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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

20 新造船と異民族篇

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20-28 腕

 ジョン=老君も待ち望んでいた12月7日の朝が来た。
 饗された朝食は、米の粥、味噌汁、生卵、菜っ葉の漬け物、焼いた干物、それにほうじ茶。
 完全な和食である。
 好き嫌い云々以前に、自動人形(オートマタ)であるジョン・ディニーはそれらを全て平らげたところ、給仕をしてくれた初老の女性がいたく喜んでくれた。
「お客様は私どもの食事を好んでいただけますのやなあ」
 少しの訛りがある彼女は、実家が米農家なのだと話をしてくれた。
 もっと話を聞きたいと思うジョンだったが、ダローがやってきたのでそれは叶わなかった。
「おはようございます、ジョンさん。慌ただしくて申し訳ないのですが、もうよろしいでしょうか」
 時刻は午前8時少し前くらい。もう『首長』は執務を始めているそうだ。
「こちらにどうぞ」
 ジョンが見たものは……人力車であった。
 屈強な車夫が車を引いている。路面が舗装されているからこそできることだろう。ジョンとダローは人力車に乗り、『首長』の元へと向かった。

『首長』がいるのは、『議事宮』と呼ばれる建物である。
 そこには『議会』もあり、事実上の行政府でもある。
 人力車に乗ること10分で2人は議事宮に到着した。あらかじめ連絡がしてあったので、門衛もすぐに通してくれる。
「さあ、どうぞ」
 まずは『議会』への紹介であった。10分ほど待たされたあと、会議室へと通された。

「ようこそ、ジョン・ディニー殿」
 そこには、18名の議員が円卓の周りに並んでいた。全員、浅黒い肌に焦げ茶色の髪をし、甚兵衛のような服を着込んでいる。
「初めまして、ジョン・ディニーです。お目に掛かれ、光栄です」
「まあ、固くならず、そこに掛けてくれ。ダローも、ご苦労だった。控え室で待っていてくれ」
 一番奥にいた議員が口を開いた。言われるままにジョンは円卓の空いた場所に腰を下ろし、ダローは退出していった。
 18名のうち13名が男性で、5名が女性である。年齢は、30代から60代くらいまでまちまち。
 円卓の上には何かが置かれているらしい。何か、というのは、布が掛けられているから判別できないため。
 一番奥の議員がどうやら議長に相当するようで、同時にスポークスマンでもあるようだ。
「率直に言おう。我々は優秀な……いや、超優秀な魔法職人(マギスミス)を必要としている。貴殿がそれに該当してくれることを切に望むものである」
「はい、努力します」
 ジョンは頭を下げた。だが、議長は首を振る。
「いや、努力だけでは駄目なのだ。……これを見てもらおうか」
 議長が目配せすると、議員の1人が、円卓の上に掛けられていた布を取り去った。
「これは……」
 それは、ゴーレムの腕であった。
「これは、我々が使っていたものなんやけど、壊れてしまいましてな。例えばやけど、これを直すことができますやろか?」
 布を取り去った議員が心配そうな顔で言った。
「拝見します」
 ジョンはその腕を持ち上げてみた。
 骨格があり、筋肉も付いている。肩関節は無かったが、肘関節は残っている。
 橈骨とうこつ尺骨しゃっこつに相当する骨格があり、手首はボールジョイントに近い。
(これは……? 古さからいって相当のもの。ですが骨格は人間に近く……でも断じて魔法工学師マギクラフト・マイスターの作ではない……)
 有り得ないものを目の前にしたと言う顔つきになっているジョンを見て、議長が残念そうな声を出そうとした、その時。
「直せます。しかし、腕だけを直しても仕方ないですよね? 本体はどこにあるんですか?」
 顔を上げたジョンが答えた。ここで出来ないと言えばそれで終わりだろう、と判断した結果だ。事実直せるはずだし、そのルーツはここで考えていても結論は出ない。
「ほ、本当に直せるというのですか?」
「出来るというのか!」
「嘘ではないだろうな!」
 静かだった室内が一気にざわついた。議長はしばらく放置した後、円卓を叩いて一同を静めた。
「ジョン殿、嘘ではあるまいな? もう引き返せないところまで来ているのだぞ? もう一度だけ聞く。直せるのだな?」
「直せます」
 きっぱりと断言したジョンに、再びざわつく議員たち。
「わかった。それでは、首長に会ってもらおう。どうすればいいかは首長に聞いてもらうことになる」
 議長は奥の扉を指差した。
「あの扉の向こうに階段がある。その階段を下りると、首長の部屋だ。そこで話を聞いてくれ。連絡はしておくからノックは不要だ」
「わかりました」
 どうやって連絡するのか、も今詮索しても仕方ないこと。
 躊躇いも見せずに立ち上がったジョンを、居並ぶ議員たちは期待を込めた眼差しで見送った。

