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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

27 月の謎と宇宙船竣工篇

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27-08 水平対向

「うーん……」
 仁は、マルシアとロドリゴからの相談事について考えていた。
 回転数とトルクを高める方法は幾つかある。
 まずは、素材を蓬莱島準拠にすれば、今までの10倍以上に向上させることができる。
 だが、それは一般的ではない。
「と、なると」
 実際の『レシプロエンジン』つまりピストンの往復運動を回転運動に変える方式では、ボアとストロークというパラメータが効いてくる。
 ボアはピストンの直径で、ストロークはピストンの往復する移動範囲だ。
 ボアとストロークの比率をボアストローク比といい、エンジン特性の目安の一つとなるが、仁はそこまでは知らない。
 だが、ストロークを小さくすれば回転数が高くできる反面トルクが小さくなり、ストロークを大きくすれば回転数は落ちるがトルクを大きくできることは理解していた。
 そして、トルクを増やすには、気筒数を増やせばいいということも。
 V8エンジンとかV12エンジンというのはそういう典型である。
「星形エンジン……」
 航空機に使われることが多いタイプだ。
「でもやっぱりここは直列かV型かな」
 自動車用のゴーレムエンジンを作ったことを今更ながら思い出す仁。
「でも、直列だと長くなりすぎるなあ……」
「あのー、ジン?」
「水平対向だと振動を打ち消し合う、って聞いたな、確か」
「……おーい」
「水平対向で8気筒……じゃない、8連にすれば」
「もしもーし」
「……マルシアさん、ジン兄があの顔していたらしばらく放っておいた方が利口」
 エルザはかなり仁のことがわかってきたようである。
「よし、決まりだ。……マルシア、できると思うよ」
 何ごともなかったようにマルシアに向き直り、淡々と述べる仁。
「あ、ああ、そうかい。よ、よかったよ」
「それじゃあ、さっそく作ってみよう」
 だが、そこへ待ったが掛かる。
「ジン兄、そろそろお昼」
 時刻は11時を回ったところである。
「お父さま、昼食抜きはいけません」
 蓬莱島とポトロックの時差は2時間40分ほど。
 時差を考え、蓬莱島9時に朝食を食べた仁たちではあったが、ポトロックの11時は蓬莱島の13時40分。かなり空腹になっている。
 マルシアとロドリゴも時差については承知しているので、
「そうだね、ジン。一旦お昼にしよう」
 と言って、仕度をするために工房から出て店の方へ向かった。
 仁が増築したので、10人分くらいまでは楽に作れる台所もあり、店のバッカルスとジェレミーの分も同時に用意できるのだ。

「お昼だから簡単なものになってしまうけど」
 15分後、そう言いながらマルシアが出したのは、パン、スープ、サラダ、フルーツジュースという定番。
「このサラダ、美味いな」
 ポトロック特有の野菜が使われているのか、仁の口に合うようだ。
「そうかい?」
「これ、クリプトナの香りじゃない?」
 同じようにサラダを食べたエルザがそう言うと、仁もはっと気が付いたように頷いた。
「ああ、そうだ。これはミツバの風味だ!」
 クリプトナは、仁が知る『ミツバ』である。カイナ村では普通に生えている野草で、おひたしにして食べられている。
「確かに、サラダに入れても美味しいよな」
 吸い物に浮かべたりはしていたが、サラダに入れることはしなかった仁たちであった。
「今度、うちでも入れてみよう」
「ん」
 そんなことを言い交わした仁とエルザであった。

 さて、仁とエルザにとっては少し遅め、マルシアたちにとっては少し早めの昼食を終えると、いよいよエンジン作りだ。
「材料は青銅よりは鉄で作りたいな」
 パワーが増すはずなので、より丈夫な素材を使いたかったのである。
「ああ、ちゃんと買ってあるよ。強度の必要な部分に使っているからね」
 改良強化したアローにも、並の魔法工作士(マギクラフトマン)以上の工学魔法が使えるので、そうした素材の需要が増えていたのだ。
「えーと、鉄……ふむ、炭素鋼……炭素量0.4パーセントか。たまたまだろうが、マンガンも若干含んでいるか。十分だな」
 これにニッケルとクロムを加えて、SNC材といわれる合金鋼とする。
 構造材などによく使われている合金鋼だ。
 そこまでは仁の独壇場だが、そのあとはエルザ、アローにも手伝わせることになる。
 特にアローには、以後の整備を任せる事になるからだ。
「軸受けは砲金を使おう。……アロー、ここのメンテを忘れないようにな」
「はい、わかりました」
 磨り減った場合、ガタが出てしまい、効率が落ちるので、整備対象として優先度は高い。
 そして仁はクランクシャフトとゴーレムアーム部分を作り、エルザには筐体を、礼子には筋肉部分を、と言う分担だ。
 30分ほどで完成。仁1人ならおそらく10分かからないというのはここだけの話。
「よし、試作完成だ。動かしてみよう」
 試作エンジンは、全長50センチ、全高25センチ、全幅50センチくらい。重さは30キロ弱というものになった。
 エネルギー源は魔力貯蔵庫(マナタンク)にしておく。というのも、ポトロックは緯度が低いため、自由魔力素(エーテル)濃度もやや低く、仁以外には効率的な運用が難しいからである。
「始動」
 エンジンが回り始めた。
 水平対向式なので振動も少なく、静かだ。
「うん、ストロークを短くしたので回転数も上がっているな」
 印をつけた軸を、礼子がカウントしたところ、毎分1000から1300回転くらいである。
 トルクもまずまずあるようで、まずは成功といえるだろう。
「ジン、これなら使えそうだよ。ありがとう!」
「ジン殿、そういたしますと、改めて契約をさせてもらいたいですね」
 蓬莱島からマルシア工房へ卸しているエンジンの一つに加えることになる。
 無償、というわけにもいかないので、材料費・技術料を考慮し、試作と同じ大きさのものを1台2万トール(約20万円)で月に5台、計10万トールという契約とした。
 蓬莱島側では、老君主導で職人(スミス)ゴーレムが生産を担当することになるだろう。

「それじゃあジン、ありがとう」
「いや、こっちこそ、参考になったよ」
 ポトロック時間で午後3時、仁、エルザ、礼子は蓬莱島へ戻ったのである。

「色々参考になったな……」
『はい、御主人様(マイロード)。お話は聞かせていただきました。通信装置、展望室は計画に織り込み済みです』
 早速老君が報告してくれる。
「中継基地は御主人様(マイロード)にお願いすることになります」
「そうか、わかった。俺としては中継基地と……娯楽室のことを考えてみる」
 そういった内装の問題は後からでも追加は容易いが、設計に関わることはできるだけ早い対応が望まれるからだ。
「ジン兄、私は食事メニューを、母さまと検討してみる」
「ああそうだな。頼むよ」
「ん」
 1日1食は地上で食べるようなメニューにしたい、ということで、食材の選定や保存方法、それに調理方法まで含めて考える必要がある。
 そちらはエルザたちに任せる事にし、仁は通信用の中継器をはじめとする新装備を考えることにしたのだった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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