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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

21 海運と遺跡篇

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21-37 中身

 明けて14日。
 容器をどうするか、ということが緊急の課題である。
 クライン王国調査隊は隊長ベルナルドと副隊長グロリア。エゲレア王国調査隊は隊長ブルーノと魔法工作士(マギクラフトマン)ジェード。そしてショウロ皇国の少佐、フリッツ。
 以上5人が顔を付き合わせて会議をしていた。
「まずは分配について相談し、それぞれの国の方針で決めたらどうか?」
 これはベルナルド。
「うーむ、それも一理あるか……我々としては穴でも掘って中身だけ捨てていきたいが」
 ブルーノが難しい顔で頷いた。
「それは惜しい! 旧レナード王国が捨てずに封印していたということはそれなりに価値のあるものなのでしょう。それを捨てるなんて!」
 ジェードが反対した。
「それもまた理屈だな」
 フリッツが頷く。
「錬金術師たちなら大喜びで飛び付くだろう」
「だがそうすると、容器に使われている金は転用できなくなる。それでは持ち帰る意味が半減してしまうのではないか?」
 正論を口にしたのはグロリアだった。
 それに対し、ジェード・ネフロイの意見はというと。
「勘違いして欲しくないのは、中の液体が脅威だという意見は私も同じです。ですが、この調査行の意味を考え合わせてみないと、ということを言いたいのです」
「ふむ……」
 なかなか結論は出ない。こちらの様子は魔導監視装置(マギモニタ)で伝わっているはずだが、向こうの様子がわからないというのはもどかしいものである。
 そんな時だった。

「うわあ!」
 驚いたような声が響いた。
 そちらを向くと、クライン王国調査隊の1人が、手にしたナイフを青ざめた顔で見つめている。
 ベルナルドたちは一旦会議を止め、何があったのか知るため、その男を呼び寄せた。
「マルタフ、どうした?」
 マルタフと呼ばれたその騎士は姿勢を正し、説明を始める。
「あの謎の液体がこぼれた後、水で流しましたが、その場所を通りがかったところ、微かな煙が立ち上り、異臭もしていました」
 状況の説明を行うマルタフ。ベルナルドは頷き、先を促した。
「ふむ、続けてくれ」
「はっ。煙は水たまりから発生していまして、何か沈んでいるのかと思い、装備のナイフで探ってみたところ、このようなことに」
 マルタフは手にしたナイフを差し出して見せた。それは表面が崩れたようになっており、明らかに『溶けて』いた。
「これは……」
「流した後の水に残っていた液体のせいだというのか?」
「鉄を溶かす液体か……」
 考え込む隊長たち。
「……旧レナード王国では、もしかすると兵器として使うことも考えていたのではないか?」
 そう発言したのはフリッツである。
「確かにな。この液体を浴びせられたら、たとえ鉄の鎧を着ていても損傷を受けるだろうからな」
 ブルーノも同意する。
「だが、それならなぜ封印していたのだろう?」
 ベルナルドの意見は至極当然である。この溶解液なら、鎧の隙間からも染み込み、敵に損害を与えることができるだろうに。
「……あまりにも非人道的だからではないでしょうか?」
 グロリアが意見を述べた。彼女は、先程の治療を見ており、その惨状も目にしていたからだ。
「……両腕と胸部は黒く、炭のようになっています。中級の治癒魔法では追いつかないほどの傷ですから」
「ふむ……」
 現代地球で言う化学兵器に当たる。ガスばかりでなく、こういったものも脅威になりうるのだ。
「薄めても尚かつこれだけの効果が……怖ろしいですな」
 さすがのジェード・ネフロイも少し顔色が悪かった。

「とりあえず、結論を出す前に、アダマンタイトの容器の方の中身を確認してはどうか」
 との意見がベルナルドから出た。
「いや、金でなくアダマンタイトである理由は何か考えてみたらどうだ?」
「もっと危ないものが封印されている可能性もあると思うが」
 グロリアとフリッツが反対をした。
「いや、いずれ確認しなければならないことであるし、本国に持ち帰ってからよりもここで確認した方が良い」
「そうですね。持ち帰る道中に事故が起きないとも限りませんし」
 そしてブルーノとジェードは賛成であった。
 つまり3対2で確認する事になったわけだ。
 フリッツもグロリアも、決議に反対することはなかった。
「では、どうやって中を確認するかだ」
「それは私が」
 と、ジェード。工学魔法で容器を開けるということだ。
 アダマンタイトであったとしても、それなら何の問題も無く開けられるだろう。
「うむ、頼む。……それでは、できるだけの安全措置を講じて行いたいと思うが」

