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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

過去篇 壱

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04 共同研究

「魔法で動く人形はあるんだっけ?」
 シュウキとアドリアナが一緒に暮らすようになって数日後、今日も2人は討論を交わしていた。
「ええ、あるわ。『魔法人形(マギドール)』といって……」
 だが、その実体は、シュウキが思い描いたものとは程遠かった。
「だめだよ、違うんだ。僕が言いたいのは、人間そっくりの外観で、人間と同じようにものを考えて動く、そんな人形なんだよ」
「そんなものできるわけ……いいえ、だからこそ面白いのよね」

 アドリアナは早熟の天才であった。10歳にして師匠を上回る魔力を持ち、12歳にして師匠に『教えられることはもうない』、と言わしめた。
 15歳になるまでは生まれ故郷、ナミンテの街で暮らしていたが、その後ここフニシス山山麓に研究所を建ててもらい、住み着く。
 彼女の研究テーマは2つ。
 既知魔法の体系化と、新しい魔法を創出することだ。
 そのうちの新しい魔法ということで、いくつかの魔法と魔導具を作り上げることに成功しており、その報酬でここに研究所を建てたそうだ。
 今は『空間』と『転移』について研究をしているわけだが、当分の間保留にする、と言い出すアドリアナ。
「新しい『魔法人形(マギドール)』の方が役に立ちそうだからね! ……あ、もちろん、シュウキが元の世界に帰れるように、『空間』と『転移』についても継続して研究するわよ」
 アドリアナはそう言って微笑んだ。

*   *   *

「だから、どうしてそんなことするのよ!」
「言っただろう、人間に近い構造にするためだ!」
 何度目かの口論が始まった。
 新型の『魔法人形(マギドール)』を開発するため、シュウキとアドリアナは連日試作を作っては壊し、作っては壊ししていたのだ。
 その過程でどうしても口論になるのがここのところの日課になっていた。
「シュウキ、貴方、『人間そっくり』にするなら、身体構造もそっくりにする必要がある、って一昨昨日言ったわよね?」
「ああ、言った。だけど、動作に関係ない部分まで同じにするのは意味がないだろう?」
「だからって、制御用の頭脳を胸に納める必要があるの?」
 人間の思考を司っている脳が頭にあることは、この世界でも常識になっていた。
「頭が感覚器官として有用であるのは事実だが、突出した部分に身体を制御する脳があるなんて、弱点になるだろう?」
 胴体内に脳を収納するスペースがないというか、脳が発達するためにはあの位置になければならなかったのだろうと、シュウキは思っている。
 決して、大家さんの息子と一緒に見ていたアニメのロボットの電子頭脳が頭でなく胴体内……心臓あたりにあったのを見たからではない……はずだ。
「うーん、そうまで言われるとわからないでもないわ……」

 こんな感じで、『魔法人形(マギドール)』開発は少しずつ進んでいった。

「身体構造はこれでいいのよね。でも……」
 アドリアナが嬉しそうに、だが若干悔しそうに、という複雑な顔をして言葉を紡いだ。
「ああ。まずは材料からだね……」
 骨格を形作っていく過程で、素材の問題が浮かび上がってきたのである。
 2人は一般的な『青銅』で製作していたのだが、強度的に不安になってきたのだ。
「えーと、確かこの辺に」
 シュウキは、自分と一緒にこの世界にやって来た専門書をめくっていく。
 本のタイトルは『構造力学概論』だ。
「えーっと、断面二次モーメント、っと。……そうだったなあ、断面が円筒の場合は……」
 要は、梁……棒状の物体の曲げ強度が何に一番影響を受けるか、ということをシュウキは調べていたのだ。
「やっぱり、できるだけ太くした方がいいんだなあ……」
 材料が同じで、使われている量も同じなら、細い丸棒よりも太い丸パイプの方が曲げ強度は強くなるのである。
 だが、『魔法人形(マギドール)』の骨格にする場合、あまり太くするわけにはいかなかったのだ。
「外骨格……は虫やカニみたいだしなあ……」
「シュウキが読んでいる本って、『魔法人形(マギドール)』の資料書?」
「そんなわけないだろ。一般的な構造物の強度を知るための基礎知識が書かれているんだよ」
「たとえば、川に架ける橋とかも?」
「お、そうそう、そういうやつ」
 数日が過ぎ、シュウキとアドリアナの会話も、より親密さを増していた。主にシュウキの言葉づかいから敬語が取れたという意味で。

