※ 警告 ※
○今話より、悲恋傾向になります。
○性的描写がございます。
苦手な方や不快に感じる方はご遠慮ください。
十二日目◆初夜
森にひっそりと建つ丸太小屋を眺める聖璃架と歳朗の姿があった。
「聖璃架、俺達今日からここに住むんだぜ」
「わあ素敵です」
と両手を合わせて頬を珊瑚色に染める聖璃架。
「何かあった時のためにと思ってコツコツと建てたんだが。まさかここが俺達の家になるとはな。そんなに広くはねェが、二人で暮らすにゃ充分だろ」
「そうですか」
歳朗は優しい眼差しで聖璃架を見る。
「おまえを、世界一幸せな嫁にしてやる」
「はい、土浦さん」
「もう土浦はやめろ。夫婦になったんだ、これからは歳朗と呼べ」
「はい、歳朗さん」
頬を染めた聖璃架に名前を呼ばれて、歳朗も照れて顔を赤らめた。
家の中には非常時に備えてか米俵や壺に調味料、調理用具まで一式揃っていて聖璃架は驚いた。一組ではあるが布団も隅にある。
「あたし、魔女のお料理しか作ったことなくて……」
「ああ、おまえの料理には正直驚かされた。慣れるまでは一緒に作ろう。少しずつできるようになればいい」
歳朗に言われて聖璃架は嬉しくなって。
「はい、歳朗さん」
笑顔で答えると歳朗は顔がかぁ、と赤くなってしまって顔を背けて咳払いする。聖璃架の笑顔に弱い自分を思い知らされた瞬間だった。
そして歳朗は籠を背負うと聖璃架に言う。
「俺は食材集めに行ってくるが、おまえは足が完全じゃないからここで待ってろ」
「え、でも歳朗さんも腕が……」
「右が使えりゃなんとかなる。だがおまえを歩き回らせるわけにはいかねェ。わかるな?」
「…………」
淋しそうな、しおらしい表情で自分を見つめる聖璃架に、歳朗は男の本能を呼び覚まされた。思わずむら、と来てしまったのだ。
「聖璃架っ!」
「きゃあっ」
聖璃架を押し倒して歳朗は体を重ねて密着させると、お互いの息がかかるくらい顔を寄せて聖璃架を見つめる。ふわ、と聖璃架の甘い香りが脳を刺激する。――が、歳朗ははっと我に返った。
「す、すまねェ」
耳まで真っ赤になって慌てて起き上がる歳朗。こんなつもりはなかったのだ。欲情に駆られて気づいたら聖璃架を押し倒してしまっていた。
「それじゃ行ってくる」
顔が真っ赤なまま聖璃架を見れずに歳朗は出ていってしまった。
……どうしたんだろ、歳朗さん……
起き上がった聖璃架の鼓動は、どきどきと高鳴っていた。でも嫌ではなかった。顔が熱くなって、自分もどうしたのだろう。
森を走る歳朗は顔が赤かった。
突然聖璃架にあんな事をしてしまった自分が恥ずかしくてたまらなくて頭を冷やしたい。
だが顔は熱いままだし、心臓はばくばくと煩い。それは走っているせいもあるが。
駄目だ、頭から振り払わないと熱が引かないようだ。
聖璃架といると本来の自分を忘れてしまう。真誠軍で“鬼の土浦”と呼ばれて恐れられる自分を。このままでは威厳がなくなっていけない。気を引き締めなければ。
「おーおーこんな所に愛の巣建てちゃって」
聖璃架と歳朗の家を見て言うのはローレルだった。
「まーったくうらやましいったらねぇぜ」
小さな窓から中を覗いたシーマは、一人で大人しく歳朗を待つ聖璃架を見つける。
「どうやら小娘一人だが」
「おっ♪ 絶好のチャンスじゃんっ♪ 見逃す手はないっしょー」
鼻歌交じりの聖璃架の手には、歳朗に貰った花冠。
見ていると嬉しくて嬉しくて笑顔になる。それにとても綺麗で気に入った。
ずっと離さない自分に歳朗は「そんなに気に入ったのか」と少し驚いていたが、歳朗から貰ったのだから当然の事。
頭にそっと乗せてみる。
心が温かくなって幸せな気分だ。
早く帰ってこないかなぁ、と思った矢先――ドアが勢い良く開いた。
「お帰りなさーい」
笑顔で言った聖璃架に対して返ってきた返事は、とても嫌なものだった。
「ただいまぁー」
当然歳朗だと思っていた聖璃架は凍りついた。――入ってきたのはローレルとシーマで。
――なんで? どうして?
