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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

26 異民族の国旅行篇

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26-27 フソーの南端

「ふむ、お粥か。大好物だ!」
 仁たちは朝食としてお粥を食べていた。何日も食べていなかった胃に、いきなり固形物は良くないとの判断からだ。
 また、『朝粥』がエルザたちに意外と好評なのもある。
 仁は梅干し、エルザは小魚の佃煮(アクア謹製)、サキはお新香。そしてハンナは仁と同じく梅干しで。
 グースは全部を摘んでみた結果、梅干しが気に入ったようだった。
「いやあ、美味かった。二堂殿に助けてもらって幸運だったよ」
「その『二堂殿』ってやめません? 呼ばれ慣れていないから気になって」
「ふむ、じゃあ俺のこともミナカタ殿、でなくグースと呼んでくれ」
「分かった。……グース」
「それでいい、仁」
 サキやエルザたちも同じように接することになった。
 明るい場所で良く良く見ると、グースの肌の色はかなり明るい。父親の血が強く出ているのだろう。
 背格好は中肉中背で仁より少し背が高いくらいだ。顔はやはり父親似なのだろうか、どことなくエルザやサキたちと似通ったところがある。
「朝食を食べたら出発だ。グース、荷物は?」
 と仁が尋ねれば、
「何も無い。この身一つさ。後は全部なくしてしまった」
 という、何とも反応に困る答えが返ってきたのであった。

「ジン、このテントはどうするんだい?」
 朝食を終え、出発準備を始めた仁にサキが尋ねた。
「ばらして……屋根に積んでいくか」
 一応、自動車の屋根も、荷物が積めるように作られているのである。
 そこにテントの部材を積むと、かなり頭でっかちに見えるのは否めない。
 特に、軽銀製のフレームが長いのである。
 ミヤコの町でもらった米などは、転移門(ワープゲート)を使って、その大半を蓬莱島に送ったので車内はすっきりしているが、今度は屋根がごてごてしてきた。
「まあ、こんなものか」
 現代日本と違い、鉄道のガード下をくぐったりすることもないだろうし、路地に入り込む気もないので、とりあえずこれで進むことにした。
 グースがいなくなったら転移門(ワープゲート)で送り帰せばいいだろう、と仁は考えていたのである。

「ほほう、乗り心地がいいなあ!! やはりグッタペルチャを使うと違うのだな」
「グースはグッタペルヒャを知っているのかい?」
 と仁が尋ねれば、グースは訳知り顔に頷く。
「もちろん。俺は博物学者だからな。それより、フソーではグッタペルチャというが、そちらではグッタペルヒャというのだな」
「ああ。こういう弾力性のある樹脂を総じてゴムというんだが、それは知っているかい?」
「いや、寡聞にしてそれは知らなかった! なるほど、ゴム、か。言いやすくていいな、それ」
「ということはつまり、馬車に乗ったことがあるのかい?」
「ああ。フソーでは荷物を運ぶのも、人間を運ぶのも馬車が多いからね」
「じゃあ、こっちでは馬が普通に使われているんだな? ミツホでは伝染病だかで馬が激減したらしいぞ」
「それは聞いて知っている。幸いなことに、フソーでは流行らなかったようだな」
 仁とグースは話が合うようで、道々いろいろな話を交わしている。
 それを後ろの座席で眺めていたエルザに、サキが声を掛けた。
「くふ、エルザ、婚約者殿を盗られてお冠かい?」
「……違う。いや、違わないかも。だけど……あの人、ちょっとライ兄に似てる」
「え、そうかな?」
「ん。顔とかじゃなくて、ジン兄と話している時の雰囲気というか」
「ああ、なんとなくわかるかもね」
 そしてハンナはというと。
「ハンナちゃん、ほら、あそこに花が咲いてますよ」
「えー、どこ? 見えないよー」
「右手前方、500メートルくらいのところにある岩の右下に」
「そんなの見えるのレーコおねーちゃんくらいだよー!」
 礼子と楽しそうなやり取りをしていた。

 そして、昼食時間。
 湿原のそばに湧き水があったので、うどんにしたのだが、思ったより好評であった。
 もちろん水質検査はしている。
「おお、これは美味い!」
 すっかり調子が戻ったのか、うどんをお代わりするグース。
「おにーちゃん、あたしも!」
 ハンナも健啖ぶりを発揮している。
 多めに茹でたうどんだったが、あっという間に全部なくなってしまったのだった。
「いやあ、仁は料理もうまいな。俺は簡単なものしか作れないからな……」
「いや、うどんを茹でただけなんだが……」

 そしてまた自動車は走り出す。
 朝から走り続けること計6時間、彼等の目の前に湿原が現れた。
「ようやくシクロ湿原に出たな」
 ほっとした顔のグース。
 一方仁たちは花咲く湿原を見て感動していた。
「これは見事だな!」
「凄いな、ここは……!」
「……きれい」
「お花、いっぱい!」
 湿原自体はまだ枯れ草色が優勢だったが、そこここから顔を出した白い花黄色い花が彩りを添えていたのである。
「ミズバショウ?」
 白い花は、仁の知るミズバショウによく似ていた。
「ミズバショウ? 我々は白カイウと呼んでいる。赤カイウというのもあって、もう少し早い時期に咲くんだ」
「ふうん、見てみたかったな」
 ミズバショウの近縁種でザゼンソウという花が日本にはあり、早春に小豆色の花を咲かせるのだが、仁は知らないようだ。
「じゃあ、あの黄色い花は?」
 仁は植物にはそれほど詳しくない。一般的な花、たまたま知っていた植物、くらいしか分からない。この機会にグースへいろいろ尋ねている。
「黄色い花はストリスと呼んでいるな」
 それは、ミズバショウと共に尾瀬などに咲くリュウキンカ、という花によく似ていた。
「ふうん、やっぱり詳しいな」
「ああ、こういう事なら任せてくれ!」
「じゃあ、あの白い花を付けている木は?」
「ん? ……ああ、マグノリーだな」
「あれは?」
「ムラサキアザレーだな」
 言うだけあって、グースは詳しかった。次から次への仁の質問に、ことごとく答えていったのだから。
 そして、礼子を通じ、老君もまたそういった知識を増やしていった。

「あ、進路はもう少し右に寄せた方がいいな。このあたりは湿地が多いから、嵌ると面倒だ」
「わかった。エドガー、頼む」
「了解です」
 少し右寄りにハンドルを切るエドガー。確かに地面は湿っぽくなってきたようだ。
「この調子ならあと2時間も掛からないでウルンに着けるだろう」
 今は平均時速15キロくらいなのでそれくらい掛かりそうである。
「シクロ湿原は鳥も渡ってくるんだ。今はちょうど夏鳥と冬鳥が入れ替わる時期なんで、留鳥しか目にしないけどな」
「昆虫も結構多い。夏になるとトンボが飛ぶな」
「湿原なので水があっても浅いから、魚はほとんどいないんだよ」
 などというグースの説明を聞きながら進むこと2時間。
「おお、やっと見えてきた。あれがウルンの村だ」
 暮れなずむ空の下、一行の行く手に、フソー国の南端、ウルンの村が見えてきたのである。
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