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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

20 新造船と異民族篇

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20-23 命名

「うう……あたまがいたい……」
「あたまがわれそうだ……」
「ぎぼぢわるい……」
 前夜の歓談で飲み過ぎた面々は、仁とラインハルト、そしてエルザを除いて、二日酔いで痛む頭を抱えながら会議に出てきていた。
 そのままでは会議にならないので、見かねたエルザが治癒魔法を掛けてやることになった。
「『解毒(エントギフテン)』『完治(ゲネーズング)』」
「お、おお……楽になった!」
「エルザ嬢はこんなこともできるのですか……!」
「さすが国選治癒師(ライヒスアルツト)ですなあ」
 ひとしきりエルザへの賛辞が飛び交ったあと、この朝の会議が始まった。
「さて、本日早朝に、宰相がロイザートを発たれたはずだ。昼には到着される。おおよそ午後2時に進水式が行われると思う」
 クリストフがこの日の予定を述べる。
「その後ワス湖で3日間、いろいろな確認を行い、12月8日に海へ出ることになる」
 ワス湖は、20キロ程の長さの水路で海と繋がっている。この水路は幅も深さも十分にあり、新型船を航行させるのにまったく支障はない。
「そして、海へ出たなら、処女航海として、エリアス王国南端、ポトロックまでの往復を行う予定である」
 この発表には全員が驚いた。
「このあと希望者を募ることになるが、今回建造に参加したものは優先的に認められるはずだ」
「あたし、行くわ!」
 真っ先に意思表示したのはクレイア。続いてゼネロスも名乗りを上げる。
「私も行きます」
「おお、魔法技術者(マギエンジニア)が行くと言ってくれるなら心強い。他にはいるかね?」
 仁、エルザ、ラインハルトは意思表示せず、シモス町の造船工(シップライト)、クーバルトも行くつもりはないようである。
 そして最後の1人。
「……私も行ってみたいです」
 ロドリゴは、小さな声で意思表明をした。
「わかった。クレイア、ゼネロス、ロドリゴの3名は、私の権限で乗船名簿に加えよう」
「ありがとうございます!」

 そして次の議題は、船の名前であった。
「皇帝陛下からは、建造した我々が命名して良い、と言われている。誰か、何か意見はあるかね?」
 仁は沈黙。自分のセンスは一般的でないと自覚しているからだ。
 これに関して真っ先に口を開いたのはクレイア。
「はい、『先駆者(パイオニア)』というのはどうでしょうか」
「なるほど、新型船だからな」
 次に手を上げたのはゼネロス。
「『皇国の栄光インペリアル・グローリー』がいいと思います!」
「うむ、我がショウロ皇国の歴史上記念すべき船だからな」
「反対! そんな厳つい名前は相応しくありません!」
「なっ! それを言ったらパイオニアだって安直すぎる!」
「何ですって!」
「何だよ!」
 クレイアとゼネロス以外の面々は、また始まった、と、生温い目で2人の言い合いを傍観。そしてクリストフは、更なる意見を募った。
「……あー、他に何か無いかね?」
「……はい」
 今度手を上げたのはラインハルト。
「『ロイザート』というのはどうでしょうか」
「なるほど、都市の名前か。2番手、3番手も都市の名前で揃えることができるわけだ。……他にはないかな?
「『琥珀(ベルンシュタイン)』」
 これはエルザ。琥珀色の外見からである。
「なかなかいい名前が出たものだが、もう無いかな?」
 この頃になると、クレイアとゼネロスは喋り疲れ、他の者の意見を聞いていた。
「『シードラゴン』というのはどうでしょう?」
 これは黙っていられなくなった仁。やっぱりそのまま、海の生物……というか魔物である。
「『伯爵夫人(コンテッサ)』」
「『水の妖精(ウンディーネ)』」
 ロドリゴとクーバルトも意見を述べ、これで議長であるクリストフは除き、全員から意見が出たことになる。
「では多数決を取るとするか」
 これにはクリストフも1票を入れることにする。
 その結果はというと。
 なんと、『琥珀(ベルンシュタイン)』が3票獲得したのである。
 エルザ、クリストフ、そして……仁が。
「それでは、新造船の名前は『ベルンシュタイン』とする」
「……まあ、悪くないわね。異議無し!」
「うむ」
 クレイアとゼネロスも賛成し、ここに新造船の名前が決まった。
「となると、エルザ嬢には進水式で命名役をやってもらうことになるな」
「!?」
 いきなり思ってもみなかった話が出てきてびっくりするエルザ。
「服はホテルにある物を借りればいいからな。エルザ嬢、この後、私のところへ来てくれ。詳細を打ち合わせるから」
「……はい」
 そんなわけで、思い掛けなくもエルザの命名が通ってしまい、同時に命名の大役も任されることとなったのである。

*   *   *

「……」
「ほう、エルザ、似合うぞ」
 エルザはいわゆるフリフリのドレスを着ていた。水色をベースに、白いレースやフリルがあしらわれており、ポイントには金色の飾りが使われ、派手。
 頭には銀のティアラが輝いている。
 そしてスカートの下にはパニエを付け、ぼってりと膨らんだシルエットになっていた。
 パニエと言っても、チュールなどの布でできているそれではなく、一時代前のファージンゲールと呼ばれた物。
 つまり、弾力のある素材で作られた『骨組み』を腰に付けてスカートを膨らませているのだ。
「伝統的な進水式ってこんなことやるのか?」
 半ば呆れ、また、半ばは普段見ることのないエルザの格好に見とれながら仁が尋ねた。
「うーん、正直僕も知らなかった。そもそも、今回のような大型船は初めて建造されるんだしな」
「そうだよな」
「だが、過去に、軍用の船が何隻か建造されたときはこんなことやったのかもしれないけどな」
 10メートルクラスの、沿岸警備用の船だということである。
「これを最初とする、儀礼だって」
 式次第を教えられたエルザの言葉。
「なるほど、今までの儀礼を元に、新しい式典を作ったのか。とすると、その栄えある最初の命名役ということになるんだな」
 現代地球では、赤ワインなどのボトルをぶつけたり、くす玉を割ったりするらしいことだけは仁も知っていた。
「でも、こんなドレスも似合うんだな」
 ゴスロリ、とは違うのだが、仁には同系統に見えるデザイン。エルザは動きやすいシンプル系が似合うと思っていただけに、新たな発見でもあった。
「……あまり、見ないで」
 エルザ自身、着慣れていないドレス、好みでないデザインのため、居心地の悪さを感じているのだ。
「いや、褒めてるんだけど」
「それでも、恥ずかしい」
 自分が納得していない格好をじろじろ見られるというのはやはり好まないようだった。
「その格好じゃ昼食食べられないな」
 ラインハルトがへんな気を回した。
「ん。だから、このあと練習をしたら着替えてくる」
 前時代的といえばいいのか、トイレすらままならないような格好。むしろ近代的服装……もちろん地球基準で……の方がいいのではないかと思う仁であった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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