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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

03 港町ポトロック篇

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03-14 ぶっちぎり

「予選は、港を出て『離れ岩』を回ってまた港に戻る、これを5隻ずつで行い、上位2隻が明日の決勝に進むことが出来ます」
 実況が競技の説明をしていく。
「今年は参加チームが35チームありますので、ゼッケン1、8、15、22、29のチームが第1組となります」
 仁達『MJR』はゼッケン35、最終組である。
「それでは、予選1回戦です!」
 ゼッケン1である気障男バレンティノの『エリアスの栄光』が入っている組である。
 この組は全員赤い水着であった。予選ブロック毎に水着の色を変えたらしい。

 仁の見たところ、5チーム共に船体はカヌーのように細い。5隻ともオールで漕ぐ方式だから当然だが、それを動かすゴーレムは、『エリアスの栄光』の物が際立って力強かった。
「きっと身分とか金とかで優秀な魔法工作士(マギクラフトマン)雇ったんだろうな」
 その想像は的を射ていた。とはいえ、どのチームも大なり小なりやっていることであるし、別段悪い事でもない。

「さあ、いよいよ始まります! 5、4、3、2、1、スタートです!」
 スタートの旗が振られると同時に水飛沫が上がる。ゴーレム達が一斉に漕ぎ始めたのだ。
 みるみるうちにゼッケン1がリードしていった。続いて15、29、22、8である。
「ふん、やっぱり力が物を言ってるな」
 仁のその呟き通り『エリアスの栄光』のゴーレムは他の者達より二回りも大きいブレードの付いたオールである。その差はどんどん開く一方だ。
「ゼッケン1、『エリアスの栄光』、トップで折り返しました!」
 海上にも中継用の魔導監視眼(マジックアイ)を乗せた船が浮かんでおり、そこから映像が魔導投影窓(マジックスクリーン)へと送られているので、観客達にもその様子が良く見えていた。
 『離れ島』までの距離はおおよそ1キロといったところか。往復で2キロ、ゴールする頃には、『エリアスの栄光』は2位以下に500メートル近い差を付けていた。
「1.3倍くらいの速さというわけか。ま、まだまだ全力じゃあ無さそうだがな」
 ライバルの実力を分析する仁。

 予選2回戦は当然ゼッケン2、9、16、23、30であるが、ドングリの背比べで、特に見るべきものはなかった。因みに水着の色は橙色だった。
 そして3回戦。
「さあ、予選3回戦は、ゼッケン3、チーム『青い海(ブルーマリン)』に注目です! ごらんのように人魚型のゴーレムは大会史上初! どんな走りを見せてくれるでしょうか」
 このブロック出場者は黄色い水着だ。
「5、4、3、2、1、スタート!」
 ローレライは、幅広、浅底の艇体を後方から押していく。そのキックは力強く、ぐんぐんと他の4隻を突き放していった。
「これは、先ほどの『エリアスの栄光』にも劣らないほどの速さだ!」
 実況にも力が入っている。
「うーん、艇体の形状とマッチしているな。だが、あれだって双胴船にすれば、間に入って推進できるよなあ」
 欠点は、ゴーレムであるローレライがかなり無防備な点だろうか、と仁は分析した。
 そうこうするうち、早々に折り返してきたゼッケン3が1位でゴール。これまた2位以下に500メートル近い差を付けてぶっちぎりでの勝利である。
 4回戦、5回戦と予選は進んでいったが、仁の目を惹くチームはなかった。

 6回戦、あの『羽ゴーレム』がいるグループである。水着の色は水色。
「3、2、1、スタート!」
「おおっ、ゼッケン27、その翼を広げた! 羽ばたいています!」
「かなりの力ですね。船を若干持ち上げていますよ」
 羽ゴーレムはその羽ばたきで推進力を生み出すと共に、船を若干ではあるが持ち上げ、抵抗を減らしていた。

「だけど、効率悪すぎ」
 仁の呟き通り、スタート直後こそ2位に付けていたゼッケン27だが、ゴーレムに無理がかかっているのか、はたまた魔力不足か、次第に遅れ初め、折り返すころには最下位に。
「発想は面白かったんですけどね」
 結局最下位でのゴールであった。

