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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

23 セルロア王国式典篇

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23-50 閑話45 後始末/顛末記

 セザールがセルロア王国新国王となって、瞬く間に1週間が過ぎ、3月になっていた。
 各国代表のほとんどは、首都エサイアへと移動していた。
 セザールの補佐兼目付役としての役目もあり、政情不安定なままでは帰るに帰れなかったのである。
 仁とエルザも同様であった。

「……濃い1週間だったな」
「……ん」
 仁とエルザはエサイアにある王宮内に設けられた客室で寛いでいた。
「……随分といろいろあったなあ……」
「……ん……」
 2人とも疲れた顔をしている。

 1週間の間に行われたことは、

 新組織の立ち上げ 
 王位継承権の序列変更
 犯罪者の処罰
 各国への感謝と謝罪
 税制の見直し
 飢饉の対策
 ゴーレム、飛行船、大型船の見直し
 アルシェル(?)の処遇
 謎の地下室の件

 などである。

 新組織……つまり、現代日本で言う『組閣』である。
「意外だったのが、組織は今までどおり、ってことだな」
「ああ、それは仕方ないと思うよ、ジン」
 仁とエルザだけでなく、ラインハルトも同じ部屋にいた。遊びに、というか話をしに来ているようだ。
「突然の即位だったからね。普通は、自分の子飼いの者を何人か重要なポストに就けるんだが、そんな準備期間はなかっただろうしね。つまり、基盤のできていないセザール陛下は、今までの組織をそのまま使う、という苦渋の決断を下さざるを得なかったんだよ」
「それはまあ、わかる……かな」
「あくまでも当面、だろうさ」
「でも、『私のやり方は父王とは違う。上に立つ者として、人民の生活を守る事を優先する。そこのところは理解するように』と言った、あれは立派だった」
 エサイアに戻り、正式に即位の礼を執り行ったセザール新国王は、即位の演説において、エルザが言った宣言を含め、幾つか独自の政策を口にしたのである。
 そのいずれもが、国の基礎をなす『人民』の生活を最低限保証する、という考えの元に考えられたものであった。
「女皇帝陛下はやっぱり人を見る目があるなあ……」
 かつては『相手の正邪を見る魔眼持ち』ではないかと言われていたのだが、最近では、『本質を見抜く』という魔眼もしくは能力を持つと噂されていた。
 仁は、もしかしたら特殊な能力というより、人並み外れた洞察力なのではないかと思っているのだが、真相はわからない。
「とはいえ、これからだ。新王陛下も、そこのところはわかっているから、具体的なことを言わず、抽象的な言い方に留めたのだろうしな」
 急激な変革は軋轢を生む。王になったばかりで基盤の脆弱なセザールは、一歩一歩着実に進むことにしたようだ。

「王位継承権ってのは何を基準に決めているんだ?」
 仁の疑問はある意味当然ともいえる。現代日本にいたときはそういう類のことに興味がなかったのだから。
「まあいうなれば血縁、血の濃さと年齢、それに幾ばくかの実績、かな」
 王位継承者の序列、これは、先王リシャールからの血縁を基準にしていた序列であるから、それを見直すということである。
 今まで1位だったセザールが王になったため、基本的には1ランク繰り上がるわけだが、策を弄して王になろうとしたアラン・デモヌは継承権を剥奪される。
 また、セザールには今のところ子供がいないが、子供が生まれれば、また順位は変動するだろう。
「そうか、あの『我が儘兄妹』も継承権持っているんだものなあ……」
 以前、地方都市ゴゥアで出会った、アルベールとベアトリクスの兄妹のことである。
「血縁が重視されているんだからそれは仕方ないさ。でも、もっともっと、能力や人望も加味されるといいな」
 そのあたりが、これからセザールが目指す改革の1つとなるのであろうか。

「継承権と言えば、王弟はどうなったんだ?」
 お茶を飲んでいるラインハルトに向かい、仁が尋ねた。
「ああ、ジンはゴーレムや飛行船関係をずっと見ていたから知らないのも無理はないか」
 そんな前置きの後、ラインハルトは説明を始めた。
「継承権の永久剥奪。これは当然だな。そして、どこぞの離宮に幽閉、となったようだよ」
「そうか……」
 正統な王の地位を簒奪しようとしたのだから、もっと厳しくても良さそうであるが、アランにはまだ妹がいて、助命嘆願をしたらしい。
「あまり厳しくても、他の連中が今度は自分かも、と反旗を翻さないとも限らない。また、甘いと舐められる。難しいところだな」
「そっちは完全に俺の専門外だな……」
「ライ兄、殿下……陛下の護衛をしていたスケーブという人は、どうなったの?」
 エルザも、怪我人の治療にずっと当たっていて、情勢には疎かった。
「ああ、奴は、家族を人質に取られていて、無理矢理離反させられたらしい。だが、どんな理由があろうとも、全閣僚が見ている前で『風の刃(ウインドカッター)』を放ったんだ。重罪人であるのは間違いない。……死罪だけは免れたが、剣を使えないよう腕の筋を切られ、終身投獄、になるらしいよ」
「極刑にはならなかったの?」
「ああ。セザール王が甘いという声もかなりあるが、即位早々行ったのが死刑、なんていうのも聞こえが良くないだろうしな」
 普通、新王即位のような慶事があったときには恩赦、大赦などといい、罪人の刑が軽減されることもある。
 今回はそれと組み合わせ、終身刑に落ち着いたのだろうと、ラインハルトが分析した。
「ああ、そうそう。魔法も『例の』首輪で封じられたようだ」
『例の』首輪とは、かつて統一党(ユニファイラー)に捕らえられたときに、エルザやラインハルトが嵌められた魔法封じの首輪のことだ。
 それを聞いてちょっと顔を顰めたエルザであった。

