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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

19 クライン王国国王治療篇

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19-29 国王の手術

 リオネス・アシュフォードとの会談は、仁たちに貸し与えられた居室ですることになった。
 4人掛けのテーブルに、仁とエルザ、アーサー王子とリオネス・アシュフォードが向かい合わせに座る。
 仁の正面にはリオネスが、エルザの正面にはアーサー王子が。
 リースヒェン王女は別に椅子を用意し、傍観ということになる。
「まずは、私のわがままを受けてくれてありがとう。礼を言う」
 気さくな口調で話し始めたリオネス。
「私の専門は、『何でも』だ。学者として、この世界に散らばるいろいろなことを知りたくて学者になったのだからね」
「なるほど、博物学者ということですか」
 仁が思いついた単語を口にした。
 この博物学とは、動物・植物・鉱物といった自然界に存在する物についての学問ということができる。
 仁ファミリーのトアも博物学者といってもいいだろう。だが、この世界ではそういう言い方はしないようだった。
「ほう、博物学? ……ふんふん、なるほど。ジン殿は面白い言い方をするものだね。なるほど、博物学者、か。いい響きだ」
 リオネスはよっぽど『博物学者』という響きが気に入ったようだ。
「……それでだね、私はお隣のセルロア王国からなのだが、君たちはショウロ皇国から来たということだよね?」
「そう、です」
 エルザが返事をする。
「聞いてみたいことというのは他でもない、船のことなのだよ」
 博物学だけでなく、工学にも興味があるのか、と仁は少し感心した。
 この世界にあって、貪欲に知識を欲するという姿勢は、やはり古い文化のあるセルロア王国ならではなのだろうか、などと内心で考えていた。
「船、ですか? 確かに、ショウロ皇国ではいろいろな船を作って、いますが」
 仁が物思いに耽っている間に、エルザが会話を受けていた。
 エルザの従兄で仁の親友、ラインハルトも造船は得意分野である。もちろん仁も。
「……これは噂だが、我がセルロア王国南部で大型船の建造をしている商人がいるという話でね」
 以前出会ったエカルト・テクレスのことであろうか、と仁は思った。
 だとすると、このリオネスという男は耳が早い。ここに至って、仁は会話の主導はエルザに任せ、自分はリオネスに気を付けていようと考えたのである。
「大型の船は運搬には有効なんだろうね」
「……はい。ショウロ皇国では湖や河川、それに人工の水路を使い、荷を運んでいます」
「だが、動力と費用を考えると一概に有利とは言い難いのでは?」
「いえ、馬や荷車に比べると、遙かに大量に積めますので、その点は相殺されます」
「陸上と水上ということで安全性を考慮したら……」
「海ではないため、波の少ない水域が主ですから、幅の広い浅底の船を使っています。ですから復元性も高く……」
「海、それも外洋に出るなら、船体の剛性も考慮する必要があると思います。その場合は構造材として……」
「……だが、金属の構造材を使うとなると、重量が問題になると思うが?」
「それは一理あります。金属と木材、単位質量……単位重量あたりの比強度を考えると……」
 エルザとリオネスの2人が技術的なやり取りを交わす。
 仁は様子を伺っていたが、リオネスの意図が今一つ掴めなかった。アーサー王子も黙って聞いているだけ。
 時折は仁も会話に参加し、話は途切れずに続いていく。
 会話は1時間に及び、10時にならんとする頃、ようやく区切りがついた。
「……いや、エルザ嬢、ジン殿、有意義な時間だった。感謝する」
 最後まで気さくな口調でリオネスは礼を言い、戻っていったのである。

「……わからん」
 アーサー王子とリオネスが出ていった後、仁は疑問を声に出した。
「……雑談をしに来ただけ?」
 エルザにも意図が掴みきれなかったようだ。
(わらわ)としてはアーサー兄がほとんど口を開かなかったことが気になるのう」
 3人とも、今回のリオネスの訪問が何を意図してなされたものかわからなかったのである。あるいは本当に、純粋な学術問答がしたかっただけなのかもしれない、と仁は思ったのだった。

*   *   *

「……どうだ、リオ? お前の感想は」
 自室に戻ったアーサー王子は、教師であるリオネスに尋ねた。
「……侮れませんね。あの2人は、この私を凌ぐ知識を持っています」
「何!? それほどなのか……リースめ、いい友人を持ったようだな」
「……昨日手術した病人の予後もいいようです。おそらく今日の午後、陛下の手術が行われることでしょう」
「……成功すると思うか?」
「はい、おそらくは」
「……そうか……」
 アーサー王子はそれきり何も言うことなく、窓の外を眺めていた。
 空の色はようやく灰色から青へと変わろうとしていた。

