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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

21 海運と遺跡篇

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21-11 マルシア、遭難

 注意:流血表現があります
 エリアス半島の南端東にイオ島という名前の無人島がある。毎年、ゴーレム艇競技が行われる際の折り返し地点に使われる島だ。
 更にその東にも無人島があって、トリュ島と呼ばれている。
 マルシアは、トリュ島を拠点として、12月のはじめ頃から、新型船のテストを繰り返していた。
 外洋での安定性や居住性を、身を以て体験し、改善すべきところは改善するために、ずっとこれを続けていたのである。

「イオ島より向こうは、ほとんど行く人もいないからね、アロー、注意していくよ!」
「はい、マルシア様」
 仁が改良したアローは喋り方も流暢になり、名実共にマルシアの助手として活躍している。
「よその国では、30メートルを超す大型船を造っているらしいけどね。あたしはあたしで、負けてられないよね」
 そんな事を口にしながら、マルシアは船を操縦する。

 ある時は舵の改良を行う。
「うーん、舵の効きが悪いね。もう少し面積を増やしてみようか」 
 またある時は、船体バランスを見直す。
「左右の船体を倉庫に使った場合、片方が空で、もう片方が満杯だと、やっぱり少し傾くよね……。積み方を考えないといけないようだね」
 そしてまたある時は、船室の改良を行う。
「うーん、せめて仮眠を取れるようにしたいね。そうなると、座席の背もたれを倒せるようにして……」
 こうしてマルシアは、新型船のテストを繰り返すと共に、操縦性、積載性、居住性などまで改良していったのである。
「……はあ、ジンなら、あっという間に終わらせてくれるんだろうけど」
 マルシアが手で直すにはそれなりの時間が掛かる。最近ではバッカルスも手伝ってくれるようになったので大分楽になったが、それでも仁がいた時とは天と地ほどの開きがあった。

「うん、これなら合格点だ!」
 何度目かの修正を施したあとの試験航行。ようやくマルシアが納得できる性能となった。
 最高速は時速20キロ。積載量3トン。定員2名、非常時は4名(ゴーレムのアロー除く)。
 嬉しくなったマルシアは、いつものように、トリュ島まで行き、そこに停泊する。
「今夜は星が綺麗だね。波も穏やかだ。一応、これを一区切りとして、町長……いや、領主さんに報告しようかなあ」
 毛布を被って船室の椅子にもたれたマルシアは、窓越しに空を見ながらいつしか眠りについていた。

 異変が起きたのは25日の朝。

 ボウォールという海棲の魔物がいる。クジラに似ており、体長は大きな物で20メートルになり、平均的な物でも10メートル。
 主に北の海に棲むが、まれに海流に乗って南下してくる物もいる。そしてまた、北の海へと戻っていくのだ。
 魔物としてはおとなしい部類(基本的に自由魔力素(エーテル)しか摂取しない)だが、大きな浮遊物を見ると敵と勘違いし、体当たりをするという習性がある。それが1頭、トリュ島付近に回遊してきていた。
 夜明けと共に、ポトロック目指してトリュ島を離れたマルシアの新型船とそれは出会ってしまう。
 海面に顔を出したボウォールは途轍もなく巨大だった。それはすぐにまた海中へと姿を消す。
「うわっ! 何だ、あいつは!?」
「マルシア様、魔物です! 逃げましょう!」
 驚くマルシア、叫ぶアロー。アローは持てる力を全てペダルへと注ぎ込む。
 だが、悲しいかな、その駆動装置は、仁が作ったそれに比べ、あまりにも脆弱であった。
 水車を駆動しているベルトが2本とも切れてしまったのである。
 最早交換している時間的余裕は無い。
「マルシア様、私が押します」
 アローが言う。もう、アローが海に入って船を押す以外に無い、と判断したのだ。
「あ、ああ。アロー、頼むよ!」
 この時マルシアは、外洋に出るには、対魔物用の武器と、予備の推進機関を備えるべきだと気付いたのだが、時既に遅し。
 そして、8メートルの船は、アローといえども、押して泳ぐにはいささか大きすぎたのである。
「うわっ!」
 ボウォールの体当たりが船を襲った。
 新型船とはいえ基本は木造、耐えきれるものではない。
「わああ! あ、アロー!」
「マルシア様!」
 1度目の体当たりで船尾部分が吹き飛ばされた。当然、アローも海中に投げ出される。
 そして、2度目の体当たりで船体全体が砕け散った。マルシアは一旦空中に投げ出され、海面に落下。その際、船体の破片で右腿に裂傷を負ってしまう。
 そしてその衝撃と痛みで、彼女は気を失ってしまったのである。

