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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

05 旅路その1 エリアス王国篇

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05-06 凧凧揚がれ

 はしゃぐ子供たちから少し離れた所でこちらを見ている礼子より小さいくらいの男の子がいた。仁が手招きすると、ちょこちょこと歩いてくる。
「おにーちゃん、なーに?」
「これ、揚げてみるか?」
 仁がその子に手渡したのは青い文字で『龍』と書いた凧。天井凧にすべく糸目を調整した物だ。
「え、いいの!?」
「ああ。だけど一人じゃ危ないかも知れないから、……礼子!」
「はい」
「この子が凧揚げするのを手伝ってやってくれ」
「わかりました。……さ、やりましょう。あなた、お名前は? 私は礼子」
 カイナ村でハンナと仲よくなったからか、礼子は子供との付き合い方がうまくなった。
「レーコお姉ちゃん、ボクはカイト!」
 カイトって英語で凧のことだったよな、と半ばどうでもいいことをちょっと考えた仁である。
「それにしても糸玉って扱いにくいな。……よし!」
 後一つ凧は残っているがそれは保留にして、仁はあたりに落ちている枯れた丸太に目を付けた。
「よし、これなら使えそうだ……変形(フォーミング)成形(シェーピング)。最後に硬化(ハードニング)
 木の場合は粘土のような塑性変形がしづらいので使う魔法は成形(シェーピング)。材料の必要な部分以外をそぎ落とすものだ。

 部品を作り、組み合わせると昔ながらの凧用糸巻きが出来上がった。そこにあった丸太で、同じ物が5つ出来上がる。
 その1つを礼子に渡し、
「糸を全部出したらこっちに巻き取れ」
 と指示を出す。エルザのところへは仁が持って行った。

「すっげー、あんなに遠くまで!」
 エルザも順調に糸を伸ばしている。
「なあなあ兄ちゃん、あそこに書いてあるのなんだ?」
「あれか、あれは『ドラゴン』って意味の文字だ」
 仁はそう教えてやった。
「へえー、ドラゴンか! つよそうだな」
「だろ? あれは『りゅう』って読むんだぞ」
「『リュー』か!『リュー』!」
「リューすげえ!」
「リュー! リュー!」
 子供たちは龍の字の読み方を憶えると、みんなでリューを連呼しだした。仁はそんなエルザに、
「ちゃんと揚がってるじゃないか」
「……私の腕じゃない。ジン君の作った凧がすごい」
「はは、ありがとな。もうすぐ糸が全部出切るな。そしたらこいつに端を結ぶんだ」
「これは?」
「凧用の糸巻き」
 この村で使っている糸玉は、端に小さな木片を結びつけ、後は適当に巻き取ったもの。こんがらかる可能性大である。
「これもジン君が?」
「ああ、今作った」
 驚いているエルザに糸巻きを手渡すと、最後に残った凧を自分も揚げてみようと、仁は準備をし出した。
「あっ、兄ちゃんも揚げるのか?」
「リューの兄ちゃん!」
「おいおい、俺は仁っていうんだ」
「そっか、ジンにーちゃんか」
 そんな話をしている間に仁も準備完了、
「よーし、行け!」
 風をはらんで一気に飛び上がる凧。黒い文字の『龍』だ。
「おー!」
 これはエルザの凧と、カイトの凧の中間に糸目を付けてある。
「ほほう、これはすごいですな、さすがは魔法工作士(マギクラフトマン)
 そこへ村長がやってきた。
「村長さんも凧揚げをやりますか?」
 と仁が尋ねると村長は、
「ええ、子供の頃は随分やりましたよ」
 と答えたので、仁は糸玉を手渡した。
「それじゃあ是非、こいつを揚げてみて下さい」
「それではお言葉に甘えて。……ううむ、なんですか、この安定性は!」
 さんざん凧揚げをしたという村長は、フレキシブルカイトの安定性に驚いていた。
「普通の凧はうまく揚げるために調整したり、尾を付けたりしているのに!」
 仁が手早く作ったのを知っているだけに、驚きも増すというもの。
「糸が出きったらこの糸巻きを使って下さい」
 安定しているのでよそ見しながらでも大丈夫なのだ。
「ほうほう、これが糸巻きですと。なるほど、これはいいものですな!」
 更に感心する村長。仁は黒い龍の字の凧は村長に預け、まず礼子とカイトのところへ行ってみた。
「どうだい、カイト」
「あっ、おにいちゃん! ありがと、すごいね、この凧!」
 顔を上気させてはしゃぐカイト、その手の中の糸玉はもうすぐ無くなりそうだ。
「そうか、よかったな。……礼子、糸が出切ったら頼むぞ」
「はい」
 そしてエルザのところへ。もう糸は全部出てしまい、凧用糸巻きに巻き付け、持ち手を持ってくいくいとやっているところである。
「エルザも調子いいな」
「あ、ジン君。……うん、見ての通り」
 赤い龍の字の凧は、30度くらいの角度で糸を引っ張り、小さくしか見えない。かなり遠くまで飛んだようだ。
「おねーちゃん、すごいね!」
 エルザの周りには女の子が多い。
「……ちょっと、持ってみる?」
「うん!」
 エルザの問いかけに喜んで手を出す女の子。その小さな手にエルザは糸巻きを握らせた。
「わあ!」
 初めて手に感じる凧の引っ張る力、喜ぶ女の子。エルザはそれを目を細めて見つめていた。
「おねーちゃん、ありがと」
「もういい? それじゃあ次はあなた」
「わあい!」
 代わる代わるに凧揚げをさせてもらい、嬉しそうな子供たちに囲まれたエルザもまた嬉しそうだった。

*   *   *

「いやあ、まいりました。さすが、貴族様に招待された魔法工作士(マギクラフトマン)ですなあ」
 凧揚げから帰ると村長がそう言った。
「あの凧は簡単で、しかも安定がいい。あれなら小さい子供でも凧を落とす気使いはないでしょうな」
 なめし革を使っているから、それなりに高価で、そうそう落としたりされるのは困るのだ。
「そこで、ジン殿、どうか、あの凧をうちの村で作る許可をいただけませんかな? そして、あの糸巻き。あれも含め、礼金は10万トールでどうでしょうか?」
 約100万円。元々特許制度もなく、見たら誰でも真似できそうな凧だ。特殊な技術は何もいらない。
 この先、どのくらい利益を生むかわからないが、お金にあまりこだわらない仁はそれでいい、と肯いた。
「おお! ありがとうございます。この村の新しい名物になる事でしょう」

 受け取ったお金を礼子に預けた仁は、あらためて村を散歩していた。
「こうしてるとカイナ村を思い出すなあ」
 やはりカイナ村での生活が忘れられない仁であった。
 この村で使っていた糸巻きは、丸棒に糸を巻き付けたものです。
 なぜか礼子は子供には優しいようで。

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