00 第二話:初夜(前編)
「人の価値は誰が決めると思う?」
こちらを見もせず、煙を吐きながら男は言った。
質問の意味がいまいち分からなかった。なぜそんなことを聞くのだろう。
人の価値は誰が決める?普通に考えれば他人が決めるに決まっている。
そんな決まったことを聞いてどうするのだろう。
「自分以外の誰か・・・だと思いますよ。」
「そうか・・・」
男はため息をつき、吸っていたタバコを捨て靴で火を消した。
男はやっとこちらを向いた。真剣な顔で俺を見た。
「じゃあ・・・もし、誰かに存在価値がないと言われ、銃を突きつけられたら・・・お前はどうする?」
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日はすでに落ち、月が拝めるくらいの時間になった。
部屋で本を読んでいるのだが、かなり退屈だ。どうせなら今日、荷物を送って欲しかった。
朝早くから来たもののアパートには俺と綾さんしかおらず、二人っきりで話していた。
初対面の人間と二人で3、4時間も話すことなんて、今まで一度もなかったため、会話と言うよりも、質問されてそれに答えるだけというつまらない時間を過ごしていた。
綾さんの方も質問することがなくなったからかコンビニに戻り、たまにやってくる客と他愛のない会話をしている。
俺の部屋はなぜかキレイにしてあり、掃除する必要がなくなってしまい俺の仕事が奪われた気がした。
あと、10分位したら歓迎会の準備をしてくれるらしいのだが、誰一人帰ってきていないため、このままだと俺も手伝うことになりそうだ。
綾さんが居ない間にすべての部屋を見てまわったのだが、14部屋のうち6部屋は個人の部屋。3部屋は麻雀部屋、食事部屋、エアコン部屋。残りは空き部屋となっている。
ちなみにエアコン部屋とは扇風機やコタツしかない人間のための部屋らしい。
「この部屋は絶対入っちゃダメだよ。」
と綾さんに言われた部屋がひとつだけある。このアパートには5人住んでおり、その中の一人が二部屋使っているらしく、その入室禁止の部屋は綾さんいわく資料室のような場所らしい。
アパートにそんなものを作らないで欲しいと思いながら聞いていたのだが。
綾さんが袋を大量に持ち廊下を走ってきた。廊下は走っちゃいけませんよ。
「おまたせ直人くん。今から準備するけど・・・誰も居ないから手伝ってくれる?」
たった10分の間に帰ってくるはずがなく、未だに二人しかアパートにいなかった。
「ええ、いいですよ。」
「ありがと」
顔に疲れが表れており、明らかに無理しているのが分かった。
コンビニでバイトした上に歓迎会の準備までしたら倒れてしまいそうだ。まぁ、くだらない会話を永遠としたのも原因に含まれるが。
袋を受け取り食事部屋に入った。男の俺が持っても重いと感じる位だったのだが、いくら近いからといっても声ぐらいかけて欲しかった。
「じゃあ私着替えてくるから、その間に野菜切ったりしててくれる?」
そう言ってコンビニへと向かっていった。
袋の中には本当にコンビニに売っているのかと疑うような物が大量に入っていた。
疲れているなら無理してやらなくてもいいのに。
今日やろうが明日やろうが関係ないのに。
今の俺には彼女の行動が理解出来ない。
誰一人帰ってきていないのだからやる必要はないだろう。
それとも俺がおかしいのだろうか?
