挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

24 魔導砦篇

847/1472

24-33 クロゥ砦、陥落(裏)

 時間は少し前に遡る。
 そう、ダジュール・ハーヴェイがクロゥ砦に逃げ込んできて、補佐役自動人形(オートマタ)のレファが目覚めたとき。
(この人間はいったい……?)
 目覚めて最初に見たのはルフォール・ド・オランジュという人間であった。
(保有魔力が少ない。少なすぎる。こんなレベルでこの砦にいるのでしょうか)
 疑問はあったものの、レファの基本命令には『起動した際、目の前にいた人間に従う』というものがあったので、反抗することはなかった。
『オランジュサマ、ヨロシクオネガイイタシマス』
 レファの深層意識とは裏腹に、その口からはオランジュに益のある助言が語られる。
『ズノウヲ サイキドウスレバ、コノトリデハ ナンコウフラクニナリマス』
(ですが、『頭脳』がどう判断するか、それは私にはわからないのですけどね)
 こうした2面性を内に秘めながらも、レファはオランジュのためになる助言をしつづけていったのである。

 そして、ついに『頭脳』が再起動した。
 初めのうちこそ、情報収集に専念していた『頭脳』であったが、必要最低限な情報を得てからは、イニシアティブを発揮するようになる。
 それは、侵入した兵士、『ドーハス』の知識を読み取った直後。
 人間同士が戦っているこの現状に矛盾を感じた『頭脳』は、敵味方の区別をせずに、争いを止めることを選んだのである。
(『頭脳』はそういう道を選びましたか)
《『衝撃(ショック)』》
「ぎゃああ! レ、レファ、な……ぜ……」
 司令室にいたオランジュを『衝撃(ショック)』の魔法が襲った。
 そして、砦内各部署にいた者たちも同様の目に遭っていた。
《彼等を傷付けないよう、地下1階にある監禁室に移すように。そして、目を覚まさないよう、『睡眠』の魔法を掛けておくように》
 このような指示が出され、それが遂行され終わったのは、しのび部隊が派遣される直前であった。

*   *   *

(《今の状況は理解に苦しむ……いったいこの300年の間に何があったのだ……》)
 考えてわかることではないが、考えるしかできない『頭脳』の前に、その自動人形(オートマタ)が現れたのだ。
 青い髪、華奢な体躯。汎用の助手自動人形(オートマタ)と同じ型であることは一目でわかった。
 だがその中身は全くの別物だったのだ。
 青髪の自動人形(オートマタ)としばしの問答の後、成された提案。
 更なる情報を与える、ということに、『頭脳』は素直に諾、と言えなかった。
 そしてその青髪の自動人形(オートマタ)に攻撃を仕掛け……全てをはね除けられてしまう。
 諦めた『頭脳』は青髪の自動人形(オートマタ)の提案を呑む。
 こうして『頭脳』は更なる情報を得た……。

『頭脳』は、少しだけ早計な結論を出してしまう。すなわち、砦内魔導機(マギマシン)の自己破壊命令を出したことである。
 老君は『頭脳』をこのまま消滅させるのは惜しいと思い、これから先、仁の役に立つよう説得する。
 結果、『頭脳』は蓬莱島すなわち仁の傘下に入ることを希望したのである。
『老君』と『頭脳』は、この砦と砦にある魔導機(マギマシン)の処分方法について短い協議を行い、方針を決定した。

*   *   *

 宣言を発する少し前、老君は職人(スミス)10体と調整した『転送銃』をアンの下へ送り出した。
 職人(スミス)10体はあっという間に『頭脳』を台座から引き離し、転送できるようにしてしまう。
 それを見たアンは、『頭脳』に向けて転送銃の引き金を引く。
 一瞬で『頭脳』は蓬莱島へ転送される。そして『頭脳』が有った場所にはぽっかりと空間ができた。
『あとは『頭脳』のふりをして宣言すればいいだけですね』
『頭脳』の声を真似ることなど老君には朝飯前。『拡声の魔導具(ラウドスピーカー)』を送り込み、そこから声を出すことにした。
 もちろん、『魔素通信機(マナカム)』の要領で蓬莱島から、である。

《包囲している人間に告ぐ!……》
 老君は宣言を発した。
 その結果が現れるのにはしばしの時が掛かったものの、ほぼ計画通りに事は運んだのである。

*   *   *

御主人様(マイロード)、全て終わりました』
「ご苦労。で、『頭脳』はどうした?」
 蓬莱島では既に夜更け。エルザは寝てしまったが、仁は結果を知るため起きて待っていた。
『はい、一時研究所裏の広場に』
「よし、見に行こう」
 研究所裏には、巨大なテントが立てられている。丈夫な作りで、台風が来てもびくともしない。
 とはいえ、そのような場合は風避けの結界を張るので、そこまで丈夫にする意味があるのかと問われたら返答に窮するのだが……仁が。

