挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

22 新たな展開篇

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

753/1741

22-21 入手

「ご苦労だったな、礼子」
 帰ってきた礼子を労う仁、その目は厳しい。礼子に不具合がないか、見つけ出そうという目である。
「それで、身体の方はどうだ?」
「……はい、正直、左半身に違和感があります」
 マイナス250℃で凍らされてしまったのだから、何らかの影響が出ているだろうと仁は思い、そしてそれは当たっていた。かなりの不具合が見られる。
 仁はチラと窓の外を見ながら礼子に言う。
古代(エンシェント)(ドラゴン)の脱皮にはもう少し掛かりそうだ。今のうちに整備してやるぞ」
「……お願い致します」
 そこで仁は礼子を一旦停止し、診察を開始した。
「……酷いな」
 超低温に曝された後、動作を試みた際に魔法筋肉(マジカルマッスル)が断裂を起こしていたのである。
 また、海竜(シードラゴン)の翼膜で作られた皮膚も、弾力を失ってひび割れていた。
「とりあえず応急修理だ」
 蓬莱島に戻ったら徹底的なオーバーホールをするつもりである。
 まず筋肉。断裂していない部分は強化し、断裂している部分は工学魔法で接続する。
 そして皮膚は、『軟化(ソフトニング)』と『強靱化(タフン)』を掛け、しばらく保たせることにする。15分ほどで作業は終わった。
「よし、これで通常動作は問題ないだろう。だが、出せてせいぜい10パーセントだからな。注意しろよ」
「はい、ありがとうございます」
 起き上がった礼子は仁に礼を言った。
「ジン兄、外!」
 ちょうどその時、エルザが叫んだ。仁は窓の外を見る。
「おおっ!……」
 そこには、脱皮を終えた古代(エンシェント)(ドラゴン)が静かに佇んでいた。

 静かに佇む古代(エンシェント)(ドラゴン)。その体表は艶やかな象牙色に輝いていた。足元には脱いだばかりの抜け殻が。
「ランド1、ゆっくり後退しろ」
 仁は、古代(エンシェント)(ドラゴン)を刺激しないよう、後退を命じた。凍結竜(フロストドラゴン)は近くにいないので安心だ。
 力場発生器フォースジェネレーターを使えば、無音で移動できる。そのまま、2キロほど距離を取った。
 いつの間にか空のほとんどは雲に覆われており、風花が舞い始めている。まるで古代(エンシェント)(ドラゴン)の脱皮が終わるのを待っていたかのようだった。
 雪が落ちてくると、古代(エンシェント)(ドラゴン)はゆっくり歩きだし、20分ほどで視界から消えた。
「よし、急いで抜け殻を回収だ!」
 応急修理された礼子と、操縦を担当していたランド1が外へ出た。
 脱皮したばかりの抜け殻は予想以上に軟らかく、氷点下の寒さでも硬くなっていない。
 そのため、礼子とランド1は10分足らずで抜け殻を小さく畳み、回収できたのである。
 カプリコーン1後部の倉庫ハッチを開け、抜け殻を収納。
 それを待っていたかのように、本格的に雪が落ちてきた。
 大急ぎで戻った礼子とランド1。
 2人は室内でたちまち霜の塊となった。
「『加熱(ヒート)』『乾燥(ドライ)』」
 2人を温め、乾燥させる仁。
「お父さま、ありがとうございました」
「ご主人様、ありがとうございました」
「2人ともご苦労さん。無傷でいい素材が手に入った。上々の首尾だ」
 仁も上機嫌である。その後ろではサキとエルザがにこにこしていた。
「ジン、おめでとう! 目的を達したわね」
「ああ、シオン、君やアレクタスのおかげだ」
「あたしなんて、何もしてないけど」
「そんなことないさ。シオンの勘のおかげで古代(エンシェント)(ドラゴン)を見つけたられたじゃないか」
 そして仁はランド1に指示を出す。
「よし、急いで戻ろう。力場発生器フォースジェネレーター解禁だ」
「わかりました。まずは『福音』の氏族領ですね?」
「そうだ。急いでくれ」
 抜け殻を見つけるまでは、地上をそれなりにゆっくり進む必要があったが、目的を達した今、そのような制約はない。
 力場発生器フォースジェネレーターを使い、カプリコーン1は雪の上3メートルほどのところを、時速100キロで進み始めた。
 まだ吹雪にはなっておらず、視界が利くうちに距離を稼いでおきたいのだ。
「は、速いわね……」
 行きと帰りの速度差にシオンが目を見張る。
「くふ、早く帰っていろいろ試験もしたいね」
 サキも顔には出さないが、内心わくわくしているようだ。
 そんなサキの目に、違和感が映った。いや、風景に違和感を感じたのだ。
「ジン、悪いけどちょっとだけ止まってくれないか?」
「うん? わかった。ランド1、停止だ」
 力場発生器フォースジェネレーター駆動のため、揺れもなく、瞬時に停止。
「どうした? サキ」
「うん、ボクの気のせいでなければ、今通り過ぎた場所に何かがあった」
「何か?」
「うん、確認するには時間がなかったけどね。何か気になるんだ」
「わかった、ちょっと戻って見てみよう」
 ということで、カプリコーン1は1キロほどバックした。
「お父さま、あそこに何かあります」
 最も目のいい礼子がそれを見つけた。
 カプリコーン1で近付いてみれば、それは凍結竜(フロストドラゴン)だった。ただし、動かない。
 大きさはかなり小さめ。先程転送銃で飛ばした個体ではなさそうだ。
「……死骸でしょうか? 魔力を感じられません」
 死骸だとしたら、素材が採れるかもしれない。サキは目を輝かせ、仁を見つめる。
 仁にはサキの気持ちがよくわかった。だが、この巨体をカプリコーン1で運ぶわけにはいかない。
「……転送銃、か」
 転送先を蓬莱島に再調整し、送り出すことを仁は選んだ。
 調整には30分ほどかかった。何せ、目的地を変えられるようにはできていない銃である。
 いい加減な調整をしたら、せっかくの貴重な素材が駄目になってしまう。
「よし、これでいい」
 礼子が外に出て、試しに適当な雪の塊を転送してみる。銃を作動させると、直径40メートルほどの半球型にすっぽりと雪が無くなった。
御主人様(マイロード)、研究所前に雪の塊が』
 すぐに老君から連絡が入る。上手くいったようだ。
「よし、今度は本番だ」
 礼子は凍結竜(フロストドラゴン)の死骸に狙いを付け、転送銃を作動させた。
御主人様(マイロード)凍結竜(フロストドラゴン)と思われる素材、確かに送られて来ました』
 老君の報告。
「これでよし。それじゃあそちらは頼む」
 素材への展開は老君に任せ、仁たちは再度帰路についたのである。

