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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

24 魔導砦篇

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24-07 仁とエルザ、セルロア王国で

 同日午前9時、王宮正門前には人だかりができていた。
「殿下、グロリア、シンシア、ボールトンの3名、これより帰国の途につきます」
「うむ、道中気を付けてな」
 クライン王国のアーサー第2王子とその付き人兼家庭教師のリオネス・アシュフォード、それに女性近衛騎士隊長、ジェシカ・ノートンに見送られ、グロリア以下3人は馬に乗りセルロア王国首都エサイアを発つ。
 トーレス川を渡らず、北東へ向かい、クライン王国に入るルートを行く予定だ。
 各国代表のほとんどが彼等を見送りに来ていた。
「ジン殿、フリッツ殿から聞いた。剣……いや、刀、ありがとう」
「エルザ様、ペンダントトップ、ありがとうございました」
「ジン殿、エルザ殿、またいつかお会いしたいものです」
 仁たちをはじめ、皆に挨拶していく3人。
 ショウロ皇国の面々には特に丁寧な挨拶をしている。
「陛下、フリッツ殿と『ゴリアス』には道中いろいろとお助けいただきました。感謝の言葉もございません」
「フリッツ殿。ご縁があったらまたお会いいたしましょう」
 シンシアは少し涙ぐんでいるようだった。

「……シンシアさん、兄様が好き、なのかな」
「うーん、なんとなくそんな雰囲気だな」
 少し離れた場所で、他の面々に聞こえないよう、小声で会話を交わす仁とエルザ。
「でも、国が違うし、どっちも軍人。普通は、無理」
「そうなんだろうな……」
 少し寂しい思いの仁。
 自分は、ショウロ皇国出身のエルザ・ランドルと婚約をし、周囲も皆祝福してくれたのに、道ならぬ恋(?)に悩む者もいるのだ。

 そして3人は、セザール王から贈られた馬に跨り、手を振りながら皆の視界から消えていったのである。
 仁は、念のために、『空から』彼等の旅路を見守るように、老君に指示を出す予定だ。

 グロリア一行は馬を急がせる。そして見送りの人たちが見えなくなるほど距離が離れると……。
「ううむ、この『刀』! これは素晴らしい!」
 贈られた刀を馬上で抜き放ち、ためつすがめつ眺めて楽しむグロリアの姿が見られたという。

*   *   *

「今日の仕事は『鍵璽(けんじ)』だったな」
 見送りを終え、王宮に戻りながら仁が呟いた。
「はい、お父さま」
 礼子が答える。
「今日は、リシャール王の診察で間違いない?」
 エルザも、斜め後ろを歩くエドガーに確認した。
「はい、間違いございません」
 と、いうことで仁とエルザは、王宮の通用門をくぐった後、右と左に別れたのである。

「ジン殿、今日はよろしくお願いする」
「ジン殿、頼みますぞ」
「初めまして、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』、ジン・ニドー卿」
 王宮2階にある、窓のない小会議室で仁と礼子を迎えたのは、新王セザールと、親衛隊隊長に昇格したカーク・アット、それにもう1人。
「自分は、フォルツ・ダラント・アルファと申します。本日はよろしくお願いします」
 セルロア王国の主席魔法工作士(マギクラフトマン)であった。
「これが『鍵璽(けんじ)』だ」
 ビロードのような布に包まれたそれは、深い緑色をしている。仁はその色に見覚えがあった。
「もしかして……エルラドライトでできているのですか?」
「さすがだな。その通りだ」
 セザールが頷いた。
 仁は、ここで初めて『鍵璽(けんじ)』を間近で眺める機会を得た。
 それは長さ10センチ、直径3センチほどの円柱状をしている。もちろん単純な円柱形ではない。複雑な彫刻が施されており、そう簡単に模造品を作れないようになっている。
 そして、『璽』、すなわち『印章』であるから、その役目……この世界では主に『封蝋』に型を付けるという役目がある。
「ジン殿、これの働きを調べていただきたいのだ」
 セルロア王国といえど、『鍵璽(けんじ)』に匹敵する認識方式を持った魔導具はないのである。
 この機会にセザールは、そうした認識方式をもっと一般的にしたいと考えていたのだ。
 フォルツ・ダラント・アルファと仁は、協力して『鍵璽(けんじ)』の働きを調べていく。
「何にせよ、これだけの大きさのエルラドライトというのが一つの条件ですな」
 フォルツが『鍵璽(けんじ)』を明かりにかざしながら呟くように言った。
 エルラドライトは、大きくても直径2センチほどのものがほとんどで、長さ10センチ、直径3センチの円柱状のものは知られていない。
 つまり、これは世界最大のエルラドライトである。
「そうですね。ここを見てください。魔力を収束するようになっている。増幅した魔力を離れた魔導具やゴーレムに届かせるためでしょう」
 仁がその機能の1つを看破した。
「なるほど、さすがですな」
 更にもう1つ、『鍵璽(けんじ)』の機能として、特定の『魔鍵語(キーワード)』代わりになるということがわかった。
 この2つの機能により、『鍵璽(けんじ)』は特定の魔導具を起動することができるわけだ。
「だが、それならば、『鍵璽(けんじ)』がなくてもできるということか?」
 説明を聞いていたセザールが仁に質問してきた。仁は推測を述べる。
「ええ、おそらくは。ですが、もう1つ2つ、保護措置は取られているでしょうから、『鍵璽(けんじ)』無しでそう簡単に起動はできないと思いますよ」
「そうだろうな」
 仁とフォルツは更に調査を進めていくのだった。

