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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 壱

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06 旅に出る2人

「さて、いよいよ食料が逼迫ひっぱくしてきたわけですが」
 研究所の周りに雪が見あたらなくなったころ、アドリアナが宣言した。
「う、うん」
「あと1年くらいは大丈夫だと思っていたんだけどね」
「……僕のせいか」
 1人で計算していた食糧の消費量が2人になれば、それは狂ってあたりまえである。
「一旦家に帰ろうと思うの。というか、帰らないと」
 ここに居続けても、食糧を自給する当てがないのだから仕方ない。
「で、最寄りの町、バッタルフまで行きます」
「どうやって? そこまでの距離は?」
「えーと、普通に歩いたら3日くらいかかるわ」
 シュウキはざっと計算してみる。1日平均35キロ、としてだ。
「およそ100キロってところか……」
 食糧や水を背負ったら、3日以上かかるかもしれない。シュウキもアドリアナも、体力はないのだ。
「……食糧は、あとどのくらい?」
「今のままでいくと10日保たないわ」
 節約しても2週間は無理だろう、とシュウキは考えた。だが、この2人がいきなり3日間の旅に出るのは無謀極まりない。
「……車を作ろう」
 考えた末、シュウキは一つの結論を出した。動力を備えた車、つまり自動車を作れば、1日に100キロ移動することも可能になる。
「アド、3日間で車を完成させて、それでそのバッタルフへ行くぞ!」
「う、うん!」
 シュウキは大急ぎで『自動車』の設計に取りかかった。

 シュウキが乗っていた自転車は、フレームが歪み、タイヤもパンクしていたが、何とか原形をとどめていた。
「ほら、これがベアリングだ」
「ふうん、細かい構造ね」
「だけどアドなら再現できるさ」
「うふふ、何といっても私は天才ですものね!」

 シュウキの知識、アドリアナの才能、そして自転車という見本のおかげで、『車』は2日間で完成した。
 それは4輪のリヤカーというべきものだったが、アルス世界に初めて出現した『自動車』であったのだ。
 動力はエンジンではないので、『自動車』と呼べるかどうかは置いておき、『魔法人形(マギドール)』開発の過程で作り出された『ゴーレムの腕』を使って駆動する方式なのである。 
 左右に付いた車輪の軸にクランクと呼ばれるハンドルが付き、それを『ゴーレムの腕』が回すことで駆動力を生み出すのだ。

「よし、2日分の食糧と水を持って、明日の朝出発だ」
「楽しみね!」

*   *   *

「き”ほ”ち”わ”る”い”」
「…………ぼ、僕も…………」
 結論からいって、乗り心地が悪すぎた。
 ゴムに相当するものが無いので金属製の車輪であり、申し訳程度のサスペンションでは揺れの軽減も大して出来ず。
 整地されていない路面で時速15キロほどの速度を出したなら、こうなるのも無理はない。ろくすっぽ試乗もせずに出発した2人が悪いのであるが。
 それでも夕暮れになる前に、2人はバッタルフの町に到着することが出来たのである。

 アドリアナの名前はこの町でもよく知られているらしく、変わった『車』に乗ってきても、大して目立ちもせず、2人は無事宿屋に転がり込むことができたのであった。
「……もう寝る。今日は何もしたくない。できない。……」
「……僕も……」
 1人部屋がなく、2人部屋だったのだが、シュウキもアドリアナもぐったりしていたので着替えもせずにベッドにダイブ。そのまま眠ってしまったのである。

 宵の口から寝てしまったので、シュウキは夜明けと共に目が覚めた。10時間以上寝ていたのだから当然である。
 気分はすっかり落ち着いており、非常に空腹である。前日は朝食べたきりで、昼も夜も食事抜き……というか食欲ゼロであったのだから無理もない。
「時刻は……午前5時、ってところか」
 横を見ると、アドリアナはまだ眠っていた。
 毛布にくるまり、丸まって眠っている様子は、どこか猫の子を思い起こさせる。
 シュウキはそんなアドリアナを起こさないよう、そっと部屋を出て、顔を洗いに行った。
 トイレに寄ってから洗面所で顔を洗うとさっぱりする。
 空は晴れており、今日も天気は良さそうだ。
 部屋に戻ると、アドリアナは今起きたところらしい。
「……あ、シュウキ、おはよう」
「おはよう、アド。顔洗っておいでよ」
「うん」
 少し着崩れていた服を直したアドリアナは、顔を洗いに部屋を出ていった。
 残ったシュウキは、宿の部屋を眺める。
 板張りの床、板張りの壁、板張りの天井。
 ベッドも木製だ。毛布はどうやら羊毛かそれに近い素材と思えた。
「植林とかやってないんだろうな……」
 元々広大な土地での林業は、伐採したらそのまま放置し、別の森林へと移ることが多かった。
 日本のように限られた土地、限られた森林資源をうまく再生・活用するという考えの国は少ない。
 多雨気候でないと、森林の再生速度は遅く、下手をするとそのまま草原を経て荒れ地になることさえあるのだ。

「……それ、どうして?」
 朝食の後、アドリアナにそのことを話したら、案の定質問が返ってきた。
「ええとね、木というか、森というのは、『水』を蓄えてくれるんだよ。また、木の根は土をがっちり押さえてくれているから、それを切り倒すと……」
「水を蓄えてくれなくなるから、植物が生えなくなる。また、雨なんかで土が流れ出してしまう。結果、荒れ地になる、というわけね」
「さすがアド。その通りだよ」
「うーん、それは大変ね。まずは父さまに話してみないといけないわね……」
 難しい顔をしたアドリアナは、何か決心したような顔をしていた。

 バッタルフから先は、およそ20キロから30キロごとに町があるし、街道の途中にも休憩所や集落があったので、2人の『自動車』は時速を10キロ以下に落として進んだので、初日ほど酷い車酔いにはならずに済んだ。
「……でもやっぱり少し気持ち悪い」
「……同感」
 1日揺られているとさすがに堪える。
「な、なあ、アド」
「……なに」
 青い顔のシュウキが同じく青い顔のアドリアナに話し掛けた。
「車酔い、って魔法で治せないのか?」
「……思いつかなかった」
「らしくないな」
「……ごめん」
 とはいえ、この状態では普段の半分も頭が回らなくても仕方がないだろう。
「ええと……」
「『車酔い』っていうのは三半規管がおかしくなって起こるんだから……」
「頭に治癒魔法を使えばいいのね。……『回復(ヒーリング)』。……どう?」
「……一気にすっきりしたよ!」
 ムカムカするような胸のつかえが取れ、視界がはっきりした。
「ほんと?……『回復(ヒーリング)』……あ、わあ、楽になったわ!! もっと早く気が付いてよ、シュウキ」
「無茶いうな」
 昨日はシュウキも酷い車酔いで思考もへったくれもあったものではなかったのだから。
「でもこれでもう少し速度出せるわね」
 こうして時速を15キロ程度まで上げた結果、もう2回『回復(ヒーリング)』のお世話になったものの、2人はまだ日が落ちる前にナミンテの町に着くことができのだった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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