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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

20 新造船と異民族篇

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20-26 海軍旗艦

 同日夜、ホテル大広間で盛大なパーティーが行われた。
 前日のものは内輪だけのものだったが、今回のものは町の名士や警護の兵士、下働きの人足、果てはホテル従業員まで交えての大パーティーである。

 正面には演壇が設えられ、最初にユング・フォウルス宰相が、次いでデガウズ魔法技術相、そしてクリストフ魔法技術省事務次官が簡単な挨拶を行った。
 その次には、再び宰相が演壇に登り、船の乗員を若干名募集すると告げた。歓声が上がる。
「船長、士官、水兵は決まっておるが、一般からも技術者などを募集しようと思う。我が国初のこの試みに、我と思わん者は名乗り出て欲しい。受付は明日の午前中一杯だ」
 一般からの意見というのも、それなりに重要だ、という見解からである。
 それが済むと、いよいよパーティーである。
「それでは、この良き日を祝して、パーティーを執り行う!」

 立食パーティー形式で行われたため、出席者同士の交流があちらこちらで行われている。
 中でもエルザは大人気であった。
「エルザ様、わたくしは隣町、スアー町の町長をしております、デリケル・ラバドと申します、お見知りおきを」
「エルザ殿、俺は今回の護衛に派遣された第1騎士団第2小隊隊長のゴドロナス・ベルンツアム・フォン・ナルラドと言います。お近づきの印に」
「エルザ殿、私の杯をお受け下さい」
「エルザ様」
「エルザ殿」
「……」
「失礼、あるじは少々お疲れのようです、一時失礼します」
 エルザが辟易したのを感じ取ったたエドガーは、取り囲む出席者たちに一言断ると、大広間から外へ連れ出した。
 出た場所はホテルの庭。広い芝生があり、ワス湖に向かって緩く傾斜している。
 ちょうど空には昇りかけた月が懸かり、湖面のさざなみに反射して、金砂子を撒いたよう。
「……ふう」
 来る者来る者、ワインを注いでよこすものだから、いささか酔ってしまったエルザ。その足元は若干おぼつかない。
「……『解毒(エントギフテン)』」
 酔いを醒ますため、自らに解毒の魔法を掛け、ほろ酔い程度の酔い心地に戻る。
 少しはっきりしてきた目で、窓越しにパーティー会場を見やった。
 ラインハルトはすぐに見つかったが、仁がいない。
「……ジン兄?」
 独り言のように呟いたその名前。返事を期待したわけでは無いのだが。
「エルザ?」
 薄暗がりの中から返事が聞こえた。
 ゆっくりと近付く人影。礼子を伴った仁である。
「なんだ、エルザも抜け出してきたのか。俺も、ああいう雰囲気はちょっと苦手でさ」
 仁も、エルザほどではないが、魔法工学師マギクラフト・マイスターの名前を聞いて、何人も寄ってきて、話し掛けたりワインを注ごうと瓶を差し出してきたりしたのでげっそりとしていた。
「月が綺麗だな」
 ワス湖の上に輝く月は、地球で見るものより小さいとはいえ、他の星々とは一線を画した明るさである。
「ん。綺麗」
 湖面を渡ってくる風は冷たく、ほろ酔いの顔に心地よい。が、仁はエルザが風邪でも引いたらいけないと思い、上着を脱いで掛けてやろうとした。その時。
「お父さま、エルザさん、夜風は身体に毒です。これをどうぞ」
 礼子が気を利かせて、肩掛けを2組持って来た。ホテルに用意されているものだそうだ。
「ああ、ありがとう、礼子」
「……ありがとう」
 礼を言って肩に羽織ると、かなり暖かく感じられる。
「お父さま、月が綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
 仁と礼子、そしてエルザはしばらく月を見上げていた。エドガーはそんな彼等の後ろに立ち、無言で付き従っていたのである。

