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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

23 セルロア王国式典篇

797/1622

23-33 剣/槍

「おお、やるなあ」
 セルロアゴーレムの動きを見て、仁が感心したような声を上げた。
 どう見ても、『変形動力(フォームドライブ)』の動きではなかったからだ。
「まあ、統一党(ユニファイラー)がいた国だしな」
 それもその筈、セルロア王は、前回ラインハルトの黒騎士(シュバルツリッター)に、自国最高と謳われた『金剛戦士(アダマスウォリアー)』が敗れて以来、戦闘用ゴーレムの開発に血道を上げていたのだから。
 その情熱を別の方向に向けられないところがリシャールの限界である。

 黒騎士(シュバルツリッター)とセルロアゴーレムの戦いは激化していった。
 黒騎士(シュバルツリッター)が切り下げれば、セルロアゴーレムは切り上げで対抗する。
 セルロアゴーレムが横薙ぎを繰り出せば、黒騎士(シュバルツリッター)はそれを受け流し、突きを繰り出す。
 繰り出された剣を、セルロアゴーレムは身体を半身にして躱し、その勢いでもう一度横薙ぎで攻撃。
 黒騎士(シュバルツリッター)はそれをバックステップして避けた。

「ほう……凄い、私にはできないな」
 見ているグロリアの口から、悔しそうな声が漏れた。
「それは仕方ないさ。人間とゴーレムでは筋肉への命令伝達速度が違いすぎるからな」
 仁の何気ない発言に、グロリアが食い付いた。
「ジン殿、それはどういう意味だ?」
「あー……えーと、例えば、『剣を避ける』という動作の場合、『剣を目で見て』『頭で避けようと判断して』『身体の筋肉に避けるための動きをするよう命令を出して』『筋肉が反応してからだが動く』……わけなんだが」
「ほう、そうなのか」
 グロリアは彼女らしく、仁の言ったことをまずそのまま飲み込んだ。
「……で、頭が出した命令が筋肉に届くために掛かる時間があるわけだ」
「うむ、道理だな」
 余計な質問を挟まないのがいかにもグロリアである。
「で、命令が伝わる速度が、俺の知る限りだと30メートルから70メートル毎秒くらいだったな」
「結構遅いのだな」
 秒速50メートルとして時速180キロである。
「だが、ゴーレムの場合は違う。魔力の波動は、電磁波の上位互換だから、秒速30万キロメートルに近い」
「でんじはというのがよくわからんが、1000万倍以上か……それは速いわけだ」
「まあ、頭脳にあたる制御核(コントロールコア)での情報処理時間もあるから、単純には言えないが、な」
 理論上の値であり、骨格の強度や筋肉の反応速度も影響するので、一概に何倍、といえるものでもない。
 が、やはり人間より速いことだけは間違いない。

《なかなか見応えのある勝負であるな》
 リシャール王が感心した様な声を漏らした。
 黒騎士(シュバルツリッター)とセルロアゴーレムの戦いは更に激しさを増していた。
 やや黒騎士(シュバルツリッター)が優勢か。黒騎士(シュバルツリッター)の身体には傷が一つも付いていないのに対し、セルロアゴーレムには幾つか浅い傷が付いていたのだ。
 黒騎士(シュバルツリッター)の斬撃は更に速くなった。
 セルロアゴーレムは最早完全に防戦一方。
 そしてついに。
 キイン、という金属音と共に、セルロアゴーレムの剣が折れ飛び、黒騎士(シュバルツリッター)はそのセルロアゴーレムの喉元に剣を突き付け、寸前で止めていた。
《……み、見事だ、黒騎士(シュバルツリッター)
 悔しげな声で、セルロア王は黒騎士(シュバルツリッター)の勝利を認めた。
 見ていた各国代表たちはやんやの喝采を贈る。
「ラインハルト殿、さすがだ!」
「いや、さすがショウロ皇国。大したものですな」
「素晴らしい名剣ですね!」
「ラインハルト、見事でしたね」
 各国から称賛の言葉が掛けられた。
「……いえ、辛勝ですよ」
 とは答えたものの、当のラインハルトも嬉しそうである。
《なかなかの名剣のようだな。それゆえの勝利か》
 負け惜しみにしか聞こえない言葉を王は吐き捨てた。

「剣のせいにするとは笑止」
 グロリアは鼻で笑った。
黒騎士(シュバルツリッター)は相手の剣をまともに受けることは数回しかせず、ほとんど受け流していた。対してセルロア王国のゴーレムは受け流さず、受け止めてばかり。あれでは剣への負担が違いすぎる」
「と、いうことは、受け方でも剣の傷み方が違うのか」
 今度は仁からグロリアへの質問である。
「ああ、その通りだ。……」
 達人級になると、剣と剣を打ち合わせたときにも、己の剣へのダメージを減らす方法があるらしい。
「剣の先で受けるのと元で受けるのとでも違ってくるしな。黒騎士(シュバルツリッター)はそのへんも良くわかっているように見えた」
 仁は、グロリアの解説を聞きながら、触覚を持たせたのは間違っていなかったと満足していた。

