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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

03 港町ポトロック篇

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03-11 侵入者

「はあ、やっと終わった」
 仁とマルシアは2人そろって溜め息をついた。
 今まで、仁は焼け焦げた貸しドックの修理を、そしてマルシアは近隣への説明と詫びをしていたのである。
「もう夕方か……」
「今日は何も出来なかったな」
 火事騒ぎで、船の調整など、競技の準備は何も出来ずに日が暮れてしまった。
「まあ、明日1日あるからな。あたしも、漁の手伝いは今日までだから」
「そっか。じゃあ明日は朝からシグナス(白鳥)にかかれるな」
 そして仁は、ちょっと思いついたことを口にする。
「ところでマルシア、俺と礼子が乗れるようなボートって無いかな?」
 シグナス(白鳥)にはマルシアとアローが乗るので、仁も船で海の上にいた方がいろいろな確認やら調整やらがやりやすい。
 それを察したマルシアは、
「ああ、あるよ。あたしが漁の手伝いに使っていた小船が。それでいいかい?」
 漁場の桟橋にもやってあるそうなので、それを明日は使う事にした。

 その夜。
「礼子、悪いが、ドックのシグナス(白鳥)を監視していてくれないか? また何か妨害でもされると厄介だから」
「わかりました。蓬莱からルーナを呼びます」
 そう答えて、礼子は闇の中、蓬莱島へと続く転移門(ワープゲート)をくぐると、配下の少女ゴーレム、ソレイユとルーナを呼んだ。
「お姉さま、お呼びですか?」
「ええ。お父さまのめいです。ルーナ、あなたは私と一緒にいらっしゃい。ソレイユ、あなたはこの蓬莱島を守護していなさい」
「わかりました」
 そして再度ポトロックへ転移、
「説明したとおり、ルーナ、あなたはこのドックで、この船を守りなさい」
 そしてそこにいたゴーレム、アローに向けて、
「アロー、この子もお父さまがお作りになったあなたの先輩です。船とドックの守護をさせます」
「ショウチイタシマシタ」
 アローは、特に脚力を強化したゴーレムで、戦闘力はさほどでもない(本当の意味で、この世界標準で考えても低め)。なので外敵からの攻撃には弱い。
「あなたがお父さまのお作りになった一番新しい妹ね。まあ任せておきなさい」
「ハイ」
 それを見届けた礼子は宿へと戻った。

 礼子は眠る必要はない。仁が眠った後、周囲の気配を探りながら静かに佇む。いつもなら、朝が来るまでその状態のままであるはずだった。
「……侵入者、ですか」
 戸締まりをしてある海鳴亭の裏口をこじ開けて入ってきた者が2名。だが、この時点ではまだ礼子は行動を起こさない。絶対の主人である仁が不利益を被らないなら何もするつもりはないのである。
「……2階へ上がってきましたか」
 仁を起こさないようにそっと部屋を抜け出し、廊下に立つ。足音の主は、3階へと上がっていくようだ。3階にはマルシアが泊まっている部屋がある。
 マルシアと共にゴーレム艇競技に出るのを楽しみにしている仁の事を思い、マルシアに何かあったらそれがフイになると判断した礼子は、音を立てずに侵入者に続いて3階へと上がっていった。
 侵入者は3階へ着くと、部屋の名前を確認しながら、『ヘリン』という名前の部屋の前に立つ。そこが目的の部屋なのは一目瞭然。そしてそこはマルシアが泊まっている。