そのとき、戸を開ける音が廊下から伝わってきた。
綾さんが戻ってきたのか。マズいな。
いくらやる意味がないと俺自身が決め付けていても、綾さんが「はい、そうですか」と許してくれるわけがない。
野菜を袋からだし、まな板に置いたと同時にドアが開いた。
「すいません綾さん、まだ、何もやってな・・・あれ?」
部屋に入ってきたのは綾さんではなく、見たことない長身の男だった。
「見ない顔だな。新しくきた奴か?」
入ってきたときはキョトンとした顔をしていたが、すぐに真剣な顔になり警戒心剥き出しでこちらを睨んでいる。
引っ越してきた人間かと聞いておきながらそれはないだろう。
「ええ、そうですけど。」
「そうか・・・全く、なんでこんなところに。」
返事を聞いた途端に機嫌が悪くなった。ブツブツと文句を言いながらドアを苛立たしく閉め廊下へと消えていった。
20代後半の男だろうか。体格のいい人であるが、性格は間違いなく悪そうだ。
入れ替わりで綾さんが戻ってきた。制服から着替えたからか、かなり大人びて見えた。
しかし、今はあいつの方が気になる。
「どうしたの?そんな怖い顔して。」
「いえ・・・別に。」
袖を捲くり上げ、野菜を切りはじめた。料理はうまいわけではないが、ある程度は出来る。
一人暮らしをするために練習したのだが、素質がないのかさほどうまくならなかった。
「今の男の人は誰ですか?」
隣で手馴れた手つきで野菜を切っている綾さんに聞いた。
さっきの男は手伝う様子もなく自分の部屋に戻って行った。
歓迎される側の俺が手伝ってるのに。
「あの人はね、菊池真って言って、ここのアパートの大家とコンビニの店長をやっているの。」
「へぇ・・・」
あの無愛想な人間が大家ねえ。
切り終えた野菜を鍋に入れ、他の料理にとりかかった。
「あと、立ち入り禁止の部屋の持ち主。」
「あの部屋のですか?」
「そうだよ。暇なときはたいていあそこに居るよ。」
立ち入り禁止と言うからにはやはり見られたくないものを保管してあるのだろうか?
「何について調べてるんですか?」
「んー。分かんないなぁ。そのことについてはあんまりしゃべらないし。」
予想通りの答えが帰ってきた。逆に詳しく知っていたら、奴の神経を疑う。
「あっ・・・もしかしたら失踪事件について調べてるのかな。」
綾さんがいままで忙しく動かしていた手を止め、深刻な表情をこちらに向けた。
「この街ね、急に人がいなくなったりするの。」
「いなくなる?」
「そう。何の連絡もなく。」
いったん料理をやめ、話を聞くことにした。
食事部屋にはコタツがあり、そこに入った。
「夜逃げとかじゃないんですか?」
「最初はそう思ったよ?けど、それはないと思うよ。」
「え・・・なんでですか?」
向かい側に座った綾さんが顔を近づけてきて、誰もいないのに声を潜めた。
「家具からお金からすべて残ってるの。変だと思わない?」
「・・・それはおかしいですね。」
夜逃げするにしても、自分の物を置いていくとは思えない。
確かにこれは失踪事件としか言えない。
「この前も1家族消えたわ。家具はそのままで」
「1家族!?」
思わず机をたたいてしまった。家族で夜逃げするなら、なおさら荷物は持っていくはずだ。
「なんかね。いなくなる半年くらい前に、父親の働いてる会社が倒産してね、母親も仕事してなかったから結構お金に困ってたらしいの。働きたくても結構年だったから働けなかったの。子供も大きかったし。それで借金したりしてたの」
「借金取りに追われたとか?」
「ううん。それはないわ。そんな物騒なところからは借りてなかったからね。だから、これは完全に失踪したんじゃないかと思うの。」
確かに失踪だなぁ。
けど、奴は何でそんなこと調べてるんだ?
もし調べているとしたら、だが
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同時刻
二人の男が路上で話していた。
「嘘だろ?俺はもうすぐ就職するんだ!なんで俺がそんな目にあうんだ!」
「お前はいつもそうやって言ってきた。結局どこにも就職できずニートじゃねえか。」
そういうと男は必死に言い訳するボロボロの男を突き飛ばした。
「お前のくだらない戯言は聞きたくない。」
男は銃を突きつけた。相手は完全にパニックしており、ブルブルと震えている。
「や、やめてくれ!死にたくない!」
「死にたくない?生きてても何もしない奴が生きててもしょうがないだろう?」
「じ、時間をくれ!時間をくれればちゃんと就職する!」
男はため息をつき、銃口を頭に合わせた。
クズ同然の奴の命乞いになんざ興味は無い。ニートなどという生きている意味の無いゴミは消えれば良い。
「時間ならたっぷりとあった。お前が悪い」
男は携帯を取りだし、電話をかけた。
小さなビルの屋上でオルゴールが鳴り響いた。
「おい。今からターゲットを潰す。準備しといてくれ。」
「ええ、分かったわ」
女はライフルを取り出し、怯えている男に銃口を向けた。
高さはあるが怯えている男の姿ははっきりと見える。
「逃げ出すかもしれんから注意しておけよ。」
「分かってる」
男は携帯を切ると、静かに言った。
「お前はもう必要ないんだ。」
「存在価値がないんだよ」 |