挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

24 魔導砦篇

840/1569

24-26 思惑

『王国軍別働隊』の攻撃が砦の壁に突き刺さったことで、『頭脳』の警戒レベルが一気に上がった。
《可能性1の検証として、洗脳解除を試行する》
 そして、外壁に隠された魔導機(マギマシン)から、『衝撃(ショック)』の魔法を、砦周辺に布陣する人間に向けて放った。
《攻撃側32名を無力化。もしも魔族に洗脳されていたのなら今の『衝撃(ショック)』で解放されたはず》
『頭脳』は、自己防衛を行うと同時に、できる限り人間を傷付けない方法を選んだのだった。
《これでどう反応するか、確認する》
 そして一時待機に入った。砦内部にいる人間の反応も同時に観察しながら。

*   *   *

「おお、やったではないか!」
 砦上階にある司令室で、魔導投影窓(マジックスクリーン)越しに外を観察していたルフォール・ド・オランジュは喜びの声を上げた。
『『頭脳』が目覚めたようですね』
 補佐自動人形(オートマタ)、レファの言葉を、オランジュは聞き逃さなかった。
「今何といった? 『頭脳』が目覚めただと?」
『はい、オランジュ様。ああした魔導機(マギマシン)による攻撃は、砦を統括する『頭脳』なしには行えませんから』
「そうか、よしよし、ダジュールの奴はちゃんと仕事をしたようだな」
『そうだと思います。これでこの砦は難攻不落になりました』

 こうした会話も、『頭脳』は拾っていた。そして解析を行う。
 直接オランジュにコンタクトしないのは、嘘や誤魔化しの入りにくい日常会話を通じて、真実を知ろうという意図があるからだ。
「だがダジュールはなぜ報告に来ないのだ? 怠慢ではないか」
『仰せの通りです。誰か確認にやりましょう』

*   *   *

『頭脳』はオランジュと補佐自動人形(オートマタ)の会話を残らず聞き取り、解析していく。
《補佐自動人形(オートマタ)はあのオランジュという人間を主人としているようだ》
 補佐自動人形(オートマタ)は『頭脳』の支配下にはなく、独立した存在であるから、特定の個人に仕えているのは不思議ではない。
《だが、あの人間は断じて『司令官』ではない。その資格を有する可能性もほとんどない》
 魔導砦(マギフォートレス)の『司令官』になるには一定の資格がある。
 砦である以上、軍人であることはもちろん、相応の知識と経験が要求されるわけだが、それとは別に、『資格章』が必要になる。
 これはディナール王国が発行する階級章のようなもので、特殊な魔力波形を持つ、小さな魔結晶(マギクリスタル)があしらわれているのだ。
 それを持たないオランジュは、少なくとも『司令官』ではないことがわかる。
 では、何者か?
《考えられるのは、それなりの権限をもった地方領主ということになる》
 さすが『頭脳』、おおよそのところでその判断は合っている。
《軍との関係が薄いオランジュが、なぜ砦内の最高指揮官として振る舞っているのだ?》
 短時間で出せた仮説は3つ。

1.軍に連絡する時間がなかった。
2.取り囲んでいるのが軍である。
3.軍はもう存在しない。

 ここでも、『頭脳』はジレンマに陥る。それというのも、どちらの側に立つべきかの判断基準がないからだ。
『頭脳』は人間の味方として作られた。今のままでは目立った行動を取れない。
衝撃(ショック)』の魔法を放ったのは、自己保存のためであり、今のところそれ以上強力な攻撃手段は取れない。
 目覚めた以上、存在意義として人間の役に立ちたいのだが、それが叶わない。
『頭脳』は判断のため、更なる情報を欲していた。