*   *   *

 昼食を済ませた後、宰相が仁たちの部屋を訪れた。エドモンド王子とアーサー王子も一緒である。
「エルザ殿! 結論が出ました。本日これより、陛下の治療をお願いしたい!」
 開口一番、宰相は手術を行ってくれ、と言った。
「エルザ嬢、お願いする。父王を救ってやって欲しい」
 アーサー王子はそう言って頭を下げた。
「……俺は小難しいことはわからん。が、昨日お前らが治療した病人は3人とも回復してきている。そして宰相もアーサーもお前たちを信頼しているようだ。だから俺からも頼む。父を治してやってくれ」
 エドモンド王子までもが頭を下げたのである。
「……もちろんです。そのために私は、ここにいるのですから」
「精一杯務めます」
 エルザと仁は、精一杯やることを約束した。

 そして一同は王の寝室へと移動。
 王の容態は以前と変わっていなかった。エルザは再度、エドガーに手伝わせて診察を行う。
 今回、仁は初めて病床のアロイス3世を目にしたわけだが、そのやつれ具合に驚いてしまった。
「……肝臓が悪いとこうなるのか……」
 改めて、リースヒェンのためにも、治療を成功させようと決心した仁である。
「……ジン兄、診察は終わり。やることは打ち合わせ通り」
「よし、わかった」
 仁は自分とエルザ、エドガー、そしてアロイス3世を包み込むバリアを張った。中途半端なものではない。物理攻撃も魔法攻撃も通さない、不壊ふえの障壁である。
 立ち会う者たちには説明済みなので、誰も文句を付けることはない。
「『痛み止め(シュメルツミッテル)』『麻痺(パラライズ)』」
 まずは麻酔から始める。
「『殺菌(ステリリゼイション)』『殺菌(ステリリゼイション)』『殺菌(ステリリゼイション)』」
 バリア内、アロイス3世の体表面、及び手術を担当するミニ職人(スミス)を殺菌消毒した。これからが本番である。
「……エドガー、透視を、お願い。ミニ職人(スミス)、視覚共有」
 ちょうど、内視鏡で、もしくはエコー画像を見ながら手術を行うイメージ。
 ミニ職人(スミス)にはエドガーから送られてくる視覚情報により、アロイス3世の胆管部がよく見えていた。
「……それでは、カウントダウンをする。3、2、1、0」
 エルザの号令に応じて、ミニ職人(スミス)がアロイス3世の胆管部に身体と腕を突き入れた。
 バリアの外で見ていたリースヒェン王女は小さく悲鳴を上げる。が、次の瞬間には、ミニ職人(スミス)は寄生虫を掴み出していた。
「『快復(ハイルング)』『快復(ハイルング)』『快復(ハイルング)』」
 前回手術した患者に比べ、胆管のダメージが若干多かったため、『快復(ハイルング)』を3回掛けるエルザ。
 噴き出した血もわずかで、腹部に付いた血液は殺菌消毒後、『浄化(クリーンアップ)』の魔法できれいにする。
「あとは、腹水」
 アロイス3世には相当腹水が溜まっていたので、これも前回の手術を踏まえて治療することになる。
「『治療措置ハイルフェルファーレン』」
 内臓の機能を活性化するエルザ。
「……肝硬変も多少起こしている。『治療措置ハイルフェルファーレン』」
 2度の内科系最高度治癒魔法で、かなりの内臓組織が活性化された。
「『解毒(エントギフテン)』」
 黄疸という病名は、ビリルビンという黄色物質が過剰にあることで眼球や皮膚といった組織や体液が黄色くなる症状を起こすことから付けられた。
 その過剰なビリルビンを分解することで、黄ばんだ眼球や皮膚は元の色に戻った。
 初めて用いられたこれは、先日の患者を治療した後に思いついた処置である。
「……これで、終わり」
「おっと」
 極度の緊張から解放されたエルザは、体内魔力の枯渇により、少しふらついた。
 が、前回の治療で学んでいた仁は、エドガーに代わり、すぐに支えてやったのである。
「ジン兄、ありが、とう」
「ほら、ペルシカジュース」
 そして魔力回復のペルシカジュースを飲むエルザ。
「手術、成功」
 見るからに、劇的に顔色が良くなったアロイス3世であった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20141123 13時35分 誤記修正
(誤)それに人口の水路を使い
(正)それに人工の水路を使い

(誤)『解毒(デトックス)
(正)『解毒(エントギフテン)

(誤)始めて用いられたこれは
(正)初めて用いられたこれは

 20141124 08時53分 表記修正
(旧)博物学とは、動物・植物・鉱物といった・・・
(新)仁が思いついた単語を口にした。
 この博物学とは、動物・植物・鉱物といった・・・

(旧)仁も話に加わる気になった。
(新)(削除)
 会話の主がわかりにくいのを直しました。

 20141125 09時12分 表記修正
(旧) 仁は様子を伺っていたが、リオネスの・・・
(新) エルザとリオネスの2人が技術的なやり取りを交わす。
    仁は様子を伺っていたが、リオネスの・・・
 会話の主をよりはっきりさせました。

 20141219 20時42分 表記修正
(旧)
「……」
「成功すると思うか?」
(新)
「……成功すると思うか?」
 セリフの順を追うと、リオネスとアーサー王子が入れ替わってしまうので。
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