顔面蒼白になって聖璃架は震え始める。
「旦那じゃなくて残念でしたぁ」
ピアスの付いた長い舌を出して、怯える聖璃架を見下ろすローレル。
「聖璃架ちゃん、俺に内緒で鬼の副官サマと結婚したんだってぇ? 酷ぇじゃんかよ」
不満そうに言って、ローレルは聖璃架の頭の花冠に気づく。
「なんだぁこれ」
「あッ」
花冠を取り上げられて、聖璃架は取り返そうと立ち上がろうとしたが足がずき、と痛んで。
「旦那にもらったのかぁ? ケッ、ダッセェ。おいシーマ」
ローレルに花冠を投げられてシーマはふ、と薄く笑んで目を閉じる。花冠に火がついて床に落ちた。
「ヤアアッ」
「おいおいやめた方がいいぜぇ。シーマの炎はそんなんじゃ消えねぇよ」
血相を変えて叩いて花冠の火を消そうと必死な聖璃架にローレルが言った。
「ああ、あ……」
努力も虚しく花冠は燃え尽きてしまって、聖璃架は涙を流した。
「そんなに悲しいのかぁ? かわいそうに、だったら俺が慰めてやるよっ♪」
言ってローレルは聖璃架を押し倒す。
「やだァッ」
涙の溢れた目でローレルを睨んで、聖璃架は叩いて抵抗する。
「おとなしくしろよ」
乾いた音が響いて左を向いた聖璃架の目に映った物――そこにはいつの間にか薬指から千切れた白詰草が、悲しげに自分を見ていた。
「あ、ここかな」
「そーじゃないか」
聖璃架と歳朗の家を訪れたネイキッドとガイアは、甲高い悲鳴のような泣き叫ぶような声を耳にする。それは確実に家の中から聞こえていて、ネイキッドは瞬時に今この中で起きているであろう事態を感じ取った。とても嫌な気分になって動悸がしだして、額から冷や汗が流れる。
「お姉さんの声だよ! どうしたんだろ」
「……ガイアは離れてろ。絶対に来るな」
深刻な声音でガイアに言って、ネイキッドは冷や汗を拭うと家のドアを開け放つ。
「――…………」
予測していたとはいえ、顔を背けたくなる光景だった。
浴衣のはだけた聖璃架に跨って、乳房を揉みしだきながら夢中でしゃぶりつくローレル。聖璃架は涙を流しながら喘いで、その声は次第に甘いものに変わりつつあった。
「ネイキッドか。貴様も参加しに来たのか?」
壁に凭れて座るシーマの眼鏡の奥の目が冷ややかに笑う。
「……テメーら……」
顔を伏せてネイキッドは拳をぐっと握りしめる。
「何してんだァァッ!!」
ローレルに殴りかかったが、顔を上げたローレルはネイキッドに旋風を放って外に吹き飛ばす。
「……あーなんかシラけちまったぜ。シーマ頼むわ」
「この貸しは高くつくぞ」
言ってシーマは立ち上がって外へ出ると、待ち構えていたネイキッドが睨みつける。
「そう盛るな」
「シーマ、テメーッ!!」
「お兄ちゃん……」
木陰から見ていたガイアの瞳が緑色に光り出した。
日暮れになって、籠に大量に収穫物を入れて家へ向かう歳朗は、これだけあれば当分食料に困らないと喜ぶ聖璃架の笑顔を想像して満足そうだった。
少しの間でも聖璃架と離れているのが惜しい。その気持ちが家路を辿る足を逸らせる。
帰宅した歳朗は目を見開いた。
「あ、歳朗さんお帰りなさーい」
「お帰りなさい、歳朗さん」
ガイアと聖璃架が言って、「お邪魔してます」とネイキッドが会釈した。
「何故ここに」
「遊びに来たんだよー。わあ歳朗さん、すごいいっぱい取ってきたんだねー」
とガイアが歳朗に向かっていった。
急に表情を曇らせて俯いた聖璃架に、ネイキッドは気づく。
遡る事少し前。
ガイアの竜の力で気づいたらシーマは居なくなっていて、急いで家に入ったらローレルの姿もなかった。只そこで聖璃架が泣いていて、こんな目に遭ってしまってもう歳朗には逢えないと言う。気持ちは解るけどそれでいいのかと、自分は歳朗と頑張ってほしいと告げると、暫く聖璃架は泣いていたが、やがて涙を拭って頷いた。
正直安心した。聖璃架の事は好きだが、今は幸せになって笑っていてほしい。自分の願いはそれだけだ。
それにしても、あいつらだけは許せない。ハーレーが居なかったのが気になったが、奴らの事だ。また聖璃架を襲ってくるだろう。歳朗には聖璃架から片時も離れないでいてもらいたい。
歳朗は思う。
帰宅してから聖璃架の様子が妙だ。
夕飯の支度をしている時も、食事中も上の空で笑顔がない。声をかければ笑顔で返してくるがその時だけだ。留守の間に何かあったとしか思えない。聞いても「何もない」の一点張りだ。何なんだ、また俺を苛々《いらいら》させたいのか。