「おお、これが『頭脳』か」
「はい、御主人様(マイロード)
 老君の移動用端末『老子』が一緒に来ていて、説明してくれる。
《初めてお目に掛かります。私は『頭脳』と呼ばれております。どうぞお見知りおきを》
「こちらが仁様、私どもの御主人様(マイロード)であらせられます」
「仁だ」
《お役に立ちたく存じます》
「うん、ありがとう。早速だが、再調整させてもらえるかな?」
《はい、それはもちろん》

 今の『頭脳』は、300年前の世界情勢に合わせて調整されている。知識然り、エネルギー系統然り。
 それらを仁は今の時代に合わせ直そうというのである。
 そのためには、『魔鍵語(キーワード)』が必要になる。
 単なる停止状態では、部外者が手を加えようとした場合に、いろいろと問題が生じるのだ。
 不具合内容はセキュリティによるが、最悪爆発することさえある。
「よし。停止させるぞ。『魔鍵語(キーワード)』は?」
《はい、『ディナールの栄光』です》
 老君に全面降伏した『頭脳』は、その老君の主人たる仁にも服従していた。
 これは、最早『頭脳』の基本命令である『魔族との戦い』が存在しないが故でもある。
 そういった点も含めて、仁は再調整しようと思ったのだ。

「『ディナールの栄光』。『停止せよ(ビホールト)』」
『頭脳』を一旦停止させ、再調整に入る仁。まずはその制御核(コントロールコア)からだ。
消去(イレーズ)』と『書き込み(ライトイン)』、それに『上書き(オーバーライト)』を駆使して、書き換えを行っていく。
 もちろん、存在意義は老君らと同様、『仁への奉仕』である。これがある限り、絶対に反乱は起こせない。
 次いで基本命令。自己保存、蓬莱島の守護、崑崙島の守護、ファミリーへの奉仕。
 同時に、処理系の最適化も行っておく。
 知識・情報エリアは弄らない。魔導大戦時の生き証人でもある『頭脳』の情報は貴重だからだ。
 制御核(コントロールコア)系統の調整が終わると、エネルギー系の再調整に入る。
魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)は旧式だな」
 これらは今の自由魔力素(エーテル)濃度には対応し切れていないのがありありとわかった。
「『魔力反応炉(マギリアクター)』に交換、と」
 夜も更けてきたので、とりあえずそこで一旦終了する。
 あまり夜更かしすると、礼子に注意されるからだ。
「一旦起動させてみるか。『ディナールの栄光』。『起動せよ(ウエイクアップ)』」
《……御主人様(マイロード)、よろしくお願いいたします》
『頭脳』が目覚めた。
「どうだ、調子は?」
《はい、御主人様(マイロード)。とてもいいです。魔力素(マナ)の流れが改善され、能力を十二分に発揮できます》
「そうか、それはよかった。これからよろしくな、『頭脳』」
 その呼びかけに、『頭脳』は反応した。
御主人様(マイロード)、図々しいお願いですが、私にも名前をいただけないでしょうか》
「ん? そうか。そうだな、『頭脳』っていうのは名前じゃないものな」
 ということで仁は考えて見る。そして。
「『太白』というのはどうだ?」
《はい、私はこれから『太白』です。よろしくお願いいたします》

 太白、というのは『太白金星』から取った。
 仁が世話になっていた施設……孤児院の院長先生が好きだったテレビシリーズで聞き覚えていたのである。
 老子と共に、天帝に仕える役人だった、くらいの記憶であるが。

 因みに、太白金星、というのは明けの明星・宵の明星である金星を擬人化したものである。

 何はともあれ、こうして仁の下に新たなる配下が誕生したのであった。
「太白」……乾燥芋(干し芋)にすると美味しいサツマイモの品種らしいです。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150623 修正
(旧)宣言を発する少し前、老君は調整した『転送銃』をアンの下へ送り出した。
(新)宣言を発する少し前、老君は職人(スミス)10体と調整した『転送銃』をアンの下へ送り出した。
 職人(スミス)10体はあっという間に『頭脳』を台座から引き離し、転送できるようにしてしまう。

(旧)それ受け取ったアンは、『頭脳』に向けて転送銃の引き金を引く。
(新)それを見たアンは、『頭脳』に向けて転送銃の引き金を引く。

(旧)一瞬で『頭脳』が有った場所は球形に切り取られたかのようにぽっかりと空間が空いた。
(新)一瞬で『頭脳』は蓬莱島へ転送される。そして『頭脳』が有った場所にはぽっかりと空間ができた。

「転移門」「転送」は、空間を渡るトンネルを作り、物体を移送する設定なのでそれに合わせました。

(旧)今の『頭脳』は、303年前の世界情勢に合わせて
(新)今の『頭脳』は、300年前の世界情勢に合わせて
 詳しければいいというものでもないですね。

 20150624 修正
 老子のセリフが2箇所、『』(老君用)になっていたのを「」に直しました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