「それよりも一番問題だったのは各国への謝礼と賠償だったようだぞ」
 ラインハルトは情報通で、こうしたことも良く知っていた。
「ああ、そうか」
 先王リシャールが、薬物中毒らしき状況で行ったこととはいえ、1つ間違ったら戦争になっていてもおかしくないような出来事が幾つもあったわけである。
「細かな金額はわからないが、賠償金が各国に支払われることになったようだ。それからあの混乱時に協力してくれた人たちへは謝礼を、ね」
 ラインハルトはそう言って仁とエルザを見た。
「2人とも、かなりのものを貰えることになったろう?」
「まあ、な」
「うん」
 仁とエルザには、それぞれ5000万トール(およそ5億円)分の素材が謝礼として贈られることになったのである。
 仁はゴーレムの修理や要人の避難、それに技術指導の礼、エルザはもちろん先王リシャールをはじめとした怪我人の治療に感謝して。
 現金ではなく、相当の素材でもらうことにしたのは仁の希望であり、エルザの気遣いであった。

「そう言えば、ジンはずっと技術指導を行っていたんだろう?」
「ああ。大変だったよ。飛行船はあのままだと、いつ水素に引火してもおかしくない構造だったし、船は強度不足で、波が高かったら真っ二つにへし折れてしまっただろうし」
 ヒンデンブルク号の場合、気嚢に引火性の塗料が使われていたらしく、それと相まって大惨事を引き起こしたらしいが、こちらの飛行船にはそういった塗料は使われていなかったため、最悪でも墜落程度だったかとも思われるが、それにしても惨事であることに変わりはない。
 とりあえず、水素を全部抜いてしまった仁である。
「船は僕も手伝ったから大体のことは知ってる。あれも大変だったな」
 ラインハルトがしみじみと言った。
 内部の兵装を半分以上取り外し、竜骨に代わる補強材を入れまくったのだ。おかげで丈夫にはなったが、改造前と比べ、積載量は半分、速度は3分の2に減ってしまった。
「それでも事故が起きないだけましさ」
 仁の言葉にエルザも頷く。
「うん。人命第一」

 そのエルザは、改めて先王リシャールの主治医として日々治療を行っている。
「リシャール様は、やはり脳に障害が残りそう。どちらかというと左脳、に」
 感情を制御できなくさせる、言うなれば思考を麻痺させるような効果があのワインにあったようだ、とエルザは言った。
「ああ、だから直情的だったのか」
 仁は納得したように頷いた。
「エルザは本当に成長したなあ」
 ラインハルトはそんな従妹を見つめ、しみじみとした口調で言った。

 そして話題は、ホムンクルスのことに。
「あの、『アルシェル』にそっくりという、ホムンクルス、だっけか。どうすることになったんだ?」
「ああ。王になったセザール陛下にはそうそう面倒をみていられない、ということで、密かに引き取り手を探しているところだ」
 密かに、というところが問題である。要は、セザールの隠し子ではないか、等のスキャンダルにならないよう、おおっぴらにできないこと、それに引き取り手の問題。
 将来的にこれを材料にして王系を脅す、などの心配がない相手。
 そういったことを加味すると、なかなか見つからないのが現状らしい。
「で、俺はどうしようかと思っているんだけどな」
 ホムンクルスである以上、人間の中に置いておくのはいろいろとまずいだろうと思っている仁。
「できれば一度、『700672号』に見せたいとも思っているんだがな」
「それには私も賛成、した」
 エルザも口を添える。
「だな。だけど、そこまで持っていく手順が難しそうだな」
「そういうことさ」

 まだ新王が即位して1週間、問題の収拾にはもう少し時間が掛かりそうである。

「それに、オランジュ公の行方がわからないのが気になる」
 仁がぽつりと言った。
 これまで、王弟アランの供述で、黒幕がオランジュ公だったとほぼ確定していた。
 最早、フランツ王国に戻っても、国の存在を危うくさせた亡国の徒と見なされ、居場所はないはずなのだ。
「あの後、こっちに来ていた新隠密機動部隊(SP)がアスール湖まで後を付けていったところ、中型船が隠してあったんだ。ラインハルトの『スカーレット・トレイル』と似たような外輪船だったらしい」
『スカーレット・トレイル』自体はトスモ湖で堂々と使用しているし、構造的には難しくないので、技術さえあれば模倣は可能であろう。
 とはいえ、普通の魔法工作士(マギクラフトマン)ならそういった『パクリ』は嫌悪するものなのだが。

「その外輪船で対岸を目指したので、老君の指示で後のことはフランツ王国に派遣した第5列(クインタ)に任せることにしたんだが……」
「どうしたんだい?」
「対岸に着いていないらしいんだ」
「え?」
「船ごと、消えてしまったようなんだよ。フランツ王国の自領にも戻っていないらしいし」
 完成したばかりの監視衛星からも消えてしまったという。
「腰巾着かと思って少し甘く見ていたな……」
 悔しがる仁。

 謎の地下室にしても、まだ手を付けられない状態だ。

 こうして、幾つかの謎を残したまま、時は流れていくのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 これで23章を終わります。

 20150521 修正
(旧)相手の正悪を見る魔眼持ち
(新)相手の正邪を見る魔眼持ち

(誤)竜骨に代わる補強剤を入れまくったのだ
(正)竜骨に代わる補強材を入れまくったのだ

(旧)・・・ラインハルトが分析した。
(新)・・・ラインハルトが分析した。
「ああ、そうそう。魔法も『例の』首輪で封じられたようだ」
『例の』首輪とは、かつて統一党(ユニファイラー)に捕らえられたときに、エルザやラインハルトが嵌められた魔法封じの首輪のことだ。
 それを聞いてちょっと顔を顰めたエルザであった。
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