一枚の布団に聖璃架と歳朗は身を横たえる。聖璃架は布団の端の方で微妙に距離が開いていて、もっと側に寄れと言うのも下心見え見えな気がして、歳朗はなんだか切なさを覚える。
既に聖璃架は心臓が脈打っていて、この動悸は何のものか解らなかった。多分恐怖の方だろう。
聖璃架の様子が気になる歳朗だが、念願の聖璃架との生活を始めての初夜で、やはり聖璃架が欲しいと思わずにはいられなかった。
手を伸ばしていって触れると聖璃架はびくんと竦んで、思わず手を引いてしまった。
それから歳朗は触れてこなかった。
聖璃架は悲しくて悲しくて目に涙が溢れた。歳朗を傷つけてしまったと思って、背を向けて涙を流した。
啜り泣く聖璃架に気づいて、歳朗は顔を向ける。
体を起こして僅かに肩を震わせながら泣く聖璃架を仰向けにすると、指で涙を拭って唇を重ねる。
――泣くな。
キスをされながら歳朗に体を重ねられて、聖璃架の動悸が速くなった。昼間の恐怖が甦って。
――やだ、怖いよ。
震える聖璃架に気づいて、歳朗は唇を離す。
「……怖いか?」
問われて聖璃架は思う。
なんであたしは怖がってるんだろ。歳朗さんなら怖くない。怖い筈がない。
「いいえ、怖くないです」
「嘘つくな、こんなに震えて……だが俺も緊張してる」
言って歳朗は聖璃架の手を取って自分の左胸に当てる。歳朗の鼓動が伝わってきて、自分だけじゃないんだと聖璃架は思った。
「聖璃架、俺はおまえを一生大事にする」
「歳朗さん」
再び唇を重ねた。歳朗のキスは凄く優しくて、聖璃架は次第に恐怖が薄れていった。
歳朗の手が浴衣の中に滑り込んで乳房に触れる。優しく撫で回すように愛撫されて、聖璃架は恐怖ではない胸の高鳴りを覚えた。愛する人に触れられると、こんなに嬉しい気持ちになるのだと。
歳朗は歳朗で初めて触れた聖璃架の乳房の柔らかさに感激しつつ、戸惑っていたりする。
何せ色事を避けてきた歳朗はセックスをよく知らなくて。最終的に挿入する事くらいは知っているが、前戯の知識がないのだ。
知識くらい身に付けておけばよかったか、と今初めて後悔した。まさか自分にこんな日が来るとは思いもしなくて不要だと、そんな知識得たところで邪念になるだけだと避けてきた。男が集まろうものなら当然そういう話題にもなるし、それさえ不愉快で歳朗は席を外した。それだけ硬派にストイックに生きてきたのだ。
歳朗は勘で動く事にした。
聖璃架の柔らかな乳房から手を太ももに滑らせていってその奥の、未知なる部分に触れる。聖璃架も初めて触れられた部分でぴくんと跳ねた。
指先で形状を確認しながら探っていくと、一点を見つけて指を押し進める。
「ああッ」
痺れるような痛みが走って聖璃架は大きく跳ねる。その反応が歳朗には良いのか悪いのかすら解らない。だが拒絶しない聖璃架に続ける事にして、指をゆっくり動かした。聖璃架の中は温かくて、また一つ聖璃架を知る事が出来て嬉しくなる。
聖璃架の漏らす甘い吐息と、恥ずかしそうに身を捩る姿が歳朗を高ぶらせていく。
動かす指も次第に潤って滑らかになっていって、聖璃架の中から溢れてくる何かに気づいた。
「……聖璃架、いいか?」
静かに歳朗に問われて、聖璃架は何が“良い”のか解らなかったが答える。
「はい」
すると体を起こした歳朗に足を開かれて、先程よりもっと確かな感覚が自分を貫いてくるのが解った。
――何、やだ痛い。
怖くなって思わず身が引けるが、自分の上に歳朗の体が乗り出してくると同時に、下腹部が一気に裂けたような激痛が走った。
――イタァッ
余りの激痛に聖璃架は声も出ずに硬直してしまって、目前で目を閉じて吐息を漏らす歳朗の顔が見えた。
歳朗は聖璃架と一つになれた喜びと、自分を締め付けてくる聖璃架の中がこんなに快感な事を知って、すぐに果てそうだった。
目を開けると目前で自分をじっと見ている聖璃架に気づいて、見られていた事に一気に顔が熱を帯びてしまって聖璃架の横に顔を隠すように伏せた。
床の軋む音が聞こえる。もうどれくらいこの音を聞いているだろう。
苦痛でしかなくて、これが“交わる”という事なのかと聖璃架は思ったが、歳朗なら我慢出来た。
やがて歳朗の動きが速くなって、耳元で名前を呼ばれて動きが止まると、歳朗は大きく息を吐きながら力を抜いた。
そしてぎゅっと抱きしめられて、「愛してる」と囁いてくれて嬉しかった。
“愛する人と交わる”のは、こんなに幸せな気持ちになれるんだと知った。
この時は――……
【十二日目◆終】
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