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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

26 異民族の国旅行篇

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26-28 ウルンの村

 ウルンの村の戸数は30戸ほど、ちょうどカイナ村と同規模の村であった。
 簡単な境界として木の杭が打たれており、その手前で自動車を降りたグースは、
「ここの村長とは知り合いだから、ちょっと話を通してくる」
 仁にそう告げると村へと入っていった。
 待つこと10分ほど。杭の高さは1メートルほど、間隔は30センチほど。
 杭の間からも、杭の上からも、仁たちは丸見えである。
 村人、特に子供たちが興味深そうに自動車を見つめている。
「ここの住民もミツホと同じだね」
 コーヒー牛乳のような肌の色は、同じ血を引く民族であることを示していた。
 髪の毛は焦げ茶色が多いが、時々明るい茶色の子もいるのは、ハーフかクォーターなのだろうかとも思う。
 逆に、仁と同じ位に黒い髪も見かけた。
 着ている服はミツホ風ではなく、ショウロ皇国や小群国で一般的な服に近い。
 そうこうしていると、グースが戻って来た。一緒に来ているのは村長だろうか。
 初老の男性で、グースと同じ位の体格をしている。頭髪は薄く、髭はない。
「仁、こちらはウルン村の村長さんだ」
「初めましてやね、ロミエスとゆいます」
「二堂仁です」
「ええと、ニドーが姓でジンが名前、でちゃろしいやろうか?」
「あ、はい」
 かなり訛っており、発音も今一つだったが、姓名をきちんと区別してくれたことに、ジンは北方の文化が更に気になってきた。
「こまか村やけ、特に宿泊施設はなかんやけどの、ちゃろしければ我の家へお越しくれんね。部屋だけは空いておるけん」
「ありがとうございます」
 ということで、仁たちは村長の家に泊めてもらうこととなった。

「今、お風呂ば沸かすけんね」
 水はそこそこ豊富なので、この村では入浴の習慣があると、グースが仁に耳打ちした。
「あ、それでしたら、沸かすのを手伝います」
 薪で沸かすようなので仁は申し出た。工学魔法『加熱(ヒート)』なら燃料いらずだからだ。
「おお、そいは助かるばい」
 仁が『魔法工学師マギクラフト・マイスター』という魔導士であることはグースから伝えられていたので、村長はありがたくそれを受け入れた。
「『加熱(ヒート)』」
 大きめの浴槽ではあるが、5秒ほどの加熱で、ちょうどいい湯加減になった。
「おお……!」
 横で見ていた村長は感心した顔をしている。
「魔導士っちゆう方はばりもんやなあ……」
「そういえば、この村に魔導士はいないのですか?」
「ええ、こん村だけでなく、フソーにはほっちんどいまっしぇんちゃ」
 ならば、なぜ『魔導士』の存在を知っているのか。なぜ魔法を見ても驚かないのか、が疑問に残る。
 仁がそれを尋ねると、
「『マレビト』として、時折訪れるこつのいるけんな。珍しくはいるけんの、初めてっちゆうわけではなかとよ」
 との答えが返ってきた。仁はなるほどと納得する。
 ただし、『マレビト』の正体は依然不明のままだが。

「あー、気持ちがいいな」
 村長宅の『客人用風呂』は大きいので、仁とグースは一緒に入浴していた。
「まず身体を洗ってから入れよ」
 数日どころか数ヵ月も身体を洗っていないらしいグースに仁が注意した。
「わかってるさ」
 グースはその辺は承知しているらしく、掛け湯をしてから身体を洗っている。『石鹸』で。
 この石鹸は、泊めてもらうお礼として、一箱分(約10キロ)を仁が供与したもの。
 作り方はサキとアアルが知っており、特にアアルの記憶情報は既に老君に届けられていて、蓬莱島では重曹や海藻灰などから石鹸を作る実験がスタートしていた。
「『石鹸』か、こいつはいいな! リタの実よりも数段いい」
 博物学者らしく、グースはリタの実を知っているようだ。

