挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

24 魔導砦篇

848/1503

24-34 アンの姉妹

 クロゥ砦跡にはめぼしいものは残っていなかった。
 それは、『頭脳』が自壊命令を出したため、と考えられている。
 唯一の朗報は、オランジュが貯め込んだ保存食料であった。
 これは、オランジュが領地に貯め込んだ食糧と共に国が没収。近日中にフランツ国民に還元されるだろう。
 これらの顛末は、魔素通話機(マナフォン)によって、即日各国へと伝えられたのである。

「……まったくもって、大きな損失だ」
「人間同士が争うことに、こんな意外な損失があるとは」
「考えさせられる出来事ですね」
「いずれにせよ、これで少しは大陸が静かになるな」
「もっと自らを高める努力をしていくべき、ということか」
 連絡を受けた各国の反応はさまざまだが、共通していることは同族同士での争いが不毛だという再認識、であろうか。

 一方、『国際指名手配犯』とでもいうべきルフォール・ド・オランジュは、新生フランツ王国において断罪された。
 彼は最後の最後まで喚き叫んでいたという、その様子も含めて、処刑の詳細が各国に伝えられたのである。
 その他の者たち……ダジュール・ハーヴェイは終身刑。ただし、その手腕を見込まれて、軟禁し、監視状態でいろいろな魔導具を開発させることになった。
「まあやりたいことをやらせておけば、害にはならない男だから……」
 とは、一応面識のあったチハラッド・サウトの言である。
 オランジュの腹心、ボッカー・オーヴの方は本人の希望もあり、主と共に処刑された。
「あんな者にも忠臣はいるのだな……」
 と、処刑に立ち会った新国王は複雑な顔で呟いたという。
「……ようやく、ここからが我が国の始まりだな」
 新国王、ロターロ・ド・ラファイエットは小さく溜め息をつくと、その顔を上げ、窓の外に広がる青空を見つめた。