 浮遊物を粉砕したことで落ち着いたボウォールは、何事も無かったようにその海域を離れていったのであった。

 アローは防水構造ではあるが、水中用として作られてはいない。普通の素材で作られたアローは、比重が水よりもかなり重いのである。
 つまり、単独では沈んでしまうということだ。
 更に、1度目の体当たりで、左腕を破損してしまい、内部に海水が侵入してしまった。
 これにより、更に浮力を失い、数十メートルの深さの海中に没することとなったのである。

 一方、マルシアはというと。
 右腿に負った裂傷から血を流し、付近の海を朱に染めながら海流に流されていく。
 不幸中の幸いか、裂傷といってもやや浅いもので、少しずつではあるが血は止まっていった。また、海に落ちた際、無意識のうちに大きな破片にしがみついたため、溺死を免れたのは幸運だったと言えよう。

*   *   *

 ポルトア町。
 店の外に飛び出した仁は、建物の陰へと回り込む。もちろん礼子も一緒だ。
 ポケットから魔素通信機(マナカム)を取り出し、老君に連絡を取る仁。礼子は周囲に『障壁(バリア)』を張り、声が漏れないように警戒した。
「老君、確認したい。マルシアに付けていた隠密機動部隊(SP)はどうしている?」
『はい、御主人様(マイロード)。『カトレア』と『ロータス』は今回、居残りです。現在御主人様(マイロード)がいらっしゃる付近にいるはずです』
「そうか、やっぱりな……」
 陸上ならともかく、海に出てしまったマルシアに付いていくことはできなかったのである。
力場発生器フォースジェネレーター装備が遅れたな……」
 力場発生器フォースジェネレーターが搭載されていれば、空を飛んで、もしくは水中を進んで、密かに付いて行けたであろうが、今は言っても仕方ないこと。
「そうなると……」
 アローが一緒なら、アローの居場所を特定できれば、マルシアが見つかるのではないか、と仁が考えた、その時。
「アロー!?」
 礼子が、海から上がってきたアローを見つけた。 
 ボウォールに遭遇してからおよそ4時間。60キロの距離を、海底を歩くことで戻って来たアローである。
 破損した身体では、泳ぎ回ってマルシアを捜すことは叶わないと判断し、全力で戻って来たのであった。
製作主(クリエイター)、仁様……」
 陸に這い上がったアローはそのまま倒れ込んでしまった。
「礼子、アローを……」
 仁が言いかけた時、仁を捜して表に出てきたロドリゴが現れた。咄嗟に『障壁(バリア)』を解除する礼子。
「ジン殿! そのゴーレムは!?」
「ロドリゴさん……」
 仕方なく、礼子にアローを抱えさせてマルシアの工房に戻る仁であった。

「これは……」
「アローじゃないですか! いったい何が!?」
 当然、ジェレミーとバッカルスは仰天した。それに答えられるはずのアローは無理がたたり、動作不良を起こしている。
 仁は、応急処置を施すことにした。
 胸部を開き、中に入り込んだ海水を流し出し、真水で洗浄。良く乾かした後、礼子から魔力素(マナ)を分け与えさせる。
 魔力素(マナ)の消費が魔素変換器(エーテルコンバーター)の出力を一時的に上回ったため、内部魔力回路が停止していたアローだったが、この処置により、再起動した。
製作主(クリエイター)様、ありがとうございます」
 仁を認めたアローが礼を言った。
「礼なんかいい。それよりもいったい何があった? マルシアはどうした!?」
「はい、マルシア様は……」
 アローは一部始終を語ったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 前話、海流をバッカルスたちが知らない理由を付け足しました。
 参考資料の地図も更新。併せてご覧下さい。
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