 余談だが、村長に贈られた石鹸一箱は、年末年始や祝い事の際に身体を綺麗にする目的で使われるようになったという。

 エルザたちもお湯を使い、さっぱりした一行は、村長に歓待された。
「『けっけん』のお礼にもなりまっしぇんが、どんどん食べてくれんね」
「『石鹸』ですよ」
 グースが注意した。
「おお、そーやった。あのせっけん、というものは素晴らしかね。大事に使わしぇてもらうけんね」
 嬉しそうな村長。だが、仁は出された食事、それを盛った器が気になっていた。
「この器は……」
 生地は木である。軽くて丈夫そうな木だ。木目がはっきり出ている。
 だが、問題は塗られた塗料である。
「……漆、かな?」
 飴色、というのか、赤茶色をした透明な塗膜。木目を際立たせるように、年輪部分は濃く、外の部分はやや薄く。
 非常に上品な色あいである。
「そいは、『トキソコ』の樹液を刷り込んだ器で、特産っちは言わんけんど、我が村の産物たい」
 スプーンや浅い皿も同じ塗りであった。
「俺の知る『うるし』という塗料は黒いんですよね。やっぱり樹液から作るんですが」
 そう、蓬莱島で採れる漆もどきや、以前サキがかぶれた漆に近い樹液は、いずれも真っ黒い色をしているのだ。
 これは木の種類が異なるからだろう、と仁は考えた。こちらがより日本の『漆』に近いのかもしれない。
 グースが仁の言葉に食い付く。
「ほう、仁のところには黒い樹液を出す木があるのか。興味深いな」
「はは、とりあえず食事にしよう」
「うむ、それには賛成だ」
 ということで一同、御馳走になることにした。
「あ、これ、おいしい」
 エルザは酢の物が気にいったようだ。
「くふ、これは初めて食べた味だけど悪くないね!」
 サキも同じく酢の物が気に入っていた。
「あたしはこれが好き!」
 ハンナは吸い物風のスープが気に入ったようだ。仁の見立てでは干し魚の出汁が取ってある。
 そして仁は、ここにも米があることに驚きつつ、白米のごはんに舌鼓を打っていた。
「このあたりは湿地帯が多いから、こうしたのぎがよく育つんだよ」
 グースはそんな説明を入れながら食事を頬張っている。もうすっかり体調はよくなったようだ。
「そっちの山菜はヌナワだな。浅い池なんかによく生える水草なんだ」
 酢の物、吸い物、どちらにも使われている山菜はヌナワというらしい。
 仁は吸い物が気に入った。
 ちょっとぬめりのある歯応えが面白い。
 品数は少なくても、心の籠もった歓待に、仁たちは寛ぐことができたのである。

「これもグースのおかげだな」
 食事後、割り当てられた部屋で仁はグースに礼を言った。
「いきなり俺たちだけで来たんじゃ、こうはいかなかったかもな」
「まあ、それはいえてるかもしれないな。外国からの客人なんてごくまれだからな」
 それでも、過去には何例かあったし、今でも10年に1度くらいはあるようなんだ、とグースは付け加えた。
「一番最近では、『テンクンハン』とかいう男が来たって言ってたな」
 技術者という触れ込みだったが、こちらでは魔導具は使われておらず、普通の道具も特に困ってはいないので、役に立ってもらう機会はなく、彼はそのまま北上したらしいということであった。
「君らも北上するならどこかで会うこともあるかもしれないな」
 会ってみたいような、どっちでもいいような、と思う仁であった。
『テンクンハン』よりも、仁は『漆に似た塗料』の方がずっと気になっていたのである。
 博多弁もどき……のつもりです。あくまでももどきです。
 ヌナワ=ジュンサイ。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150823 修正
(誤)ウルンの村の戸数は100戸ほど
(正)ウルンの村の戸数は30戸ほど

(誤)一箱分(約1キロ)
(正)一箱分(約10キロ)

(誤)村長に送られた石鹸一箱は
(正)村長に贈られた石鹸一箱は

(旧)、時折訪れるこつのいるけんけんな。珍しくはいるけんの、初めてっちゆうわけではかよ
(新)時折訪れるこつのいるけんな。珍しくはいるけんの、初めてっちゆうわけではなかとよ
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