挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

21 海運と遺跡篇

711/1593

21-23 動き出す諸々

 時間は戻るが、3457年11月半ば、ショウロ皇国は5体の巨大ゴーレム『ゴリアス』により、10トンの乾燥剤をクライン王国に輸出している。
『ゴリアス』5体は街道を進み、途中いくらかの紆余曲折を経て、12月末にクライン王国に達していた。
 10トンの乾燥剤を受け取ったクライン王国では、さっそく倉庫に配備したのは言うまでもない。

 ところで、この『ゴリアス』の運用のもう一つの目的は、街道の整地にあった。5トンという重さの巨人が5体歩いたおかげで、地面は踏み固められ、凹凸は均されてしまっていた。
 つまり、馬車などの通過がより一層楽になったと言うことである。
 このゴリアス5体を率いてきた責任者はフリッツ・ランドル・フォン・グロッシュ少佐、エルザの兄である。
 彼にとっての人生の転機が訪れようとしていた。

 3458年1月1日。
 新年を迎えての参賀の儀がクライン王国王城でも行われた。
「皆の者、新たな年を迎え、我がクライン王国も生まれ変わるつもりで政策を進めていきたい」
 お定まりの挨拶が終わった後の、クライン国王アロイス3世はそう切り出した。最早顔色は健康そうで、まだ痩せてはいるものの、病気の影は見えない。
「まずは昨年から計画してきた、旧レナード王国の調査を行いたいと思う。かの国が滅亡しているというのは、信頼できる筋からの情報で明らか。となれば、隣接する我が国としては、その国土を維持管理する義務を負う」
 実も蓋もないが、要は、この機会に何か役に立つものが無いか探しに行こう、という話である。
「かの国はハチミツや果実が採れると聞く。また、エルラドライトをはじめとする鉱物資源が豊富らしい。まずはその調査、そして確保を目指す」
 とはいえ、崖っぷちに立たされたクライン王国である。
 ショウロ皇国、エゲレア王国、エリアス王国はそれを認めていた。
 そしてフランツ王国とセルロア王国にも、話だけは通してある。
「ショウロ皇国からやって来た巨大ゴーレム5体にも協力して貰えるよう話はついている」
 少々の荒れ地やブッシュなどは、『ゴリアス』が先に立って歩くことでどうにでもなる。また、野獣などの脅威にも対応できる。
『ゴリアス』は、可能ならそのままエゲレア王国まで進み、セルロア王国を介さない、クライン—エゲレア街道を切り開くことになっていた。

「整列!」
 2日朝、王城前広場に凛とした声が響き渡った。
『旧レナード王国調査隊』のメンバーである。
 隊長はベルナルド・ネフラ・フォスター子爵。クライン王国第2騎士団団長である。焦茶色の髪、薄い茶色の瞳。身長180センチ、体重は72キロ。39歳。なかなか有能だと言われている。
 より抜きの部下5名が付いている。
 副隊長はグロリア・オールスタット。言わずとしれた近衛女性騎士隊副隊長であり、剣の達人でもある。部下3名を率いて参加。
 案内人として、民間人からラグラン商会のローランドが参加している。行商人として旧レナード王国に行った経験を買われたのである。また、それなりに護身術を使えることも選ばれた要因だ。
「ローランド殿、まずはゼオ村を目指す、でよいのだな?」
「はい、隊長」

 最後に、ショウロ皇国軍属、フリッツ・ランドル少佐と部下2名。彼等は探検成功後もクライン王国には戻らず、エゲレア王国に抜けることになる。
 ほぼ同時に、エゲレア王国からも旧レナード王国の調査隊が出されることは3国間で打ち合わせ済みであった。
「ランドル少佐、よろしくお願いする」
「フォスター子爵、こちらこそよろしく」
 5体の『ゴリアス』に、食糧をはじめとする装備を運ばせることができるので、隊員たちはかなり身軽だ。
 帰路には自分たちで装備を運ぶことになるが、食糧は半分に減っているし、『ゴリアス』が歩いて整地された道を戻ればいいので、往路とは比べものにならない。
「隊長、準備整いました!」
「よし、出発する!」
「『ゴリアス』、出発!」

