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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

27 月の謎と宇宙船竣工篇

984/1475

27-44 過去の真相

 今から235年前、旧レナード王国に未知の疫病が流行った。それは『魔力性消耗熱』と名付けられ、恐れられた。
 疫病は国の北から始まり、次第に南下。
 死亡率が高く、防ぎようがない状態であった。遺体は灰になるまで焼かれ、王国の人口は半減したほどである。
 この状態を免れるために計画されたのが移民……脱出である。
 行き先は月。レナード王国には、いつからのものかわからない、一つの魔法陣が遺されていたのである。
 まず王が、王族が、そして貴族が、一般庶民が。
 次々に転移していき、1人として戻ることはなかったと言われている。

 これは、昨年夏、旧レナード王国へ調査旅行に行った際、地下室に遺されていたメッセンジャーから聞いた話である。

『俺は、旧レナード王国の過去を、地上で聞いたことがある。『基地を管理する者』と、直接話がしたい』
 答えは無かった。
 長い沈黙の時間が流れる。そして、案内役ゴーレム28号のものではない声が響いた。
《貴殿は何者か? 自動人形(オートマタ)の身体を持つが、その精神はまぎれもなく人間のものだ。そんな存在には初めて出会った》
 口調は異なるが、仁Dが転移してきたときに聞いた声。『基地を管理する者』だろう。
『俺はジン・ニドー。『魔法工学師マギクラフト・マイスター』であり、地上の人間です。今話をしているのは俺が作った『分身人形(ドッペル)』です』
《『魔法工学師マギクラフト・マイスター』……? 察するに、魔法技術の第一人者、ということだろうな。『分身人形(ドッペル)』……? それも初めて聞く名だ》
『そちらは『基地を管理する者』、でいいのかな?』
《その通り。私は、かつて『天翔る船』の管理頭脳であった。『天翔る船』がその役目を終えた際、アルスへ移り住んだ『主人たち』より、この月の地下で、この基地を管理する役目を新たに授かったのだ》
 驚くべき過去が語られた。
『基地を管理する者』は『主人たち』と言った。それは、700672号が言う『主人たち』と同じ人々を指すのであろうか。
『その主人たち、というのは、宇宙の彼方からアルスへとやって来た人たち……で合っていますか?』
《その通り。よく知っているな。それも『魔法工学師マギクラフト・マイスター』だからか?》
『いや、どうだろう……? やはり、そうなんでしょう』
 確かに、魔法工学師マギクラフト・マイスターであるからこそ、旧レナード王国へ行き、地下室のメッセンジャーから話を聞く事ができ、また、魔族領で700672号という従者と知り合えた、といえなくもない。
 仁Dは、簡単にこれまでの経緯を話して聞かせた。
《なるほど。貴殿は、話をするに値する者のようだ》
『基地を管理する者』は、仁D、ひいては仁を、対話の相手として認めたようである。
《ならば、ここへどうやって来たのか、聞かせてもらえるだろうか》
『転移で来ました。転移と言っても、魔法陣ではなく、転移の魔道具で、ですが』
《ほう、興味深い。受け入れ側を必要としない、ということか?》
『その通りです』
《この施設内には転送機はない。よって当然の帰結である》
『確かに』
《もしかして、『天翔る船』……いや、宇宙船を持っているのか?》
『持っています。それを使って月……ユニーへ来たのです』
《やはり。…………貴殿は『主人たち』ではない。だが、『主人たち』に匹敵する技術を持っているようだ》
『それはいいですが、言葉だけで信じるのですか?』
《言葉だけではない。この施設の一部は、かつて『天翔る船』であった。そこには様々な計測機器も残っている。それを使い、ユニー周辺を調べたところ、貴殿の言う『宇宙船』を確認したのだ》
 仁は内心、『基地を管理する者』の持つ能力に舌を巻いた。自分が持たない、あるいはまだ開発していない技術も持っているようだ。

 それからしばらくの間、仁Dは『基地を管理する者』と対話を行い、情報を得ていった。
 最も有意義だったのは、何といっても『転移魔法陣』だろう。
失われた(ロスト)魔法技術(マギテクノロジー)』である転移魔法陣は、時間は掛かるものの、転移門(ワープゲート)の5分の1程度の消費魔力で物体を転移させられるようだ。
 これも、円形の魔法陣により魔力を増幅するからだろう、と仁は推測している。
 ただし、受け入れ側は、対になる魔法陣である。どこへでも転送できるというわけではない。
 仁としては、この転移魔法陣を改良し、任意の場所へ送り出せるようにしたい、と夢を抱いた。

 そしてもう1つの、核心に触れる話題になる。
『……旧レナード王国から移動してきた人たちは、病で全滅したというが、本当なのですか?』
《99パーセント、真実である》
 99パーセントとはどういう意味か、と仁Dが尋ね返す前に、説明がなされた。
《生き残った人たちがいたのだ》
 それももっともである。
 もとより、『魔力性消耗熱』は、魔力の少ない者ほど重篤になる病気である。数万人の中には、保有魔力が高いおかげで生き延びた者もいたであろう。
 この『魔力性消耗熱』がこのアルス特有の病気だったがため、『基地を管理する者』が対処するのが遅れたことも、この悲劇の一因だったようだ。

