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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

20 新造船と異民族篇

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20-14 風呂での会話

 2日目も滞りなく終了した。
 ラインハルトによれば、船体の検討もほぼ終了し、推進器とのマッチングを検討し、細部を詰めればいい所まで来ているそうだ。
「明日は、いよいよ決定できるな」
 明日の船体検討には仁も加わる。
「ああ、楽しみだ」
 仁とラインハルトは、また二人で浴室へと向かう。
 この日は先客がいた。ロドリゴである。
「これは、ジン殿、ラインハルト殿」
 浴槽の中で片手を上げて挨拶するロドリゴ。
(痩せてるなあ……)
 仁はロドリゴの身体を見て、少し心配になった。
 ラインハルトも身長の割りに体重が少なく、ひょろい印象があるが、ロドリゴはそれ以上だ。ひょろいというより、ガリガリである。病的と言ってもいい。
 まして、ラインハルトは、ベルチェと結婚したためか、それとも領主としてデスクワークが増えたためか、最近少しだけ肉付きが良くなってきている(腹が出てきたという見方もある)。
「はは、この身体ですか? ……ちょっと前まで寝込んでいまして」
 仁が自分の身体を見て、顔をわずかにしかめたのに気付いたようで、ロドリゴは自嘲気味に笑った。
「い、いえ、失礼しました」
 仁は謝ったが、ロドリゴは笑い飛ばす。
「いいんですよ。この身体を見れば誰でも同じように思うでしょう。正直に言います、博打と酒と女。……今はもうやめましたが」
「はあ……」
 そんな話をしているときに、もう1人入浴にやって来た者がいる。
「やあ、先客がいましたか」
 地元の魔法技術者(マギエンジニア)、ゼネロス・フォートである。こちらはロドリゴとは対照的にがっしりした体格だ。
「ジン殿やラインハルト殿は首都方面からですよね? あちらにも入浴の習慣はあるのですか?」
 掛け湯をしながら尋ねてくるゼネロス。
「そうですね、最近増えてきたといったところですね」
 ラインハルトが答える。ゼネロスは更なる質問。
「入浴の習慣は多くはないでしょう?」
「まあ、そうですね。水が豊富でなければできないし、沸かすにも費用と手間が掛かる。残り湯の処理だって考えなければいけない」
「仰るとおりですね」
 魔法のあるこの世界では、『浄化(クリーンアップ)』系の魔法で処理できるが、それとて無償で、というわけにはいかない。
 しばらくの間、ラインハルトとゼネロスは他愛のない話を交わしていた。
 一方、ロドリゴは仁にいろいろと語りかける。
「……なかなか良さそうな船ができそうですよ。双胴船が採用されなかったのは残念でしたが」
「小型船なら双胴船の利点をもっと生かせるのでしょうけどね」
 大した慰めにもならないが、仁はそんなことを言ってみる。
「はは、ありがとうございます。ジン殿にそう言ってもらえると、お世辞でも嬉しいですよ」
 仁は、あけすけなこの男の性格を好ましいと思った。それで、更に突っ込んだ事を聞いてみることにした。
「エリアス王国から来られたと言っていましたね」
 が、その単語は禁句だったようだ。ロドリゴの顔が強ばった。
「……ええ。母国はエリアス王国です。向こうで、ちょっと……そう、家族に顔向けできない事をしましてね。ああ、犯罪のたぐいじゃあないですよ?」
「そ、そうですか。……悪いことをお聞きしたようですね」
 仁が謝ると、ロドリゴは首を振った。
「いえ、はるばるこんな遠い国まで来ているんですから、理由が気になるのもわかります」
 気にするな、というように、ロドリゴは顔の前で手をひらひらと振ってみせ、言葉を続けた。
「……先程言ったでしょう。博打にうつつを抜かして、借金漬けになり、女に入れ込んで女房を蔑ろにして、挙げ句の果てに家族を捨てて逃げ出し、酒で憂さを晴らして……このざまですよ」
 肋の浮いた胸を叩いて、悲しげな顔で笑うロドリゴ。仁はその健康状態が気になった。
「ロドリゴさん、まだ身体の方は完全じゃないんじゃ?」
「……え、ええ。ですが、治癒師に診てもらっても、これ以上良くならないようですし、金も掛かりますしね。それよりも今は、何か一つ、他人様に誇れるような仕事を遺したくてね」
 それだけ言うと、ロドリゴは、お先に、という声を残して浴室を後にした。
 ラインハルトは、と仁がそちらを見ると、ゼネロスとの話も終わったようだ。と言うか、これ以上お湯に浸かっていたらのぼせそうである。
 2人は上がることにした。
「……ちょっと温まり過ぎたな」
 お湯から出ても汗が引かない仁とラインハルト。脱衣所でしばし涼んでから服を着て、外に出た。
 窓から見えるワス湖には、夜釣りをする船の灯火がちらほらと見えていた。