 扉の向こうはしんとして静かだった。階段を下りるジョンの足音が響く。
 突き当たりの扉には漢字で(・・・)『首長』と書かれていた。
 こういった謎に、もうすぐ答えが出るのかと、ジョン=老君は期待を込めて扉を開けた。
「ようこそ、魔法職人(マギスミス)ジョン・ディニー殿」
 大きめの机があり、その向こうに座っている初老の男性が首長らしい。他には、秘書らしい若い女性が1名。
「議長から聞いたよ。あの腕を見て、直せると宣言したそうだね」
「ええ」
「そうか。まあ、座ってくれ」
 机を挟んでジョンは首長の真向かいに腰を下ろした。
 そしてジョンは相手を観察する。
 元々は焦げ茶の髪だったのだろうが、そのほとんどが白くなっていた。歳は60くらいだろうか。肌の色は他の者と同様、やや浅黒く、目の色はやはり茶色。
 声には張りがあり、首長を任せられるだけあって、貫禄も備わっていた。
「まずは自己紹介させてもらおう。私はヒロ・ムトゥという。このミツホで首長を務めて5年になる」
 首長は任期が2年と聞いていたので、3期目ということになるのか、とジョンは考えた。それなりに有能ということである。
「私からも1つだけ確認をさせてもらおう。これを見てくれるかね?」
 ヒロが取り出したのは同じくゴーレムの腕だった。
「またゴーレムの腕、ですか」
 ゴーレムの修理、ということに対して何か拘りがあるのだろうか、とジョン=老君は考えた。
「その通り。さて、それを見て、意見を聞かせてもらいたい」
 ジョンは腕を手に取り、観察した。こちらも、先ほどの物同様、なかなかよくできている。
「素材は鋼鉄ですね。人間の前腕をモデルにしていて、自由度も高そうです」
「ふむ、その他には?」
「ええ、……かなり筋肉が劣化していますね。このままでは役に立たないでしょう。交換が必要です」
「君にできるのかね?」
「ええ、素材さえあれば」
「本当かね!」
 ヒロ首長は、感極まったのか、顔に手を当て俯いてしまった。
「あの、いったい?」
 不思議に思ったジョンが尋ねると、ヒロは顔を上げた。その目は潤み、顔は紅潮している。
「……ようやく見つかったようだ、捜していた者が」
「え?」
「私から君に望むのはただ一つ。あそこの扉をくぐってもらうことだけだ」
 執務室の更に奥の扉を指差すヒロ。
「その後のことは、向こうにいる存在に聞いて欲しい。だが、まずは君の疑問に答えたいと思う。聞きたい事があるかね?」
 ジョン=老君は、いよいよ核心に近付いたことを感じた。
「そうですね……」
 文字や言葉の問題をここで尋ねて答えが得られるのか。時折見かける、オーパーツとも言える道具や魔導具はどこから来たのか。300年前の侵攻の真相は。
 いろいろと聞いてみたいことはあったが、まずジョン=老君が選んだ質問とは、
「アドリアナ・バルボラ・ツェツィという人物をご存知ですか?」
 というものだった。
「アドリアナ・バルボラ・ツェツィ……いや、すまない。知らないな。どこかで聞いたような気もするのだが、思い出せん」
「そうですか……」
 先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが過去に何かしていたのではないか、という予測は外れた。
「それでは、もう結構です。あとは、戻ったらお聞きするかもしれません」
 ジョンは立ち上がり、会釈をした。
「そうかね。……無事、戻ってくることを願っているよ」
 その言い方が少々、いやかなり引っ掛かったものの、ジョンは首長ヒロに言われた扉を目指して歩き出す。
(『存在』と言いましたね……人間ではないのでしょうか)
 ジョン=老君は、奥の扉に手をかけた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
 本年もよろしくお願い申し上げます。

 20150106 修正
(旧)我々が使っていたものなんやが、壊れてしまいましてん。例えばやが、これを直すことができますやろか?
(新)我々が使っていたものなんやけど、壊れてしまいましてな。例えばやけど、これを直すことができますやろか?
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