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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

23 セルロア王国式典篇

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23-02 物性表/閣僚会議

 もうご存知かも知れませんが、参考資料9に物性表をアップしてあります。
「ジン、今ちょっといいかい?」
 声を掛けたのはサキ。先日来、素材の耐性表を製作している。
「ここまでできたんだ」
 そう言って見せてくれたのは、地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸、海竜(シードラゴン)の翼膜、古代(エンシェント)(ドラゴン)の抜け殻、水晶、ジルコニア、金、銀、ミスリル、軽銀、アダマンタイトなどの、耐熱性(融点)や耐薬品性を一覧表にしたものだった。
「おお、すごいな。……よくこんな融点測れたな」
「うん、金や銀は老君の知識からさ」
 つまり仁の知識からである。
古代(エンシェント)(ドラゴン)の抜け殻とかは正確に測れないからおおよそだよ」
 確かに地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸は1600℃、海竜(シードラゴン)の翼膜は2000℃、古代(エンシェント)(ドラゴン)の抜け殻は3000℃以上、と、なっていた。
 一番気になるのは古代(エンシェント)(ドラゴン)の抜け殻であるが、硫酸、硝酸、王水、水酸化ナトリウム、フッ化水素などにも耐え、巨大百足(ギガントピーダー)の体液や超巨大蟻(ギガアント)の酸、『もどき』の溶解液にも耐えている。
「しかしよく硫酸だの硝酸だのフッ化水素だの手に入ったな」
「くふ、感心するのそっちかい」
 サキが苦笑した。
『化学物質は全て700672号からいただいたものですよ。まだ幾つか、正体不明の試薬がありますのでそれらは保留です』
「ああ、そうか。早速役に立ったんだな」
『ええ。サンプルがありさえすれば、いずれ同じ物を合成することもできるでしょう』
 そう、『分析(アナライズ)』の魔法では、既知の物質しか調べることはできない。
 フッ化水素HFであれば、フッ素原子と水素原子が1:1で含まれることまでは分かる。その後、二酸化ケイ素を溶かすことから、フッ化水素であろうと推測したわけである。
 硝酸HNO3は水素原子1、窒素原子1、酸素原子3まではなんとかわかる。その後の調査から希硝酸であることを突き止めた、というわけだ。
 だが、そう言うやり方ではわからないほど複雑な化学式を持つ試薬は正体不明とするしかなかった。そういう試薬は封印である。
 それらはいずれ改めて700672号に聞いてみることになるのだろう。

「でもこれは助かるな。サキ、ありがとう」
「お礼なんていいさ。ボクがやりたくてやっていることだからね」
 そう言いながらも嬉しそうなサキ。
「そうそう、1つ気になることがあったよ」
「え?」
 次にサキが口にした内容は、仁に取っても思い掛けないことであった。
地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸の性質が一定してないんだ。耐熱性……融点だっけ? がサンプルによってばらつくんだよ」
「ふうん……」
 仁は考え込んだ。
「老君と考えて出した仮説なんだけどね、含まれる自由魔力素(エーテル)による違いがあるようなんだよ。もしかしたら地底蜘蛛(グランドスパイダー)によって変わるのかも知れない」
「ありうるな」
 生物由来の素材であるから、個体によってばらつく可能性は十分ある。
「だとすると、蓬莱島の素材もグレード分けできるかもしれない」
「なるほど。それは新発見だな!」
「うん、そのあたりもボクと老君に任せておいておくれ」
「ああ、頼む。こういう仕事だとサキは頼りになるなあ」
「くふ、おだてても何も出ないよ」
 そう言いながらもサキは頬を染めていた。
「さあ、それじゃあ取りかかるか!」
「無理だけはするなよ」
 張り切って研究室に向かうサキの背中に、仁は忠告の言葉を投げかけるのであった。

「蓬莱島以外の場所にも地底蜘蛛(グランドスパイダー)がいるとしたら比べてみたいものだな」
「お父さま、探しに行くのですか?」
「いや、行かないよ。今はそれよりもやりたいことがあるし。たまたま見つけたら、ってことさ」
「そうですか」
 礼子としては、仁の次の行動が気になるのだろう。
「では、それよりもやりたいこととは何でしょうか?」
 仁がその質問に答えて曰く。
「この惑星についてもっとよく知りたいと思っているんだ」

*   *   *

「セルロア王国が建国記念式典に各国首脳を招待、ですか」
 ショウロ皇国でもその話題で議論がなされていた。
 女皇帝、宰相、魔法技術相、産業相、財務相など10人ほどが列席している。
「間違いなく軍事的な示威行動をしようとしているのでしょうな」
 宰相が唸るような声で言った。
「そう、ね」
 女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロは憂鬱そうに頷いた。
「昨日、エゲレア王国に滞在中のフリッツ中佐に、『ゴリアス』と共に、その式典に参加するよう命じておきましたが」
「『ゴリアス』ね。何でも、レナード王国の遺跡から出てきた化け物にやられたそうね」
「はい。鋼鉄の外殻を溶かされたそうです」
 その回答をしたのは魔法技術相。
「エゲレア王国の魔法技術者(マギエンジニア)……魔法工作士(マギクラフトマン)に修理を依頼し、あと1日か2日で修理は完了するそうです」
「そう。それなら式典には十分間に合うわね」
 女皇帝は頷いた。そして話題を変える。
「その化け物を倒したというのが例の『デウス・エクス・マキナ』、だったわね?」
「は、そのとおりです」
「ジン君の兄弟子、という話よね?」
「そう聞いておりますな」
「ジン君以上につかみ所がない人物ね……悪人じゃなさそうなのが救いかしらね」
「そうですな」
 列席者全員が頷いた。
 そんな中、女皇帝は1人心の中で、
(マキナってまさか、ジン君じゃないわよね……?)
 等と考えていたのだが。

「セルロア王国へは船で行くのですか? それとも馬車で?」
 次の話題は式典参加についてである。
「熱気球、という手もありますが……」
「だが、あの国は信用ならん。空からと言うのは危ないのではないか?」
「いや、それこそ、我が国が恐れてなどいないことを示す必要がありましょう」
「わざわざ挑発するようなことをせずとも……」
「……!」
「……!!」
 議論が白熱し、なかなか決着をみないことを憂えた女皇帝は自ら意見を口にした。
「この際、全部を使いましょう」
「陛下! それは……」
「彼の国の建国記念式典を祝うという名目で、我が国も負けていないということを示さねばならないでしょう。挑発しろと言っているのではありません。あの国は、こちらが引いたならどこまでもかさに懸かってくる国です。あくまでも堂々と行きましょう」
 女皇帝のその言葉に、閣僚は意志を固め、それならばどのようにして陸海空を分けるか、という議論に移っていく。

 大陸の情勢はまだまだ不安定。
(ジン君の言う、平穏な生活……ただそれだけのことなのに、何と難しいことでしょう……)
 人知れず溜め息をつく女皇帝であった。
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