「で、青銅はなあ……。試作のうちはいいけど、本番になったら強度不足になりそうでね……」
「魔法で強化できないかしら?」
 シュウキのぼやきに、アドリアナが反応した。
「そう、できるかも。あそこをこうして……。ね、シュウキ、貴方は物質についてどのくらい知っているの?」
「え? ……そうだな、まず物質というものは、どんどん小さくしていくと、あるところで、それ以上小さくするとその物質じゃなくなるという最小単位があるんだ」
「そうなの?」
「うん。まあ、そういうものとしてまずは聞いていてくれ。……その最小単位を『分子』というんだ。水なら水分子、というようにね。例外もあるけど、それは別の機会にしよう」
 原子と分子についての説明を行うシュウキ。アドリアナはそれを半分ほどは理解したようだ。
「ふうん、そうすると、この世界にある物質で、魔力に反応する物質としない物質というのは何が違うか、わかる?」
「うーん……」
 この質問にはシュウキも困ってしまった。シュウキには魔法に関する知識がまるでないのだから。
 それでとりあえず、
「物質が『強い』ということは変形しにくい、ということだ。変形というのは、分子間の距離が変わることだから、分子同士の結合力を上げられればなんとかなるんじゃないかな?」
 と、一般論的なアドバイスしかできなかった。
 だが、アドリアナは天才である。
「ふうん、なんとなくわかったわ」
 との言葉を発し、考え出したのである。
「……」
 シュウキは、そんなアドリアナの邪魔をするわけにもいかないので、交代で行っている炊事をすることにし、キッチンへ向かった。
 下宿で一人暮らしをしてきたシュウキは、それなりに料理ができる。が、食材や調理器具が大きく異なるこのアルス世界ではまだまだレパートリーが限られていた。

 まず、主食は米か大麦。
 どちらもお粥にして食べる。これは炊き方が難しいこともあるが、大陸の北にあるらしいこの地で、少しでも増やして(・・・・)食べるため、だそうだ。
 それに関しては、『増えるんじゃなくて水分を吸ってふやけているだけだ』とシュウキが説明したのだが。
 おかずは干し肉と乾燥野菜。
 もう少しビタミンやミネラル分を摂りたかったが、今は冬だそうで、この研究所の外は凍てつく大雪原が広がっているといわれて諦めたシュウキである。
 だが、春になったらなんとしてもそういった食材を手に入れようと決心もしていた。
「食事ができたよ」
 1時間ほど掛けて調理を終え、研究室に戻ると、アドリアナはまだ考え込んでいた。
「おーい、アドリアナ」
 返事が無い。彼女は思索に耽ると、周囲の音に反応しなくなってしまうのである。
「しかたないか……」
 シュウキはゆっくりとアドリアナに近付いていき、その耳に口を寄せる。そして息を吹きかけた。
「ふーっ」
「ひゃうっ!」
 文字通り、アドリアナは椅子から飛び上がった。
「あ、わ、わ、シュウキ!?」
「ご は ん だ よ」
 耳を押さえ、シュウキを睨み付けるアドリアナに、ゆっくりと食事ができたことを告げる。
 するとアドリアナはほっと息を吐き、表情を和らげた。
 アドリアナは耳が敏感だ。で、声を掛けても返事をしない時は耳に息を吹きかけてもいい、と本人が許可したのである。
「ああ、もうそんな時間? ごめんね、また全部やらしちゃったわね」
「いいさ。……で、何か思いついた?」
「うん……もう少し、ってところかしら。ごはん食べたらシュウキの意見も聞いてみたいわ」
「わかったよ。まずはちゃんと食事を摂ろうな?」
 彼女も、熱心な研究者の例に漏れず、夢中になると食事をすることも忘れて熱中するタイプであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150907 修正
(旧)12歳にして師匠に教えることはもうない、と言わしめた
(新)12歳にして師匠に『教えられることはもうない』、と言わしめた

(旧)アドリアナは耳が弱い。
(新)アドリアナは耳が敏感だ。
+注意+
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