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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

21 海運と遺跡篇

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21-32 ソルドレイク遺跡

 1月9日、朝。
 仁、ラインハルト、エルザ、そして礼子らは、外宮にある魔法相ケリヒドーレが長を務める魔導実験室に招かれた。
 ここはエゲレア王国最先端の、魔法技術を研究している機関である。
「見て貰いたいというのはこれなのだよ」
 そこにあったのは魔導投影窓(マジックスクリーン)。ゴーレム艇競技の時にモニタとして使われていた古代遺物(アーティファクト)である。
「もしかして、魔導投影窓(マジックスクリーン)を再現したんですか?」
「うむ。再現というのもおこがましいが、な」
 ケリヒドーレは謙遜してそう答えたが、やはり顔は誇らしげであった。
「試験的に、旧レナード王国に出向いている調査隊に持たせてあるのだ」
 指差した画面には、確かに、遠く離れた土地の様子が映っていた。
 が、その画質はあまり鮮明ではなく、時々映る隊員の動きもカクカクしている。コマ落としで映画を観ているようだ。
「まだ試作なのでいろいろと問題はあるが、この魔導装置の一番の利点は、『魔導監視眼(マジックアイ)』に相当する魔導機(マギマシン)が小さくて済むことなのだ」
 魔法相は説明をしていく。
「楽に肩に担げる大きさでな。その分、こちら側、つまり魔導投影窓(マジックスクリーン)が大きくなってしまっているのだが」
 それでも、遠く離れた調査隊の様子が見て取れるというのはかなり有効だ。音声が拾えないのが残念である。
「向こうからこちらに何か知らせたい場合は文字で書いて、という手も使える。が、こちらから向こうへ連絡する術がないのが残念だがね」
 とはいえ、これは大きな進歩である。古代遺物(アーティファクト)というお手本があったにしても、失われた技術をこのような形で再現、応用したことは評価されてしかるべきだろう。
「元の名前を名乗るにはおこがましいので、『魔導監視装置(マギモニタ)』とでも呼ぼうと思っている」
魔導監視装置(マギモニタ)ですか、なるほど」
 仁は頷き、その装置をしげしげと見つめた。
「ジン殿には、何か意見があるかね?」
「そうですね……」
 正直言ってあるなどというレベルではない。
 画像がカクカクしているのは、データを送る速度が遅いためであるし、画質が悪いのは魔導監視眼(マジックアイ)の研磨精度が低いからだろう。
 装置全体が大きいのは、魔法制御の流れ(マギシークエンス)のまとめ方にも問題があるのだろうし……。
 だが、それらを全てこの場で指摘するのが拙いことくらいは仁にもわかっていた。であるから、
「画質に関しては、おそらく魔導監視眼(マジックアイ)の研磨精度が低いためだと思うのですが」
 と、比較的受け入れられやすい内容を指摘するに留めておいたのである。
「なるほど、研磨精度か……今考えて見ると思い当たる節が多いな……」
 しばし思い出すように顎に手を当てていたケリヒドーレだが、納得した要に頷くと、仁に頷き掛けた。
「ふむ、感謝する、ジン殿。次の作には、その辺をもっと気を付けてみることにしよう」

「昨日、調査隊はソルドレイクという遺跡に辿り着いてね。今日から本格的に遺跡を調査し始めたところなのだ」
 その言葉通り、魔導投影窓(マジックスクリーン)には、仁も見たことのない遺跡の様子が映っていたのである。

*   *   *

 ソルドレイク遺跡は旧首都ディアアの南西に位置している。
 周囲は赤茶けた岩が点在する草原。
 エゲレア王国の首都アスントより北に位置するものの、標高が低いため、大体同じくらいの気温である。
 が、内陸であるアスントに比べ、海が近いためか、空気もより湿り気を帯びている。ゆえに植物が繁茂しやすい環境であった。
 そこを、調査隊一行は細いながらも道を付けながら至っていたのである。