《生き残った人はおよそ1200人いた。それから、およそ9世代……約230年が経ち、1200人は2人に減ってしまったのだ》
 どの夫婦にも、子供が1人しか生まれなかったのだという。それでは確かに、9世代も経てばほとんどいなくなってしまうはずである。
 まして、男女比が1対1で生まれてくると限ったわけでもない。
《そのお二人のうちお一方は先日お亡くなりに。最後のお一人もご高齢となった》
『そうだったのか……』
 病と、出生率低下による人口減少、いや、最早『滅亡』といっても過言ではないだろう。
 魔力性消耗熱から逃れ、月へきたわけだが、滅びの運命からは逃れられなかった、ということだ。

『しかし、旧レナード王国の人々は、よく月……ユニーへ逃れようと思ったものですね』
《そもそも、あの国は、最もここからの恩恵を受けていた国であるからだ》
 また新たな事実が出てきた。仁Dはそのことについて詳しい話を聞いてみる。
《この『天翔る船』に所属する『主人たち』が降り立ったのがレナード王国なのだ》
 どうやら、魔族領に降りた人々とは別系統の人たちだったようだ。
 確かに、『天翔る船』が1つだけと限ったわけではないだろうから、頷ける話ではある。
(旧レナード王国は周囲の国との交流も少なかったらしいから、血が濃くなりすぎた結果、滅びの道を歩んだのかもしれないな……)
 蓬莱島の仁は、聞いた話から一つの推測を立ててみる。それが正しいかどうかは検証する術もない。だが、仁の気持ちに、なんらかの区切りはつけられたようだ。

『話は変わるけど、居住区を厳密に分けたのは、やはり病気対策からなのでしょうか?』
《その通り。生き残った人々は、『もうどこへも行かず、どこからも受け入れず』を実践し、出入り口のない区画に引き籠もった。行き来するには転移しかない》
 究極の引き籠もりだな、と仁は思ったが、口には出さない。
『その方は、この運命を甘んじて受け入れてらっしゃるのですか?』
 ただ、そんな疑問を口にする仁D。
《はい。……………………ジン殿、たった今、そのお方から指示が下りました。お会いしたい、ということです》
 いきなり『基地を管理する者』の口調が変わった。
 そして、少し感じられた間は、その者とやりとりをしていたらしい。仁はすぐに了承した。
『会ってくれるというなら、いつでも』
 こういう時、『分身人形(ドッペル)』であるということは非常にありがたい。仮に罠であったとしても本体には何の影響もないのだから。
『アンはどうすればいいでしょうか?』
《そちらも自動人形(オートマタ)なので同道してもらってかまわないとのことです》
『では、行きましょう』
《そこから真っ直ぐ進み、突き当たりの部屋に入って下さい》
 仁Dとアンは指示通りに進む。
 また、操縦している仁は、『基地を管理する者』の口調が変わったのはどういう影響なのか、などと、本筋とは関係ないことを考えていた。

 突き当たりの部屋の床には魔法陣が描かれていた。
(忍部隊は見つけられなかった部屋だな……)
 そこにも何か施設の秘密があるのだろうか、と仁は想像する。そして仁Dとアンは魔法陣の中央に立つ。
《では、移動します》
 魔法陣を起動するトリガーとなる魔力が加えられ、数秒後、仁Dとアンは別の部屋に転移していた。
《ここは別の施設の中です》
 確かに、仁Dのセンサーにも感じられるほど、環境が違う。
 まずは、重力。先程までいた場所ではほぼ1Gであったが、ここは0.8Gほどだ。
 次に気温。これも、摂氏20度くらいであったものが27度にほどに変わっている。
 湿度も、非常に乾燥していたものが、50パーセントくらいになっているようだ。
(おそらく、高齢という最後の1人のためなんだろうな)
 仁がそんな推測をしていると、ゴーレム28号によく似たゴーレムが現れた。
 仁Dとアンを案内するようだ。
《こちらへおいで下さい》
(鬼が出るか、蛇が出るか)
 そんな時代劇めいたセリフを胸中に抱く仁。
 言われた通り、仁Dとアンはそのゴーレムに付いていった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20151106 修正
(誤)本体には何の影響もないのだから・
(正)本体には何の影響もないのだから。
 orz

(誤)『魔力性消耗熱』は、魔力の多い者ほど重篤になる病気である
(正)『魔力性消耗熱』は、魔力の少ない者ほど重篤になる病気である
(誤)保有魔力が低いため、生き延びた者もいたであろう
(正)保有魔力が高いおかげで生き延びた者もいたであろう
 勘違いしてました、申し訳もございません <(_ _)>
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