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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

20 新造船と異民族篇

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20-02 大成功

 仁は大急ぎで礼子の身体を確認した。どこにも損傷はない。さすが、レア素材だけで作られた世界最高最強の自動人形(オートマタ)である。
「礼子、研究所を直すから手伝ってくれ」
 土下座を止めさせた仁は、礼子に指示を出した。礼子は素直にそれに従う。
「はい。お父さま、ソレイユとルーナにも手伝って貰いましょう」
「そうだな」
 最近では、礼子の助手ゴーレムであるソレイユとルーナは、研究所の脇にある仁の家の留守を守っていることが多い。
 その2人が、礼子が研究所の壁を突き破った音に驚いて出てきていたのを幸い、仁は外壁修理を手伝わせることにした。
 壊れたのが空き部屋だったのは不幸中の幸いである。
 破片を元の形に組み合わせ、工学魔法『融合(フュージョン)』で修理していった。
 30分も経たずに、研究所は元の姿を取り戻した。
「ふう、これでよしと。ソレイユ、ルーナ、ご苦労だった」
「はい、それでは家に戻っています」
「また何かございましたらお呼び下さい」
 ソレイユとルーナは一礼すると、仁の家へと戻っていった。
 仁は礼子に確認を行う。
「礼子、今の動き、原因はわかっているな?」
「はい、お父さま。魔力反応炉(マギリアクター)の出力が大きすぎたためです。あれでも1パーセントに満たなかったのですが……」
「そんなに少なくてあれか……やはりな……」
 仁には薄々見当が付いていた。『力場発生器フォースジェネレーター』は非常に効率がいいのである。
「重力魔法で体重をゼロに近くするときは、20パーセントくらいの出力を必要としたのに、この新しい、力場発生器フォースジェネレーター、ですか、これはそんなに高効率なのですか?」
 仁は頷いた。
「ああ。重力魔法は、言うなれば重力加速度を発生させる魔法と言える。だが、この力場発生器フォースジェネレーターはその名の通り、力を発生させているわけだ」

 重力加速度、ということは、理論上は仮想的な直線上全てに効果が及ぶのに対し、力は一点だけに作用する。効率が違うのも当たり前だ、と仁は推論を説明した。
 仁も全てを説明できているわけではない。力とは、ニュートンの運動方程式『F=ma』によれば、質量と加速度の積である。
 この加速度の性質が、重力魔法と根本的に違うのだろうということまでは想像できるのだが、物理学者でない仁にはそこまでしか説明できなかった。
 とはいえ、事実を認識。把握して、応用するには十分なのだ。

石つぶて(ストーンバレット)』の場合も、もっと無駄を無くせば、少ない魔力で大きな石、いや、岩を飛ばすことができるはずだ、とも付け加える。
「わかりました。今度は、更に少ない魔力でやってみます」
「待て。ここじゃ危ないかもしれないから、海岸へ行こう」
 というわけで、仁と礼子はペガサス1に乗って海岸までやって来たのである。

