」
「あ、はい」

 松明を聖璃架に手渡してネイキッドは木に登っていく。

 縦に長くて先端が細い不思議な形の実から甘くて良い香りが出ているとよく解る。
 果実をもぎ取って思い切って齧ってみた。香りの通り甘くて濃厚な味が口中に広がって、とても美味だ。



「はーうまかったぁ」
「おいしかったですねー」

 焚き火にあたりながら余程食べたのだろう、満足そうに聖璃架とネイキッドが言った。

 空腹も満たしたし、後は寝るだけと思ってネイキッドは聖璃架を見た矢先――鼓動が高鳴った。

 甘い色を含んで潤ませる聖璃架の煌々《きらきら》する綺麗な青玉サファイアの瞳も、自分を真っ直ぐ見つめて。

 体が熱くなって呼吸が乱れてきて何も考えられなくなり、気持ちはどんどん高ぶっていく。

 感情のまま、どちらともなく体を寄せて抱き合う二人の長い影を、燃える焚き火が地面に映した。



【十五日目◆終】


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