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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

20 新造船と異民族篇

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20-15 西へ

 一方、ショウロ皇国南西部、イスマルの町。
 日付は11月24日。仁が『噴射式推進器(ジェットスラスター)』を開発した日の朝である。

「おお、それがジョンさんの馬ですか!」
 商人オリヴァーと、雇われた魔法技術者(マギエンジニア)であるジョン・ディニーは出発しようとしていた。
 2人が契約を交わしてから10日間というもの、ジョンはこのゴーレム馬を作っていた、ということになっている。
 もちろん作ったのは仁で、老君が性能を落とすようにプログラムを書き加えている。必要がありさえすれば、本来の性能をすぐさま発揮できるのだが。
「ここに荷物を入れられるので便利ですよ」
 胴体部の収納スペースを開けてみせるジョン。オリヴァーは感心することしきりだ。
「ほうほう、ジョンさんは優れた魔法技術者(マギエンジニア)ですねえ! 知り合えて良かったですよ」
「いえいえ、まだまだ未熟ですよ」
 そんな会話をしながら、オリヴァーは荷物を馬に積んでいった。
 今回の旅は、オリヴァーとジョンの2人だけらしい。あまり他人を連れて行きたくないそうだ。
 その代わり、オリヴァーは馬を2頭用意している。1頭は自分が乗り、もう1頭は荷物用だ。
 荷物と言っても、商売用の物がほとんどである。物々交換なのか、とジョンは推測した。相手が異民族なら、小群国共通の貨幣で取り引きできないのは当たり前だからだ。
 その他は4日分の食糧と水。但し、水は途中で補給可能らしく、持ったのは1日分である。とはいえ、自動人形(オートマタ)であるジョンは食糧も水も必要としないのだが。
 商品は、塩と魔結晶(マギクリスタル)が少々。小型の魔導ランプがいくつか。そして小麦が50キロほどである。個人の取り引きであるからそんなものなのであろう。
「さあ、行きましょう」
 日除けに深い帽子を被った2人は出発した。時刻は午前8時。ハリハリ沙漠の南端を回り込むように歩いて行く。
 珍しいことではないのか、誰も注目していない。ジョンは、この町では、こうした旅姿は別段珍しくないのか、と思った。
(だが、異民族との交易を見て見ぬふりしていると言うわけでもなさそうですね……)
 そのあたりのことは行けばわかるだろうと、ジョンは、情報不足状態での推測はやめておくことにした。

 ハリハリ沙漠は、イスマル付近がその南端である。その更に南は、やや高い山地となっている。沙漠と山地の間は平地。その平地部分を、2頭の馬と1台のゴーレム馬は進んでいった。
「この辺は岩だらけなんですね」
 右手に広がる荒涼とした大地を見て、ジョンが呟くように言った。
 沙漠というと、砂の荒野を想像しがちだが、実際には岩石沙漠が多いのである。一面の砂が広がるのは砂沙漠といい、ハリハリ沙漠中央部がそれである。
 ここ南端では、砂でなく岩石と礫が目立っていた。
 北回帰線に近いこのあたりは、沙漠中央部よりは海に寄っており、その分、降水もあった。
 だが、植物を繁茂させるには足りず、あたりに見えるのはサボテンに似た植物や多肉植物である。
「もうこのあたりは国境を越えています」
 オリヴァーが言った。
 特に国境を示すような物は見えなかったので、南にある山地の稜線部を国境線と定めているのだろう、とジョンは判断を下した。

 夕方4時になる前、岩を積み上げて作った休憩舎のような物が見えてきた。
「あれが今夜の宿です」
 先頭を進んでいるオリヴァーが振り返りながら告げた。
 それは、近くに寄ってみると、思ったよりしっかりした造りであった。単純に岩を積み上げているのではなく、大きさを揃えたり、重力を考慮に入れたりと、熟練の技をうかがわせた。
「なかなかのものでしょう?」
 馬を繋ぎながらオリヴァーが言った。そして更に驚かせるようなことを口にする。
「これは大昔からあるらしいんですよ」
 ジョンは石積みを確認する。確かに、表面の風化具合からしても、500年以上経っていそうである。1000年近いかもしれない。
 馬も中へ入れられるほど大きな構造物である。
「ここの奥には水が湧いていましてね。ほんの少しですが」
 その言葉にもジョンは驚いた。周りの地形を見ても、水が湧くような場所ではないのだ。人為的に掘られた井戸なのだろうか、と考えながら、ジョンはその水場へ近付いていく。
「これは……」
 オリヴァーが馬に水を飲ませているその水場を、こっそりと『音響探査(ソナー)』で調べてみたところ、紛れもない『水道』であったのだ。
 もちろん、苔が生えたりゴミが詰まったりして流れは悪くなっているが、紛れもなく人工の水道である。
(1000年前の水道ですか……)
 ジョン・ディニー、すなわち老君は、かつて異民族が東へ侵攻するために作ったのではないだろうか、という仮説を立てた。
 沙漠を突っ切るよりも、今ジョンたちが通ってきたルートなら比較的通行しやすい。まして、水道が通っていれば……。
「さあジョンさん、食事にしましょう」
 そんな時、オリヴァーから声が掛かった。ジョンは考えるのをやめ、役を演じることにした。すなわち、食事を摂って人間のふりをする、という。

