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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

25 飛躍への準備篇

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25-26 献上前に

 時差の関係で、蓬莱島が夜になっても、ロイザートはまだ午後の早い時間である。
 そこで仁は、ロイザートの屋敷に工房棟を建ててしまおうと考えた。
 あまり頻繁に行ったり来たりすると時差ボケになりそうで怖かったので、その作業は仁ダブルにさせることにし、仁やエルザはそのまま蓬莱島に残ることにした。

 仁ダブルを操作している老君は、屋敷の敷地内を一巡りすると、最適地を決定した。
『ふむ、裏庭が妥当ですね』
 少し狭いが、自動車を作れる大きさの工房ならなんとか建てられそうである。
『屋敷にくっつけてしまいましょうか』
 そうすれば、より裏庭を有効に使える。という考えに基づいて、さっそく建てることにした。
 塀があるため外から見えないのをいいことに、転送機で建築資材を送り込む。
 石材、木材、金属製の部材。同時に職人(スミス)ゴーレムも送り込み、作業に入る。
 あらかじめ仁がイメージしていたのはガレージだ。広いガレージ風の工房なら、自動車を作るのに相応しい。
『これでいいでしょう』
 バロウとベーレには後で説明しておけば『はい、わかりました』で済むだろう。
 ガレージ風工房が完成したので、その日のうちに自動車を転送機で送り込んでおく。
 これでいつでも献上する事ができるというわけだ。

「大分当初の予定と変わったな……」
 蓬莱島では、夕食の後、仁とエルザはベランダに座って話をしていた。礼子はお茶を淹れている。
 お茶はほうじ茶。カフェイン分が少なく、眠りを妨げない。だがカテキンは含まれているので、血圧、コレステロール、血糖値の調整にも良い作用が期待できる、といわれている。

「うん、でも、仕方ない」
「だなあ……。やっぱり急激な改革はよくないだろうし」
「ん。もう手遅れな部分はあるけど」
「あはは」
 飛行船をはじめとする魔導機(マギマシン)は、十分にこの世界を変え始めている。
「お父さま、変わってしまうのはいけないことなのですか?」
 仁の前に湯飲みを置きながら礼子が尋ねた。
「お母さまは、『良い所は伸ばし、悪い所は直せばいい』というようなことを仰っておられました。それって、元の状態から変わってしまいますよね?」
「そうだな……」
 思い掛けない礼子からの疑問。確かに、それも一つの変化といえるのだろう。
「何のための変化か、ということなんだろうな」
「うん、人々のため、それは間違いないと思う」
 エルザも一緒に考えてくれている。
「でも、やっぱり、人というものは、未知のものを恐れるもの、と思う。今にあまり不満がなかったら、敢えてそれを変えてみようと思う人がどれくらいいるか……」
「なるほどなあ」
 エルザの見方も納得できる。
「と、なると、変えるのではなく、変えたいと思わせることが肝要なのかもしれないな」
「そう。それも、反論がないくらいに」
 確かに、ある人は自分の利益になるから変えたいと思うかもしれない。が、別の人は不利益になるから止めてくれ、というかもしれない。
「上からか、下からか。そういう方向もある」
 貴族が使っているのを見て裕福な商人が、そしてまたそれを見た庶民が、というように普及していくか、庶民が使っているものをより洗練させて貴族が使うか。
「おそらく上から下、なんだろうな」
 庶民から貴族へ、という流れはそうそうあるとは思えなかった。
「よくよく考える必要があるってことだな」
「ん」
 そろそろ夜風が冷たくなってきたので、熱いほうじ茶を飲み干した仁とエルザは、ベランダを離れ、それぞれの寝室へと向かったのである。

