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反逆者と偽りの街
作:碧空



01 第十三話:封筒


「大河内、変な奴から電話かかってきてないか?」
「え…っと掛かってきてないですけど?」
「そうか…ならいいが。」
そういうと朝食であるパンを半分だけ残し部屋に消えていった。
今日の菊池は朝からあわただしかった。おそらく綾さんが今日殺されるということを知っているから。考えてみれば菊池がこの一週間部屋にこもっていた理由は簡単に説明できる。どうせ綾さんがやつらに消されると知ったから、慌てて対策を練っていたのだろう。
その綾さんも昨日の夜から様子がおかしい。正確に言うとこのアパートの部屋を掃除しているときからおかしかった。
あのことが綾さんの耳に入ることはおそらく無いはずだ。あのことを知っているのは俺と菊池、そして奴らだけだ。奴らが綾さんにまで接触してくるとは思わない。

結局あの封筒は綾さんには渡していない。期限である3日目なのだが俺の周りでは特に何も起きていない。ふと、思ったのだが、渡したか渡していないかはあいつらには分かるのだろうか。あの手紙の内容は分からない。犯行予告でもかいてあるのだろうかと思ったのだが、確認できないからどれだけ予想しても意味が無い。
だが、削除リストのことを考えると犯行予告が書いてある可能性が高い…と思う。

「ハァ…分からないもんだな。」
頭を使うのはできるだけ避けたいものだ。今思えば昔から推理小説を読むのが苦手だった。読んでいても誰が犯人か全く検討がつかないまま最後まで読んでしまう。犯行のトリックを読んでいても意味が分からない。
勉強はそこそこ出来るのに、応用が利かないと言うのが難点なのかもしれない。

昨日から封筒を触っていない。菊池の部屋からナイフを盗んだ後、駅周辺の店をあさり何か役立つものが無いかと考え続けていたが、全くと言っていいほど何もなかった。
吹き矢とかがあったら面白いと思ったがそんなものは当たり前だが売っておらず、武器になりそうなものは見つからなかった。推理小説に良く出てくるのは鈍器や刃物だが、そんなものは俺の部屋にはない。ナイフは菊池の部屋から盗んだもので俺のではない。包丁を持って行ってもあの人のように奪われてしまうのがオチだ。もちろんナイフも奪われる可能性があるのだが、小さいから奪うのは難しいはずだ。いざとなったらどこかに投げ捨ててしまえばいい。15cmくらいのナイフを見つけるなんて難しいはずだ。まぁ、俺は無防備になってしまうから殺されてしまうのだろうが。

「…いい感じに矛盾してるな。」



菊池は部屋にこもって何をしているのだろうか。綾さんは何を考えているのだろうか。これから起こることなど何もしらないのだから、明日の予定とかいろいろ考えているのだろう。何で俺はこんなにも冷静なのだろうか。現実を受け止めているからか? いや、もしかしたら未だに受け止めれていないのかも知れない。
これが終わったら平凡な生活が待っているのだろうか。そんなことはないだろうな。綾さんはどうなるか分からない。たとえ生きていたとしても待っている道は、進んでいく道はひとつしかないのだから。
恐らく俺たちと交わらない道を行くのだろう。

もし、死んでしまったら…そんなことを考えていると綾さんの部屋から物音が消えた。部屋を出たのか。


綾さんが少し心配になり、廊下に出て声をかけた。
「どこか行くんですか?」
「・・・・・・・」
返事はない。なんだか暗いな。昨日から様子がおかしかったがやっぱり何かあったのだろうか。
「何かあったんですか?」
「・・・ちょっと行かなきゃいけないところがあるんだ…」
ごまかしたような言い方だったが、あまり聞いてはいけない気がした。何かあったのは確実だろうな。

「そうですか、早く帰ってきてくださいよ。昼食のこともあるから・・・」
「すぐに渡してくれればよかったのに…」
「え・・・?何をですか?」
何のことを言っているのか分からない。綾さんに渡さなければいけないものなんてあっただろう…か…。
脳裏にあの男の言葉がよぎった。
「封筒の中身を見ずにそいつに渡せ。三日以内にだ。簡単なことだろう?」

俺はあの封筒を綾さんに渡さなければいけなかった。そして、綾さんはあの封筒を受け取らなければいけなかった。
綾さんは無言でカバンの中から真っ黒な封筒を取り出し、そこに書かれている自分の名前を俺に見せた。
「これは私宛ての手紙だよ? ちゃんと本人に渡さないといけないよ?」
「え・・・・・っとなんでそれを綾さんが持っているんですか?」
今起こっていることの意味が分からなかった。
俺が持っていたはずのものが違う人間の手に渡っている。ちゃんとしまっておいたはずなのに。そういえば、俺は昨日から一度も封筒を触っていない。いや、触れなかったんだ。入れておいたはずの場所に封筒はなかった。俺はさほど気にしていなかった。なくなってしまったのだろう、それはそれで助かると。そう思っていたから。

菊池の部屋から出てから俺は自分の部屋に戻り、封筒などを元あった場所に入れたあと駅の方に向かった。その間に綾さんが部屋を掃除していた。そのときに綾さんの手に渡ったのか。
そして、綾さんが持っていると言うことは中身も見ている…
封筒は確かに綾さんの手に渡った。これで俺は死なない…だが、綾さんは殺される。渡しても渡さなくても殺される。

「な、なにが書いてあったんですか?」
上ずった声でおそるおそる聞いてみた。
「これ渡さないと直人くん殺されちゃうんでしょ?」
「っ!?」
あの時あいつが言った言葉…手紙にもそのことが書いてあったのか。だから綾さんは…
俺のことを書けば綾さんは必ず動くと。あいつらはそう考えたのか。
「どこにいくんですか!」
「教えれないよ。ここには教えるように書かれているけど…教えたら直人くん来るでしょ? 優しいから来ちゃうでしょ?」
優しい? 優しくなんてない。俺のことよりなんで自分のこと考えないんだ。
俺たちの声を聞いて菊池が部屋から出てきた。

「もう手遅れなんだよ。それじゃあね」
そういうとドアを開け沈んだ街を走り抜けていった。このどんよりとした天気の中。どこへ行くのかも分からない。
俺が…俺が綾さんを売った?
違う。奴らが綾さんに変なことを吹き込んだからだ。
「おい大河内どこに行くんだ!直人なにやってんだ!」
いつの間にか隣にいた菊池がようやく状況を把握し綾さんに向かって叫んだ。

もう手遅れ。
綾さんにあの手紙が渡った時点で手遅れ…
俺がちゃんと封筒を持っていれば…

いや、奴らの方がもっと最悪だ。人の感情を利用するなんて。
許さない。お前らは絶対に許さない。殺してやる。殺してやる。全員殺してやる!












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