*   *   *

 王宮1階奥、南東側にリシャール先王の療養室はあった。
「失礼します」
「ようこそいらして下さいました、エルザ様」
 ノックをし、病室に足を踏み入れたエルザを出迎えたのは侍女。名はメルフェ。赤毛の美人で、メリハリのあるボディラインをしている。
 王妃亡き後、リシャールは後継者争いの種にならないよう、後添いを娶ることはなかったが、代わりにこの侍女を可愛がっていたようで、メルフェは甲斐甲斐しくリシャールの世話を焼いていた。
「リシャール様のご様子は?」
 早速質問に入るエルザ。
「はい、ここ数日は、お顔も穏やかになられまして、落ち着かれたようです。まだお一人では歩けませんが」
 メルフェの答えを元に、エルザは治療の計画を考えていく。
 毒物の禁断症状も無くなり、治療はやりやすくなっていた。
 4日ほど前、魔結晶(マギクリスタル)にリシャールの『知識転写(トランスインフォ)』を密かに行い、老君に解析を委ねたところ、記憶の欠損は少なかったのである。
 ということは、主に運動を司る箇所がダメージを受けているということで、気長にリハビリを続けることで何とか回復させられるかどうか、といった状況であった。
 今のままでは下の世話もメルフェにしてもらっているのだが、風呂・着替え・食事、それにトイレくらいは1人でできるように回復させてやりたかった。
「……父さま、も……」
 エルザは、国元にいる父を思い出した。
 父ゲオルグも、脳に障害が残り、日常生活に支障が出ていたが、エルザの治療と、妻マルレーヌの看護の甲斐あって、日常生活は何とか送れるようになっていた。
 ただ、ゲオルグの場合は記憶の欠損も多く、領地経営に必要な知識がほとんど無くなり、後始末をする長男モーリッツは苦労していたが。

 リシャールは、身体機能は問題ないが、寝たきりのままだと筋肉が落ち、起き上がれなくなるので、侍女メルフェの介添えで1日2時間、リハビリに勤しんでいた。
「身体のリハビリはそのまま続けて下さい。次は……」
 エルザは、仁から聞いた、認知症のリハビリメニューを口にする。
「音楽を聴くというのはいいと思います。また、簡単な手作業もいいでしょう」
 いっぺんにいろいろなことをさせるのは逆効果なので、まずはその2つを勧めた。
 音楽に関して、メルフェは竪琴が得意だということなので、リシャールが好んだ曲を弾いてもらえばいいとエルザは説明。
 手作業についてはいろいろ考えたが、仁の助言で、オーナット(クルミもどき)の実を2個、掌で転がすように回す動作を推奨した。

「ありがとうございました」
 深々とお辞儀をするメルフェに見送られて、エルザは療養室を後にしたのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150528 修正
(旧)4日ほど前、魔結晶(マギクリスタル)にリシャールの『知識転写(トランスインフォ)』を行い、
(新)4日ほど前、魔結晶(マギクリスタル)にリシャールの『知識転写(トランスインフォ)』を密かに行い、

(誤)どっちも軍属。普通は、無理
(正)どっちも軍人。普通は、無理
 軍属って、軍に属する、という意味ではなく、軍人以外の軍に属する人でした。
+注意+
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