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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

03 港町ポトロック篇

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03-23 結末

「ゴーレム!?」
「あれは、間違いなくバレンティノのゴーレム!」
 扉をこじ開けて入ってきたのは、競技に出ていたヴァレリオ卿作のゴーレム、すなわちオーナーはバレンティノ。
「奴め、追い詰められて暴挙に出たか」
 更にもう1体、同じ型のゴーレムが姿を現した。
「2体! 密輸で儲けた金に飽かせて造らせたのか!」
 2体のゴーレムは胸まで水に浸かりながらも、確かな足取りで近づいてくる。
「そのエルラドライト取引の証拠を狙って来たんだろうな」
 3隻ある船のうち、マルシアの双胴船目指して真っ直ぐ進んでくるのだ。
 ラインハルトはローレライを呼ぶ。
はい(ヤー)創作者様(ミア・シェプフェル)
 水中から人魚型ゴーレム、ローレライが姿を現した。
「待てラインハルト、まさかローレライであのゴーレム2体を止めるつもりか?」
 ローレライの材質は魔獣の革、金属相手では分が悪い。心配した仁がそう聞くと、
「ああ、こう見えてもローレライの戦闘力は高いんだ。水中限定だけどね」
 そう言って、ローレライに指示を出した。
 ローレライは水中に姿を消す。そして次の瞬間、2体のゴーレムは足を取られたようにバランスを崩し、倒れた。
「うまいぞ! さあ今のうちにここから出るんだ!」
 ラインハルトはエルザ、マルシアを先に立て、ドックから避難させようとする。が、
「いやだ! このまま放っておいたら、あのゴーレムはあたしの船を壊すんじゃないのか!?」
「ああ、確かにな。見たところ、2体のゴーレムは半自律タイプのようだ。目的を達するか、破壊されるかするまでは動き続けるな」
 そう言った仁に、マルシアが半自律タイプってどういうもの、と尋ねた。

 その問いにはラインハルトが答えた。
 曰く、半自律タイプとは1番多く作られている形式で、行動に多少の自律性を持っている。
 例えば、『**を持ってこい』という命令を出せば、細かい制御をせずとも動作するのだ。
 逆にこれ以上の自律性を持たせるとなると途端に難易度が跳ね上がって、作れる魔法工作士(マギクラフトマン)はぐっと少なくなる。
 と。

「うーん、ここは狭すぎる……」
 一方、仁は悩んでいた。礼子ならあんなゴーレムの10や20、余裕なのだが、この狭いドック内で、周りに被害出さないようにとなると戦い方が限られてくる。
 礼子の体重だと、ゴーレムを破壊できる力で殴った場合、その反動で礼子も後ろに飛ばされる可能性が大だ。そうなると壁をぶち抜いてしまうだろう。
 何かいい攻撃方法はないか、とドック内を見渡すと、それが見つかった。
「礼子! あの錘をやつらにぶつけろ!」
 それは、20キロはあろうかというバラスト。船を一時的に固定するための錨代わりに使用したりするものだ。
「はい、お父さま」
 礼子はその鉄の塊を軽々と持ち上げたかと思うと、20パーセントの出力でゴーレム目掛けて投げ付けた。
「あ」
 それは誰の声だったか。
 礼子の投げた錘は、ゴーレムの上半身を粉砕し、更にドックの外まで飛び出していったのだ。
「扉が開いていて良かった……」
 ゴーレムがこじ開けて入って来たため、扉を壊さずにほっとする仁。更に礼子はもう1体目掛け、錘を投げ付けた。
 2体目のゴーレムはその錘を受け止めようと手を伸ばしたが、礼子が20パーセントの出力で投げた鉄の塊を受け止められるものではない。
 超高速で飛ぶ鉄の塊は、差し出した腕を粉砕し、胸部をひしゃげさせ、そのまま上半身を突き抜け、なおも速度を保ったまま、ドック外の海上まで飛んでいったのである。
「…………」
「……」
 それを見ていた者達は声も出なかった。
 そんな彼等の中で最初に我に返ったのはラインハルト。
「ローレライ、ゴーレムの制御核(コントロールコア)を見つけ出せ!」
はい(ヤー)
 制御核(コントロールコア)を解析すれば犯人が特定できる。ローレライはすぐに2個、制御核(コントロールコア)を水中から拾い上げてきた。
 一方、今ごろ集まってきた衛兵達に向かって、状況を説明していくラインハルト。エルザも横でそれを裏付けている。
 その様子を見た仁は、やっぱり身元が確かだと言うことは役に立つんだなあ、と思っていた。

