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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

03 港町ポトロック篇

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03-04 ライバル

 仁達は『海鳴亭』での夕食時に、ささやかだがチーム結成の乾杯をした。
「それじゃあ、チーム『MJR』結成を祝して」
 グラスが掲げられ、軽く触れ合う音。そして、
「優勝に向けて頑張ろう!」
 因みにMJRはマルシア、仁、礼子のイニシャルである。もちろん命名はマルシアに一任された仁。
 和やかな食事の後、打ち合わせに入る。その時仁は思い出したように、
「ところで、昼間の気障男、あいつは何だったんだ?」
「……」
 言いにくそうなマルシア。それを察した仁は、
「無理にとは言わないよ」
 と言うが、マルシアは意を決したように、
「いや、チームメイトに隠し事はしたくない」
 そう言って話し始めた。
「あいつはこのエリアス王国の侯爵、ハドソン侯の3男、バレンティノと言ってな、ここポトロック領主補佐をやってんだけど、……あたしを妾にしたいと言って憚らないんだ」
「は?」
「あれでもう3人も夫人を持っている上に、妾も2人いる。奴が言うには夫人も妾も同人数欲しいんだそうだ」
「とんでもない奴だな……」
 さすがに仁も呆れる。
「なんであたしなんか気に入ったのか知らんけどな」
 そう言い切ったマルシアは、化粧っ気はないものの、十分美人の範疇に入ると思う仁であった。が、それを口にはせず、
「で、あいつも競技に出るのか?」
「出る。というか、優勝候補だ。家柄と金に飽かせて、いい造船工(シップライト)と腕利きの魔法工作士(マギクラフトマン)を雇っている。特に魔法工作士(マギクラフトマン)魔法工作(マギクラフト)の本場、セルロア王国から招いたと言う噂だ」
「お兄さまがそのような男に負けるわけがありません」
 それまで黙って聞いていた礼子だが、我慢できずにそう口を挟んだ。
「あ、ああ。あたしもそう信じてるよ」
「それで、これからの日程は?」
 やや強引に話の転換を図る仁。
「うーんと、とにかく明日は、ジンにゴーレム作ってもらうための資材を仕入れないと。金に糸目をつけない、と言いたいところだけど、まあ見ての通りだからね、あまり期待しないでおくれよ」
「ああ、材料は普通で十分だ」
「それでな、あたしは明後日まで、午前中は漁の手伝いをしているから、仕入れに行くのは午後になる。だから午前中は好きにしていてくれ」
「漁の手伝い? 何でだ?」
 そう聞かれたマルシアは少し恥ずかしそうに、
「少しでも船に乗ることに慣れるため、というのは建前で、恥ずかしながら少しでも資金を稼がなきゃいけないんでね」
「そう、か。わかった。それじゃあ、昼にまたここの食堂でいいか」
 食事がうまいので仁は気に入っていた。その傍ら、礼子もちゃんと仁の好みを把握しつつある。
「ああ、そうしよう」
 マルシアが肯く。
 その他にも、競技では領主も見に来るかもしれないとか、速さだけでなく、デザインやアイデアでの賞もあるとか話を聞いてその夜はお開きとなった。
「それにしてもお父さまは物好きですね。また人助け、ですか」
 ブルーランドでの事を言っているのだろう。
「ああ、まあな。でもレースっていうのは興味あるからな、面白そうだ」
「お父さまがよろしいのでしたらいいのですが、なんだか体良く利用されているんじゃないかと心配です」
 仁は前世でも会社の上司や先輩にいいようにこき使われていたので、なんとなく自覚はある、が、性格なのでなかなか直せない。
「そうだな、気をつけるよ」
 今はそう答えるのが精一杯だった。
「さて、シャワーでも浴びてさっぱりするか」
 潮風に1日中吹かれていたのでなんとなくべたべたする。
「体流してくる」
 仁は礼子にそう言って、着替えとタオルを持ち共用の浴室へ行った。……と思ったらすぐに戻ってきた。
「お父さま? どうなさったのですか?」
「駄目だ駄目だ。水しか出ないし、その水も自分で汲み上げて棚の上の桶に溜めてからでないと浴びられないんだ。おまけに海が近いせいか、井戸水も濁ってるし」
 水は貴重であることを再認識した仁。カイナ村でポンプを作ったが、まだここまでは普及していないようだ。
「明日、蓬莱島に戻って風呂に入るよ」
 この日は風呂もシャワーも諦めた仁は、宿のベッドでいろいろと構想を練っていたが、いつしか眠りに落ちていた。