 そして予選最終戦である。紺色水着を着た操船者達のブロック。
「さあ、本日のラストレース、予選7回戦が始まろうとしています!」
 実況の声に歓声が上がった。仁も注目する。マルシアと、4本腕のゴーレムを使うゼッケン28が出るのだ。
「先ほども思いましたがゼッケン28は変わったゴーレムですね、解説のベルナルドさん」
「そうですね。ですが、あれを作ったのは名工、ジョルダーノ氏ですよ」
「えっ! 確かあの、前々回優勝したチームのゴーレムを作ったのも氏でしたよね?」
「そうです。ですから要注目、ですね。そしてそれ以上に私が興味を持っておりますのはゼッケン35番です」
 ここでシグナス(白鳥)の話題が出た。
「はあ、パレードの時にもおっしゃってましたね」
「ええ。しかも操船者そっくりのゴーレムというところが面白いですね。注目しましょう」
 そして予選最終戦が始まる。
「5、4、3、2、1、スタート!」
 意外にも、トップでスタートしたのはゼッケン28番であった。そのゴーレムは、艇体に寝そべるような形になり、4本の腕とオールを効率よく動かしていた。
「ほう、あんな漕ぎ方もアリだな、面白い」
 少し感心する仁であった。一方、マルシアは2番手。仁はその様子をじっと見ていたが、
「マルシアは何か考えがあるみたいだな。アローも全力には程遠い。おそらく明日の決勝前に手の内を全部見せることはないと思ったんだろう」
「でも、お父さまに何も言わずに」
 少し不満そうな口調の礼子。
「ああ、多分、今までのレースを見て思いついたんだろうさ」
 そんな話をしているうちにも船は折り返し地点である離れ岩目指して進んでいく。今のところトップはゼッケン28、マルシアは2位に付けている。
「ベルナルドさん、どう見ますか?」
「はい、28番はオールの使い方が上手いですね。そして35番の追い上げに期待したいところです」
 魔導投影窓(マジックスクリーン)では、今、マルシアのシグナス(白鳥)が折り返したところである。
「ふん、小回りもまずまずだな。そろそろ、マルシアの奴、本気出すんじゃないか?」
 仁がそう言った直後である。
「おっ、ゼッケン35番、スパートしました!」
 シグナス(白鳥)後方の水車が上げる水飛沫が一際大きくなったのが判る。そしてシグナス(白鳥)はぐんとスピードを上げた。
「ゼッケン35番、速い速い! トップを走る28番を猛然と追い上げております!」
 実況の声が大きくなり、観客も歓声を上げる。
「ゼッケン28もペースを上げる! だが35番はそれ以上に速い! そして……今! 抜きましたあ! 35番トップです!」
 そのままシグナス(白鳥)はトップを保ち続け、
「ゴォーーーール!! 1位35番、2位は28番!」
「いやあ、解説のベルナルドさん、白熱した戦いでしたね」
「そうですね、予選最終戦に相応しい一戦でした」
「でも、どうして35番は最初からあの速度を出さなかったのでしょう?」
 当然の疑問ではある。
「そうですね、推測になりますが、構造上、全速を出すと水車への負担が大きいので、明日の決勝に備えて温存していたのではないでしょうか」
 もっともらしい答であるが、当の仁にとっては見当違いである。何せ、可動部分はアダマンタイトで補強してあるのだから、アローの全力が何時間続いても壊れる心配は無いのだ。
 だが実況席では、
「なるほど、耐久性に不安があったからというわけですね」
 納得していた。

「さて、第10回ゴーレム艇競技予選も終了しました。お客さま、お忘れ物のございませんようご注意下さい。なお、明日の決勝は朝9時スタートとなります」
 アナウンスが流れる中、
「さて、マルシアをねぎらいに行くか」
 仁が立ち上がると、
「ジン! やっぱり僕の目に狂いはなかった! 君達の船の推進方式は素晴らしい!」
 暑苦しい声に振り向けばラインハルトであった。水着姿のエルザも一緒だ。
「君達とは練習水域が別々だったから、今日初めて見たが、うーん、水車を回して走るとは斬新だ! いろいろ話を聞きたいなあ! そうだ、今夜食事を一緒にしないかい?」
 1人まくしたてるラインハルトの横でエルザは、
「うるさくてごめんなさい。……ライ兄もああ言ってる。どう?」
 と言葉少なに聞いてきた。仁は、
「マルシアがいいって言えば、俺は構わないけど」
 そう答えたので、
「おおそうか! それでは急いでマルシア殿に確認しに行かないとな!」
 と、港へ走っていこうとするラインハルトだったが、
「ん? あたしが何だって?」
 ちょうどそこに、船を管理員に預けたマルシアがやってきた。仁はマルシアにラインハルトの申し出を伝える。
「うん、あたしはかまわないよ」
 即答するマルシア。ラインハルトはそれを聞いて大喜び。
「そうか! よし、それでは行こう!」
 と歩き出したその手を引いて引き留めたのはエルザ。
「ライ兄、私とマルシアさんは水着。着替えてくるからちょっと待ってて」
 船は、不正が無いよう、予選終了後、一括して大会委員の方で管理するのです。
 そして船の愛称は非公式のため、実況ではゼッケン及びチーム名で呼びます。話中では混在しますが。
 羽ゴーレム、こんな結果でした。
 エルザの口調が難しいです。ラインハルトはもうこのくらいのテンションで。
 お読みいただきありがとうございます。
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