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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

05 旅路その1 エリアス王国篇

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05-01 旅の始まり

 新章開始です。
 ラインハルトとの約束の日の朝、『海鳴亭』を出た仁と礼子は、港前中央広場へ向かった。
 競技の時と違って広場は閑散としており、殺風景だ。
「あー、この魚の臭いが混じった潮の香り、ここ特有だな」
 ちょっと懐かしく思う仁。同じ潮風でも、蓬莱島の海辺とこことでは違っている。おそらくここは人々の生活があるからだろう、と仁は想像した。
「お父さま、馬車がやってきます」
 そんな物思いを破ったのは礼子の声。どうやら迎えの馬車が着いたらしい。2頭立ての馬車が2台やってきた。
「へえ、一応だけどサスペンションが付いてるよ」
 先頭の馬車を一目見て仁は、その馬車の車輪を支える腕がそのままサスペンションの役目を果たす事を見抜いた。腕は客室の下から前後に伸びている。
「でもダンパーがないな」
 バネだけだと、振動が長く続くため車酔いしやすい。現代の自動車は、振動を速やかに収束させるためのダンパー(ショックアブソーバ)が付いているがこの馬車にはそれがない。
「車輪は鉄か」
 車輪の周りは鉄で覆われている。耐久性はあるだろうが、音がうるさそうだ。まあ下が土ならあまり音はしないだろう。
 後ろの馬車は、型は大体同じであるが、やや古びていて装飾なども少し地味であった。
「俺達は後ろの馬車かな」
 そんなことを考えていると、仁達の前に馬車が停まり、後ろの馬車から、いかにも執事です、といった雰囲気の男が降り立ち、前の馬車の扉を開いた。
 中から顔を見せたのは銀に近いブロンド、水色の目、白い肌の少女。ラインハルトの従妹、エルザ・ランドルである。
 誰にも手を借りず、馬車から飛び降りた。その際、スカートがめくれないようにちゃんと押さえながらなのはさすがだ。
 今日は水着ではなく、貴族の子女らしく若草色のドレス姿である。シンプルだが、生地には艶があって縫製も丁寧だ。襟と袖口、裾等にはレースがあしらわれている。
「ジン君、レーコちゃん、久しぶり」
「ああ、お久しぶりです」
 そんな彼を執事が睨んでいたが、仁は気が付いていない。
 一応仁はポケットに入れておいたスカーフを差し出した。だがエルザは首を振り、
「いい。それはジン君が持っていて」
 エルザはそう言って、後ろの馬車から降りてきた下男らしき者に向かって仁達の荷物を馬車に積むよう指示を出した。大した荷物もないので1回で全部積み終わる。
「さ、乗って」
 エルザが自分の馬車に仁達を招いた。
 6人くらい乗れそうな客室は、3人ずつ向かい合わせの椅子が付いている。
 他に乗る者がいるのかと聞いたら、この3人だけだとエルザは答えた。
 それで仁と礼子は進行方向に向かって、すなわち後部座席に、エルザは御者寄りの前部座席に後ろ向きに座った。
「もう出発していい?」
 エルザの問いに頷くと、エルザは紐を引く。紐の先は御者席へ伸びているようで、これで止まれとか進めとかの簡単な指示を出すのだろう。
 今度は使用人達の馬車が先になって走り出す。がたん、と車輪が音を立てたのは、石を踏んだのか。客室はふよん、といった感じで揺れた。慣れないと気持ち悪くなりそうだ。
 それを見越したのか、エルザが、
「気持ち悪くなったら言って。治したげる」
 と言ってくれた。何らかの緩和方法があるらしい。続けて、
「ライ兄はおしごとで来られないから私が来た」
 エルザがそう説明した。ラインハルトは王都でいろいろ忙しいらしい。
「はい、それはどうも」
 どう話していいか距離感が今一つ掴めない仁、変な言葉遣いになっている。そんな仁を見て、
「かしこまらないでライ兄と同じように話して欲しい」
 と言ってくれたので仁は肩の力を抜いた。
「それじゃあ。……今日はわざわざ迎えに来てくれてありがとう。こんなんでいいか?」
「ん」
 エルザが頷く。
「あなたたちとはゆっくり話をしてみたかった。だから私が来た」
