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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

28 世界会議準備と遺跡調査篇

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28-05 普及計画

「ジン兄、何を考えているの?」
 それは6月13日のこと。
 研究所の工房、その片隅にある机の前に座り、仁は難しい顔をしていた。
 それを訝しんだエルザのセリフである。
「うーん、ちょっとな」
 まだ意識が思考に向いているがゆえの返答である。
 仁の目の前にある机は、作業用ではなく、設計・検討用。
 そこに何枚も紙を広げて、仁は何ごとかを考えていたのであった。
「もうそろそろお昼だから」
 エルザの言葉に、仁はようやく現実に戻ってくる。
「……うん、わかった」

「……で、何を考えていたの?」
 冷や麦をすする合間にエルザが尋ねた。これだけ仁が考え込むからには、単なるモノ作りではないのだろう、という確信を込めて。
「テーマ」
 冷や麦を啜りながら仁が答えた。そして、それだけでは通じないだろうと思い、冷や麦を飲み込んだあと、
「世界会議のテーマを、さ」
 と言い直したのである。
「世界会議……」
「ああ。春先に考えていた世界会議がそろそろ実現できたらいいなあ、ってさ」
 仁は政治家ではない。ないが、世界情勢が安定していてくれないと、落ち着いて暮らせないということを知っている。いや、『統一党(ユニファイラー)』との一件によって、身を以て体験している。
「……ん」
 それはエルザも同じ。ゆえに、仁の想いに賛同している。
「この前構想をまとめたモノレールを使ったネットワークだけじゃ、インパクトが弱いだろうからな」
「……ああ、そういうこと」
 エルザも理解した。
 各国首脳が集まって会議を行うのであるから、それに相応しい議題が欲しい。
 しかし、繰り返すが仁は政治家ではない。ゆえに、技術的に世界を繋ぐ方策を模索しているのである。
 その1つがモノレール……鉄道網、である。しかしこれは一朝一夕に広まるものではない。
 おそらく、セルロア王国とショウロ皇国の首都近辺から始めることになるだろう。
 すると、出席した他の国々は面白くないわけで……、と、このくらいは仁にも想像が付いた。
「人々の生活に役立つ提案をもう1つくらいしたいんだよな」
「わかった。私も一緒に考える」
 礼子が淹れてくれた冷たい麦茶を飲みながら、エルザは微笑んだ。

「……食に関する技術というのは、どう?」
「食か……」
 衣食住は生活の基本だ。その『食』がテーマというのは悪くない、と仁は思った。
 そして同時に『衣』についてのアイデアが閃いたのである。
「エルザが考えている『食』についてのアイデアってなんだい?」
「食品でなく、調理器具。圧力鍋とか、ホットプレートとか」
「なるほど」
 圧力鍋は、気密性のある鍋で、加熱することで内圧を高めることで調理温度を上げ、食材を短時間で柔らかく煮ることができるものだ。
 ホットプレートは言わずもがな。
 どちらもこの世界には普及しておらず、食生活を豊かにしてくれそうである。
「ジン兄は?」
「うん、今思いついたんだけど、『地底蜘蛛』の養殖だ」
 とはいっても、蓬莱島種ではなく、ミツホ種(仮)。先日テンクンハンが持ち込んだ布を作る種である。
 フソー種(仮)は肉食のようなので養殖には適さないと思われる。

 それらが適当かどうかを2人で話し合った。
「どれも悪くないんだけど、第1回目の世界会議に諮るには今一つかな……」
 いずれも1つの国内で完結してしまう事柄だからだ。
「やっぱり『食』がいいか」
 そこへ、礼子も助言をしてくれる。
「お父さま、圧力鍋って使い途が広いですよね?」
「うん? ……ああ、そうか。そうだな」
 圧力鍋は、美味しい料理を作ることができる。それはつまり。
「……安い食材を美味しく、できる」
 食は人間にとって大きな娯楽である。同じ食べるなら美味しいものを選ぶ。
 人によっては、美食に命を賭ける者だっているのだから。
「すじ肉や硬い野菜を柔らかく、美味しく煮る。短時間で煮る。これって、便利」
「だな」
 一般庶民は、安いすじ肉から柔らかく美味しい肉料理が。富裕層は、料理の幅が広がる。
「うん、いいかもしれない」
 だが、それには準備が必要だ。サンプル、というものが。
「ありがとう、礼子。……よし、ペリドリーダーを呼んでくれ」
「はい、お父さま」
 蓬莱島の5色ゴーレムメイドの中でも屈指の料理人はペリドたちである。そのリーダーを仁は呼んだ。

