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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

21 海運と遺跡篇

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21-43 閑話39 セルロア王国では

 ある日のセルロア王国。
「何? 『崑崙君』だと?」
「はい」
 セルロア王国国王、リシャール・ヴァロア・ド・セルロアは鼻で笑った。
「ふん、取るに足らない離島の所有を主張しているのか。構わん、許可してやれ」
「よろしいので?」
「当たり前だ。我がセルロア王国が、そんな吹けば飛ぶような島を気にする価値もない」
 この日のリシャールは機嫌が良かった。
 というのも、昨日、『セルロア式熱気球』による国内地図ができあがってきたのである。
「ふむ、アスール湖はこのような形をしているのだな。で、ナウダリア川がこう流れ、アスール川とトーレス川はここで合流し、我が首都エサイアは……」
 その地図には、当然ながらエゲレア王国、ショウロ皇国、フランツ王国、クライン王国などの一部も描かれていた。
「ここに砦が……ふふふ、これがあれば戦術も立てやすくなるというものよ」
 完成したばかりの地図を前に、ご機嫌なリシャール・ヴァロア・ド・セルロアであった。

 またある日。
「我が君、お呼びでございましょうか」
 リシャールの前に跪いているのは食糧庁長官のクヌート・アモント。官吏としての身分は中の下くらいであるが、昨今の食糧不足のため、呼び出される頻度は増えていた。
「クヌート、食糧の確保はどうなっておる?」
「は、我が君。先日出していただきましたお触れにより、各地方官に臨時の徴税を命じました。間もなく首都エサイア住民全部に行き渡る量の小麦が届く手筈であります」
「うむ、よくやった」
「ありがたきお言葉」
 クヌート・アモントは、国王の勅許を得て、特にコーリン地方に8公2民という重税を課していた。収穫の8割を国に召し上げられてしまうことになる。
 元々コーリン地方は、かつてコーリン王国と呼ばれていた。それを、200年前に侵略同然のやり方で併合したのである。
 ゆえに、コーリン地方は王国の中では1段低く見られていたのである。
 同様に、東部のリーバス地方も、100年前にリーバス王国が併呑されてできたのであるが、こちらは遊牧民が多い地方のため、税も羊毛が主であり、食糧調達には適していなかったのである。
 が、甘やかしてはならぬとばかりに、その羊毛も例年の4割増しで取りたてられており、住民の不平不満は募っていた。

 そしてまたある日。
「我が君、エカルトの大型船、接収完了しました」
「ふむ、続けろ」
「はっ。試験航行を終えて戻ってきたところを捕まえ、船の譲渡を求めたところ、『快く』譲って貰えたとのことです。その際、無償では我が君の威信に傷が付くので、なんと1万トールを下げ渡したとのこと」
「ふふ、なかなかやるではないか」
「はっ。更には、船を建造したドックと工員、それに船の乗員の大半もそのままこちらのものにしたそうであります」
「よくやった。褒めてつかわす」
「ありがたきお言葉」

 またまたある日。
「何、レナード王国跡でゴーレムが多数発見されただと?」
「はい。エゲレア王国に潜り込ませた間諜から連絡が入りました」
「ふむう……。まだそんな遺跡もあったのか。彼の国に占有させるのは癪だな。我が国からも兵を出せ」
「はっ」