 さらに王は言葉を続ける。

《さて、これで一対一。次は、そうだな、クライン王国のゴーレムと我が『ランツァー』にやってもらおうか》

『ランツァー』は槍を持ったゴーレムであった。対するは、仁製作のクライン王国のゴーレム。武器は剣。
「ジン殿、この勝負、どうなるだろうか?」
 仁が作った事を知っているグロリアは興味深そうに尋ねてきた。
「……今の戦いを見る限り、不利だな……」
「ジン兄、どうして?」
 エルザも気になるらしく、質問してきた。
「ああ。剣と槍では間合いが違うからだよ」
 やはり得物のリーチというものは大きい。
 その時仁は、ふと思いつき、グロリアに質問を行う。
「グロリア殿、クライン王国の騎士が槍に対したときにどう戦うか知ってるか?」
 グロリアは大きく頷く。
「ああ、もちろん。元々、騎士の武器は突撃槍(ランス)だし、その騎士を止めるための歩兵の武器も槍だ。騎士なら、当然熟知しているさ」
「そうか……」
 少し安心する仁。というのも、クライン王国の汎用ゴーレム、その武技は、有望な若手騎士、ハインツ・ラッシュのものを転写しているからである。
「ジン殿?」
「あ、ああ、悪い。えっと、あのゴーレムの動作は、ハインツ・ラッシュを元にしているので、彼が槍相手に戦う術を心得ているなら、何とかなるんじゃないかな?」

《始め!》
 仁たちがそんな問答をしているうちに、3戦目が開始されていた。
 セルロア王国のゴーレム、『ランツァー』の武器は普通の槍である。対するクラインゴーレムは、護衛用の片手剣だった。誰が見ても不利である。
 が、グロリアが言ったように、クラインゴーレムはうまく鋭い突きを剣で受け流していた。
「だが、やはり槍が有利か……」
 グロリアが悔しそうな声を出す。が、仁は興味津々。
「いや、多分まだ様子見しているぞ?」
 自分が作ったゴーレムの限界値くらいは見当が付く。
 まだセルロアのランツァーも全力ではないし、クラインゴーレムも全力ではない。
 ただ片や4割、片や6割、といった手加減度であろうと思われ、仁は忸怩たる思いを噛みしめていた。
 剣対剣、あるいは槍対槍なら引けは取らないのに、ハンデ戦では……と仁は残念に思った。
 いくら依頼された物とはいえ、自分の作ったゴーレムが敗北し、壊されるのはやはり悔しく、悲しいのである。
「ジン兄……」
 そんな仁の思いがわかるのか、エルザは少し心配そうな顔である。
「だけど」
「え?」
「『制御核(コントロールコア)』だけは十分なスペックを持っているはずだ」
 素材に左右されない、『魔導頭脳』。それは魔法工学師マギクラフト・マイスターである仁が、十分すぎる仕様で作り上げた物だった。
「ハードウェアで劣っても、ソフトウェアはこっちが上だ」
 その言葉通り、クラインゴーレムは、相手の動作を覚えつつある。そして、手加減されているうちに勝負に出ることを選択した。
 仁が6割、と見た動作を一気に10割に。
 ランツァーが繰り出した槍を半歩右に避けて躱すと、槍が引き戻される前に左手でその槍を掴んだ。
 槍を突き出したときの重心はやや前に寄っており、その状態でクラインゴーレムは槍をぐい、と引いた。
 が、敵も然る者、瞬時に重心を戻し、クラインゴーレムに対抗した。
 2体の力が一瞬拮抗する。いや、非力な分、ややクラインゴーレムが不利である。
 そこでクラインゴーレムは、相手が槍を引く力を利用し、一気に懐へ飛び込む。それは見事に成功した。
 ……かに見えた。
 手加減を止めたランツァーは、クラインゴーレムが飛び込んでくる直前に槍を手放し、予備武器のショートソードを手にしていたのである。
 交差する2振りのショートソード。

《それまで!……見事なものだ》
 セルロア王リシャールの、半ば悔しげな、そして半ば感心したような声が響く。
 2体のゴーレムは、互いにショートソードを胸部に突き立て合っていたのである。
 クラインゴーレムの意地が引き分けに持ち込んだ瞬間であった。
「だが、負け惜しみではないが、我が国のゴーレムの勝ちだと思うがな」
 グロリアがぽつりと呟く。
 その理由はとエルザが問えば、
「我が国のゴーレムは剣を相手の左胸に突き立てているが、セルロア王国の『ランツァー』の剣は右胸だからだよ」
「なるほど、人間なら心臓を貫いているわけだものな」
 仁もそれを聞いて、少しは溜飲が下がったのである。
 実際の心臓は左胸というより中央左寄り、といった程度であるが、この場合は『判定基準』ということなので仁も何も言わなかった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150504 修正
(誤)あれでは県への負担が違いすぎる
(正)あれでは剣への負担が違いすぎる
 orz

 20150520 修正
(旧) 仁もそれを聞いて、少しは溜飲が下がったのである。
(新) 仁もそれを聞いて、少しは溜飲が下がったのである。
 実際の心臓は左胸というより中央左寄り、といった程度であるが、この場合は『判定基準』ということなので仁も何も言わなかった。
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