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一章 狸と狐と教師と少年
2
 数分後。俺は先生の車から降りた。遅れて先生が降りる。
「な、なあ、輝月が病気だって本当か?」
 そわそわしながら先生が問う。
「嘘です」
 俺はあっさりと答えた。
「……は?」
 ……あっさりしすぎたようだ。
 困惑する先生に詳しく言う。
「だから嘘です。輝月が病気だって言うのは」
「……お前なぁ! 私は輝月が病気だと聞いたから来たんだぞ!」
「別に俺は本当とは言ってません。唯、「輝月が病気になったらしいですよ」って言っただけです。」
「……ぅ」
「どっちにしたってもう来ちゃったんだから仕方無いですよ。男らしく覚悟を決めて下さい」
「……私は女だぞ」
「じゃあ、不良らしく」
「……女らしくと言う言葉は無いのか?」
「皆無です」
「そうか、お前が私の事をどう思っているか解ったから、殴っていいか? いいよな。つーかぶん殴る」
「だが断る。……そんな事より先生。ちょっとコンビニにひとっ走りしてきて下さい」
「あ? 何で」
「環と輝月と神宮寺ジングウジさんへのお土産を買うためにですよ」
「あーまあ、確かにお邪魔するのに手土産も何も無いんじゃ失礼だな。解ったよ。んで、何を買ってくれば良いんだ?」
「環にはメロンパン、輝月には鮭お握りが良いと思います。あ、神宮寺さんにはコンビニの隣りにある三日月屋の饅頭を」
「ああ、確かにあるな。」
「あ、お金は出しますよ」
「いーや、いい。生徒に金出させたら教師失格だ。んじゃ、行ってくる」
 そう言って先生はコンビニに向かって走り出した。仕方ないので待つ事にする。

 数分後。先生が袋と紙袋をぶら下げ帰ってきた。そして俺の目の前に突きつけた。
「これでいいか?」
「ええ、結構です」
「そうか。じゃあ行こうか?」
「はい。あ、それ持ちますよ」
「すまん」
 先生から紙袋を受け取り、山道へと歩き始める。

 山頂へと行く山道の途中にその道はある。良く見なければ気づかない細い道が。
 その細い道を歩き続けると小さな寺が見えてくる。
「先生、あそこですよ」
 そう言って後ろを向くと先生は煙草を吸っていた。
「ん? ああそうか」
 手には携帯用灰皿を持っている。
「先生、それで終わりにして下さいよ」
「りょーかい」
 立ち止まって、先生が煙草を吸い終えるのを待っていると近くの草むらが揺れ、
「おい、そこの不良。ここは禁煙だ。」
 声と共に少年が出てきた。
「……輝月」
 金色の髪と青色の目の鋭い眼差しの、整った顔立ちの少年――輝月は俺に話し掛けた。
イチジク。出迎えに来た」
「……何でそんな所から出て来るんだ?」
「近道なんだよ。環は普通の道を歩いているからもう少し時間がかかるだろうな。……そんな事よりも」
 輝月は鋭い目つきを更に鋭くして、先生を見た。
「なんでオマエがここにいる。不良はさっさと煙草屋か繁華街にでも行ってろ。こんな山に来る必要は無い」
 先生が言い返す。
「テメェせっかく来てやった客に何て事言いやがる!」
「せっかく来てやった? ハッ」
 輝月はその言葉を鼻で笑った。
「オマエみたいな客、こっちから願い下げだね。
丁寧に言うと、せっかくのご訪問ですが、お引き取りになられて結構です、有り体に言うと帰れ」
「なっ……! テメェ、本当に可愛くねぇなぁ!」
「男に可愛さを求めてどうする」
 バチバチと火花が散りそうな睨み合い。
 その睨み合いの最中、左から
「ふへ~。疲れた~。……あ、九」
 少女の声がした。名前を呼ばれて、俺は左を見る。茶色の髪が揺れ、眠そうな垂れ目が俺を見る。
「……環か」
「そうです、久しぶりです九! ……で、あれは何ですか?」
「狐と虎の睨み合い」
「確かにきっ君は狐ですが……」
「意地の張り合いとも言うか。まあ、放っておけ」
「はあ……。解りました」
 そう言って環は歩き始めた。俺もそれに続く。
 寺の境内に入ると歩きながら環が話掛けてきた。
「何であの二人は仲が悪いんでしょう?」
「あー。まあ、輝月は先生のさばさばした性格が気に入らなくて、先生は輝月の細かい性格が気に入らないからじゃないのか?」
「うーん。確かに美里さんはさばさばしてますよね~。竹を2で割ったような性格とはあの人の事を言うんでしょうか?」
「いや、竹を2で割ってどうする……」
 水だろ水。
 そんな他愛もない事を話してると正面にある本堂の引き戸が開いた。開けたのは、
「おや? 九君じゃありませんか」
 後ろに束ねた白髪と柔和な顔立ちのそろそろ初老に達するかと思われる男。
 神宮寺ジングウジ 信明シンメイ
 環と輝月の育て親で、ここの神主と管理をしている老人。
 そして、俺が密かに尊敬する人だ。
「こんにちは、神宮寺さん」
「うん、九君は実に礼儀正しくて良いですね。……それで環さん、輝月さんはどこに居ますか?」
「え? ……あ、きっ君は美里さんと睨み合ってます」
「またですか……。仲裁をしに行ってきます。先に本堂に上がってて下さい」
「はい。解りました」
「うん、解ったよ~」
 俺たちの返事に神宮寺さんは頷き、足早に境内の外に向かった。
煙草は吸った事がありません。というか吸ったら犯罪だし、自分は煙草は嫌いなのです。なので、もし、煙草の描写がおかしくても全力で気にしないで下さい。


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