 野営地から200メートルほど離れた場所に、『ゴリアス』が直径10メートル、深さ5メートルほどの半球状の窪地を掘った。
 その中心部にアダマンタイト製の容器を運び込み、ジェード・ネフロイが工学魔法で開ける。
 ジェードには命綱を付けておき、何かあったら『ゴリアス』が引き寄せることになる。
 また、攻撃魔法を使える者は穴の淵に待機し、不慮の出来事に対処する。
 グロリア以外の女性騎士は、万が一に備え、後方で待機。
 この様子は『魔導監視装置(マギモニタ)』で逐一エゲレア王国に伝えていく。

 以上が取られた措置である。
 時刻は午後3時。
 ジェード・ネフロイは工学魔法を使い、アダマンタイトの容器に穴を開けていく。
「『変形(フォーミング)』」
 ごくゆっくりと変形が行われ、容器の蓋部分に直径10センチほどの口が開いた。
 そこで一旦止めるジェード。
「……中身は?」
 開口部からのぞき込むと、中には半透明のどろりとした粘性流動体が入っている。
 仁が見たなら『求肥ぎゅうひ』みたいだ、と言っただろうか。
 恐る恐る、落ちていた木の枝でつついてみるが何ごとも起こらない。ジェードは開口部を大きくしてみた。
 間違いなく、得体の知れない半透明な流動体であるが、木の枝やナイフを突き刺しても何ごとも起こらない。どうやらこちらは劇物ではないようだ。
 ほっとしたジェード・ネフロイは、他の容器も慎重に開けてみた。
 10ある容器のうち9つまでは同じ物が入っていた。
 が、残った1つは、振ると、がらがら、と言う音がするのだ。明らかに固形物、それもかなり硬そうなものが多数入っていると思われる。
「これだけ中身が違うようだ。慎重にな」
「はい、承知しています」
 そう思って容器をよく見ると、これだけ一回り小さいようだった。
「……『変形(フォーミング)』」
 ジェード・ネフロイはそれまでと同様、慎重に容器を開けた。
「これは?」
 そこに入っていたのは、灰色をした石が多数。
 砕いたような不揃いな形、ツヤもなく不透明で、価値がありそうには見えない。
「……なぜこんなものがアダマンタイトの容器に?」
 考えて見てもわからない。

『200年以上の間に変質し、無害になったのではないだろうか』
 というのが、最終的な結論であった。
「少なくとも、アダマンタイトの容器は中身を気にせず運べるということだな」
 とはいえ、中空の容器というのは嵩張かさばってしまう。
「中身は穴を掘ってそこにあけてしまい、空になった容器は工学魔法でインゴットにしてもらうとしようか」
「それがいいでしょうね」
 誰も反対する者はいなかったので、調べた場所の中心部の適当な場所に穴を掘り、そこに容器の中身を全てあける。
 灰色の石も、ジェード・ネフロイが調べたが、何ら価値がある物でもなかったため、同じ穴の中に捨てることにした。
 石は半透明の粘性流動体の中へゆっくりと沈んでいった。
 気が付けばもう夕暮れである。
「さて、今夜はここにもう1泊することになるな」
 ベルナルドがそう言うと、隊員たちは野営の準備を始めた。テントは既に張ってあるので、主に夕食の仕度だ。
「今夜は御馳走だ。シーパの石焼きだぞ」
 その日の調理担当が言うと、小さな歓声が上がった。
 2日前に見つけたシーパである。まだ肉として熟成はしてないだろうが、こういう場所での肉料理を好まない者はいない。
 平たい石を火で焼いで、その上に肉を載せて焼く。好みの焼き加減になったら調味料を付けて食べるわけだ。
 調味料といっても、塩と僅かの香草だけだが、それでも彼等にとってはごちそうであった。
 残った骨や皮などの生ゴミは先程の穴に捨てることにした。
「明日の朝、埋め戻してから発つとしよう」
「わかりました」

 その夜は冬にしては温かい夜で、彼等は寒い思いをせずにぐっすり寝られたのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150223 修正
(旧)「だがそうすると、容器に・・・半減してしまうのではないか?」
 正論を口にしたのはグロリアだった。
「勘違いして欲しくないのは、中の・・・ということを言いたいのです」
(新)「だがそうすると、容器に・・・ないか?」
 正論を口にしたのはグロリアだった。
 それに対し、ジェード・ネフロイの意見はというと。
「勘違いして欲しくないのは、中の・・・ということを言いたいのです」
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