「なるほど、ゴーレム2体がドックの扉をこじ開けて襲ってきたと」
「守衛も怪我をしていますがそれは間違いないと言っています」
「とにかく、領主様のところへお越し下さい」
「われわれはここを警備しています」

 大騒ぎとなって来ていた。仁達は重要参考人として、ポトロックを含むエリアス王国南部を治める女領主、ドミニク・ド・フィレンツィアーノ侯爵の元へと出向くこととなったのである。

*   *   *

 一方、そのドミニク・ド・フィレンツィアーノのいる庁舎。
 ハドソン侯爵3男、バレンティノ・ド・ハドソンは取り調べのため2階の1室に監禁されていた。曲がりなりにも領主補佐のため、牢ではなく、庁舎の部屋にではあったが。
 詳しい取り調べは明日行われる予定になっている。
 ドア前には2人の衛兵がおり、逃げ出す事は叶わないと思われていた。が。
 室内でガラスの割れる音がした。
「何だ!?」
 衛兵はその音に驚き、ドアを開けて部屋の中をのぞき込み、仰天する。
「ご、ゴーレム!?」
 そこには2体のゴーレムがいた。仁が見たら、カイナ村で税を運ぶ時に襲ってきたゴーレムと同じだと気付いたであろう。
「ふふふ、こいつらがいる限り俺は捕まらないさ。もうこんな国に用はない!」
 そう言ってバレンティノはゴーレムの空けた穴から外へと飛び出していった。2体のゴーレムもそれに続く。
「ま、待て!」
 衛兵の1人がそれを追って外に飛び出す。もう1人の衛兵は領主に報告すべく走った。

「なんですって! バレンティノが逃亡!?」
 報告を聞いた領主は我が耳を疑った。身元のはっきりしている貴族の子息が断罪を恐れて逃げ出したというのだ。
「大至急手配なさい!」
 配下に指示を出す、が、この町には衛兵が少ない。自分が連れてきたのは10人、元からいたのが20人。
 勤務の関係で半数は休んでおり、ゴーレム2体を相手するのには少々足りない。
 と、そこへ、
「フィレンツィアーノ様、ショウロ皇国よりのお客様、ラインハルト様とエルザ様、それに今日の優勝チーム『MJR』の方達が至急お話があると見えています。港の衛兵も一緒です」
 仁達だけでは後回しにされただろうが、貴族が一緒と言うことで女領主は通しなさい、と命じた。内心迷惑に思いつつ。
 だがその『お話』を聞き始めるとその顔色が変わった。
 そしてラインハルトがゴーレムの制御核(コントロールコア)に『読み出し(リード)』を掛け、指示内容を表示させると、
「ゼッケン35の船を破壊し、中に隠してあるエルラドライト取引の証拠を回収しろ、ですって!? 命令者は……バレンティノ!!」
「その証拠は回収済みです。これがそうです」
 ラインハルトが証拠をテーブルの上に置く。フィレンツィアーノの顔色が更に変わり、この紋章はバレンティノの使っている物に違いない、と言った。

「お話を総合すると、バレンティノは密輸に関わっていたようですね」
 女領主、フィレンツィアーノが言うには、マルシアの船に隠されていた契約書にかかわると思われるエルラドライトは1年前、王家に献上される途中、何者かによって盗まれた物ではないかということだ。
「その証拠に、Eの刻印が描かれています」
 確かに契約書に書かれた図の石には、4つ全部に小さくEの刻印が入っているように描かれていた。間違いないだろう。