 翌日は早朝出発であった。
「夕方には目的地に着く予定ですから」
 とのオリヴァーの言葉に、ジョンはわくわくする。もちろん、主人である仁へ、実りある報告ができそうだからだ。
 周囲の景色が少し変わってきた。ハリハリ沙漠が遠のき、やや緑が増えてきたのだ。
 とはいえ、全体としてみれば、まだまだ荒れ地が多い。いわば、沙漠気候からステップ気候に変わってきた、といえばいいか。
「春から夏は緑の草原になるんですけどね」
 オリヴァーの説明を聞いても、ここがステップ気候に近いことがわかる。
 馬は休憩時には文字通り道草を食い、ジョンとオリヴァーは持参の水を飲んだ。
 そして、オリヴァーが言ったように、短い晩秋の日が傾き始めた頃、小さな集落が見えてきたのである。
「あそこが目的地ですよ」
 見ると、石と粘土で作られた家が数戸建っており、オリヴァーを見て手を振る者たちもいた。
 だが、その彼等はどう見てもオリヴァーと同じ人種にしか見えず、異民族とは思えない。
 その視線を感じ取ったのか、
「ここは『カリ』集落と言いまして、異民族が住んでいるわけではないですよ」
 オリヴァーが説明する。
「小群国から爪弾きにあった人や、逃亡者の子孫が作った集落ですね」
 異民族ではないので、交易をしても罪にはならない、と言う。逃げ道と言えばそうなのだろう。
「オリヴァー!」
 呼ぶ声の方を見れば若い女性だ。色黒な容姿、ジョンを操縦する老君は、その肌の色が、日に焼けて黒いのではなく、異民族……魔族領にいた従者種族と同じものだとわかった。
 おそらく、彼女の祖父母あたりが異民族なのではないだろうか、と思われる。
「やあ、マヤ」
 オリヴァーがマヤと呼んだその女性は、20代前半、やや浅黒い肌に焦げ茶色の髪、明るい茶色の目。中肉中背で、スタイルはいい。
魔法技術者(マギエンジニア)を連れてきたよ」
「約束通りやね。助かるわ」
 僅かに訛りのある言葉。これも異民族の特徴なのだろうか、とジョンの耳を通し、老君は情報を集めていく。
「初めまして、ジョン・ディニーと言います」
「あたいはマヤ、よろしゅうな」
「ええ、よろしく」
 挨拶を済ませると、オリヴァーはマヤに質問する。
「マヤ、さっそくだが、彼に頼むことはあるのかい?」
「うん、あるわ。いつものに加えて、大分前の……テンクンハン言うたっけ、あの人じゃあ手に負えなかったもんが幾つか」
 ジョン=老君は、そのテンクンハンという名前に聞き覚えがあった。
(確か、御主人様(マイロード)がショウロ皇国へ向かう旅の途中……)
 ハタタの町で見かけた、わけのわからない前衛的な置物を作ったという魔法技術者(マギエンジニア)の名前である。
「えーと、何か修理する物があるんですか?」
 ジョンは愛想よくマヤに尋ねた。
「直してほしいもんは一まとめにしてあるから、できる物だけ直してくれればええわ」
 ジョンを、小屋の一つへと導いていくマヤ。
「こん中にあるのが、壊れたり故障したりした道具やね。直せるものは直して、こっちに並べておいてくれる?」
「わかりました」
「あ、もちろん明日いっぱいでええからね」
「はい」
 作業は明日からとしても、どのような物があるのかは興味がある。こうした道具類は文化のバロメーターだからだ。
(ふむ、底の抜けた鍋に、取っ手の取れたフライパン、それに穴の空いたヤカンですか)
 このあたりが『いつもの』なのだろう。鋳掛け屋という職種がいないのか、とも思ったが、穴が大きすぎて普通では直せないのだろう。
 他にも細々とした日用品が置かれていた。
(あとは奥ですね。……あれは!?)
 どう見ても、自転車にしか見えない物が2台、小屋の奥に置かれていたのである。
 訛りとしては定番ですが、関西系を入れてみました。似非です。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20141216 誤記・表記修正
(誤)ジョン・ディニ−
(正)ジョン・ディニー

(旧)役目を演じることにした
(新)役を演じることにした

 20141216 表記修正
「砂漠」を「沙漠」で統一しました。

 20160523 修正
(旧)「魔法工作士(マギクラフトマン)を連れてきたよ」
(新)「魔法技術者(マギエンジニア)を連れてきたよ」
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