 カプリコーン1は、ツスル台地の高低差も、チカグワ湖も何のその、直線軌道で福音の氏族領を目指した。
 2時間半ほど、夕暮れ前に福音の氏族領に到着できた。

「おお、ジン殿、無事目的を果たしてのご帰還、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。運良く、古代(エンシェント)(ドラゴン)の脱皮場面に出会えたもので」
 夕食を御馳走になりながら、会話に花が咲いた。
「ふむ、チカグワ湖を回り込み、ツスル台地へ行かれてからそんなことがあったのですな」
 グランドラゴンの群れの話。
「冬にはそんな色になるとはな。初めて聞いた」
凍結竜(フロストドラゴン)は手強かったのですか」
「ほほう、古代(エンシェント)(ドラゴン)はそんな色で、ふむふむ」
 皆、訪れたこともなく、これから訪れることもないであろう地の話を興味深く聞いていた。

 その夜も、仁たちはカプリコーン1の中で寝る。
 福音の氏族、そしてシオンは慣れているのか、厚めの布団と毛布で十分らしいが、仁たちは室内気温が10℃を下回っている環境では寒いのである。 
「……慣れ、だな」
「慣れ、だね」
「……慣れ」
「慣れなのかしら」
 仁たちは半ば感心しつつ、シオンは自分のこととはいえよくわからないという反応だった。
 とにかく4人はカプリコーン1の中で休んだのである。

 翌朝も吹雪いていた。あの晴天は1月に1回か2回くらいしかない、貴重な雪の止み間だったようだ。
「それでは、お世話になりました」
「もう少しゆっくりしていって欲しかったのですが……」
「はは、早く帰って新素材でいろいろ試してみたいですし」
魔法工学師マギクラフト・マイスターですなあ……」
「また来ますよ」
「ええ、お待ち申しております」
 短いが、互いに心の籠もった言葉を交わし、仁たちはカプリコーン1に乗り込んだ。
 福音の氏族達は、吹雪の中を歩き出すカプリコーン1の姿が見えなくなるまで見送っていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150321 修正
(旧) カプリコーン1で近付いて・・・だった。ただし、動かない。
(新) カプリコーン1で近付いて・・・だった。ただし、動かない。
 大きさはかなり小さめ。先程転送銃で飛ばした個体ではなさそうだ。

(誤)直径40メートルほどの半球系にすっぽりと雪が無くなった
(正)直径40メートルほどの半球型にすっぽりと雪が無くなった
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