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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

21 海運と遺跡篇

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21-41 万事休す

ちょっとグロい描写があります
 炎に包まれた『もどき』1頭が倒れた。ようやく上がった戦果に、隊員たちの士気が少しだけ上がる。
 だが、その後に放たれた『炎玉(フレイムボール)』3発は、素早く動き回る『もどき』を捉えられず、虚しく消滅したのである。

 そして更に、隊員たちを絶望させるような状況が生じる。
 残った岩狼ロックウルフもどきが合体……いや、融合を始めたのだ。
 16体の岩狼ロックウルフもどきが融合した結果、倍以上の大きさの岩狼ロックウルフもどきが誕生した。
 体長2.5メートル。後脚で立ち上がると、6メートルの『ゴリアス』の頭にも前脚が届いてしまう。
「きゃああ!」
 巨大岩狼ロックウルフもどきに襲われ、『ゴリアス5』の肩に避難していた女性騎士が悲鳴を上げた。
「くっ! 『ゴリアス4』! 守れ!」
 フリッツの命令に、『ゴリアス4』は巨大岩狼ロックウルフもどきに掴み掛かった。
 だが、その両手から白煙が上がる。溶かされているのだ。
 しかし、なんとか『ゴリアス5』から引き離すことはできた。巨大岩狼ロックウルフもどきは、今度は『ゴリアス4』を標的にしたようだ。
 邪魔者を先に排除する気らしい。

「くそっ!」
 一方、フリッツたちは残った1体の『もどき』、すなわち『牙猪サーベルボアもどき』と戦っていた。
 彼が得意とする風属性魔法では致命傷どころか、効果的な牽制すらもできない。
 かといって、剣で斬り付ければ剣が溶かされ、繰り返せば剣が使い物にならなくなってしまう。
「うわっ!」
 上空にいる熱気球からの援護、『火の弾丸(ファイアバレット)』が1人の騎士をかすめたのである。
 動き回る騎士、動き回る牙猪サーベルボアもどき。狙いを付けるのも難しい。
「くう、このままではジリ貧だ……」
 さすがのフリッツにも焦りが出てきた。
 避けているだけで、効果的な攻撃が何一つできていない。
「『石つぶて(ストーンバレット)』!」
 グロリアの副官、シンシアが土属性魔法を放つが、牙猪サーベルボアもどきは何の痛痒も感じないらしく、真っ直ぐシンシアに突進していく。
「きゃあ!」
 辛うじて避けたものの、脇腹をかすられ、シンシアは転倒してしまった。
「シア!」
 グロリアが駆け寄る。
「だ、大丈夫です」
 苦痛に顔を歪めながらも、シンシアは立ち上がった。が、その右腋からは白煙が上がり、胸当てにも穴が空いているのが見える。おそらく身体にもダメージがあるだろう。
 牙猪サーベルボアもどきは20メートルほど走り抜けた先でUターンし、再び戻って来た。今度の狙いはまたもシンシアのようだ。
「くう……」
 まだシンシアは体勢を立て直し切れていない。彼女を守るように、グロリアはショートソードを構えた。
 突進してくる牙猪サーベルボアもどき。衝突される直前、グロリアは半歩下がりながら真横に斬り払う。
 そしてそれは偶然、牙猪サーベルボアもどきの体内にあった『魔力核(コア)』をも真二つにしたのである。
 根源である魔力核(コア)を破壊された牙猪サーベルボアもどきは、走り抜けながら形を崩していき、やがてただの半流動体となり、びちゃりと音を立てて地面に広がったのである。
「副隊長、ありがとうございます」
「グロリア殿、お見事だ!」
 仁が作った複合材の剣。薄いアダマンタイトを鋼でサンドイッチしたその剣は、鋼部分を溶かされながらも、アダマンタイトの刃はびくともせずに魔力核(コア)を斬り裂いたのであった。
 だが、その代償は大きかった。
「……」
 無言でグロリアが倒れる。
「副隊長!」
「グロリア殿!?」
 シンシアとフリッツが駆け寄る。助け起こしてみれば。
「……っ!」
 牙猪サーベルボアもどきを斬り裂いた時に噴き出した体液を浴び、顔から首にかけて、そして右腕までが焼けただれていたのである。
「治癒を!」
 だが、治癒担当の女性騎士、ティファニー・バルダックは『ゴリアス5』の肩の上だ。
 そして、その『ゴリアス5』は巨大化した岩狼ロックウルフもどきに狙われている。
 熱気球からの『火の弾丸(ファイアバレット)』も、最早魔力が残り少ないらしく、放たれなくなってしまった。
 今、フリッツにできることといえば、重傷を負ったグロリアを熱気球に乗せることだけ。
 大きく手を振り、熱気球乗員の気を引く。
 乗員は、遠目ながらもグロリアの惨状を見ると、ゆっくりと高度を下げてきた。 
 そこでフリッツは、ぐったりしたグロリアを『ゴリアス1』に手渡し、熱気球がその高さまで下りてくることで、なんとか彼女を乗せることに成功する。
 が、熱気球ももう定員一杯で、これ以上の怪我人を乗せることはできそうもない。
 乗員も、魔力切れで当分は攻撃も支援もできそうもなかった。
 そのため、この場を離れ、重傷のグロリアを最寄りの町へ連れて行くことにしたのである。
 ゆっくりと南へ向かう熱気球。
 フリッツはそれを見送り、再び敵に視線を戻した。
 今、巨大岩狼ロックウルフもどきは『ゴリアス5』を援護する『ゴリアス4』と取っ組み合っていた。
『ゴリアス4』の手足は少しずつではあるが、白煙を上げ溶かされつつあった。動作不良を起こすのもそう遠くないであろう。

