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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

28 世界会議準備と遺跡調査篇

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28-08 トカ村収穫祭

 6月18日、トカ村で収穫祭が行われた。
 昨年秋は、予想外の長雨により麦に『穂発芽』が起こり、収穫量が激減し、税を軽減するなどの処置を取ったが、春以降の気候は穏やかで、作柄は『良』となったのである。
 秋の税収低下を補えるほどの豊作となったので、どうにか国へ収める税もトータルでプラスマイナスゼロとすることができ、村民の顔は明るかった。
 そこで、大がかりな収穫祭を執り行うことになったのである。

 トカ村の収穫祭、要は、野外パーティだ。
 村の中央広場に、大きな竈が幾つも築かれ、大鍋が乗せられる。
 大鍋とはいっても20人前くらいを作るのが精一杯なので、その数は20はあろうか。
 そんな大鍋にはそれぞれ担当が付いて、各々肉や野菜のごった煮が作られ、皆で食べ比べ、味わう……のが恒例だ。

「ジンさん、お越しいただきありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ、お招きありがとうございます」
「ハンナちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは!」
「エルザさん、ご無沙汰してます。ご婚約おめでとうございます」
「ありがとう」
 エルザにお祝いの言葉を述べるリシアは、ほんの少し、寂しそうな笑みを浮かべた。

 仁は、エルザ、ハンナ、ギーベック、サリィ、ルウ、礼子、エドガーらと共に『コンロン3』で早朝トカ村外れに着陸し、トカ村入りしていた。
 早朝に訪問することは、前日に手紙を届けてある。
 どうやって届けたのかリシアは首を捻ったかもしれないが、そこは『まあ、ジンさんですから』で流してくれたようだ。

「村長さん、ようこそお越しいただきまして」
「いえ、こちらこそお招きいただきまして」
「奥様とは初めてお目に掛かりますね、リシア・ファールハイトと申します、若輩者ですがよろしくお願いいたします」
「丁寧な御挨拶いたみいります。サリィと申します。これは娘のルウです」
 村長夫妻も挨拶を行い、早速収穫祭の打ち合わせに入る。
 カイナ村からも、お祝いのために麦、野菜類、乾燥肉などを持ち込んだので、それらをどう使うかも話し合った。
 その中で、仁からは試作型の大型圧力鍋3つが贈られた。懇切丁寧な説明書も付けて。

*   *   *

 午前中は準備、そして昼からが収穫祭本番だ。
 中央広場に据えられた沢山の大鍋に野菜と肉が入れられ、煮込まれている。
 朝から煮込んでいたので、昼過ぎには食べられるようになっていた。
 仁は、広場の片隅に圧力鍋を据え付け、リシアに説明しながら『洋出汁』を作っていた。
 リシアは仁が作って見せた『洋出汁』を一口味見して、
「まあ、こんなに短時間で出来てしまうのですね!」
『洋出汁』が15分くらいで完成したことに驚き、
「それにこの味! こくがあってまろやか。ちっともくどくなくて、色々な料理に使えそうです!」
 と、その味に舌鼓を打っていた。
「ああ、これを使って料理の味をもっと良くできるんだ。気を付けるのは灰汁取りかな」
「はい、ありがとうございます!」
 仁からの贈り物にリシアは深く頭を下げた。
「いや、隣同士なのに、足が遠のいていて何か申し訳ない」
「そんな! お気になさらないで下さい。こうして時々いらして下さるたびに、何かしら新しいものをお贈り下さって、感謝しています」
「そう言ってもらえるとほっとするけど」
 仁はそう言いながら、大鍋を持ち上げる。
 以前ならかなり苦労しただろうが、今は魔法による身体強化も使えるので、楽々持ち上げることが出来た。
「これを使ってスープを作ってもらおう」
「それなら、任せて下さい!」

 何度かの従軍で、スープの簡単レシピを覚えたというリシアは、オリジナルの煮込みスープを作っていた。
 川魚を使ったスープらしい。
 今回の『洋出汁』には魚類は入れていないので、なかなかいいチョイスだと仁は思った。
 トカ村には、カイナ村のエルメ川のような川はなく、川といえば少し離れたところにあるナウド川である。
 そこでは大きなマスの類が獲れるので、それを使ったスープのようだ。
 現代日本でいう三平汁に近い。
 味付けは基本塩なので、『洋出汁』とも合う。
 試しに、器に取った煮込みスープに『洋出汁』を小さじ一杯加えてみると、味がまるで違ってくる。
「ジンさん、これ、美味しいです!!」
 魚、肉、野菜、キノコの出汁が合わさり、複雑な旨味を醸し出していた。
「それじゃあこの『洋出汁』を使って下さい」
 仁は出来上がっている『洋出汁』をリシアのスープを作っている大鍋に加えた。

「おおー! これも美味い! さすが領主様だ!」
「こりゃうめえ!」
「いつもと味が違うけど……美味しい」
『洋出汁』を加えた煮込みスープは好評なようだ。

*   *   *

「具合の悪い者はいないかな?」
 一方、サリィとエルザは、格安料金で治癒行為を行っていた。ギーベックとルウは特にやることもないので一緒に見学である。
「先生、この前から腰が痛くて……」
「ふむ、診せてごらん」
 今回に限り、一律1回銅貨20枚、つまり200円相当で診察してもらえるということで、40人くらいの人が列を作った。
「腰の骨が少しずれているな。待ちなさい。……こうして……」
「あ、いてててて!」
「我慢しなさい。『快復(ハイルング)』。……これでどうだね?」
「……あ、楽になりました。ありがとうございます!」
「次の者は?」

 それをサリィとエルザは半分ずつ受け持ち、治療していく。
 エルザの前には若い男連中が、サリィの前には女性や年寄りが列をなしていた。

「せんせえ、仕事していて手を切っちまって」
「……見せて。……『殺菌(ステリリゼイション)』『治せ(ビハントラン)』」
「先生、一昨日から腹の具合が……」
「『診察(ディアグノーゼ)』……これは冷やしたせい。今日明日は水は飲まないでお湯を飲むように。『治せ(ビハントラン)』」

「『痛み止め(シュメルツミッテル)』」
「『手当(ベハンデルン)』」
「ああ、楽になりました。ありがとうございます!」
「傷が綺麗に治りました、先生、ありがとう!」
 切り傷、腹痛からぎっくり腰による腰痛まで、様々な患者がやって来ては治療してもらい、礼を言って去っていった。
「ふむこれは、月に何度か出張するのもいいかもしれんな」
 列がさばけ、一息付いたサリィが、そばに居たギーベックを見て言った。
「そうだな。ルウの勉強にもなるから、あとで領主様と相談してみようか」

 この提案には仁も賛成したし、リシアにも感謝を持って受け入れられたので、半月に1度、サリィはトカ村を訪れては治療をしていくことになった。
 その際の足として、仁からゴーレム馬を贈られることになる。これにより、1日で到着できるのだ。

*   *   *

「おにーちゃん、これ美味しいよ!」
「どれどれ。……うん、これは美味い!」
 5つある大鍋は、それぞれ具や味付けが少しずつ違っており、それぞれ好みの味を選んで食べられるようになっていた。
「ハンナちゃん、こっちも食べてみて?」
「ありがとう、リシアおねーちゃん」
 仁とハンナはリシアの案内で広場を巡り、それぞれの鍋を食べ比べ、味の違いを楽しんでいた。
 そんな仁たちを横目で見て、診療で忙しいエルザがちょっと膨れていたのを知っているのは礼子だけであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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