「お呼びですか、ご主人様」
 緑の目を持つゴーレムメイド、そのリーダーがやって来た。
「ああ、実は……」
 仁は考えを説明する。
「わかりました。低品質の食材を美味しく食べるためのレシピ、それに普通の食べ物をより一層美味しくするためのレシピ、ですね」
「ああ、そうだ。多い必要はない。むしろ基本的なものに留め、あとは各国・各自で工夫してもらおうと思う」
 何もかもお膳立てしてやるつもりはない。むしろ頭を使って工夫してもらいたい、と思う仁であった。
 このあたり、仁は少しずつ変わってきている、と、はたで見ているエルザは感じていた。
 以前なら、何も考えず、ずらっと料理を並べて見せただろうと思う。

「……以上です」
 エルザが物想いに耽っている間に、ペリドリーダーからの説明は終わっていた。
「うん、ありがとう。その中から幾つか選んで紹介しようかな」
 そして仁はエルザに向き直る。
「圧力鍋なんだが、俺は魔法式にしたいと思っているんだ。エルザはどう思う?」
 魔法式は、魔石もしくは魔結晶(マギクリスタル)を消費するが、蓋が壊れて破裂するようなことはない。
 圧力鍋の取り扱いを誤って蓋が吹き飛び、天井に突き刺さったという話もあるくらいだ。
「そうすると、誰にでも買えるものにならないんじゃ?」
 だが仁は笑いながら次の言葉を口にする。
「それについても考えていたことがあるんだ。単独ではあまり意味がなかったけど、今なら……」
「それは、何?」
魔力素(マナ)スタンドさ」
魔力素(マナ)スタンド?」
 聞き慣れない単語に、オウム返しをするエルザ。
「ああ。俺のいた世界でいうガソリンスタンドみたいなものかな。町中に安価な魔力素(マナ)を供給する魔力素(マナ)スタンドを作りたいと思っていたんだ」
 仁やエルザは『魔力反応炉(マギリアクター)』もしくは『魔素変換器(エーテルコンバーター)』を搭載した魔導具を作れるが、一般的にはそうではない。
魔力貯蔵庫(マナタンク)』と呼ばれる、いわば充電池のような魔導装置(マギデバイス)を持たなければ稼働できないのである。
 かつてカイナ村で仁が作った『コンロ』は、カイナ村特産の『魔石砂(マギサンド)』を使うことで安価なエネルギー源にしているが、あれ以上大きなエネルギーを取り出すことは難しい。

「貴族なんかは屋敷に魔力素(マナ)の供給機をもっているけど、一般には普及していないよな」
 かつて、クライン王国でリースヒェン王女の乳母自動人形(オートマタ)、ティアを修理した際、離宮内で見かけた物。
「……ん。ランドル家にもそういう魔導機(マギマシン)は2機、あった」
「だけど一般には普及していない。代わりに、魔石を交換する形で魔導具が使われている」
 ブルーランドで、ビーナと共に『ライター』や『冷蔵庫』を作った際には魔石を魔力源にした。
 こちらは乾電池、といった位置付けであろうか。

「だから、そういった魔力貯蔵庫(マナタンク)式の魔導具を普及させるためにも、魔力素(マナ)スタンドをまず普及させたいんだよ」
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20151115 修正
(誤)富裕層は、料理の巾が広がる
(正)富裕層は、料理の幅が広がる

(誤)どれも悪くなんだけど、第1回目の世界会議に諮るには
(正)どれも悪くないんだけど、第1回目の世界会議に諮るには

(旧)劣悪な食材を美味しく
(新)低品質の食材を美味しく
+注意+
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