挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

24 魔導砦篇

832/1475

24-18 手強い相手

『それでは頼みます』
 9日深夜、老君は忍壱しのびいち忍弐しのびにを転送機で送り出した。
 ゴーレムにも老君にも昼夜の区別はない。忍び込む先もそうかはわからないが。何せ太陽のない地中深くなのだから。
『とはいえ、生物であるならば、『1日』という単位は必要でしょうし、それを惑星の1日に合わせるというのは合理的ですからね』

 時刻は、蓬莱島では日付が変わって10日になっている。エルラド鉱山では9日の午後11時頃だ。
 送り込まれた2体は、即座に『不可視化(インビジブル)』を展開、姿を消した。
 出た先は当然、コマンド2がマーカーを設置した部屋。空き部屋と老君が判断したのは正しかった。
『少なくとも今は使われていない部屋のようですね』
 忍壱からの視覚情報を得た老君がそう判断した直後、その視界が真っ暗になった。
『なにごとですか!?』
 老君は、周囲を警戒していた忍弐に、忍壱の様子を確認させた。
 すると、忍壱がいた筈の場所に、直径1メートルほどの半球状の金属構造物が伏せられているのが見えた。忍弐は即座に天井へと移動、隅に身を潜め、辺りを窺う。
 その金属構造物はミスリル銀かそれに類する材質のようで、忍壱は無理をせずにじっとしているようだ。
『……やはり、見られていましたか。で、罠を張って待っていたのですね』
 見られたとしても0コンマ何秒という短い時間だったろうが、そんな短時間で何があったかを見抜き、この罠を用意したということ。
『侮れない相手ですね』
 老君は、こうなったら、相手の正体を見破る方向でいこう、と考えた。それで、忍壱にはじっとしているよう指示を出す。
 同時に忍弐には、できる限り観察を続けるように命じた。

 金属の半球を被せた相手は誰か、と良く良く見ると、それは金属の外被を持ったゴーレムのような人型の存在。
 ゴーレムだとすれば、かなりの反応速度と、可視光域以外、それも仁のゴーレムと同等の領域を見る目を持っているということになる。
 が、天井に張り付いている忍弐には気が付いていないらしいので、視覚以外の探知方法は持たないらしかった。

 例えるなら『伏せたお椀の中』の忍壱をどうやって連れ出す気なのか、と忍弐が見ていると、工学魔法『変形(フォーミング)』を用いたらしく、中に忍壱を閉じ込めたまま、半球は球に変わったではないか。
『なるほど、参考になりますね』
 蓬莱島でのセキュリティにも応用できる、と老君は相手の手段に感心した。
 同時に、やはり油断できない敵であるとの認識を新たにする。そして、今回の反省点をチェック。
(『相手を見くびった? ……いや、今の持てる技術ではこれ以上の用心は……では作戦? しかし、情報を急ぎ集める必要もあり……』)
 こうした相手に対する対処法といっても特になく、経験は皆無。理論的に詰めていくしかないものだ。
(『相手が、最低でもこちらに匹敵するならば、罠を仕掛けられた時点でアウトですね。ならば、この状況を逆手にとって、相手の情報をできるだけ得るように持っていくしかないでしょう』)
 最早『超小型ゴーレム』の存在は知られてしまった。ならば、これ以上の情報を相手に与えないようにしつつ、相手の情報を得るように動く、ということで老君は結論を出した。

 その間、球形になった金属罠は謎のゴーレムの手によって運ばれていく。それを10メートルほど離れて忍弐が追跡していた。
 通路を進み、突き当たりの部屋のドアを開けてゴーレムは中に入った。扉が閉まり、忍弐はもう中の様子を見ることができなくなる。
『そこでそうしていても時間の無駄です。他の場所を観察してきなさい』
 老君はそんな指示を出した。
 それに従い、忍弐は通路の途中にあった分岐を進んでみることにした。
 できるだけ目立たないよう、床の端を歩いて行く。もちろん『不可視化(インビジブル)』状態でだ。
 そのまま、忍弐は通路を進んでいった。

*   *   *

 一方、突き当たりの部屋に運び込まれた忍壱は、周囲を覆っていた金属が突然消えたのを感じた。
 いや、正確には消えたのではなく、『変形(フォーミング)』により球が平面状になったのである。
 忍壱は身じろぎもせず、機会を窺っていた。
 その身体が突然重くなる。重力魔法だろう。100倍になった体重に、忍壱は身動きすることができなくなってしまったのである。
「ふうむ、このように精密なゴーレムを作ることができる技術者がいるのか」
 そんな忍壱を覗き込み、呟きを漏らした者がいる。
 広い視野の端で捉えたその姿は、700672号に似たところのある面差し。だが。
自動人形(オートマタ)……?)
 生物的ではなく、無生物的であり、一目で自動人形(オートマタ)であることが窺い知れたのである。
「お前は口がきけるのか?」
 との質問が投げ掛けられたが、その意図がつかめず、忍壱は沈黙を守ることとした。
「ふむ、警戒しているのか? それならそれでよかろう。お前を解体し、その制御核(コントロールコア)から情報を引き出すまでだ」
 そんなことになったら、仁や蓬莱島の情報が知られてしまう。躊躇うことなく忍壱は転送装置を使った。
 たとえ何Gが掛けられていようと、転送装置には影響が無い。
 謎の自動人形(オートマタ)の目の前で、忍壱は姿を消したのである。