「万事休す……か」
 フリッツの脳裏に、昔の失敗が蘇る。
 5年前、まだ中尉だったときだ。セルロア王国との小競り合いで、セルロア王国国防軍の捕虜になってしまったのである。
 己の武威を頼みにして、1人突出した揚げ句のこと。
 捕虜交換で帰国出来たのだが、それ以来彼は武技だけでなく、戦術・戦略について学んできたのである。
「……だが、この窮地を逃れる術は……」
 さすがの彼も心が折れそうになった、その時。

 どばあん、というような衝撃音がして、『ゴリアス4』を相手にしていた巨大岩狼ロックウルフもどきが吹き飛んだのである。
「い、一体何が起きた!?」
 そんなフリッツの肩を、ぽん、と叩いた者が。
「!?」
 茶色の髪、茶色の目をし、銀色の兜を被り、漆黒の服を身に纏った細身の男が立っていた。
「もう心配はいらない」
「き、貴殿は?」
 いつの間に現れたのかわからないその男は、
「私はマキナ。デウス・エクス・マキナだ」
 と名乗ったのである。
「マキナだって?」
 フリッツもその名前は聞いていた。統一党(ユニファイラー)に扇動されて各国間に生じた紛争を、力ずくで止めさせたという。
「そうだ。魔導大戦の亡霊を呼び出してしまったようだな。だが、あれも任せておくがいい」
「!?」
 マキナの顔が向いている方を見やったフリッツは己の目を疑った。
 巨大岩狼ロックウルフもどきが翻弄されているではないか。
 銀色に輝く鎧を着けているその姿は、どう見ても女性。それもかなり小柄である。身長150センチそこそこにしか見えない。
「私のパートナー、レイだ」
 そのレイという女性騎士は、巨大岩狼ロックウルフもどきを力でも圧倒している。
 触れても溶かされることのない鎧を着け、単なる打撃で巨大岩狼ロックウルフもどきを吹き飛ばしているのだ。
「す、すごい……」
「まだレイの本気はあんなモノじゃないがな」
 マキナはフリッツが己の耳を疑うようなことを言う。そして。
「レイ、とどめだ」
 騎士たちから十分距離を取ったと判断したマキナは指示を出した。
 白銀の女性騎士レイは無言で頷き、腰の剣を抜く。
 それは紫電を纏う光の剣。長さは5メートルはあろうか。
 重さがないかのように振るわれた長大な光の剣は、声もなく見つめるフリッツの目の前で、巨大岩狼ロックウルフもどきを細切れにしたのである。
 その際、内部の魔力核(コア)も破壊されたため、再び形を取ることはできなかった。
「『加熱(ヒート)』」
「なっ!?」
 フリッツは更に驚愕した。
 マキナが使ったのは単純な工学魔法、または火属性の初級中の初級魔法、『加熱(ヒート)』。
 だが、その魔法は危険な半流動体をあっという間に蒸発させてしまったのである。
「これで後腐れもないだろう。怪我人は?」
「あ、ああ、大した事はない。1人重傷者がいたが、熱気球で最寄りの町へ送った」
 驚愕に打ちのめされてはいたが、フリッツは何とかそれだけを口にしたのであった。
 フリッツのイメージは三国志演義、呉の呂蒙あたりで。(途中で発憤し、勉強したという点において)
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150225 修正
(誤)巨大巨大岩狼ロックウルフもどきが翻弄されているではないか
(正)巨大岩狼ロックウルフもどきが翻弄されているではないか

(旧)統一党(ユニファイラー)に扇動されて、各国間に生じた紛争を力ずくで止めさせたという
(新)統一党(ユニファイラー)に扇動されて各国間に生じた紛争を、力ずくで止めさせたという

 20150226 修正
 デウス・エクス・マキナの一人称が「俺」になっていたのを「私」に修正(2ヵ所)。
+注意+
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