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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

19 クライン王国国王治療篇

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19-33 領土

 お待たせしました。
 急なことで対応しきれずご心配おかけしました。
 窓の外に浮かぶ物。それはセルロア王国製の熱気球。いや、『熱飛球』だ。
 かつての『統一党(ユニファイラー)』が使用していたものとそっくりである。
 仁たちがバルコニーに出た時には、ようやく10メートルほど上昇したところ。『風魔法推進器(ウインドスラスター)』すら搭載されていないため、速度も遅い。
「外に出たのが運の尽きだ。……エルザ、エドガーに指示してナイフを……」
「ん。エドガー、あの気球を狙って」
「はい」
 仁の言葉が終わる前に、エルザはエドガーに指示を出した。
 まだ残っているエドガーのナイフ、その1本が放たれる。それは狙い過たず、気嚢を切り裂く。落下するゴンドラ。
「ん!?」
 だが、中庭に落下し、壊れたゴンドラには、何も、誰も乗っていなかった。
「しまった! 囮か!」
 汎用ゴーレムはなかなか知恵が回るらしい。
「我が国の機密をいろいろと調べていた可能性もあるのう。うむう、どこに隠れたのか……」
「いずれにせよ、脱出するつもりでしょう。デライトは見捨てられたようです」
 仁は床をチラと見た。
 気絶したままデライトは放置されている。汎用ゴーレム、レカーは単にデライトの指示を聞いていただけではなく、クライン王国の情報をいろいろと調査し、親玉の元に知らせる役目も担っているようだ。
 真の黒幕だったのかもしれない。だとすると、時間が経つほど捕まえにくくなる。
「礼子、探知出来ないか?」
 礼子には『魔力探知装置(マギディテクター)』がある。規模の関係で『魔力探知機(マギレーダー)』ほどの精度はないが、実用性は高い。
「さっき、あのでかいゴーレムから取り出した制御核(コントロールコア)だ。製作者が同じなら、こいつの魔力パターンが参考になるだろう」
「わかりました、やってみます」
 礼子は仁から制御核(コントロールコア)を受け取ると、魔力パターンを読み込み、類似の魔力を探すべく魔力探知装置(マギディテクター)を作動させた。
「……わかりました」
 静かな声で礼子が言った。
「……あそこです!」
 礼子が指差したのはバルコニーの隅、木箱の陰。
「エドガー」
「はい!」
 エドガーの手からナイフが放たれた。
 きいん、という金属音がして、投げられたナイフが叩き落とされる。同時に『隠身(ハイド)』の魔法が解けた。
 この『隠身(ハイド)』という魔法は、気配を消す魔法であるが、声を出したり攻撃を受けたりすると効果がなくなるのだ。
「ぬ? そんなところに!」
 リースヒェン王女の驚いたような声。
 姿を現したレカーは、もう逃げられないことを悟ったのか、最も与し易そうな見た目の者を目指した。
 つまり一番体格の小さな者……礼子を。
 レカーは、礼子が廊下にいた重作業用ゴーレムを倒すところは見ておらず、更に3体の戦闘用ゴーレムを無力化したところも見ていない。
 ゆえに、最も小柄な礼子を攻撃、あわよくば人質にしようとでも思ったのかもしれない。
「愚かですね」
 礼子は、角度を考えつつレカーを迎え撃つ。
 踏みだしつつ、レカーの伸ばした腕を避け、懐にもぐり込む。そして小さな拳での一撃。
 重い音と共にレカーが吹き飛んだ。
「あ」
 礼子の拳が触れる寸前、悪あがきのように身体を捻りかけたせいで、バルコニーの手摺りを越えて中庭目掛けて飛んでいくはずの軌道が少しずれた。
 結果。
「わあ!?」
 それは誰が発した声だったのか。
 王城の壁……デライトの執務室の壁がレカーと共に吹き飛んでいった。
「外壁は70センチの厚みがあるのじゃがな……」
 呆れたようなリースヒェン王女の声が響いた。

