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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

05 旅路その1 エリアス王国篇

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05-04 モフト村

 18日は不在のため予約投稿です
 トラブルはあったものの、その後は順調に馬車は進み、夕暮れ頃に目的地、モフト村に到着した。
 夕映えに照らされた斜面は枯れ草色だったが、春から夏には牧草で覆われ、色とりどりの花が咲き競うのだ、とエルザが教える。
「けっこう詳しいんだな」
 仁が感心すると、
「おととしの夏、同じ道通ってポトロックへ旅行したことがあるから」
 そんな答えが帰ってきた。
 さて、この村でも、街道を行き来する旅人を泊めるための施設は充実しており、従者と御者の男達はそちらの宿屋へ、仁達と乳母の4人は外国の貴族と使用人、そして貴族の友人と言うことで、村長宅でもてなされる運びとなった。
「ジン君、馬を休ませるため、出発は明後日になるから」
 エルザにそう言われた仁は、今度こそダンパーを取り付けようと考えながら村長宅へと向かった。

 その日の夕食は、パンとチーズ料理。チーズはここの名産だそうだ。
 パンはかなり白さのあるもので、村長がいかにエルザを歓待しようとしているかわかるというもの。
 チーズ料理は、チーズそのものに始まり、油で揚げたチーズ、チーズを入れたサラダ。パンはチーズを乗せて焼いたパンと、そのままチーズを乗せたものの2種。
 飲み物はミルクかブルールのジュースであった。
「私はチーズを乗せて焼いたパンが好き」
 そう言ってエルザはパンにチーズを乗せ、焼いて貰うべく給仕に渡す。仁はそのままチーズを乗せて食べてみた。
「このチーズは美味しいな」
 買えるものなら買って、蓬莱島に送りたいと思う仁であった。
「このブルールというのは?」
 濃い紫色のジュースを一口飲んで、味が気に入った仁は尋ねた。
「山に生える低い木になる実でしてな。ここの名産なんですよ」
 山岳地方ならではの名産品があるのだな、と仁は感心した。と共に、蓬莱山でこのブルールを作れないだろうか、いやもしかしたら自生しているかも、と考える仁。
「おや、お口に合いませんでしたか?」
 どこか上の空の仁に村長がそう尋ねた。仁は慌てて、
「い、いえ、とても美味しくいただいてます」
 と答え、それを聞いた村長は満足げに微笑んだ。礼子はそんな仁をじっと見つめていた。

 食事の後、あてがわれた部屋に戻ろうとした時のこと。
「お客さま、申し訳ないことですが、春の雨期を前にして、水が不足しておりまして、ご入浴の準備が出来ません。ですので……」
「わかった。体を拭く水だけ用意してくれればいい」
 皆まで言わさず、エルザがそう答えた。
「そうですか、お気づかいありがとうございます。後ほどお部屋にお持ちいたします」
 仁は、やはり高地にある村は水不足になりやすいんだなあ、と思いながら部屋に入った。
 すこしするとエルザくらいの女の子が桶に入った水を持ってきてくれた。仁はその子に聞いてみる。
「ちょっといいかな、やっぱりここって水の便が悪いのかい?」
 するとその子は、
「お客さまはご存じないのですね。はい、このあたりは、冬と夏にはほとんど雨が降りません。春と秋にはよく雨が降ります」
 そして桶の水を指差し、
「このお水は、飲料用ではないんです。飲み水は、各家で樽などに溜めておきますし、わずかですが湧き水もあります。でもそれではお洗濯やお掃除には間に合いませんから、大きな溜池に溜めてあるお水を使うんです」
「そうすると、この水はその溜池から汲んできた水ということ?」
「はい、そうです。その水を布で濾してきれいにしたお水です」
「わかったよ。ありがとう」
 そう言うと女の子は礼をして去っていった。
「やっぱり水事情はあまり良くないんだな」
 仁がそう呟いていた時、ドアがノックされた。
「はい」
 礼子がドアを開けるとエルザが立っていた。さっきまでのドレス姿ではなく、品のいい水色の部屋着姿で。
「お水、もらった?」
「ああ。さっき、そこに」
 仁が指差すと、エルザはその水を指差して、
「体拭くには冷たいから、お湯にした方がいい」
「あ、ああ、そうだな」
 そう言って、仁は水に手を入れ、
加熱(ヒート)
 そして、湯気が立ち始めたところで手を出して、
「まあ、これくらいでいいな」
 それを見ていたエルザは、
「今の……何?」
「ん? 加熱(ヒート)のことか? 工学魔法だよ。対象を温める魔法」
「そんなやり方があるの?」
「ああ。あれ? もしかして、エルザが魔法でお湯にしてくれるつもりだったか?」
 そう言うとエルザはほんの少し頬を染め、
「もういい。おやすみなさい」
 そう言うと身を翻し、自分の部屋へと戻っていったのだった。
「気を使ってもらったのに悪い事したかな」
 仁がそう言うと礼子は、
「いえ、お父さまは悪くありません。言葉が足りなかったエルザさんが悪いのです」
 仁は苦笑して、
「お前な、もう少し彼女に愛想良く接せないのか? 何と言っても俺たちを招待してくれてるんだし」
「招待してくれたのはラインハルトさんです。エルザさんじゃありません」
 礼子はにべもない。
「だけどな、エルザはラインハルトの親戚だし、今現在はエルザしかいないんだし」
 仁が重ねてそう言うと礼子は渋々といった口調で、
「わかりました。お父さまのお言いつけですから」
 頷いたのだった。
「よし、わかってくれたか」
 そう言って仁は礼子をベッドに座らせ、自分も隣に座り、
「よしよし」
「……」
 頭を撫でてやる。昨日、情緒不安定になっていたので、仁も心配しているのだ。
 そのまま、しばらく仁は礼子の頭を撫でていた。そしてお湯が冷めているのに気が付くのは寝ようとした時のことであった。

*   *   *

 翌朝もパンとチーズ中心の食事かと思いきや、パンは出て来たが、チーズは控えめで、代わりにブルールのジャムと、もう一つ、赤いジャムが出て来た。
「これは?」
「フレープジャムですよ。フレープは草みたいな小さな木で、秋に赤い実がたくさん付くんです」
 試しにそれを塗って食べてみたが、甘酸っぱくて美味しい。食べ比べると酸味はブルールよりも強く、仁はこっちの方が好みだった。
 エルザはと見れば、彼女は甘い方が好みなようで、ブルールのジャムがお気に入りな様だった。だが、まだ何かこだわっているのか、仁の方を見てこない。
 礼子は黙々と、だが控えめに食べていた。

 食後は外に出てみることにする。湧き水や溜池を見たかったのだ。
 だが、そんな仁の気をもっと惹くものが目に入ったのである。
「おお」
 それは、大空に舞う白い物体、『凧』であった。
 普通、お湯を作るには熱湯(ホットウォーター)とか使い、水の温度を上げているようです。
 ブルールはブルーベリー、フレープはコケモモに良く似た植物です。

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