 こうして、ショウロ皇国・クライン王国混成の調査隊は2日朝、首都アルバンを発ったのである。

*   *   *

 仁と礼子、エルザ、エドガーは、まず転移門(ワープゲート)でカルツ村へ行った。
「ラインハルト、明けましておめでとう」
「おめでとう、ジン。……ジンのところの挨拶だっけ?」
 小群国やショウロ皇国では、『新年を迎え、今年もよろしく』というような言い方が普通なのである。
「ジン様、エルザさん、明けましておめでとうございます」
 ベルチェがにこやかに仁たちを出迎えた。
「おかげさまで、夫と水入らずの数日を過ごせましたわ」
「それは良かった」
 幸せそうなベルチェの顔を見て、仁も嬉しくなる。
 一同は、ラインハルトの『蔦の館(ランケンハオス)』、その居間へと移動した。

「もう、移動について誤魔化さなくてもいいようにしたいものだなあ……」
 出されたお茶を飲みながら、仁が呟く。
「ジン兄、それには転移門(ワープゲート)を一般公開する必要がある」
「ああ、わかってる」
 これが一般化したら、今回開発した船や熱気球、飛行船などが用無しになる可能性がある。
 それは酷く歪な文化になるだろう。
 さすがに仁にもそれくらいは推測できる。故に一般公開せずにいるのである。
「だけど、魔導大戦前は今より普及していたのでしょう?」
 ベルチェの疑問。
「ああ、それでも、国の管理下にあって、勝手に使うことはできなかったらしい」
 アンから得た知識である。
 1000年前、先代の頃はもっと一般的だったらしいのに、その間に何があったのか、は今のところ不明である。
「おそらくだが、エネルギーの問題では?」
 ラインハルトが思いついた事を口にした。
魔素暴走エーテル・スタンピード自由魔力素(エーテル)が少なくなったから……ああ、それでも説明できないか」
 そう、魔素暴走エーテル・スタンピード前の世界でも、既に転移門(ワープゲート)は国の管理下であったのだから。
「……軍事的な問題、とするのが良さそうな気がする」
 エルザの意見。
 転移門(ワープゲート)は軍事目的に使えるため、国から軍に管理が移ったという推測。
 そこにいた全員、その可能性が高そうだ、と、一応の納得をし、話題を変えることにした。
「明日朝一番でポトロックに着くようにするつもりだが、前日どこ発とすればいいかな?」
「ちょっと待て、ジン。朝一番で着く、というのはどう考えてもおかしい」
「あ、そうか」
 夜中も飛んでいられるというのは、この世界の常識では有り得ない。
「むしろ、今日の夕方着いた方が説明しやすい」
「と言ってもな……」
 今はカルツ村ではまだ昼時、ポトロックではおおよそ午後3時。
「そうするか?」
 仁はラインハルトの意向に沿うつもりになった。
「ああ、それでいいと思う。な、ベルチェ?」
「ええ、あなた。本来なら、こうしてお帰りになることも出来ないはずでしたもの」
 ベルチェもそれでいいという。
「わかった。……礼子、老君に連絡してくれ」
「はい、お父さま」
 飛行船はスチュワードが操縦し、蓬莱島に戻って来ていたので、転送機を使いポトロック近くに転移させ、そこに転移門(ワープゲート)で乗り込む、という手順を取る必要がある。
 ややこしいが、これも技術隠蔽のため、ひいては世界平穏のためである。

「準備が整ったようです」
 10分後、礼子を通じて連絡が入る。
「よし、じゃあ行くか」
「あなた、行ってらっしゃいませ。無事のお帰りをお待ちしておりますわ」
「うん、ベルチェ、留守は頼んだ」
 抱擁し、軽くキスを交わすおしどり夫婦を横目に、仁、礼子、エルザ、エドガーは次々に転移門(ワープゲート)をくぐって飛行船へと移動した。
「カイナ村からなら、なんとか8時間で着けるといってもおかしくないだろう」
 実際の距離を把握している者などいないので、朝カイナ村を出発したことにする。
「さあ、ポトロックだ」
 1月2日午後4時、仁たち一行は再びポトロックの土を踏んだのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20150207 修正
(誤)ハチミツや果樹が採れる
(正)ハチミツや果実が採れる

(誤)そう、自由魔力素(エーテル)前の世界でも、既に転移門(ワープゲート)は国の管理下であったのだから
(正)そう、魔素暴走エーテル・スタンピード前の世界でも、既に転移門(ワープゲート)は国の管理下であったのだから

(誤)朝一番で、というのはどう考えもおかしい
(正)朝一番で着く、というのはどう考えてもおかしい

(旧)この世界の常識的ではない
(新)この世界の常識では有り得ない

 20160305 修正
(誤)食糧をはじめとする装備を運ばせることができるので、隊員たちのはかなり身軽だ。
(正)食糧をはじめとする装備を運ばせることができるので、隊員たちはかなり身軽だ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