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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 壱

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05 魔法工学の成立

 魔法人形(マギドール)を作る、というただそれだけでも、さまざまな問題がピックアップされた。
「これはやはり、一度考え直すべきだよ」
 シュウキはアドリアナに提案する。
「アドリアナは、既知魔法の体系化も目指していると言ったね。あれだよ」
「うん、言ったけど……」
 シュウキは更に言葉を紡ぐ。
「モノ作りをする魔法をまとめるんだ。必要な周辺知識も含めてさ」
「モノ作りをする魔法……」
 シュウキのセリフをオウム返しに呟くアドリアナ。
「そう。……たとえば、『工学魔法』あるいは『魔法工学』っていう括りはどうだろう?」
 その提案はすぐに受け入れられた。
「いいわね、それ! 『魔法工学』、うん、新しい分野よ!」
 顔を輝かせて喜ぶアドリアナ。やはり、新たな分野の先駆けとなれるのは嬉しいことなのだろう。
「魔法工学では工学魔法を使って色々なものを作るのよ。そして、材料についてもまとめるの」
「そういうことになるだろうね」
「ああ、いいわ! 魔法を使えない人、苦手な人でも使えるような魔導具。生活を豊かにしてくれる魔導具。人間を補助してくれる魔導具。……そして、『魔法人形(マギドール)』」
 その口調は弾み、踊り出さんばかりに嬉しそうだった。
 そんな彼女の顔をシュウキは、綺麗だ、と思い、見とれていたのである。

*   *   *

 それからほぼ毎日、シュウキとアドリアナは『魔法工学』の樹立に尽力していた。
 火属性魔法初級の『加熱(ヒート)』や光属性魔法の初級、『明かり(ライト)』、風属性魔法初級の『圧力風(ブロア)』などを、工学魔法として設定した。
 他にも、『乾燥(ドライ)』『冷却(クーリング)』をそれぞれ水属性魔法と火属性魔法の応用によって作り出した。
 アドリアナは更に、ゴミ、埃、火の粉などを防ぐ『防御(ガード)』や、『分解(デコンポジション)』をも作り出す。
 しかし一番の功績は、何といっても『硬化(ハードニング)』と『強靱化(タフン)』を開発したことだろう、とシュウキは思っている。

 これは、魔力で対象物を包み込むことによってその強度を格段に上げることができる魔法だ。
 これを使うことで、青銅に鋼鉄の数倍の耐久性を持たせることができるようになったのだ。

「すごいな、アド。さすがだよ!」
「うふふふ、もっと褒めて!」
 アド、というのはアドリアナの愛称である。何ヵ月も一緒に暮らすうちに、シュウキとアドリアナの仲も進展していたようだ。
「これで魔法人形(マギドール)を作ることができるわよね?」
 だが、シュウキはその問いに対し、首を横に振った。
「まだだ……と思う。頭脳に当たる『制御核(コントロールコア)』、その書式を設定しないと」
「ああ、まだそれがあったわね……でもいいわ。この私が解決してみせる!」
「うん、アドならできるよ。僕も協力するから」
「ええ、シュウキがいてくれれば、私、何だって出来ちゃう気がするわ!」

 シュウキ自身は魔法を使えないが、この数ヵ月、懸命に勉強したおかげで、『魔法語(マギランゲージ)』は覚えることができた。
 魔法語(マギランゲージ)とは要するにプログラミング言語である。
 魔法の発動の手順を専用の文字や言葉で記述する、と考えればいい。
 その一つが『魔法陣』だ。
 大抵の魔法陣は円形をしている。これは、少ない魔力で大きな効果を得るための形だ。つまり魔力を循環させることで効率をアップしているわけである。
 シュウキはこれに着目し、アドリアナに提言したものだ。
「アド、これって、一般の魔導式(マギフォーミュラ)に応用できるんじゃないかな?」
「どういうこと?」
「つまり、発動の部分をループさせて……」
 電磁石のコイル、といってもいいだろう。
 巻き数が多くなるほど電磁石は強くなるわけだ(もちろん巻き線の抵抗もあるので無限に強くはできない)。
「ああ、そうね! シュウキ、さすがよ!」

