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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

22 新たな展開篇

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22-17 手強い雪山

 明けて2月の2日。
 その日は朝から吹雪いていた。カプリコーン1の外気温計はマイナス30℃を示している。
「ジン殿、お気をつけて」
「エルザ様、お気をつけて」
「サキ殿、それではな」
 シオンについては何も言われない。まだ彼等の間では、氏族間の格差は残っているようだ。
 シオン本人もそれに関して当たり前と思っているのか、何も口にすることはなかった。

 吹雪の中を歩き出すカプリコーン1。だが、踏み出すその脚は雪に埋もれ、時速10キロほどしか出せない状態である。
(いざとなれば力場発生器フォースジェネレーターもあるが……まあ、このまま行くか)
 特に不都合は無いので、仁は何も指示を出さなかった。

 福音の氏族領から北は山が迫っている。カプリコーン1は、その山をゆっくりと登っていった。
「すごいわね……」
 ようやくいつもの調子を取り戻してきたシオンが、外を見ながら感心したように言う。
 窓の外では吹雪が唸っているものの、時折凍り付いた岩肌が見えたり、雪と氷でモンスターのようになった立木が見えたりし、どんな傾斜地を登っているのかがわかる。
「スノーモンスターか……」
 仁は、蔵王や八甲田山などにできる冬の風物詩、樹氷を思い出していた。とはいっても、TVで見ただけなのであるが。
 目の前にあるのはそれ以上に迫力のある、巨大な樹氷であった。
「すごいね、ジン! どうしてあんな形になるんだろう」
 サキは窓際から離れず、外を見つめている。
 カプリコーン1は今、30度以上の傾斜がある斜面をゆっくりと登っているのであった。
 かつて、『始まりの地』を目指して登ったときは雪のない時期。
「雪があるとやはり困難だな……。そういえば、登山も積雪期というのは難易度が高いんだっけ」
 地球にいたときに見たネイチャー系ドキュメント番組を思い出しながら進む仁であった。
 カプリコーン1の足元は、今や45度を超える傾斜。
 直登は難しいので、操縦担当のランド1は、カプリコーン1をジグザグに登らせていた。
「だ、大丈夫?」
 バランサーやスタビライザーは付いているというものの、時折大きく傾いだりするのでシオンは不安そうだ。
 仁としては、力場発生器フォースジェネレーターを使えばこのくらいの斜面を飛び越えるくらいできると思っているのだが、この際、カプリコーン1の限界を知りたいと言う思いもあり、歩行だけで登り切るつもりであった。
「ここぐらい登り切れないと、この先には行けないからな」
 仁がそう言った瞬間、脚の1本がずるりと滑る。
「きゃあっ!」
 シオンが真っ青になる。が、仁は少し緊張しただけ。
 カプリコーン1は少し揺れたものの、バランスを取り直し、再び登り始めた。

 そして1時間後、ついに山稜に登り着いたのである。
 だが、そこも白い嵐が吹き荒れ、視界はほとんどゼロ。外気温計はマイナス40℃付近で凍り付いてしまっている。
「ランド1、不具合は?」
「はい、特に動作上の問題はありません。ただ、足の裏のスパイクがこれでは不十分です。氷の時はよくても、新雪は捉えきれません」
「なるほど……」
 雪山登山の際は、アイゼンと呼ばれる、鉄などで作られた爪を靴に取り付け滑り止めとするが、新雪・深雪が相手ではあまり効果が無く、その場合にはかんじきやスノーシューと言った道具が使用されていた。
「必要に応じて、足裏の面積を変えたり、爪を出したりできるようにしておけば良かったか……」
 さすがに今、そういった改造をすることは不可能だ。
 止まってしまうとそのまま凍り付きそうなので、歩かせながら昼食を摂ることにする。
「今回はあったかいもの食べられるのよね、ありがたいわ」
 前回は携行食や保存食ばかりだったのでげんなりしていたことを思い出したシオンであった。