*   *   *

「……もうおしまいだ……」
 セルロア王国南端、クゥプの町で、1人の男がくずおれていた。
 彼の名はエカルト・テクレス。
 クゥプの町で、隆盛を極めた『元』大商人である。
 だが、彼が情熱と財産を注ぎ込んで建造した大型船、『ブリジット』を、国に召し上げられたのである。
 同時に、それを建造したドックを含む家屋敷と使用人たちをも。
 払われたのは1万トール(約10万円)のみ。
 船員たちも、派遣された兵隊を恐れ、大半がそのまま船と共に国に仕えることとなったのである。
 反論は許されなかった。500を超す兵士を前に、一介の商人が何を口にできるというのか。
「エカルト様、元気を出して下さい」
 意気消沈するエカルトを慰めたのは彼お抱えの魔法工作士(マギクラフトマン)、アルタフ。しかしその実は仁が作った第5列(クインタ)、レグルス50である。
「奥様、お坊ちゃまも」
 エカルトの妻、ポーレットと息子ミッシェルに付いているのはアルタフの妻、ギェナー。その正体は第5列(クインタ)のデネブ30であった。
 今や、没落したエカルト一家に付いているのは彼等、第5列(クインタ)だけ。
「……ありがとう。君たちはなぜ出て行かないんだね……?」
 力なく礼を言うエカルトに、アルタフは微笑みながら答えた。
「我々はセルロア王国の者ではないですからね。この国に未練も何もありませんし」
「そうだ、ショウロ皇国へ行きませんか?」
 ギェナーが後を続けた。
「ショウロ皇国……?」
「ええ。ヴィヴィアンさんやステアリーナさんも亡命してますよ」
「亡命、か……」
「あの国なら知り合いもいます。いつまでもここにいても仕方ないでしょう?」
「……」
 アルタフたちの言う通り、最早この国に未練はなかった。彼の生まれもここクゥプではなく、内陸部のワトスであったので、土地にも未練はない。
「あなた」
 ポーレットに声を掛けられ、エカルトはゆっくりと立ち上がった。
「……そう、だな。まだ私にはお前たちがいる。別の国で親子3人、何とか食べていければ、それでいいな」

 アルタフとギェナーはゴーレムを1体連れており、それが一行の荷物を運んでくれたので、道中は楽なものであった。
 このゴーレムの正体も、もちろん仁の作った職人(スミス)ゴーレム、スミス40である。

 彼等は海岸沿いに西へ。5日掛けて160キロを踏破し、イゾルという町に辿り着いた。
 町の西を流れるボーダー川の向こうはショウロ皇国である。
 が、対岸には町も村もなかった。
 30キロほど北にキインという村があるのだが、それ以前にまず問題は川をどうやって渡るかである。
 無断越境は重罪である。川沿いには国境警備兵が巡回していて、見つかれば即逮捕。セルロア王国の法では終身労役となる。
「夜中に渡ってしまいましょう」
 簡単に言うアルタフに、エカルトは不安げに頷くしかなかった。ポーレットも不安げな顔。
「大丈夫です、いざとなったら我々が盾になりますから」
 ギェナーはそう言ってエカルト一家の不安を慰めるのであった。
 そしてその言葉通り、アルタフが『ちょいっと』作った筏で、一行は無事ボーダー川を渡河。
『不思議なことに』渡り終えるまで、国境警備兵の巡回はなかったのであった。

*   *   *

『エカルト一家が亡命ですか』
 蓬莱島では、第5列(クインタ)であるアルタフとギェナーから定期的に連絡を受けており、老君は既に計画を練り上げていた。
『セルロア王家には反省してもらいましょう。尤も、あの傲慢な王家はこのくらいでは何も感じないでしょうが、『あり一穴いっけつ』というものを教えてやりましょう』
 別名『千丈の堤も蟻の一穴より』。堅固に作った堤防も、蟻が空けた小さな穴が原因となって崩れ去ることもある、ということわざである。
 ステアリーナ、ヴィヴィアンに続き、エカルト・テクレス。
 人材の流出が国家にとってどれだけの損失であるか、現セルロア国王、リシャール・ヴァロア・ド・セルロアにゆっくりと思い知らせてやろうと、老君は考えていたのである。

*   *   *

 3458年、1月19日。
「セルロア王国からの亡命者ですって?」
 ロイザートの女皇帝の下へ、ワス湖畔、シモスの町から知らせが届いた。
「はい、『ベルンシュタイン』と同等の大型船を開発した商人だそうです」
「ジン君に名前を聞いたことがあるわ。優秀な商人だって話よ。ロイザートに招きなさい」

 エカルト一行は無事ショウロ皇国に辿り着くことができた。
 そして、ステアリーナ、ヴィヴィアンに続き、ショウロ皇国在住の外国人登録者第3号、4号、5号となったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150227 修正
(誤)100年前にリーバス王国が併呑されでできたのであるが
(正)100年前にリーバス王国が併呑されてできたのであるが

 20150228  修正
 サブタイトル、閑話39でした。
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