*   *   *

 翌朝、仁は朝食を済ませるとすぐ、宰相に面会しに行った。
「おお、ジン・ニドー卿、ようこそ。クリストフに話を聞いたが、いろいろと助力をしてくれたそうで、礼を言う」
「ええ、いい船が出来て良かったですよ」
「それで、何か話があるのかね?」
 時間もあまりないであろうから、仁は手短に話すことにした。
「俺は、『ベルンシュタイン』がワス湖での試験が終わり、海へ出たら、ロイザートへ戻ろうと思います。そのあとはまだ決めていませんが、一度カイナ村へ戻るか、エゲレア王国へ行こうかと」
 宰相は頷いた。
「うむ。相談役として、十分すぎる働きをしてくれたからな。私も明日はロイザートに戻り、陛下に詳しく報告する。ラインハルト殿やエルザ嬢も含め、褒美が出ると思う」
 褒美などというものは正直いらないと思う仁であったが、それを口にするほど愚かではない。
「最後に1つ。船で長旅する際には、野菜か果物を、乾燥させた物でもいいので用意して下さい」
「おお、確か……びたみん、といったか。その欠乏だな?」
 これも仁が贈った『指導者(フューラー)』による知識である。ショウロ皇国ではちゃんと利用してくれているようだ。
「そうです。俺からは以上です」
「うむ。いよいよ新造船をいろいろ試験することになる。楽しみだよ」
 そして最後に、
「これは皇帝陛下からジン殿に、口頭で直接伝えてくれ、と言われたことでもあるのだが」
 との前置きをして宰相が口にした言葉は。
「当面、新造船は『海軍』扱いをするが、誤解しないでほしい。現在の組織では、大型船を運用できるのは軍しかないからだ。近い将来、新たな組織を立ち上げるつもりだ。もちろん平和的な」
「そうですか……」
「くれぐれも誤解しないように。あくまでも暫定的な措置だからな」
 自分が、争い事が嫌いなことを知っているので、このような補足説明を宰相に託したのであろう、と仁は想像した。

 仁と宰相が連れ立って部屋を出ると、ばったりラインハルトとエルザに出会った。
「おお、ちょうどいい。いよいよベルンシュタインの試験航行だ。共に見に行こうではないか」
「はい」
 昨日は建造した面々が臨時乗員として動かしたが、今日からは正式な乗組員が乗り込む。とはいえ、この日1日は操船に慣れる練習日であるが。

*   *   *

「整列!」
 新造船ベルンシュタインの船長は、ルガリア・ガスカル・フォン・アルコイス。ショウロ皇国第3水軍の指揮官であり、水上戦も経験している。
 そして居並ぶ水兵たち10名も、第3水軍の者。皆、若く、やる気に溢れている。
「本日より、この新造船『ベルンシュタイン』は、ショウロ皇国『海軍』旗艦となる。諸君らは、栄えある第一期生である。速やかなる操船技術の習得と、国への貢献を目指して欲しい」
 桟橋手前で行われた朝礼。宰相はそれに参加していたが、仁たちは少し離れたところで傍観者として眺めていた。
「あー、やっぱり海軍のものとなるのか……」
 仁は先程宰相から聞いた話を思い出していた。
「本当に、近いうちに、軍でない公共組織を作ってもらいたいものだな……」
 そして、ふと、セルロア王国南部、クゥプの町で同じような大型船を建造していた大商人、エカルト・テクレスのことを思い出した。
(そういえば、向こうも進水式を済ませたって言っていたな)
 仁たちが訪れた際、商売敵による妨害工作で破壊されてしまったことを残念に思った仁が、第5列(クインタ)であるアルタフとギェナーを送り込み、サポートさせていたのである。
(ついこの前、完成して、進水式をしたと聞いたっけ)
 それは仁たちが新造船の製造に取りかかった日。11月30日のことだったようだ。
(ベルンシュタインがポトロックへ行く時は必ずクゥプの町を通ることになるだろう。その時に2隻が出会うかもしれないな。飛行船で見に行くか……)
 少し楽しみな仁であった。

 一方、ベルンシュタインは新しい乗組員を乗せて出港。操作に関しては、一通り教わっており、あとは慣れるだけである。
 新乗員として、魔法工作士(マギクラフトマン)のクレイアとゼネロス、それに造船工(シップライト)のロドリゴも乗船しているから、仮に何かあっても対応できるだろう。
 客員として、魔法技術相デガウズと、事務次官クリストフも乗っている。

 訓練と試験航行の様子は、岸辺からだと良く見えないため、仁は飛行船を出すことにした。宰相にも声を掛けると、喜々として乗ってきた。
 それで、仁、礼子、エルザ、エドガー、ラインハルト、宰相、そして操縦担当ゴーレムのスチュワードの計7名が乗船。やや重量超過であるが、重力魔法を併用し、影響を無くしている。
 宰相はそんな事には気付かず、仁の飛行船は定員が多いのだなと思っただけだった。
 閑話休題、空から見下ろすと、船の様子がよくわかる。
「おお、良く見える。ジン殿、感謝しますぞ」
「それはいいですが、あまり乗り出して落ちないで下さいよ」
「承知」
 上空50メートルほどから、仁の飛行船はベルンシュタインの様子を眺めていた。
「ジン兄、やはり波が大きい」
 エルザが言うように、ベルンシュタインが蹴立てた波は大きく、小さな船が近くにいたら、その波に翻弄されるだろう。
「うん、造波抵抗というんだよな。それを小さくすることも考えて行かなきゃならないなあ」
 ラインハルトも同意。上からだと、船がどのように波を起こしているかがよくわかる。
 船の運用ぶりを観察する宰相と、純粋に技術的な観点から観察する仁たち。
 彼等の足元で、新造船ベルンシュタインは危なげなく航行試験を続けていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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