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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

27 月の謎と宇宙船竣工篇

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27-04 マギ・インバー

 エルザの『レベルが上がった』ことにより、仁の負担もその分軽くなった。
「ジン兄、できた」
「お、どれどれ」
 エルザが作っていたのはいわゆる『ゴーレムの目』だ。つまり、光センサーである。
「これに追加で魔導式(マギフォーミュラ)を書き込んで、と」
 仁は、エルザが光センサーを作っている間、それを利用して温度を測定する魔法制御の流れ(マギシークエンス)を考えていたのである。
「『書き込み(ライトイン)』……、と。これでよし」
「お父さま、筐体はこれでよろしいでしょうか?」
「どれどれ」
 そして礼子にはそれらを収める筐体を作って貰っていた。
「うん、ちょうどいいな。これをこうして嵌め込んで……、と」
 仁が作り上げたのは、言わば『温度比較器』である。
 大きさはTVのリモコンくらい。
 先端部分には赤外線LEDの代わりに、エルザが作った『光センサー』が付いている。
 この光センサーを、天井や壁に向け、最初に基準となる温度を赤外線放射の形で記憶させる。
 時間をおいて同じ箇所の赤外線放射を測定した時、温度が高ければ赤い光を、低ければ青い光を放つような小さな魔石(マギストーン)が付いている、といったものだ。
 同じ場所でないといけないのは、物体の色によっても放たれる赤外線の波長が変わってしまうからだ。

 仁は、まず天井に向け、基準を記憶するボタンを押す。これで今の天井が放つ赤外線の波長が記録される。
「『加熱(ヒート)』」
 次に、工学魔法を用いて、天井を温め、もう一度『温度比較器』を向けてみたところ、赤い光が灯った。
「よし、成功だ」
 これを応用すれば、かなり精密な温度制御も可能になるだろう。

 と、ここで、エルザから質問が出て来た。
「ジン兄、以前訪れたケウワン遺跡で、あの中が空調されていたと思ったけど、どうやって温度を検知していたのかな?」
「ああ、なるほど」
 エルザは、仁ほど過去の技術に詳しくないので、この質問も当然である。
「あれは温度検知していないよ」
「なら、どうやって」
 仁は、どう説明したものか、ちょっと考えてみた。
「ええと、『火属性魔法』が熱エネルギーを操れる、というのはいいよな?」
「ん」
「つまり、快適な室温を作り出せる熱量を実験的に……試行錯誤したんだろうな……決めて、その熱量を一定量の『空気』、つまり部屋の中に満たす、ということをやっているんだ」
「……なんというか、意外と高度?」
 仁は頷いた。
「ああ、そうさ。決められた空間内の熱量をコントロールするというのはかなり高度だ。だが、使い勝手が悪い上、応用が利かない」
「ん、わかる。温度を変えることもできないし、大きさが変わったらまた設定し直さないといけない」
「そういうことさ」

 別の説明をするなら、室内の空気分子が持つエネルギーを一定に保つ、という制御方法である。
 これでは部屋の大きさが変わったら設定し直しになるし、不定形な宇宙服の内部温度の制御にも向かない。
「効率が悪いということは、わかった」
「だろ」

 こんな感じのやり取りを繰り返し、その日の夕方までに、『温度制御装置』の試作品が完成したのである。

*   *   *

 宇宙服の素材は、『古代(エンシェント)(ドラゴン)の革』に決定した。
 宇宙空間で老君が試験した結果、真空、酷熱、極寒にも耐えたそうだ。
 地底蜘蛛樹脂(GSP)も同様の結果であったが、単純に物理的強度の差で古代(エンシェント)(ドラゴン)の革に軍配が上がったということであった。
『ですが、ヘルメットなど透明部分には地底蜘蛛樹脂(GSP)を使うことになります』
 透明度においては地底蜘蛛樹脂(GSP)の方が高いのである。
「ジン兄、糸の状態だと白いのに、樹脂にすると透明になるというのは、『光の反射と散乱』が関係している、でいいの?」
「ああ、そうだと思う」
 ガラスも砕いて粉にすると白くなる。これは不規則になった表面で光が乱反射するためだ、と仁は認識している。
 細い地底蜘蛛の糸も同じ。が、融かし合わせて樹脂とすると本来の透明性がはっきりと表れるのだろう。

「あとは、外殻の材質、かな」
 今はステンレス鋼系の材質を使っているようだが、仁としては、あれだけ大きな物を作ると、熱膨張による歪みが心配になっていた。
「『インバー』だな」
 異民族の国、『ニューエル』で見た、ティエラ家のドーム。あれは、鉄とニッケルの合金、『インバー』であった。
「だけど強度がな……」
 大型宇宙船を造るには、強度が心配である。
「いっそ、新合金を開発するか……」
 まずは、インバーを強化する方向で考えてみる。
「定番のミスリル銀添加だな」
 魔法による強化はマギ・アダマンタイトをはじめとして、蓬莱島ではポピュラーであった。

 翌日朝から実験は開始された。
 まずは1パーセントから始めていく。
 工学魔法を使っての実験なので効率が段違い、午前中には最適解が見つかる。
 鉄62パーセント、ニッケル32パーセント、ミスリル銀1.5パーセント、コバルト4パーセント、マンガン0.5パーセント、という組成。
 非磁性で、比重は8.24と、普通の鋼より少し大きい。
 強度は、魔力による強化を施すことで、元の十数倍まで向上した。
「よし、『マギ・インバー』とでも名付けようか」
 仁流のネーミング。安直だが、どんな合金か、はわかりやすい。
 鉄もニッケルも、蓬莱島では生産量の多い金属なので、その点でも都合が良かった。

御主人様(マイロード)、そうしますと、試作宇宙船の各種テストと平行して、旗艦の建造を行いたく存じます』
 老君の提案に、仁も頷いた。
「うん、それはかまわない。大幅な変更さえなければ、手直しはいつでもできるしな」
 これが工学魔法のいいところである。サイズや形状を変えないならば、内部構造を変更するくらいなら問題なくできてしまうのだから。
『それでは、直径500メートル級の建造に取りかかります』
「ちょ、ちょっと待て、どうしてその大きさになる?」
『はい、御主人様(マイロード)御主人様(マイロード)が乗艦されるならば、そのくらいはないと安全が保証出来ません』
 その後、安全性を高めるための老君案が延々と説明されていった。
「……だがな、そこは……」
 仁も、さすがに直径500メートルは行きすぎだと考えている。
「……でだ、そこをこうすれば……」
 これに関しては老君も引かず、すりあわせは難航した。
「……疲れた」
「ジン兄、お疲れ様」
 エルザも横で聞いていたものの、宇宙船については口出ししたくても理解が及ばず、何も言えないでいたのである。
「でも、老君の言い分も、わかる。危険は少ない方がいい。そのために資材を惜しむ必要はないと、思う」
 エルザとしても、宇宙という未知の世界に乗り出す宇宙船に関しては、出し惜しみは悪手だと考えていたのである。
「……そうかな……」
 そして最終的な宇宙船のサイズは、直径300メートルに決まったのであった。
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