「しかしよくそんな場所に隠したものですね」
 女領主が変なことに感心する。マルシアはちょっと考えて、
「ああ、きっとあの時かも知れません。1年前、魔法工作士(マギクラフトマン)が見つからなくて参加できませんでしたが、今年と同じように、競技へ向けて船を大改造していたのです」
 その時はドックでなく、浜に上げていたため、誰でも近寄ることが出来た、という。
 珍しい形の船だったのでいい目印になると思ったのだろうと推測される。
「……その時、怪しい者を追いかけていたという報告がありました。捕らえて所持品検査しても何も出て来なかった、とありますね」
 過去の記録を見ながら侯爵がそう言った。
 同じ頃、マルシアはバレンティノに目を付けられ、妾になれと言われるのが鬱陶しくて双胴船ごと父親の店があった隣町へ行ったのだと言う。
 すぐ回収するつもりだったバレンティノはあせった事だろう。
「そして再び見つけた時には、なんと自分、もしくは取引相手が証拠を隠した船は言い寄っていたマルシアのもので、そのマルシアは競技に参加しようとしていた、というわけか」
 これで全ての辻褄がはっきりした。

「バレンティノを尋問すれば、エルラドライトを盗んだ者や取引をしている組織も皆わかりますね」
 ラインハルトがほっとした顔で言った。だが女領主は渋い顔で、
「実は……先ほどバレンティノはゴーレムに助けられて逃亡したのです」
「何ですって!?」
「この上は、王都へ報告し、バレンティノを指名手配しなければなりません。ラインハルト様、同道していただけますか?」
「ええ、もちろんです」
 仁とマルシアはこれで退出する。これから先は民間人の仕事ではない。

*   *   *

 そして翌朝、仁とマルシアは港で別れの挨拶をしていた。
「この町に来ることがあったら、訪ねてきておくれよ。『マルシア造船所』を立派に作り上げておくからさ!」
「ああ、楽しみにしてるぜ。いい船をたくさん造ってくれよ」
 こうして仁とマルシアは握手をして別れた。

*   *   *

 余談。

 バレンティノ以外で、密輸に関わった人間は次々に逮捕された。
 ドックに放火したのは金で雇われた警備隊の1人。非番だったが、顔パスでドックエリアに近づいたのだという。
 警備隊隊長も、バレンティノから袖の下をもらい、密輸時などにいろいろと不正を働いていたことが明るみに出、罷免された上、投獄。
 マルシアを襲おうとして礼子に気絶させられた男達は隣町で別件で捕まっていたが、余罪ありとみて尋問したらあっさりと白状したという。

 更に後日、イオ島の沖で凶魔海蛇(デス・シーサーペント)の死骸が大量に見つかったが、なぜこんなところで、という疑問に答えられる者はいなかった。
 これで3章は終わります。
 バレンティノは見かけ通りの気障男ではありませんでした。この先また登場予定です。本家がどうなったかも近いうちに書きます。
 凶魔海蛇(デス・シーサーペント)につきましてはそのうちに。
 お読みいただきありがとうございます。

 20130909 21時17分 表記修正
(旧)双胴船を破壊し
(新)ゼッケン35の船を破壊し
 双胴船、という言い方はこの世界では「まだ」一般的でないのと、ゴーレムへの命令としては「ゼッケン35の船」の方が適切かと。

 20140506 誤記修正
(誤)尋ねてきておくれよ
(正)訪ねてきておくれよ

 20140725 表記修正
(旧)扉を破って入ってきたのは
(新)扉をこじ開けて入ってきたのは

(旧)ゴーレムが破って入って来たため
(新)ゴーレムがこじ開けて入って来たため

(旧)ゴーレム2体がドックの扉を破って襲ってきたと
(新)ゴーレム2体がドックの扉をこじ開けて襲ってきたと
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