 翌日。仁と礼子は、素材を持ってくるため転移門(ワープゲート)を使い、一旦研究所に戻っていた。
 礼子は魚醤の入った樽を抱えている。醤油が見つからないので、とりあえず近い味の調味料ということで買い求めたのだ。
 仁は礼子に沸かしてもらった朝風呂から出ると、さっそく準備を開始した。
「さて、と。礼子、疑似竜(シャムドラゴン)の革があったよな」
 その羽膜は礼子の皮膚に使われており、薄くて強靱。対して革は分厚く、弾力があった。
「はい。4度目の転移の時に狩って、素材として確保しておきました」
 魚醤を家事担当のペリドに渡しながらさらりと言う礼子。『疑似』とは言え、(ドラゴン)と名の付く魔物は、10人以上で討伐するのが普通なのだが。
「よし。それを少し欲しいな。それと風属性の魔結晶(マギクリスタル)
「風属性、ですか? 水属性の方がいいのでは?」
 当然の疑問だが、仁はあっさりと、
「俺が考えているゴーレムは、力よりも速さが欲しいからな」
 と言っただけだった。
「わかりました」
 素直にそう返事して、礼子は言われた物を揃えた。
「よし。それじゃあ水着を作ろうか」
「は?」
 怪訝そうな顔の礼子に仁は、
「いや、あそこは海水浴場もあったじゃないか。俺も久しぶりに泳ぎたいし」
「そういうことでしたか」
 そこで、またしても登場する地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸。
「ニット織機まで作っているなんて先代はすごいよな」
「はい、お母さまは偉大です」
 先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは女性らしく、紡績機や織機をいろいろ開発していた。
 その中の1つにニット織機があり、いわゆるメリヤスの様な生地を織ることが出来た。
「紺色に染めた糸をセットして、と。よし、起動」
 起動すれば、現代地球の機械と遜色のない速度で織り上げていく。今回は水着用なので、そこそこの長さが織り上がったところで一旦止め、生地を取り出した。
「後で染めてもいいから白でもう少し織っておいてもらうかな」
「はい。……ルーナ、ソレイユ、任せましたよ」
 後の作業は礼子の配下2名に任せることとし、仁は水着の仕上げにかかった。
「ここをこうして、切り返して、ここを融着、と。よし、完成。礼子、お前の分だ」
「ありがとうございます」
 仁が作ったのは紺色のワンピース水着。スクール水着に酷似しているのは気のせいと思いたい。続けて仁は自分用の水着も作った。
「よし、まだ昼までには時間があるな。『海鳴亭』へ戻って着替えるか」

 ポトロックに戻った2人は、海鳴亭で水着に着替えると、裏手の浜辺へと向かった。
「近くて便利だな」
 さっそく海に入る仁。海水温は比較的高いようで、冷たくは感じなかった。礼子もそれに続く。
 礼子の比重はほぼ人間と同じなので、身体を伸ばせば水に浮く。しばらくの間、南国の太陽を浴びながら入江の穏やかな海面でぷかぷかと浮いている2人であった。
「あー、なんかのんびりするな」
 仁がそう独り言を言った時である。
「おや? もしかしてそちらのお嬢さんは、人形ではないのか?」
 そう言った者がいた。
「な、なに? ……がぼっ」
 慌てて身体を起こし、水を飲んでしまって咽せる仁。
「お父さま、大丈夫ですか?」
 そんな仁を気遣う礼子。そして声を掛けてきた人物は、
「ああ、やっぱり。素晴らしい出来だねえ! 我が国にも無いよ。もしかして、古代遺物(アーティファクト)なのかな?」
 それは、仁よりも3、4歳年上に見える男だった。線は細く、ひょろりとしている。グレイの髪、グレイの目。少し日に焼けてはいるが肌は白い。水着を着ているので海水浴客だろう。
 そんな男に対して仁は身構える。
「なぜ、礼子が人形だと?」
 その男は少し大げさに肩をすくめて見せ、
「これでもショウロ皇国の魔法技術者(マギエンジニア)、いや、こっち風に言うと魔法工作士(マギクラフトマン)だからね。おっと失礼、僕はラインハルトという」
「……仁だ。こいつは礼子」
 まだ警戒をしつつ、仁も名乗る。するとラインハルトは、
「ジン君にレーコ嬢、か。もしかして君もゴーレム艇競技に出るのかい?」
 そう言って微笑んだ。
「ああ。ということはそちらも?」
 仁が肯定すると、
「参加するさ。僕のゴーレムはこいつだ」
 そう言うと、いきなり隣に顔を出したゴーレムを紹介する。
「僕が心血注いで造ったゴーレム、『ローレライ』だ」
 それは、下半身が魚、すなわち人魚型のゴーレムであった。
 20130420 13時 誤記修正
(誤)「後の作業は礼子の配下…… (正)後の作業は礼子の配下……
「 が余計でした。

 礼子を一目で人形と見破ったラインハルトは只者ではありません。
 そして人魚型のゴーレムを作った者もいました。
 ところでローレライはライン川にいた妖精?であって別に人魚じゃありませんが、ラインハルトはドイツっぽい語圏の出身と言うことで、雰囲気的にそう名付けてみました。

 関連地図更新しました。 

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