 食事をしている間もカプリコーン1は進んでいく。
 そして今度は下りに差し掛かった。
「注意しろよ。登山では、下りの方が難しいと聞いたことがある」
「了解です」
 ランド1は短く答え、慎重に操縦していく。できるだけ傾斜の緩い場所を選びつつ、だ。
 右も左も分からない、吹雪吹き荒れるこの地で、方角を見失わないで済んでいるのは、ひとえに上空……雲の上でサポートしてくれているスカイ1とファルコン1のおかげだ。
「危ないときはいつでも力場発生器フォースジェネレーターを使え」
「はい、ご主人様」
 ルート選びが功を奏し、滑落することなく順調に下ることができた。
 傾斜が緩み、仁たちもほっとする。
「このまま北へ進むと、チカグワ湖に出るんだったな」
「ええ、そう言ってたわね。でも大丈夫?」
「何が?」
「湖っていっても、この寒さじゃ凍っているでしょう。その上に雪が積もっていたらどこが湖かわからないんじゃない?」
 シオンは自分の懸念を口にした。
「ああ、そうかもな」
「でしょう? そんな氷の上に乗ったら、重さで割れて、水の中に落っこちちゃうんじゃない?」
「それは大丈夫だろう」
「なぜ?」
「湖面は1段低くなっているだろうし、真っ平らだろうからわかると思うよ。気を付けるけどな」
「そっか……」
 シオンとそんな会話をしていた仁は、サキがおとなしいことに気が付いた。
「サキ、どうかしたか?」
「う、ええ? ああ、ちょっと考え事をね……」
「どんなことだい?」
「うん、アレクタスさんに色々見せてもらっていて、ふと思い浮かんだ疑問だったんだけど……」
 サキはゆっくりと話し出した。
「金属……に限らなくてもいいけど、取りあえず金属としよう。その強度は何で決まるのか、ということをね」
「なるほどね」
「……密度?」
 仁は頷き、エルザは自分の意見を述べた。確かに、最強の金属として名高いアダマンタイトの比重は19.3もある。
「いや、それなら、金や鉛だってもっと強度があってもいいじゃないか」
 金は比重19.3。鉛は11.3だ。鉄は7.9、銅は8.6などとなる。
「あ、確かに」
「そう、密度じゃ強度は決まらないんだ……」
 サキはまた難しい顔になった。
「ふうん、アレクタスといろいろ話もしたんだな」
「ん? うん、あの人は博識だね」
「……やっぱりサキはファザコンか」
 アレクタスの見た目は40代前半、サキの父トア(42)と同年代に見える。
「ふぁざこん?」
「ジン兄、ふぁざこんって?」
 エルザもその手の知識は無かったようで、首を傾げながら仁に尋ねてきた。シオンは何も言わないが、教えて欲しそうな顔だ。
「ファザコンっていうのは……父親が好きで、なかなか親離れできない状態……かな」
「なっ……」
 説明を受けたサキの顔が赤くなった。
「うん、確かにサキ姉はふぁざこんかも」
 エルザも同意する。
「そ、そんなこと言ったらエルザはどうなんだい!?」
「……エルザはブラコンなんだろうな」
「ぶらこん?」
「対象が兄弟になるわけだ」
「そ、そんな……でも……そうかも」
 最初は否定したが、すぐ認めるあたり、自覚はあるようだ。
「じゃあ、ジンはどうなんだい?」
「俺は……わからないかな」
「あ……ごめん」
 孤児だった仁であるから、肉親がいないため、そういう感傷とは無縁……のはずだ、と察したサキは謝った。
「いや、別に……」
 そもそも、仁は自分から振った話題だったわけだから、と苦笑する。
「……」
 少し重くなった空気だったが、それを破ったのはシオン。
「でもジンって、女の子には甘いわよね」
 今まで黙っていたシオンの言葉が投げかけられる。
「……ん、同感。特に、小さい子に甘い」
「そ、そんなことは……あるかも」
 少し慌てる仁。
「……小さい子が好き?」
「な、何を言い出すんだ」
 エルザの言葉に、仁はさらにうろたえる。
「そう言うのって何て言うの? ……ふぁざこん、ぶらこん、と略すなら……しすこん?」
「うっ」
 シオンのおかげで重くなりかけた空気が霧散したのだが、良かったのか悪かったのか。
 苦笑しながら仁は何と言って申し開きをしよう、と考えるのであった。
 仁はシスコンですよね。そして多分マザコン。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150317 修正
(誤)ふと思い浮かんが疑問だったんだけど……
(正)ふと思い浮かんだ疑問だったんだけど……

(旧)かつて、『始まりの地』目指して登ったときは
(新)かつて、『始まりの地』を目指して登ったときは

(旧)「はい、特に動作上の問題はありません。ただ、足の裏にスパイクがあると、より滑りにくくなると考えます」
「なるほど……」
 雪山登山の際は、アイゼンと呼ばれる、鉄などで作られた爪を靴に取り付け、滑り止めとする。ただこれは雪のない場所では逆に歩きにくくなるため、そのようなときは取り外す必要がある。
「必要に応じて、足裏からスパイクを突き出せるようにしておけば良かったか……」

(新)「はい、特に動作上の問題はありません。ただ、足の裏のスパイクがこれでは不十分です。氷の時はよくても、新雪は捉えきれません」
「なるほど……」
 雪山登山の際は、アイゼンと呼ばれる、鉄などで作られた爪を靴に取り付け滑り止めとするが、新雪・深雪が相手ではあまり効果が無く、その場合にはかんじきやスノーシューと言った道具が使用されていた。
「必要に応じて、足裏の面積を変えたり、爪を出したりできるようにしておけば良かったか……」

 15-32 北上 にて、カプリコーン1の足裏にはちゃんとスパイクが付いていましたので orz

 20160107 修正
(誤)「でも仁って、女の子には甘いわよね」
(正)「でもジンって、女の子には甘いわよね」
+注意+
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