「こんな夜中に何の御用ですか」
「!?」
 いきなり背後から声を掛けられた2人は硬直した。声を出さなかったことは誉めてもいいだろう。
 振り向く2人、そこで見たのは水色のワンピースに白いエプロン姿の黒髪の美少女であった。
「何だあ? こんな所に? 怪しい奴め」
 1人が小声でそう言った。それを聞いた礼子は、
「怪しいのはどっちですか。そこは女性が泊まっている部屋です。押し入る気ですか?」
 すると、もう1人が無言のまま、ナイフを振りかざして礼子に襲いかかってきた。問答無用で黙らせることにしたらしい。
「!」
 礼子を襲った男の手から一瞬でナイフが消える。
「こんなもので私に触れないで下さい」
 いつの間にかそのナイフを手にしていた礼子。そしてそのナイフを指先で2つに折り、さらにそれを2つに折ってしまった。
「ひ……」
 さすがにこれには驚いたらしく、小さな叫び声を上げる男。もう1人は、『ヘリン』の部屋に入ろうと、ドアの鍵をこじ開けているところ。
 それを見て取った礼子は、時間優先と判断し、出力を今までの10パーセントから20パーセントへと上げた。
「ぐぇ」
 鳩尾へ突き出された拳が一瞬で目の前の男の意識を刈り取り、更には鍵をこじ開けている男の首筋に手刀を叩き込む。
「がっ」
 くずおれる侵入者2人。
「……ふう」
 柄になく溜め息をつく礼子。20パーセントで不殺ころさずは、力加減が非常に難しいのである。
 2人の男を脇に抱える礼子。見る人がいたら非常にシュールな図であろう。
 そのまま礼子は音も立てずに階段を下り、男達が開けた裏口から外へ。そこであらためて周囲の気配を探る、が、1キロ以内に怪しい気配は無かった。
 しばらくは安全が確保されたと判断。
「どこかへ捨ててきましょうか」
 そこで礼子は地面を蹴る。
 音もなく駆ける礼子は、15分ほど全力で駆け続け、そこに気絶したままの2人を下ろした。どこだか知らないが、遠くの町の裏通りである。
 そして礼子はとって返し、仁の部屋へと戻った。

「あー、よく寝た」
 朝、仁が目を覚ますと、そこにはいつも通りの礼子がいた。
「おはようございます、お父さま」
「ああ、おはよう。今日もいい天気みたいだな」
「あの、ちょっとお話が」
「ん? どうした?」
 礼子は昨夜のことを仁に説明した。話を聞いた仁は腕組みをして、
「うーん、なんというか、稚拙だな」
 そして、一連の妨害めいた出来事を繋げてみる。

 魔法工作士(マギクラフトマン)がぎりぎりまで見つからなかったこと。
 魔石(マギストーン)が買い占められていたこと。
 買った青銅の品質が悪すぎたこと。
 ドックが放火されたこと。
 そして、昨夜の侵入者。

 町役場での魔法妨害魔法陣や、警備隊長が自分を狙っていたことには気が付いていない。
「マルシアが狙われている……? いや、それにしてはやり方がおかしい」
 挙げた妨害工作は、結果としてマルシアが競技に出場できなくするためのものだ。そんなことをする理由が思いつかない。
 別に優勝候補というわけではないし、有名な造船工(シップライト)というわけでもない。
 礼子が、侵入者を捉えたままにしておき、尋問出来ていれば何か分かったかも知れなかったのだが、もう言ってみても詮無いことである。
 礼子にそこまでの配慮を求めるのは酷というものだ。
「まあ、理由はともかく、妨害なんかに屈してられないよな」
 とりあえずそう結論づけた仁はゆっくりと仕度をし、1階へ下りていく。洗面用の井戸で顔を洗い、食堂へ行くともうマルシアがいた。
「お早う、マルシア」
「ああ、ジン。おはよう。今日は1日頼むよ」
 そうして少し慌ただしく朝食を摂った2人は、身支度を調えると、連れ立って港へと向かった。

 その少し前にルーナは貸しドックを去っていたので余計な騒ぎもなく、シグナス(白鳥)を浮かべたマルシアは、
「それじゃあジン、ここからむこうの港へ行ってくれ。そこにあたしの小船があるから」
 そう言って、アローに漕がせ、マルシアはゆっくりと港を離れていった。
「よし、礼子、俺たちも行くか」
「はい、お父さま」
 貸しドックに転がっていた融けかけた青銅の塊を礼子に持たせ、仁は漁師の使う港へと向かった。
 20130426 13時
 侵入者を捉えて尋問すれば良かったが、礼子にそこまでの配慮を期待するのは酷だという下りを、後書きにのみ書いてあるのはおかしいので本文中に追加しました。

 礼子は擬似的に呼吸もしていますし、心音も聞こえるように出来ています。なので溜め息をつく、という人間くさい動作もするのです。
 礼子が侵入者を尋問していれば良かったんでしょうけれど、そこまで配慮できませんでしたね。
 さて、マルシアが狙われる理由とは?
 お読みいただきありがとうございます。


 20130717 19時30分
 ソレイユとルーナは礼子を「お姉さま」と呼ぶ設定なのが間違って「お嬢様」になっていたので修正しました。もし他にもあったら教えて下さい。

 20140119 11時48分 表記修正
(旧)水色のエプロンドレスを着た黒髪の美少女
(新)水色のワンピースに白いエプロン姿の黒髪の美少女
+注意+
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