「よし、まずはジェード殿、調査を頼む」
 調査隊隊長であるブルーノ・タレス・ブライトが、魔法工作士(マギクラフトマン)のジェード・ネフロイに依頼した。
「は、お任せください」
 目の前にあるのは、赤茶色の砂岩で築き上げられた、砦のような外見の遺跡である。
 こうした遺跡には、魔法的な封印や罠が仕掛けられていることが多く、優秀な魔法工作士(マギクラフトマン)ならば、その解除ができる。
 それもあって、ジェード・ネフロイが同行しているのだ。
 前日は、実に4つの罠を解除し、この扉に迫ったのだったが、日没による時間切れ。中の調査はこの日に繰り越されていたのである。

 ジェードは、扉と思しき箇所を念入りに調査していたが、やがて振り返って報告した。
「……罠はありませんね。封印だけです。これならすぐに解除できます」
 その言葉通り、3分ほどで扉が開いたのである。
「おお、開いた」
「中に罠がある可能性もあります。慎重に願います」
「心得た」
 そして、隊長のブルーノを先頭に、一行は遺跡の中に足を踏み入れた。殿しんがりは非戦闘員のジェード。

 それが現地時間午前8時、エゲレア王国首都アスントで7時15分のことであった。

「ほう……」
 誰が発したのか、感心したような、納得したような声が響いた。
 中は、外と違って大理石の様な石で床や壁、天井まで覆われており、一行が持つ魔導ランプの光を受けてきらめいていた。
「こういう時は……」
 ジェード・ネフロイが『光の玉(ライトボール)』を灯す。注ぎ込んだ魔力が尽きるまで灯っている魔法の明かりだ。
「おお、明るくなった」
 その明るさは魔導ランプの数倍。例えるなら20ワット電球を100ワットに変えた時のように、室内は一気に明るくなった。
 それにより、細部までよく見えるようになる。部屋は縦長の長方形。幅10メートル、奥行き20メートルくらいか。
「何も無いな」
 入った所は、広いだけで何も無い。
「あれは?」
 いや、片隅に何か瓦礫の山のようなものがあった。
 近付いてみると、それはあまり質は良くないが、魔結晶(マギクリスタル)であった。
 低品質とはいえ、こんもりと目の高さくらいまで積み上がっているので、それなりの値打ちはありそうだ。

「正面にまた扉がありますね」
 一人の騎士が指差した。
「よし、行ってみよう」
 その扉には何の仕掛けもなく、普通に押せば開いた。
 ここでも、隊長のブルーノが足を踏み入れてみる。手に持った魔導ランプで照らせば、下へと伸びる階段である。
「地下室だな。そちらが本命か」
 遺跡の高さから言って、何かあれば地下室だろうとは察することができる。
 ブルーノは少し考え、一番年若い騎士をその場に残すことにした。
「タウト、ここに残れ。我々に何かあった時は頼む」
「は、はいっ!」
 頼む、というのは、助けに来てくれ、ということではない。危急を王に知らせろ、という意味である。
 それを察するくらいは、このタウトと呼ばれた若い騎士にもできたのである。

 階段は、20メートルほどの深さまで真っ直ぐ続いていた。
 そしてその先にはまた扉。そしてその先には当然ながら部屋が。
「……ここは?」
 狭苦しい部屋であった。広さで言えば4畳半もないような。天井の高さだけは3メートルほどあるが。
「……また扉か?」
 正面には金属製の扉。内側から太いかんぬきが掛けられていたので、慎重に取り除く。
 これも慎重に扉を開くと、同じような部屋があって、同じような扉があった。

 こうした小部屋を3つ抜けて辿り着いたのは大きなホール。
 そしてそこには。
「こ……これは……?」
「……ゴーレム……?」
 無数のゴーレムが並んでいたのである。
 身長2.5メートル。外殻は鋼鉄。武装は剣、槍、棍棒、斧。
 無数と言ったが、数えてみればその数、500体以上。
 それが、目の前のホールに立ち並んでいるのを、後詰めに残されたタウト以外の調査隊の全員と、魔導監視装置(マギモニタ)をのぞき込んでいる仁、ラインハルト、エルザ、礼子、そして魔法相ケリヒドーレと魔導実験室の面々が目にしたのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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