 部屋に戻ると、エルザがドアの前に立っていた。
「……遅かったね」
「……ああ、ちょっと話し込んでしまって」
「そう」
 1人部屋は退屈なので、食事までの時間、遊びに来たという。ということなので、仁の部屋に入ることにした3人。
 ラインハルトは仁に、出来上がった推進器について尋ねた。
「ああ、こうすることで、船に使えるようにしたんだよ。……」
 仁は簡単に説明する。ラインハルトもエルザも、それだけで理解できるからだ。
「なるほどな、さすがジンだな」
「ほんと。その方法、普通なら、なかなか思いつけないと思う」
「はは、ありがとう」
「明日は推進器と船を組み合わせて、最終調整かな」
 ラインハルトが楽しそうに言う。一つの区切りが付くというのは嬉しいものだ。

 そしてその夜、老君から連絡が入る。
御主人様(マイロード)、予定通り、ジョン・ディニ−はオリヴァーと共に出発しました』
「そうか。目的地は?」
『今のところ不明です。おおよそ、片道2日くらいのところが目的地と思われます』
「わかった。焦ることはない。じっくり行こう」
『わかりました』

*   *   *

 25日の打ち合わせでは、朝から活発な意見が交わされた。
 推進器が決まったので、最終的な船の形状も決めることになる。同時に付帯設備も決める。
 居住性を取るか、積載量を取るか。
 速度を取るか、航続距離を取るか。
 侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が戦わされた。
 そして午前中一杯を掛けて結論が出される。
 最初の船であるから、居住性と航続距離を優先することになる。
「異議がなければ、この方針でいこう。午後からは更に詳細を詰めようと思う」
 クリストフの宣言に、誰も異議はなかった。

 全員がこの新型船に対して、期待をしていたのである。
 であるから、昼食もそこそこに、再び会議室に集まる面々。
 仁を交えて詳細が詰められた。とはいえ、大要は出来ていたので、細部の調整が主であったが。
 そしていよいよ図面化だ。
「全長は40メートルでいいな」
「そうすると、幅は10メートル、ということか」
 主要寸法が決まれば、あとは模型を測り、図面に起こしていくだけだ。
 仁とエルザが寸法を採り、ロドリゴとクーバルトが図面を描いていく。
 3時休みまでに全体図が出来上がった。
「ジン殿の言われたこの3面図はわかりやすいですね」
 第三角法という書き方で、一般的な機械製図法。この世界ではそこまで精密な図面は描かれていなかった。
 紙がまだ開発されていないこともあるのだろう。

 小休止してお茶で喉を潤したあと、再度図面製作である。
 今度は部品図。完成図を元に、いろいろな部品の図面を作っていくのだが、これがまた時間が掛かる。
「そこ、寸法がおかしいですよ」
「ああ、これはしまった。書き直さなくては」
「新しい皮紙を使わなくても大丈夫です。『浄化(クリーンアップ)』」
 全ての図面が完成したのは2日後、11月27日のことであった。
 いよいよ建造開始である。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20141215 13時27分 表記修正
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