*   *   *

「うわあ、ジン様、これ、何ですか?」
「馬のいらない馬車……なんでしょうか?」
 2台の自動車を見て、バロウとベーレが驚いている。

 3月も終わりの30日、仁は自動車を屋敷の庭に引っ張り出したのだ。
「昨日裏庭に新しく建物を作ったと思ったら、こんな凄いものを作ってしまわれたのですか」
 とはバロウの言葉。ちょっと違うのだが、訂正するほどでもないので否定はしないでおく。
「ああ。こっちを今回、女皇帝陛下に献上するんだ」
 豪華に飾り立てた方を指差し、仁が説明する。
「わあ、凄いです!」
 ベーレが手放しで称賛した。だが。
「あ、あの、ジン様、皇帝陛下の紋章を勝手に使って構わないのでしょうか?」
「え?」
 バロウの何気ない疑問に、仁とエルザは気が付いてしまった。これはちょっとまずい。
「うーん、紋章だけ取り外して、献上後に取り付け直すか」
「ん、それがいいと思う。……私も、うっかりした」
 いつもフランクな女皇帝陛下なので、ついやらかしてしまったというところだろうか。
 仁とエルザは急いで紋章部分を取り外した。このあたり、工学魔法という物は便利である。

「さて、ちょっと乗ってみるか?」
 まだ時間があるので、バロウの忠告に対する褒美というわけでもないが、この機会にバロウとベーレを乗せてやろうと仁は思った。もちろん、反応を知りたいということもある。
「え、いいんですか?」
「ああ、こっちの自家用の方だがな」
 ということで、自分用に作った自動車に2人を乗せ、庭の中を走ってみることにした。
「わあ、面白いです」
 ベーレは純粋に楽しんでいるが、バロウは無言のまま。
 庭の中を3周ほどして終了。仁は感想を2人に聞いた。
「凄かったです! さすがジン様です!」
 ベーレはただ称賛の言葉を述べるだけだったが、バロウはもう少し冷静な感想を言う。
「乗り心地も快適ですし、何といっても前がよく見えるのがいいですね!」
 馬がいらなくなったため、前方の視認性が増したのだ。
 もう1つ、運転席を一段低くし、客室を少し高くした効果もある。大型観光バスの運転席が低いのを模したわけだ。
「なるほどな」
 製作者側とはまた異なる意見を聞けたことで、仁は嬉しかった。
 同時に、フロントガラスを大きく取ったことは間違っていなかった、とも思う。

「よし、そろそろ出掛けるか」
 時刻は午前8時。ゆっくりと自動車で行けば9時前には宮城(きゅうじょう)に着けるだろう。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて」
 バロウとベーレに見送られ、仁とエルザ、礼子とエドガーは自動車で出発した。
 エドガーが運転手を務め、仁とエルザ、礼子が乗った車が先導し、献上する車がその後に続く。
 時速15キロくらいでゆっくりと走れば、街の人たちはこぞって足を止め、興味深そうに眺める。
「馬もいないのに走ってるよ」
「すげえ」
「不思議な馬車だ!」
 そんな声がそこかしこから聞こえてくるが、『乗ってみたい』という声は一つも無かった。
「うーん、やっぱり自動車は大衆受けしないようだな……」
「ジン兄、それも仕方ない。庶民は馬車ですら使う事はまれ」
 行商人は荷馬車を使うが、荷馬車は乗用馬車とは一線を画すほどモノが違う。
 荷馬車は居住性など考慮されてはいないからだ。故に、行商人は毛布や毛皮を持ち込み、少しでも居住性を高めようとしていた。
「やっぱり自動車は上から下へか……」
 王族、貴族、富裕層、そして一般庶民。
「……ミツホではどんな道を歩んだのやら」
 富裕層から一般へ、という流れは地球でも同じなので、仁は改めて文化の浸透ということについて考えてみるのであった。

 いよいよ自動車は宮城(きゅうじょう)へ続く大通りに差し掛かった。
 仁たちの自動車以外に、2台の馬車が同じように宮城(きゅうじょう)へと向かっている。
 その馬車の御者も、乗っている貴族も、驚いた顔で自動車を見つめていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150724 修正
(誤)待ちの人たちはこぞって足を止め
(正)街の人たちはこぞって足を止め
+注意+
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