*   *   *

『王国軍別働隊』司令官、カーター元帥は、部隊を1キロほど後退させた後、懐古党(ノスタルギア)の技術者、チハラッド・サウトと相談をしていた。
 今やチハラッドは参謀的な役割を果たしている。
「結界は消えたままです。今なら砦に侵入できるかもしれません」
 その提案にカーター元帥は渋い顔をした。
「だが、あの魔法で攻撃されたら? 死者はいないようだが、行動不能になるのは目に見えているぞ」
「ですから、戦闘用ゴーレムを投入するのです。どうやらあの魔法は、弱い雷系統の魔法でしょう。とすると、戦闘用ゴーレムには効きません。つまり、ゴーレムを盾に進めば……」
「……砦に近付くことができるというわけか。なるほどな。よし、やるだけはやってみよう」
 ということで、戦闘用ゴーレム10体と、兵士10人が選ばれた。
 その兵士の1人は第5列(クインタ)である。レグルス43、現地名『クーガー』といった。

「十分に注意しろ、ゴーレムの陰に入って進むのだ」
 カーター元帥自ら激励する。もちろん、砦内部に潜入してからの行動についても指示されるが、内部の様子が不明なため、ある程度は兵士たちの裁量に任されることになる。
 当然、最終目的はオランジュの捕縛と砦の占領だ。
「よし、行け!」
 10名の兵士と10体のゴーレムは出発した。
 500メートルまでは何ごともなく進み、そこから進行速度を落としていく。
 砦に近付くにつれ速度は更に落ち、終いには這うような速度になった。が、攻撃は来ない。
(こちらの出方を窺っているのか……)
 レグルス43、『クーガー』は老君とやり取りしつつ砦を見上げていた。その視覚情報も老君に送られている。
 そして10人は外壁まで達した。
「ここまでは何ごともなく来られたが、ここから先は難しいだろうな」
 10人の兵士のリーダー、ドーハスは、全員に向かって、更に気を引き締めるよう声を掛けた。
「扉が破れないことは先日の攻撃でわかっている。外壁を乗り越えるしかない」
 だが、それこそ砦からは格好の標的になるだろう。
「ドーハス殿、穴を掘ったらどうでしょう」
 クーガーが提案を行った。
「穴?」
「はい。ゴーレムの力なら短時間で掘れるのではないかと」
 壁を越えるのではなく下をくぐる。通常、夜中に行われる工作である。
 まれに行われる手ではあるが、真っ昼間、それも10人がそのような手段を取るとは思わないかもしれない、とドーハスはその案を採用することにした。
「よし、やってみよう。5体は穴を掘れ。残る5体は我々を守るのだ」
 この位置は外壁に遮られ、彼等が何をやっているかは見えない。
「砦内に人員がいない証拠だな」
 通常なら外壁の上にも見張りがいるはずで、その場合このような策は下の下なのだが、今は上策と思えた。
 地面は岩混じりの土で、外壁の基礎部分は地下1メートルまで埋もれていた。
 ゴーレムの力により、およそ1時間で人一人、いや、ゴーレム1体が通れる穴が空いた。
「よし、行くぞ。もし行きたくない者がいたら今言ってくれ。後で足手纏いになってもらいたくない」
 ドーハスの言葉に、誰も口を開かなかった。
「うむ、では行くぞ」
 ドーハスのゴーレムが先頭で穴に飛び込んだ。ドーハスがそれに続く。
 そして次々と10体のゴーレム、10人の兵士が穴をくぐったのである。

 10人と10体は砦中庭に出た。
 外壁と砦本体との間に設けられた緩衝地帯で、砦までは10メートルほど。
 砦に向かって右側には出入り口があるが、歩哨も見張りもいない。
 出来過ぎている気がするものの、ここまで来て引き返すことはできない。
「よし、一人ずつあの入口に向かえ」
 ドーハスはそう命令したのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150616 修正
(誤)しないには這うような速度になった
(正)終いには這うような速度になった

(誤)一人ずつあの入口に迎え
(正)一人ずつあの入口に向かえ

(誤)地面は岩交じりの土
(正)地面は岩混じりの土

(旧)10人、10体のゴーレムが穴をくぐった
(新)10体のゴーレム、10人の兵士が穴をくぐった

(誤)ですから、戦闘用ゴーレムと投入するのです
(正)ですから、戦闘用ゴーレムを投入するのです

(誤)最終目的はオランジュの拿捕
(正)最終目的はオランジュの捕縛
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