 こんな毎日が続いて、いつしか季節は春になっていた。
 シュウキはアドリアナに誘われ、初めて研究所の外に出ていた。
「うわあ、綺麗だなあ」
 研究所はフニシス山という高山の北山麓にある。
 このフニシス山には冬の季節風が北から吹き付け、雪を降らせる。その量は膨大で、時には10メートルも積もり、春先には必ずといっていいほど巨大雪崩が起きるため、研究所は地下に作られているのだ。
 雪が消えるのは意外と早く、4月の声を聞くと山麓の雪はほぼ消える。それは、3月になると季節風の風向きが北から南に変わり、フニシス山を越えてきた風がしばしば、いわゆるフェーン現象を起こし、山麓の雪を融かすからである。

「僕は、雪景色ってあまり見たことがないんだ」
 シュウキは高知で生まれ育ち、中学以降は東京に出て来たため、あまり雪景色を見たことがなかったのである。
「ふうん、そうなんだ。あのね、雪ってとっても冷たいのよ。でね、融けると水になっちゃうの」
「アド、さすがにそれくらいは知ってるよ……」
「ふふ、そうよね」
 そんな会話を交わしながら、付近を散策する2人。
 シュウキは山菜を探していた。故郷にいたときはフキノトウやワラビ、ツクシなどを探したものである。
 だが、彼の意に反してそういった山菜は見つからなかった。
「やっぱり異世界か……同じ植物があるとは限らないんだなあ……」
 およそ4ヵ月ほど、研究所内の保存食を食べていただけに、ビタミン不足が心配なシュウキであった。
 これについてはアドリアナにも教えてあるので、彼女は彼女で、そういった野草を集めていた。
「ほらシュウキ、こんなに採れたわよ」
 アドリアナは手にした籠にいっぱい、野草を集めていた。
「『クレス』、っていうのよ。水辺にいっぱい生えてるわ」
「……オランダガラシかな?」
 別名クレソン。
 シュウキの生まれ育った高知県でも、田んぼの用水路などでよく見かけた。
 繁殖力旺盛で、水路を塞いだりすることもあるので、子供たちは親から言われ、駆除に務めたものだ。
 また、時折おひたしにして辛子醤油で食べたりもされている。
 思ったより栄養豊富で、ビタミンやミネラルを多種含んでいる。
「それもいいな」
 要はビタミン不足を補うためなので、シュウキもクレスを探して歩き回る。
「うわ、冷てえ」
 雪解け水の作る小川に時折靴を濡らしながら、2人はクレスを採取して回った。
「あー、疲れた」
「私もー」
 冬の間、研究所に籠もりっぱなしだった2人であるから、すっかり脚が鈍っていたのである。
「今日はお風呂沸かしましょうか」
「賛成」
 元々研究所には、原始的なシャワーしかなかったが、シュウキのたっての希望により、2ヵ月前、風呂が作られたのである。
 上水は井戸であり、下水は地下浸透式なので、毎日入浴、とはいかなかったが、1週間に1度は風呂に入っていたものだ。
 余談だが、この時に役に立ったのが火属性魔法初級であり、アドリアナが工学魔法に加えた『加熱(ヒート)』である。

 外の空気を吸い、疲れた体は風呂で癒し、夕食に久々に青物を食べたシュウキは、何となく満ち足りた気分でベッドに寝転んでいた。
 そして考える。
「カツオブシ、味噌、醤油! ……きっと作って見せるぞ。あ、それに餅も!」
 米はあるが、ジャポニカ米がまだ見つかっていない。
 やはり故郷……というより日本の味に飢えているシュウキであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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