 一呼吸置き、
「ライ兄は国でもトップクラスの魔法技術者(マギエンジニア)。そのライ兄が作ったローレライが負けた。あなたの技術が知りたい」
 えらく直球な質問だ。話し方から察するに、会話はあまり得意ではないらしい。
「まあ、そういう話はラインハルトもいる所でした方がいいと思う」
 うまくかわす仁。エルザもそれはそうだと肯き、
「それじゃあ、何か聞きたいことはある?」
 仁は何から聞こうかと少し考えてから、
「それじゃあ、まずは、この馬車はどこへ向かっている?」
 馬車の行き先を尋ねた。
「北へ。港町ポトロックから、この国の首都がある地方へ。ライ兄のいるところ」
「首都の名前は?」
 さすがにその質問には驚いたのか、少しエルザの目が大きくなった。が、すぐに元に戻り、
「エリアス王国の首都はボルジア。知らないの?」
「知らない。俺は孤島にいたから、大陸の情勢には疎いんだ」
 と、仁が設定上の身の上を少し話すと、
「そういえばそう言っていたっけ。それじゃあエリアス王国について少し教えてあげる」
 と言って、説明を始めた。
「エリアス王国はエリアス半島にあって、エリアス半島はローレン大陸の南に突き出している」
「ああ、それは知ってるかな」
「エリアス王国は4つの州に分かれている。だいたい東西南北と思ってくれればいい」
「なるほど。じゃあポトロックは南の州になるわけか」
「そう。それで今向かっているのは北の州。名前をノルドという」
 そこでエルザは言葉を句切った。仁は頭の中でスカイ1が報告してきた地形を思い浮かべる。かなり理解できた。
「エリアス王国の主要街道は4本。いずれも首都ボルジアから東西南北に延びている。ここまではいい?」
「ああ。北への街道はローレン大陸へ、南へはポトロックに続いていると思っていいのかな?」
「その通り。東と西は南北に比べたら重要度は低いけど」
「……ちょっと待った」
「どうしたの?」
「お父さま?」
 話の途中で遮った仁をいぶかしげな目で見たエルザだったが、すぐにその訳を悟る。礼子はなぜ仁が青い顔をしているのかわからないようだ。
「まかせて」
 そう言ってから彼女は仁の手を取る。
「え?」
「……癒せ(フェルハイレ)
 すると、エルザの手から温かいものが流れ込んできて、気持ち悪かった仁は、気分がすっきりするのを感じた。
「どう?」
 手を放しながらエルザが聞いてきたので、
「あ、ああ、気分がすっきりした。ありがとう。今のは魔法?」
「そう。ショウロ皇国式の詠唱」
「そうか、やっぱり。でも、手慣れた感じがするということは、結構酔う人がいる?」
 仁がそう尋ねると、
「うん。初めて乗った人は大抵気持ちが悪くなる」
「そっかー」
「……」
 礼子は落ち込んでいた。仁が具合悪いというのに、あろうことか気付かずに、目の前にいる他人に治して貰ってしまったのだから。
「ダンパーを付けるといいんだけどな」
 仁は、そんな礼子の落ち込みには気付かず、エルザと話をしている。
「ダンパー? ってなに?」
「ああ、なんて言えばいいかな。揺れを抑える装置、とでも言うか」
「揺れを抑える……」
 エルザにも、その説明でぼんやりとだが、仁の言うダンパーがどのような働きをするか見当が付いたらしい。
「この構造だと難しそうだけどね」
 そう言った仁は、自分のためにもなんとかダンパーを取り付けたいと考え始めるのであった。
「やっぱりジン君は不思議。旅の間にいろいろ教えて欲しい」
 興味津々といった表情で仁を見つめるエルザに、
「ああ、いいよ」
 軽く答える仁。そんな仁を礼子は黙って見つめていた。
 いよいよ旅の始まりです。こうして、仁の視点を通じてこの世界を説明していこうと思います。
 そして礼子、どうした?

 お読みいただきありがとうございます。


 20130617 16時07分 誤字修正
(誤)そう言う
(正)そういう

(誤)ああ、なんて言えばいいかな。揺れを抑える装置、といえばいいかな
(正)ああ、なんて言えばいいかな。揺れを抑える装置、とでも言うか

 20140508 誤字修正
(誤)ちゃんと抑えながら
(正)ちゃんと押さえながら
+注意+
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