*   *   *

 その日の夜、仁とエルザは宰相の執務室にいた。
「……話すべき事がたくさんあって、何から始めていいかわからんが……まずはお礼を言わせていただく」
 まずエルザに、そして仁に、宰相は頭を下げた。
「陛下の容態はずっと良くなったようだ。エルザ嬢と、ジン殿と、お二方を派遣してくれたショウロ皇国に、心からの感謝を」
「いえ、陛下の病気の原因がわかったのは半分以上偶然ですよ。リースヒェン殿下にお話を聞かなければ絶対にわからなかったでしょうし」
「いや、実際、我が国の治癒師が何人掛かってもわからなかった原因を見つけ出し、治療してくれたのだから、当然のことだ」
「……当然、というのでしたら、治癒師は病気を治すのが役目です、から」
「いやいや、その当然のことが難しいのだ……」
 感謝と謙遜の言葉が入り乱れた。それはしばらくしてようやく収束する。
「……次の話題も話さねばならない。デライト元産業相のことだ」
「はい」
 仁とエルザは居住まいを正して聞くことにした。
「取り調べの結果、デライトとセルロア王国との繋がりは証明出来なかった」
「なぜ、です?」
 デライトはエルザに対し、はっきりとセルロア王国の名を口にしていたのだから。
「いや、正確には、セルロア王国王家、もしくは政府との繋がりを、だ」
「……」
「奴が、セルロア王国の人間と繋がりがあったのは確実。だが、それは個人という範疇を出ないのだ。セルロア王国が国としてデライトと繋がりがあったことを証明する物は何も無い」
「そんな馬鹿な! 300トンもの小麦を横流ししたとか、その見返りにゴーレムをもらったとか、幾らでもあるのでは?」
 仁も憤った口調で宰相に詰め寄る。が、宰相は残念そうな顔をした。
「……それなのだが、せっかくジン殿に証拠として提出してもらった制御核(コントロールコア)だが、いくら細部まで読み取っても、セルロア王国の名前はおろか、製作者の名前すら出て来なかったのだよ」
 かなり用意周到なやり口だ、と宰相は結んだ。
「だが、これで諦めたわけではない。今回のことで、あの国が、我が国へ工作員を送り込み、内部から崩壊させようとしていることがはっきりとわかった。それなら手の打ちようもあるというもの」
 どんな手を打つつもりかまでは、宰相の口からは語られなかった。

「そして、貴殿たちへの謝礼についてだが」
 宰相は済まなそうな顔をしながら話し始めた。
「正直、今、我が国の財政は逼迫している。いや、破綻しかけている。であるから、金銭での礼は無理なのだ。……申し訳無い!」
 立ち上がり、仁とエルザに深々と頭を下げる宰相。
 そうまで言われては、仁もエルザも黙ってはいられない。
「……私は、皇帝陛下の命により、国王陛下の治療に来ました。つまり、公務です。ですから、お礼は、不要です」
 言い切ったエルザ。そしてそんな彼女を見る仁の目は優しげだった。
「だが、ジン殿は、我が国が認定した『魔法工学師マギクラフト・マイスター』であり、名誉士爵である。何も無し、というわけにはいかない」
 そう言いながら、宰相は執務机の上から、何やら書類らしきものを取り上げた。
「エルザ嬢には、我がクライン王国における『名誉治癒師(オノラリ・ヒーラー)』の称号を差し上げたい。そしてジン殿には、カイナ村を独立領地とすることで報いたいのだ」
「独立領地?」
 聞き慣れない名称であった。
「わからないのも無理はない。今回新たに作った制度であるからな。独立領地というのは、対外的な所属はクライン王国であるが、その実はジン殿の領地ということだ」
 クライン王国からは一切の干渉はしない。実質、仁の国、と言ってもいい。が、公的にはクライン王国ということにして欲しい、と宰相は説明をした。
「領地、というよりも領土といってもいいだろうな。その範囲についても、カイナ村以北に関してはクライン王国は関与しない」
「わかりました。お受けします」
「おお、感謝する」
 宰相は、実質的な面で、仁に取って利益のない話と思っていたのだろうが、その実は違う。
 カイナ村の北部からパズデクスト大地峡にかけては空白地帯と言える。そこをクライン王国が仁の領土と認めたのと同義なのだ。
 実質、クライン王国の半分、とまではいかないが、3分の1以上の面積がある土地を仁は領土としたことになる。仁ならいろいろと有効に使うことができるというものである。

「さて、最後に、乾燥剤についての話をしたい」
 宰相が仕切り直した。
「デライトにした、乾燥剤についての話を聞かせて欲しい」
 まだデライトの後釜が決まらないため、宰相が代わって取り仕切ることになるようだ。
 また少しけてきた宰相の顔を見て、仁は彼の健康が心配になったのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20141127 13時40分 誤記修正
(誤)ゆえに、元も小柄な礼子を攻撃
(正)ゆえに、最も小柄な礼子を攻撃

 20150717 修正
(誤)「わかりました、やってます」
(正)「わかりました、やってみます」

 20151115 修正
(誤)『名誉治癒師(オーナリー・ヒーラー)』の称号を差し上げたい
(正)『名誉治癒師(オノラリ・ヒーラー)』の称号を差し上げたい
+注意+
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