 タツミ湾では、ちょうどマリン1とアクア1が、テングサ(もどき)を干しているところだった。
「ご主人様、どうなさったのですか?」
 アクア1の質問に、仁は簡単に答える。
「ああ、礼子の新機能のテストをしに来たんだ。危ないかもしれないから、少し離れていてくれるか?」
「わかりました」
 仁自身も物理障壁(ソリッドバリア)を張る。考えて見れば、先程の礼子の暴走時、跳ね飛ばされていたらと思うと今更ながらぞっとする。
 とはいえ、礼子が制御しきれなかったのは力の大きさだけで、方向ではないのでそんな事にはならないはずなのだが。
「よし、いいぞ」
 物理障壁(ソリッドバリア)を展開した仁が、魔素通信機(マナカム)を通じて合図を出した。礼子も内蔵魔素通信機(マナカム)を通じて返事をする。
「はい、お父さま。では行きます」
 その言葉と同時に、礼子は前方……海へ向かって時速50キロほどで疾走し始めた。いや、足を動かしてはいないので疾走とは言えないかもしれないが。
 砂浜に一筋の線を残しつつ、礼子は一直線にすっ飛んでいった。
「おお、すごい!」
 海の手前まで突っ走った礼子はいきなり疾走の向きを変えた。
 瞬時に向きを変え、一直線に戻ってくる。そして仁の目の前でぴたりと停止した。
「お父さま、おおよその加減がわかりました」
「の、ようだな」
 スタートした地点に寸分違わず戻って停止したその足元を見れば、礼子がこの新機能を把握したことが想像できる。
「それでは、お父さまの仰った3次元機動を試してみることにします」
「無理はするなよ」
「はい。それでは、行きます」
 今度は、礼子の身体が上方へと移動し始めた。
「お、お!」
 仁が見ているうちに、礼子は高度10メートルほどまでゆっくりと上昇し、そこで停止した。
「お父さま、ごらん下さい」
 その言葉を発した礼子は、今度は水平に飛び出した。時速は100キロを超えているだろうか。
 海を目指し、最初は直線で飛んでいたが、海上に出ると宙返りを行う。そして連続で10回の宙返りを行った後、今度は逆宙返りを行った。
 1回転後、また正方向の宙返り。つまり、礼子は8の字宙返りを行って見せているのである。
 次いで、急上昇、急降下。大きな弧を描いての水平飛行。時間と共に、その速度は速くなり、旋回する半径は小さくなっていった。
 仁は興奮気味にそれを見つめている。
 そして礼子は斜め上方に向かって勢いよく飛び出した。
「うわっ!」
 どおん、という衝撃音。音速の壁を超えた時に起きるソニックブームだ。当然、礼子の姿は見えない。
 かと思うと、一瞬で礼子は戻って来たとみえ、海の上に停止している。
 そのままそろそろと動きながら、礼子は仁の隣に着地した。
「お父さま、このくらいでテストはよろしいでしょうか?」
 仁は、障壁(バリア)を解除し、そんな礼子を抱き上げた。
「ああ、十分だ。凄いぞ、礼子! 大成功だ!」
 が、すぐに手を放す。
「あちちち」
 超音速で飛び回った礼子は、空気の断熱圧縮により、かなりの熱を持っていたのであった。
「大丈夫ですか、お父さま?」
 礼子に備え付けられている体温発生機能は、高温になった身体を冷やす機能も持っている。おかげで、普通なら火傷では済まないくらいに熱くなるはずの礼子も、少し熱いくらいで済んでいたのだ。
「ああ、大丈夫だ」
 それでも仁は嬉しそうに微笑んでいる。
「礼子、不具合はないか? それに、何か気づいたこととか」
「はい、不具合はありません。気づいたことですが、身体の回転が難しいですね」
「ああ、そうか」
 今の機能は言うなれば3次元軸……X軸(水平1)、Y軸(水平2)、Z軸方向(垂直)への直線運動だけ。これに回転運動機能を加えれば、3次元空間内で自由に移動し、向きを変えることができるわけだ。
「よし、さっそく改良しよう」
 仁と礼子はペガサス1に乗り込み、研究所へと戻ったのである。

「回転力、つまりトルクか。そうなるとモーメントアームが短いと効率が悪いから……」
 独り言を言いながら、仁は新機能を追加していった。
 回転を発生させるには、重心から遠い部分に作用点をおくことが望ましい。
 ということで、姿勢制御用の力場発生器フォースジェネレーターを両肩と両腰に装備し、向きは自由に変えられるようにした。
「これでよし。礼子、試してくれ」
 再度礼子を起動し、再チェックを行ってから3度目のテストを行うことになった。
「はい、では行きます」
 今度は研究所前で行う。
 念のため、上空100メートルまで上昇した礼子は、まずは体軸回りのゆっくりとした回転から始めて、次第に回転速度を速めていった。
 人間だったらとっくに目が回り、気絶していてもおかしくないが、礼子は平然としている。
 そして調子を確かめるようにきりもみ上昇やきりもみ降下を行う。また、身体を丸め、空中で転がるような動きもして見せた。
「おお、見事だな……」
 仁はペガサス1に乗り込み、100メートルの上空で観察していた。
「うーん、こうなると、空気抵抗の問題を本格的に考えないといけないな……」
 礼子のような形状の物体が超音速を出すには、やはり効率が悪い。空気の断熱圧縮で発熱するのも問題だ。
「風の結界を応用すれば何とかなるだろうかな……」
 空中を自由自在に飛び回りながら、仁に手を振って見せる礼子。
 そんな彼女を見ながら、仁は新たなアイデアを練り始めるのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20141203 16時13分 表記追加
(旧)物理障壁(ソリッドバリア)を展開した仁が合図を出した。
(新)物理障壁(ソリッドバリア)を展開した仁が、魔素通信機(マナカム)を通じて合図を出した。礼子も内蔵魔素通信機(マナカム)を通じて返事をする。
 声(空気の振動)も通らなくなる強度で張っていますので、マナカムで、と言う描写を追加しました。

 20151017 修正
(誤)礼子も内蔵魔素通信機(マナカム)を通じて返事をする。。
(正)礼子も内蔵魔素通信機(マナカム)を通じて返事をする。
+注意+
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