*   *   *

 蓬莱島は何かと忙しかった。
 魔導頭脳『太白』の整備を終えた仁は、青髪の自動人形(オートマタ)2体の修理に手をつけた。助手は礼子と、珍しくアン。エルザは見学に回っている。
「……なんて杜撰な修理なんだ。いくら修理用の素材が無いからといっても限度ってものがあるぞ」
 仁の目から見たら、ダジュール・ハーヴェイやボッカー・オーヴらの修理は杜撰そのものであった。
 もう1つ、この2体は修理用ゴーレムに委ねなかった、という理由もある。とはいえ、修理用ゴーレムならもっとましな修理ができたかというと疑問が残るが。
「アンの時よりは少しましだな。保存環境の違いだろう」
「……そうかもしれませんね」
 心なしかアンの表情が暗い。
「骨格の腐食は少ない。これも環境の差なのかな?」
 仁の目は、内部の構造に、とある特徴を見出みいだした。
「こっちの自動人形(オートマタ)はアンそっくりだ。そっちは少し違う箇所があるけど」
 その言葉にアンが反応した。
「やっぱりそうなんですね」
「アン、気付いていたのか?」
「はい、ごしゅじんさま。この自動人形(オートマタ)は、わたくしめにごく近い製造ロットです」
 仁からの知識も得ているので『製造ロット』などという言葉を口にしたアンだが、この世界にそういう概念はまだ存在しない。
「なるほどなあ、要は本当の意味での『姉妹』ということになるな」
「はい」
 アンがそんなことを言ったので、仁はまずこちらから終わらせることにした。
「礼子、クロムとバナジウムを頼む」
「はい、お父さま」
 骨格の鋼鉄にクロム、バナジウムなどの元素を添加し、『合金化(アロイング)』でクロムバナジウム鋼とする。
 添加した分、ベースになる鋼は若干分離して、体積が変わらないようにするのも忘れない。
「ジン兄、今回の特殊鋼? はどういう性質があるの?」
 助手でなく、見学に徹しているエルザからの質問が来た。
「バナジウムは硬度や耐磨耗性、耐食性、それに靭性を増すんだ」
 簡単に説明する仁。仁とて、金属原子がどう働いてそうなるかまでは知らないので仕方がない。そうなることを知っているだけだ。
「筋肉組織はもうぼろぼろだな。素材が無くて直せなかったんだろう」
「ジン兄、何か必要だったら持ってくる、けど」
「ああ、それなら標準の魔法繊維(マジカルファイバー)を頼む」
「ん、了解」
 同時に、アンには皮膚に使用するための魔獣の革を用意してもらった。
「あとは……ああ、魔素変換器(エーテルコンバーター)の再調整……いや、交換した方が早いな」
 ダジュール・ハーヴェイには不可能だったことも、仁なら朝飯前である。
 再調整でなく交換なのは、3分の1という自由魔力素(エーテル)濃度の差は、調整くらいでは追いつかないほど大きいのだ。
「逆なら問題ないのにな」
 逆に、低い自由魔力素(エーテル)濃度用に調整された魔素変換器(エーテルコンバーター)は高濃度でも問題なく使用できるのである。
「礼子、制御核(コントロールコア)用の魔結晶(マギクリスタル)を頼む」
「はい、すぐに用意します」
 アンの時もそうだったが、制御核(コントロールコア)用の魔結晶(マギクリスタル)の劣化は無視できない。
 貴重な過去の知識をみすみす失うわけにはいかないのである。
「『知識転写(トランスインフォ)』」
 加えて、こうして制御核(コントロールコア)を作り直すことで、文字通り仁が『製作主(クリエイター)』として認識されることになるのだ。
 その他にも、髪や目、発声機構を交換したり、傷んだ服を交換したり、と、青髪の自動人形(オートマタ)の修理は完了した。
 当然、『隷属書き換え魔法』対策のシールドもしている。
「ありがとう。勉強になった」
 エルザに見せるため、ゆっくり作業を行った仁である。本気でやればこの5倍くらいの作業速度だろうか。
「よし、『起動』」
「……」
 青髪の自動人形(オートマタ)が起き上がった。万が一の事を考え、礼子は仁を守るようにその斜め前へと移動した。
「はじめまして、ご主人様」
 自動人形(オートマタ)が挨拶をした。
「調子はどうだ?」
 仁の質問に、自動人形(オートマタ)は綺麗なお辞儀をして見せた。
「はい、素晴らしい調子です。ありがとうございます」
「お前の名前は?」
「ロルといいます。これからよろしくお願い致します」
「うん、頼むぞ」
 その時ロルは、仁の背後にいる自動人形(オートマタ)に気が付いた。
「……あなたはもしかしたら『アン』では?」
 この質問にはアンだけでなく仁もエルザも、礼子も驚いた。量産された自動人形(オートマタ)同士が知り合いである可能性は低いと思っていたからだ。
「ええ、私はアンですが」
「やっぱり。私を覚えてませんか?」
「はい、残念ながら。……実は、私の制御核(コントロールコア)は劣化が酷かったため、一部の記憶が欠損しているのです」
「まあ、そうだったのですか」
 そんな、姉妹ともいえる2体の会話を聞いていた仁は、粋な提案をする。
「アンもロルも、ここはいいから、しばらく向こうで話をしておいで」
「ごしゅじんさま、よろしいのですか?」
「ああ、いいとも。そうした口頭での情報交換も有益だろうしな」
 これは、建前としてそう言っておかないと遠慮してしまうだろう、との判断からだ。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 仁に一礼し、2体は工房の隅へと移動した。
 仁はといえば、もう1体の自動人形(オートマタ)に取りかかることにした。
 今度はエルザと礼子が助手だ。
 エルザも、一度見ていた工程なので戸惑うことも少なく、ロルの時よりも短い時間で修理は完了したのである。
「『起動』」
「はい、ご主人様」
 こちらの自動人形(オートマタ)はその名をレファと言った。
「もしかして、と思うが、『ティア』という自動人形(オートマタ)に覚えはあるか?」
 ふと思いついた仁が聞いてみると、思った通りの答えが返ってきた。
「はい、私と同時期に作られた自動人形(オートマタ)です」
「そうか、やっぱりな」
 ティアというのは、クライン王国の第3王女であるリースヒェンの乳母として仕えている自動人形(オートマタ)で、かつて仁が完全修理したのである。
 そのティアと、レファの構造がそっくりだったため、仁はもしかして、と思ったのである。
「……名前の付け方にも何か理由がある?」
 エルザが思いつきを口にした。
「はい。私どもは、作られた時期によって、名前の傾向を合わせた、と聞いております」
「アンとロル、ティアとレファ。……なんとなく、わかる」
 アン(ANN)、ロル(ROL)。それにティア(TEAR)、レファ(REFA)。
 ロットごとに文字数を変えたのかもしれない、と想像したエルザの勘が当たったのである。

「ロルもレファもアンの姉妹になるわけだ」
 感慨深そうに仁が呟いた。それを聞きつけたレファの反応は。
「アン、とは?」
「ああ、向こうでロルと話をしているよ。レファも参加してくるといい」
「はい、ありがとうございます」
 こうして、仁の下には魔導大戦時の貴重な自動人形(オートマタ)3体が集ったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150624 修正
(旧)・・・自動人形(オートマタ)の修理は完了した。
(新)・・・自動人形(オートマタ)の修理は完了した。
当然、『隷属書き換え魔法』対策のシールドもしている。

(旧)3人とも、アンを発見したその場にいたのだから。
(新)量産された自動人形(オートマタ)同士が知り合いである可能性は低いと思っていたからだ。
 読み返してみると、驚いた理由がよくわかりませんね。
 おまけに、アンを発見したのは仁と礼子、それに「ラインハルト」ですし。

(誤)エルザがが思いつきを口にした。
(正)エルザが思いつきを口にした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