「消えただと!? 転送装置を備えているというのか……。それだけの技術を持っているのは、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』と呼ばれているジン・ニドーくらいのものだろうな」
 謎の自動人形(オートマタ)はそう結論づけたのだった。

*   *   *

 忍弐は、老君から壱が脱出したことを聞いた。
『それを警戒し、次はないかもしれません。御主人様(マイロード)の情報を知られるのは避けなければなりません。一方で相手の情報はできるだけ多く必要です。もう少しだけ情報収集に努めて下さい。そしてもし捕まり、逃げられなかったら……』
 もう1つの防衛機能、『自己破壊』を作動させるように、と老君は念を押したのである。

 忍弐は慎重の上にも慎重に、通路を進んでいった。
 身長5センチであるから、ゆっくり進めばその進行速度は微々たるものとなる。
 とりあえず視覚情報は問題なく老君に送られているので、通路や部屋の構造が700672号と同じ技術系統であることは確実となった。

『ですが、あの姿は人造人間(ホムンクルス)ではなく自動人形(オートマタ)でしたね。一体何があったのでしょうか』
 蓬莱島の頭脳である老君はその理由を幾つか推測する。

1.外見だけ似せた自動人形(オートマタ)である。
2.老子やマキナのように、遠隔操作された自動人形(オートマタ)である。
3.製作者が、人工生物ではなく自動人形(オートマタ)を好んだ。
4.何らかの理由で、元の身体を維持できなくなり、自動人形(オートマタ)に意識を転写した。

 今のところ老君が立てた仮説は上記4つ。
(『敵対する可能性が小さいというのが救いでしょうか』)
 仁や蓬莱島と敵対すべき理由はないから、今のところ緊急性は低いと判断できる。
(『やはり、700672号に確認してもらうことが必要かもしれませんね』)

 その時、忍弐が思わぬ画像を送ってきた。
 たまたま近くの扉が開き、その部屋の中をのぞき込むことができたのである。
 ちょうど1体のゴーレムが出て来たのであった。
(『あれは……アルシェル!?』)
 部屋の中にはアルシェルと思われる外見の『何か』が数体確認されたのである。
『その部屋の中へ! 力場発生器フォースジェネレーターも使って!』
 老君は咄嗟の指示を出す。忍弐は言われたとおりに『力場発生器フォースジェネレーター』を使い、その部屋の中に文字通り飛び込んだ。
(『これは……』)
 忍弐の目を通して老君が見たものは、人造人間(ホムンクルス)の製造工場と言えばいいか。
 透明な容器の中に薄青い液体が満たされ、その中に人型の何かが浮いていたのである。
 何体かは明らかにアルシェルそっくりの外見をしており、これら全てがアルシェルを模して作られた人造人間(ホムンクルス)であると老君は判断した。
(『この謎……関連性は何としてでも明らかにしなくてはなりませんね』)
 蓬莱島の魔導頭脳、老君は、改めて情報収集のための計画を練るのだった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150608 修正
(誤)そんな忍壱はを覗き込み、呟きを漏らした者がいる
(正)そんな忍壱を覗き込み、呟きを漏らした者がいる

(旧)忍壱の視覚情報を得た老君がそう判断した直後、視界が真っ暗になった。
『なにごとですか!?』
 老君は視覚情報をすぐに忍弐からのものに切り替えた。
(新)忍壱からの視覚情報を得た老君がそう判断した直後、その視界が真っ暗になった。
『なにごとですか!?』
 老君は、周囲を警戒していた忍弐に、忍壱の様子を確認させた。

(旧)何らかの理由で、元の身体を維持できなくなり、自動人形(オートマタ)に意識を移した
(新)何らかの理由で、元の身体を維持できなくなり、自動人形(オートマタ)に意識を転写した

(旧)ゴーレムだとすれば、かなりの反応速度と、可視光域以外を見る目を持っているということになる
(新)ゴーレムだとすれば、かなりの反応速度と、可視光域以外、それも仁のゴーレムと同等の領域を見る目を持っているということになる

(旧)内部構造が700672号の系統であることは確実
(新)通路や部屋の構造が700672号と同じ技術系統であることは確実
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